第3章 第17.5話 伏せていた側
第3章 第17.5話 伏せていた側
指定された待ち合わせ場所に着いたとき、すでに数人が集まっていた。
顔見知りだ。酒場で何度か同席したことのある連中ばかりで、互いに軽く視線を交わしながら、自然と一定の距離を保って立っている。
その輪の中に――ミアがいた。
一瞬、思考が止まる。
いつもの服装ではない。動きやすさを優先した装備。革の防具に、使い込まれた武器。
どう見ても、冒険者のそれだった。
ミアもこちらに気づいた。
視線が合う。
ほんの一拍、間が空いた。
次の瞬間、彼女は小さく肩をすくめ、観念したように手を振った。
そして、何事もなかったかのように、こちらへ歩いてくる。
「……あ」
喉から出たのは、それだけだった。
驚きよりも先に、納得が来た。
近づいてきたミアは、少しだけ照れたように笑い、コーイチの顔を覗き込む。
「バレた?」
コーイチは、ゆっくり息を吐いた。
「……冒険者、だったんですね」
ミアは否定しない。
むしろ、あっさりと頷いた。
「うん。バイト」
「バイト……ですか」
「そう。冒険者は副業」
ミアは指を折りながら説明する。
「普段は家業。前に話したでしょ?」
思い出す。
嘘ではなかったのだ。
隠していたのは、冒険者であることだけ。
「黙ってたんですね」
そう言うと、ミアは少しだけ視線を逸らした。
だが、その表情に後ろめたさはない。
「黙ってた。うん」
そして、はっきりと言った。
「サプライズのつもりだったから」
コーイチは、思わず瞬きをした。
「いつかね」
ミアは少し楽しそうに続ける。
「ちゃんと同じ依頼で組める時に、
実は冒険者でした、って言おうと思ってた」
「……なるほど」
「変?」
問いかけに、コーイチは少し考えた。
酒場での彼女の振る舞い。
妙に落ち着いた距離感。
冒険者の噂に詳しかった理由。
全部、一本につながる。
「驚きはしますけど……悪くはないです」
「でしょ」
ミアは満足そうに頷いた。
「サプライズ成功ね!」
笑いながら言う。
そのタイミングで、集合の合図がかかる。
空気が、はっきりと切り替わった。
雑談の声が消え、装備を確認する音だけが残る。
その中で、ミアの雰囲気も変わった。
酒場で見せる柔らかさではない。
家業の娘としての顔でもない。
冒険者だ。
コーイチは、ようやく腑に落ちた。
なぜ彼女が冒険者の噂に詳しかったのか。
なぜ自分の立ち位置を知っていたのか。
なぜ妙な距離感で接してきたのか。
隠していたのは、彼女の方だった。
「安心して」
ミアは小声で言った。
「私、噂のコーイチ見に来たの。」
それが計算なのか。
経験なのか。
それとも、彼女の性格なのか。
コーイチには、まだ分からない。
そして今度は、
自分の方が“見られる側”になったということだった。




