第3.5章 第1話 (仮)朝
第3.5章は、第29.9話の続きとなります。
第29.X話は性的な内容を含むため、本編とは別作品として掲載しています。
気になる方は
「異世界転生した理系男子が、地味スキルで冒険者をやっていたら、なぜか誰からも攻撃が当たらない件(R15の話)」
または、
ノクターンノベルズ
・異世界転生した理系男子が、地味スキルで冒険者をやっていたら、なぜか誰からも攻撃が当たらない件(18禁の話)
をご覧ください。
そして――
ここからは、少しだけ空気の変わった二人の話です。
窓の外が、すでに明るい。
寝返りを打とうとして、動きを止めた。
布の擦れる音の向こう、微かな呼吸と遠慮がちな物音が聞こえた。
ベッドには昨夜の名残のような温度だけが、まだ残っている。
――あ。
昨夜のことが、遅れて思い出される。
酒場。少し飲みすぎた彼女。腕に絡みついてきた感触。
「今日、泊まっちゃダメ?」と、消え入りそうな声。
思い出すと、胸の奥がむず痒くなる。
コーイチは天井を見たまま、ゆっくり息を吐いて、体を起こす。
「……あ、起きた?」
視線を巡らせると、ミアはもう起きていた。
部屋の隅で、手早く身支度をしている。
動きが早い。無駄がない。
「おはよう」
声をかけると、ミアは振り返って、少しだけ笑った。
「おはよう。起こしちゃった?」
「いえ。今、起きました」
「そっか」
それだけ言って、また手を動かす。
バッグを閉じ、髪をまとめ、服のシワを軽く点検する。
町娘の動きだ。
昨夜のことが、少し遠く感じられる。
「……忙しそうですね」
「うん。家に帰らないと」
さらっと言った。
「仕事あるから」
その言葉で、コーイチは思い出す。
そうだ。
ミアは、いわゆる――実家暮らしだ。
冒険者はバイト。
家業が本業。
昨夜、ここに泊まったことを、今さら意識する。
「泊まっちゃいましたけど……大丈夫なんですか」
少し間があった。
ミアは、一瞬だけ動きを止めてから、軽く笑った。
「あー、大丈夫大丈夫」
あまりにも即答だった。
「むしろね」
続けて言いかけて、ぴたりと止まる。
そして、しまった、という顔をした。
「……?」
「いや、なんでもない」
視線を逸らしながら、革袋を肩にかける。
だが、明らかに挙動がおかしい。
「……むしろ?」
コーイチが促すと、ミアは一度、ため息をついた。
「泊まるって、言ってきた」
「……誰に?」
「家に」
一拍。
コーイチは、言葉の意味を咀嚼した。
「……え?」
「だから」
ミアは、少しだけ頬を掻く。
「今日、帰らないって言ったら」
そこで、また止まる。
「“ちゃんと送りなさいよ”って」
沈黙。
次の瞬間、コーイチは吹き出していた。
「……」
「ちょっと! 笑わないでよ!」
「いえ……すみません」
肩を震わせながら、言葉を絞り出す。
「てっきり……」
「てっきり?」
「……襲った側かと」
ミアが、きょとんとした。
そして、理解した瞬間、顔を赤くする。
「ちがうから!」
即座に否定した。
「私は……」
言いかけて、やめる。
代わりに、ふっと笑った。
「……襲われた方、だったから」
ミアは言ってみて、さらに顔を赤くした。
「……なるほど」
コーイチは、まだ少し笑いを残したまま頷いた。
ミアは、最後にもう一度だけ身支度を確認する。
コーイチは立ち上がり、軽く伸びをする。
「じゃ、行ってくるね」
「はい」
一瞬、間が空く。
そのまま出ていくのかと思ったが、ミアは振り返った。
「今日さ」
「はい?」
「どうする?」
それは、何気ない問いだった。
だが、意味ははっきりしている。
「……ペア、でしたね」
「うん」
ミアはにっと笑った。
「正式に」
コーイチは、少しだけ考えた。
考えるふりをした、と言った方が正しい。
「お願いします」
「よし」
満足そうに頷く。
「じゃ、夜はギルドで落ち合おう」
そう言って、ミアは部屋を出ていった。
扉が閉まる。
静かになる。
この町に来てから、初めての朝。
一人ではない朝。
生活が、少し形を変え始めた感覚があった。
それは冒険でも、戦闘でもない。
だが、確実に前に進んでいる。
コーイチは、ゆっくり立ち上がった。




