第3章 第23話 ちゃんとしたご飯
第3章 第23話 ちゃんとしたご飯
美味しいですね。
一口食べて、コーイチは思わず目を見張った。
ひき肉を固めて焼いた料理だ。
だが、食感は知っているものとは少し違う。
挽き方が荒く、噛むたびに肉の存在感がある。
そこに、わずかな酸味のあるさっぱりしたソースがかかっていた。
重くならない。
箸が、自然と進む。
「でしょ?」
ミアが、少し得意げに言う。
「この店の看板メニュー。安くて、美味しいのよ」
「……これは」
コーイチは、もう一口食べた。
この町に来てから、まともなものを食べたのは久しぶりだ。
干し肉。
保存食。
火を通しただけの肉。
それらとは、明らかに違う。
「ちゃんとしたご飯、ですね」
「だから言ったでしょ」
ミアはそう言って、大きく口を開けて頬張った。
遠慮がない。
本当に、美味しそうに食べる。
コーイチは、その様子を見て、少しだけ笑った。
「なによ」
ミアが、箸を止めてこちらを覗き込む。
「ミアさん、本当に美味しそうに食べるんですね」
「私、食べるの好きだもん」
屈託なく笑う。
「……それから」
ミアは、少しだけ眉を寄せた。
「さん付け、なし。ペア組むんだから」
「え?」
「ミア、でいい」
コーイチは、一瞬だけ言葉に詰まった。
「考えておきます、と言ったはずですが」
「考えたでしょ?」
ミアは、少し身を乗り出す。
「ペア。ダメなの?」
「ダメじゃないです」
正直な答えだった。
「ミアさんには……」
「ミア!」
即座に訂正が飛ぶ。
「……ミアには、敵わないな」
「でしょ」
二人は視線を合わせて、笑い合った。
食事のあと、市場を見て回った。
買い物をするわけではない。
ただ、歩くだけだ。
「あれは何?」
「それは?」
コーイチは、目につくものを次々と指さす。
野菜。
果物。
香辛料。
ミアは答えながら、内心で首をかしげていた。
博識だと思っていた。
戦い方も、判断も、常識も。
なのに。
「キリンシ、知らないの?」
「はい」
本気で首を振る。
当たり前のものを知らない。
それなのに、別のところでは驚くほど深い。
不思議な人だ、と改めて思う。
やがて、二人は自然と足を向けていた。
「……結局、ここに来ちゃうのね」
いつもの酒場だった。
中は賑やかで、空気も変わらない。
席に着き、談笑しながら杯を重ねる。
ただ、いつもより。
ミアのペースが、少し早い。
「ミア、ちょっと酔ってない?」
「そう?」
笑い方が、いつもより柔らかい。
「そろそろ、帰ろうか」
店を出ると、夜風が頬をなでた。
その瞬間。
ミアが、コーイチの腕に絡みつく。
「……ねえ」
消えそうな声だった。
「今日、宿に泊まっちゃ……ダメ?」
コーイチは、立ち止まった。
一度、ミアを抱きしめる。
逃がさないように。
でも、それ以上は踏み込まない。
「……行こう」
肩を抱き、歩き出す。
向かう先は、いつもの宿だ。
夜は、まだ続いている。
【あとがき】
この先の物語は、読者の皆様に合わせて3つの形をご用意しました。
■ 本編
本作品は、年齢制限に配慮した一般向けの内容として、このままお楽しみいただけます。
第3章 第23.1話「こういうの、久しぶり」
■ R15版(小説家になろう)
本編と同じ時間軸・同じ出来事を、R15向けの表現で描いた別バージョンです。
2026年07月21日 20時公開予定
『異世界転生した理系男子が、地味スキルで冒険者をやっていたら、なぜか誰からも攻撃が当たらない件(R15の話)』
第3章 第23.1話「こういうの、久しぶり」
■ 18禁版
本編と同じ時間軸・同じ出来事を、18歳以上向けの表現で描いた別バージョンです。
2026年07月21日 20時公開予定
『異世界転生した理系男子が、地味スキルで冒険者をやっていたら、なぜか誰からも攻撃が当たらない件(18禁の話)』
第3章 第23.1話「こういうの、久しぶり」
お好みに合わせて、お楽しみいただければ幸いです。




