第14話 並行する日常
第14話 並行する日常
日々は、静かに積み重なっていった。
コーイチは、朝になれば起き、身支度を整え、ギルドへ向かう。
依頼を確認し、条件を見て、合うものを選ぶ。
昼前に出発し、日が落ちる前に戻る。
その繰り返しだった。
戦闘は増えていた。
獣の数も、遭遇の頻度も、最初の頃より確実に多い。
それでも、怪我はしなかった。
避けられる位置に立ち、
不用意に踏み込まず、
誰かが前に出るなら、その動線を外す。
結果として、攻撃を受けない。
ただ、その避け方は奇妙だった。
大きく跳ぶわけでもない。
剣で受けるわけでもない。
寸前で見切っているようにも見えない。
ほんの少し位置がずれる。
立つ場所が、半歩だけ変わる。
それだけで、魔獣の爪や牙は、最初から違う場所を狙っていたように外れていく。
「……今の、避けたのか?」
そんな声を聞くこともあった。
攻撃に回る回数は少ない。
だが、当たるときは終わる。
力で押し切ることはない。
狙うのは、動きが止まった瞬間。
体勢が崩れたとき。
視線が外れたとき。
ナイフを深く振り回すことはしない。
前に出すだけのように見えることもあった。
それなのに、魔獣の方が勝手にそこへ飛び込んでくる。
突っ込んできた喉や胸に刃が入り、そのまま崩れる。
本人は大したことをしているつもりがない。
周囲から見れば、余計に意味が分からなかった。
「……助かったな」
そんな言葉を、何度か聞いた。
誰かがそう言って、
別の誰かが「今回は運が良かった」と付け加える。
最初は、それで終わっていた。
だが、回数を重ねるにつれて、言葉が少しずつ変わる。
「運がいいな」
から、
「勘がいい」
へ。
さらに、
「間がいい」
へ。
そして、こうも言われるようになった。
「コーイチと組むと、誰も怪我をしない」
誰も、理由を深く考えない。
戦場で理屈を並べる余裕はない。
結果がすべてだ。
コーイチ自身は、変わらない。
前に出ようとしない。
指示を出さない。
武勇を語らない。
報告は簡潔で、必要なことだけ。
聞かれなければ、何も言わない。
だから、場が盛り上がることはない。
笑いも少ない。
それでも、依頼は終わる。
酒場では、いつも同じ席に座る。
壁際で、入口が見える位置だった。
視線を交わす必要はない。
人の動きが把握できれば、それでいい。
酒を飲む日もあるが、深酒はしない。
翌日に響くのは避けたい。
その席は、なぜか空いていることが多かった。
誰かが使っている日もあるが、長居はしない。
入れ替わるように、また空く。
コーイチは、そこに座る。
宿に戻れば、荷を下ろし、刃物を確認する。
刃こぼれがあれば、簡単に手入れをする。
夜には、短い時間だけ魔法に触れる。
流す。
止める。
それ以上はしない。
派手なことは起こらない。
だが、感覚は少しずつ掴めていた。
翌日も、また動く。
依頼を受け、
組み、
終える。
誰かが言った。
「コーイチと組むと、事故らない」
別の誰かが、すぐに訂正する。
「いや、たまたまだろ」
その言葉に、強い反論は出ない。
コーイチも、何も言わない。
自分が特別だとは思っていない。
ただ、やるべきことをやっているだけだ。
日常は、並行して進む。
ギルドの仕事。
酒場の時間。
宿での夜。
どれも、少しずつ重なり、
少しずつ形を変えていく。
気づかないうちに、
依頼を探す視線が、時々こちらを通るようになっていた。




