第21話 街に戻って
第21話 街に戻って
街に戻ったのは、昼前だった。
門をくぐった瞬間、空気が変わる。
森の匂いが薄れ、人の生活の音が前に出てくる。
荷車の軋む音。
子どもの笑い声。
店先から漂う、焼いた油の匂い。
――生きている場所だ。
コーイチは、無意識に息を吸った。
「やっぱり、街はいいね」
ミアが言った。
今日は防具を外し軽装だった。
冒険者の装備ではない。
動きやすさは残しつつ、街向きの服装だ。
「落ち着きます」
「でしょ?」
ミアは歩調を合わせてくる。
昨日の夜ほど近くはない。
けれど、離れてもいない。
依頼の報告と精算を終えたあと、二人はそのまま酒場に流れた。
特別な理由はない。
いつもの流れだ。
ギルドの建物を出て、通りを一本曲がれば、あの安酒場がある。
冒険者なら、誰もが一度は足を運ぶ場所。
木の扉を押し開けると、騒がしい空気が迎えてきた。
「結局、ここに来ちゃうね」
ミアが苦笑しながら言う。
「落ち着くので」
「それはわかる」
二人は空いている卓に腰を下ろした。
すぐに酒と簡単なつまみが運ばれてくる。
しばらくは、他愛のない話だった。
依頼の愚痴、森の地形、ギルド職員の対応。
そして、ふと、ミアが言った。
「あのさ」
杯を置く。
「今回、一緒にやってみてさ」
視線が、コーイチに向く。
「……やりやすかった」
コーイチは、少し意外そうに瞬いた。
「そうですか」
「うん」
即答だった。
「無理しないし、余計なこと言わないし」
一拍置いて、続ける。
「それでいて、判断が早い」
評価だ。
だが、持ち上げる感じではない。
「だからさ」
ミアは、少しだけ言い方を変えた。
「また一緒に依頼、受けない?」
その言葉は、軽い。
だが、冗談ではない。
「……ペア、ってことですか」
「そう」
即答。
「固定じゃなくてもいいよ。合いそうなやつだけ」
逃げ道も、用意している。
コーイチは、すぐには答えなかった。
考える時間が、必要だった。
「……少し、考えてもいいですか」
「もちろん」
ミアは、あっさり頷いた。
「即答される方が、逆に怖いし」
そう言ってから、ふっと笑う。
「でもさ」
話題を切り替えるように、杯を持ち上げた。
「約束、覚えてる?」
「……食事、ですよね」
「そう!」
勢いよく頷く。
「今、食べてるじゃん、とか言わないでよ?」
先に釘を刺された。
「これは安酒とつまみ」
ミアは断言する。
「食事じゃない」
コーイチは、思わず苦笑した。
「こんなのばっかり、でしょ?」
「……否定はできません」
「でしょ」
満足そうに頷く。
「ちゃんとしたご飯、食べに行こう」
「あまり高いところは……」
「わかってるって」
遮る。
「冒険者の懐事情ぐらい、把握済み」
少しだけ、得意そうに。
「安くて美味しい店、知ってる」
コーイチは、少し考えた。
明日は、特に予定はない。
「……明日なら」
「決まり」
ミアは、杯を軽く持ち上げた。
「じゃあ今日は、ここまで」
コーイチはふと思った。
この町に来てから、初めての休日だ。




