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異世界転生した理系男子が、地味スキルで冒険者をやっていたら、なぜか誰からも攻撃が当たらない件  作者: カトーSOS


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第3章23.9話 髪を撫でる

挿絵(By みてみん)


第3章23.9話 髪を撫でる


部屋の中は静かだった。


窓の外では風がゆっくり流れている。

遠くの酒場のざわめきも、もうほとんど聞こえない。


ミアはベッドに横になったまま、ぼんやりと天井を見ていた。


さっきまで速かった呼吸が、少しずつ落ち着いていく。


体はまだ温かい。


コーイチが隣にいる。


その気配が、すぐ近くにあった。


ミアは目を閉じた。


ふっと、小さく息を吐く。


そのとき、コーイチの手が動いた。


指先が、そっとミアの髪に触れる。


やさしい手つきだった。


撫でるというより、確かめるような、静かな動き。


ミアは少し驚いた。


でも、体は動かなかった。


むしろそのまま目を閉じた。


コーイチの指が、ゆっくり髪をなぞる。


さらり、と髪が動く。


もう一度。


今度は少し長く。


ミアの胸の奥が、ふわっとゆるんだ。


(……なにこれ)


思わずそう思った。


こんなふうにされたことは、なかった。


抱きしめられたことはある。


キスもある。


でも、こんなふうに。


何も言わず、ただ静かに髪を撫でられるなんて。


初めてだった。


ミアはゆっくり目を開けた。


少しだけ顔を横に向ける。


コーイチがいた。


いつもの顔だ。


少し真面目で、少し不器用そうな顔。


でもその手は、変わらずやさしく動いていた。


ミアは小さく笑った。


「ねえ」


コーイチの手が止まる。


「はい」


「なにしてるの」


コーイチは少し考えてから言った。


「……撫でてます」


ミアはくすっと笑う。


「それは見ればわかる」


コーイチは少し困った顔をする。


「嫌でしたか」


ミアは首を振った。


「ううん」


それから少し黙る。


そして、小さく言った。


「むしろ」


コーイチが見る。


ミアはまた目を閉じた。


「好き」


コーイチの手が、もう一度動く。


今度は少しゆっくり。


ミアの髪を、そっと整えるように撫でる。


ミアはそのまま体を少し寄せた。


コーイチの腕に触れる。


安心する。


なんだか、不思議だった。


胸の奥が、じんわり温かい。


さっきまでとは違う。


静かで、やわらかい感じ。


ミアはぽつりと言った。


「ねえ」


「はい」


「私さ」


少し言葉を探す。


それから、笑った。


「こんなに優しくされたの、初めて」


コーイチは何も言わなかった。


ただ、また髪を撫でる。


ミアはそのまま目を閉じる。


少しだけ、胸がきゅっとした。


でも、嫌じゃない。


むしろ、うれしい。


(……なんだろ)


ミアは思う。


こんな気持ちになるなんて、思っていなかった。


ただ一緒に飲んで。


ちょっと楽しくて。


それだけのはずだったのに。


でも今は。


コーイチの隣にいることが、すごく自然だった。


ミアは小さく笑う。


「コーイチ」


「はい」


「逃げないでよ」


コーイチが少し首をかしげる。


「逃げませんよ」


ミアは満足そうにうなずいた。


「ならいい」


そのまま、コーイチの腕に頭を寄せる。


コーイチの手はまだミアの髪を撫でている。


ゆっくり。


やさしく。


ミアは目を閉じたまま思った。


(ああ)


(今、私)


小さく息を吐く。


(幸せ…かも)


窓の外で風が流れる。


夜はまだ静かだった。

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