第23.2話 触れそうで、触れない
第23.2話 触れそうで、触れない
ミアはコーイチの肩に頭を預けたまま、しばらく何も言わなかった。
部屋の中は静かだった。
窓の外では、夜の風が木々を揺らしている。
その音だけが、遠くでかすかに聞こえる。
ミアの髪がコーイチの首元に触れていた。
柔らかな感触と、ほのかな香り。
こんなに近くに、誰かがいる。
それだけのことなのに、
妙に意識してしまう距離だった。
ミアがそっと顔を上げる。
距離が近い。
さっきより、ずっと。
「……ねえ」
小さな声だった。
「はい」
ミアは少し視線を揺らしてから、
ふっと笑った。
「なんか……変な感じ」
「変な、ですか?」
「うん。悪い意味じゃなくて」
コーイチは答えようとして、
けれど言葉より先に手が動いた。
ミアの髪に触れそうになって、
そのまま止まる。
あと少しで届く距離。
急ぐ理由はない。
コーイチはそのまま、
ミアの表情を見た。
その迷いを、ミアは見ていた。
小さく息を吐く。
「……触れてもいいよ?」
コーイチはゆっくりと手を下ろした。
ミアの頬に触れる寸前で止める。
触れたわけではない。
でも、触れたように感じる距離。
ミアは目を細めた。
「優しいね、コーイチって」
コーイチは答えられなかった。
ミアはそのまま、
コーイチの手をそっと取る。
強く握るわけではない。
ただ、指先が触れるだけ。
それだけで、
空気が少し変わった。
静かな夜の中で、
二人の呼吸がゆっくり重なっていく。
「ねえ、コーイチ」
「はい」
「もう少し……こっち来て」
コーイチはゆっくり近づく。
ミアは逃げない。
むしろ、
少しだけ前に出る。
距離がほとんどなくなる。
二人の影が重なった。
夜の静けさが、
さらに深くなる。
時間の流れが、
少しだけ遅くなった気がした。
触れそうで、
触れない。
触れなさそうで
触れる。




