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第14話 俺の異世界転生ははじまったばかり!!

 男が倒れてから、たっぷり時間をおいて、俺はやっと息を吐いた。

 まだ安心はできない。

 勢いでやったはいいものの、この杖って結局どうなるんだ?

 けど、いまはそれより――。


「ロ、ピ、サぁ!!」


 キッズたちに這い寄る。

 うぐ。動くとまだ頭がぐらぐらする。


「ピー……」


 ピイは鼻を鳴らし、ロイとサイはよろよろと起き上がって床に降り立つ。

 よかった。みんな大きな怪我はしていないようだ。

 人間相手に、勇敢に戦ってくれた。

 手を伸ばして顎の下を撫でる。

 みんなぴいぴいと鼻を鳴らして俺を舐めてくれる。

 ん~かわいい。


 っと、キッズの無事を確認したなら、次は人攫いだ。

 男は仰向けに大の字になって倒れている。

 目を見開いていて、ちょっと怖い。


「ぐう……」


 うめき声がする。よかった、生きてる。ということは、記憶を消せた、ということで、いいのか……?

 ちゃ、ちゃんと効果あったんだよ、な……?

 これで効果なしだったら泣く。


 ふいに、玄関が開く音が聞こえた。

 ……あ、やっべぇ、キッズたちを隠さないと!!

 だだだ、誰ですか!?

 勝手に入ってこないでくださいよー!!


 ――慌てる俺の前に現れたのは、目を丸くした母さんだった。


「いったい、何があったんだい……!?」


 母さんのふくよかな手が、俺を抱き上げる。


 母さん、母さん、聞いてくれよ。

 俺たち、勝ったんだぜ。


「この男……!? ロイ、サイ、ピイ……ミイはどこだい!?」


 ああ、ミイ。

 ミイは……。

 スキル【天眼】が寝坊助のフェンリルを映し出す。

 ミイは2階で丸くなって眠っているようだ。


 この騒ぎのなかずっと寝てたんだな……。

 将来大物になるぞ。



 その後、母さんは大慌てで医者を呼んだり、憲兵を呼んだりした。

 こちらでは警察のことを憲兵というらしい。

 やってきた彼らは気を失ったままの男を連れていった。ひとまず、容疑は泥棒だ。実際は人攫いだが。


 それから連絡を受けたらしいシアンと父さんが来て、床に落ちていた杖に気が付いた。

 シアンは杖を拾い上げて、眉根を寄せた。


「……もしや、リゲルがこの杖を使ったのか?」

 母さんは首を振る。

「まさか」

「しかし。連れていかれた男は様子がおかしかったというではないか」

「でも、リゲルはまだ赤ん坊だよ」

「……」


 シアンがマットの上に寝かされた俺を見る。

 ――来た。

 ついにこの時が来た。

 俺が天才児として名を馳せるときが。


 ああ、やっぱり異世界転生、賢くてニューゲーム!

 こうじゃなくちゃつまらない。

 俺はにこっと笑ってやる。どうだ、天才に見えるだろう??

 俺は胸を張って、俺がやったのだと全力アピール。


 しかし、そのアピールはシルヴァの到着によってかき消されてしまった。


「泥棒が入ったとか……!?」


 シルヴァは蒼白で髪を振り乱しながら駆け込んで来た。

 ああ、イケメンが台無し。

 彼はまっすぐに俺のところへやってきて、そのまま抱き上げた。


「大丈夫なんですか」

 母さんが肩をすくめる。

「それが、子どもたちがやっつけちまったみたいなのさ」

「子どもたちが!?」

「しかも、侵入してきたのは誰だと思う?」

「誰って」

「リゲルのことを探ってた男さ。そいつが、わたしの留守に入ってきて……リゲルがフェニックスの杖を使った、かもしれない、らしいよ」

「まさか」

 シアンが言葉を付け加える。

「フェニックスの力は抜けている。使用済みだ。子どもたちは異状がないのだから、対象はその男と考えるのが妥当だろう」

「そんなこと、可能なんですか」


 シアンはゆっくりと瞬きをして、それから言った。


「リゲルは、特別な子どもなのかもしれない」


 その通り! 

 俺のこと、天才児って呼んでくれていいぜ~?

 しかも、杖を正しく使えてたみたいで、安心安心。ああ、俺ってやっぱり天才児!?


 シアンは手を叩いた。

「ひとまず、男の方はまかせておけ」

「どうする気だい?」

「街から出す。どこか遠くの街の監獄に連れていかせよう……もっとも、杞憂かもしれないがな」

「どういう意味だい?」

「フェニックスの杖を受けたのなら、もうリゲルのことは忘れているはずだ」

「ああ……」


 大人たちが後処理の話を始めると、急激に睡魔が襲ってきた。


 ああ、眠い。

 俺ってまだまだ赤ん坊。

 シルヴァも赤ん坊の抱き方がうまくなっちゃってもう。ああ、眠い。


 シルヴァが俺を覗き込んでいる。

 彼の目はいつでもやさしくてあったかいものであふれている。

 でもいまだけは心配と不安がその瞳に浮かんでいて。


 ……また心配をかけちゃったな。

 でも、もう大丈夫。

 そんなにきつく抱きしめるなよ。

 俺、天才児だからさ。


 大きくなったら魔法を使って、剣も使って、ドラゴンは……倒さないで、できれば背中に乗せてもらって……竜騎士ってのも悪くないな。

 ああ、でもフェンリルに乗って戦うのもいい……ロイはきっと乗せてくれるだろうし……。


 ああ……早く大きくなりたいぜ。


 瞼を閉じると、あっというまに夢の中に落ちていった。




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