第13話 組む理由
第13話 組む理由
翌朝、コーイチは早く目を覚ました。
外が騒がしくなる前の時間帯だ。宿の廊下を歩く音も少なく、下の階から聞こえるのは鍋を叩く音くらいだった。
顔を洗い、身なりを整える。
服はまだ動ける。破れも目立たない。
ナイフを腰に差し、巾着袋の重みを確かめる。
問題はない。
ギルドへ向かう道すがら、彼は周囲を観察していた。
昨日より人が多い。商人の荷車、装備を整える冒険者、門へ急ぐ者たち。朝は皆、少しだけ慌ただしい。
掲示板の前には、すでに数人が集まっていた。
紙を剥がす音、短い会話。
「護衛が足りない」
「採取は二人からだ」
そんな声が聞こえる。
コーイチは、無理に割り込まない。
一歩引いた位置で、依頼書の内容を追う。
そのとき、声をかけられた。
「昨日の森の件、来てたな」
振り向くと、重装備の男が立っていた。
鎧は簡素だが、手入れは行き届いている。
「次の依頼だ。二人足りない」
断定的な口調だった。
誘いというより、確認に近い。
「危険度は?」
「低めだ。だが、面倒な地形だ」
面倒、という言葉に含みがある。
罠か、視界の悪さか、足場の不安定さか。
コーイチは一瞬考え、頷いた。
「構いません」
それだけ答える。
集合は昼前。
人数は四人。前衛一、弓手一、荷持ち一、そしてコーイチ。
森とは違い、今度の場所は岩場に近かった。
地面は固いが平らではない。浮いた石も多く、足の置き場を間違えると簡単に体勢を崩す。
移動中、弓手が足を滑らせた。
完全に転ぶ前に、コーイチが手を差し出す。
助け起こす、というほど大げさではない。
ただ、体勢を戻すための支点を作っただけだ。
「助かった」
弓手はそう言った。
コーイチは何も言わなかった。
見えていたから手を出しただけだと思っている。
作業は順調だった。
獣は一体だけ現れた。
岩場の向こうから低く唸りながら近づいてくる。
前衛が前へ出る。
弓手が少し高い位置を取る。
荷持ちは下がり、コーイチはその中間に残った。
獣はまっすぐ突っ込んではこなかった。
一度足を止め、角度を変える。足場を選んでいるのが分かる。
コーイチは、獣ではなく地面を見た。
踏みやすい石と、崩れやすい石。その並びを一度だけ追う。
「右はだめです」
小さく言う。
前衛が一瞬だけ視線を動かし、すぐに位置を変えた。
その動きにつられるように、獣も進路を変える。
結果として、獣は岩陰寄りへ流れた。
足場の悪い場所だった。
踏み込んだ前足が滑る。
体勢がわずかに浮く。
その瞬間、前衛の一撃が入った。
致命的だった。
獣は短く鳴き、すぐに動かなくなった。
「……やりやすいな」
前衛が呟いた。
コーイチは何も答えない。
自分では、距離と位置を維持しただけだと思っている。
作業が終わり、帰路につく。
誰も怪我をしていない。
「お前さ」
荷持ちの男が言った。
「前に出ないけど、邪魔もしないな」
評価としては、かなり正確だった。
コーイチは曖昧に頷く。
「次も組めるか?」
また、その言葉が出た。
理由を聞かれることはない。
説明も求められない。
結果だけが、残っている。
街に戻る頃には、自然と隊列が固定されていた。
誰かが指示を出したわけではない。
ただ、そうなった。
ギルドで報告を終え、解散する前。
重装備の男が、少し言いにくそうに口を開いた。
「噂になるほどじゃないが……」
言葉を切り、続ける。
「お前と組むと、事故らない」
コーイチは返事をしなかった。
否定も肯定もしない。
それで十分だ。
彼は、また巾着袋の重みを確かめる。
少しだけ、増えている。
特別なことはしていない。
ただ、立つ位置を選び、無理をしない。
それだけで、仕事は終わる。
街の喧騒の中で、コーイチは自分の立ち位置を再確認した。
前に出ない。だが、いないわけでもない。
それが、今の自分に合っている。
そう思いながら、次の依頼書へと視線を移した。
翌朝、コーイチは早く目を覚ました。
外が騒がしくなる前の時間帯だ。宿の廊下を歩く音も少なく、下の階から聞こえるのは鍋を叩く音くらいだった。
顔を洗い、身なりを整える。
服はまだ動ける。破れも目立たない。
短剣を腰に差し、巾着袋の重みを確かめる。
問題はない。
ギルドへ向かう道すがら、彼は周囲を観察していた。
昨日より人が多い。商人の荷車、装備を整える冒険者、門へ急ぐ者たち。朝は皆、少しだけ慌ただしい。
掲示板の前には、すでに数人が集まっていた。
紙を剥がす音、短い会話。
「護衛が足りない」
「採取は二人からだ」
そんな声が聞こえる。
コーイチは、無理に割り込まない。
一歩引いた位置で、依頼書の内容を追う。
そのとき、声をかけられた。
「昨日の森の件、来てたな」
振り向くと、重装備の男が立っていた。
鎧は簡素だが、手入れは行き届いている。
「次の依頼だ。二人足りない」
断定的な口調だった。
誘いというより、確認に近い。
「危険度は?」
「低めだ。だが、面倒な地形だ」
面倒、という言葉に含みがある。
罠か、視界の悪さか、動きにくさか。
コーイチは一瞬考え、頷いた。
「構いません」
それだけ答える。
集合は昼前。
人数は四人。前衛一、弓一、荷持ち一、そしてコーイチ。
森とは違い、今度の場所は岩場に近い。
足場が不安定で、無理に突っ込むと転ぶ。
移動中、弓手が足を滑らせた。
完全に転ぶ前に、コーイチが手を差し出す。
助け起こす、というほど大げさではない。
ただ、体勢を戻すための支点を作っただけだ。
「助かった」
弓手はそう言った。
コーイチは何も言わない。
作業は順調だった。
獣は一体だけ出たが、接近する前に位置取りで止めた。
前衛が構え、弓が狙い、獣が進路を変えた瞬間、岩陰に誘導される。
足場の悪さが、獣の動きを鈍らせる。
致命的な一撃を入れたのは前衛だった。
コーイチは、距離と位置を維持しただけだ。
「……やりやすいな」
前衛が呟いた。
作業が終わり、帰路につく。
誰も怪我をしていない。
「お前さ」
荷持ちの男が言った。
「前に出ないけど、邪魔もしないな」
評価としては、かなり正確だった。
コーイチは曖昧に頷く。
「次も組めるか?」
また、その言葉が出た。
理由を聞かれることはない。
説明も求められない。
結果だけが、残っている。
街に戻る頃には、自然と隊列が固定されていた。
誰かが指示を出したわけではない。
ただ、そうなった。
ギルドで報告を終え、解散する前。
重装備の男が、少し言いにくそうに口を開いた。
「噂になるほどじゃないが……」
言葉を切り、続ける。
「お前と組むと、事故らない」
コーイチは返事をしなかった。
否定も肯定もしない。
それで十分だ。
彼は、また巾着袋の重みを確かめる。
少しだけ、増えている。
特別なことはしていない。
ただ、立つ位置を選び、無理をしない。
それだけで、仕事は終わる。
街の喧騒の中で、コーイチは自分の立ち位置を再確認した。
前に出ない。だが、いないわけでもない。
それが、今の自分に合っている。
そう思いながら、次の依頼書へと視線を移した。




