第14話 俺の異世界転生ははじまったばかり!!
男が倒れてから、たっぷり時間をおいて、俺はやっと息を吐いた。
まだ安心はできない。
勢いでやったはいいものの、この杖って結局どうなるんだ?
けど、いまはそれより――。
「ロ、ピ、サぁ!!」
キッズたちに這い寄る。
うぐ。動くとまだ頭がぐらぐらする。
「ピー……」
ピイは鼻を鳴らし、ロイとサイはよろよろと起き上がって床に降り立つ。
よかった。みんな大きな怪我はしていないようだ。
人間相手に、勇敢に戦ってくれた。
手を伸ばして顎の下を撫でる。
みんなぴいぴいと鼻を鳴らして俺を舐めてくれる。
ん~かわいい。
っと、キッズの無事を確認したなら、次は人攫いだ。
男は仰向けに大の字になって倒れている。
目を見開いていて、ちょっと怖い。
「ぐう……」
うめき声がする。よかった、生きてる。ということは、記憶を消せた、ということで、いいのか……?
ちゃ、ちゃんと効果あったんだよ、な……?
これで効果なしだったら泣く。
ふいに、玄関が開く音が聞こえた。
……あ、やっべぇ、キッズたちを隠さないと!!
だだだ、誰ですか!?
勝手に入ってこないでくださいよー!!
――慌てる俺の前に現れたのは、目を丸くした母さんだった。
「いったい、何があったんだい……!?」
母さんのふくよかな手が、俺を抱き上げる。
母さん、母さん、聞いてくれよ。
俺たち、勝ったんだぜ。
「この男……!? ロイ、サイ、ピイ……ミイはどこだい!?」
ああ、ミイ。
ミイは……。
スキル【天眼】が寝坊助のフェンリルを映し出す。
ミイは2階で丸くなって眠っているようだ。
この騒ぎのなかずっと寝てたんだな……。
将来大物になるぞ。
*
その後、母さんは大慌てで医者を呼んだり、憲兵を呼んだりした。
こちらでは警察のことを憲兵というらしい。
やってきた彼らは気を失ったままの男を連れていった。ひとまず、容疑は泥棒だ。実際は人攫いだが。
それから連絡を受けたらしいシアンと父さんが来て、床に落ちていた杖に気が付いた。
シアンは杖を拾い上げて、眉根を寄せた。
「……もしや、リゲルがこの杖を使ったのか?」
母さんは首を振る。
「まさか」
「しかし。連れていかれた男は様子がおかしかったというではないか」
「でも、リゲルはまだ赤ん坊だよ」
「……」
シアンがマットの上に寝かされた俺を見る。
――来た。
ついにこの時が来た。
俺が天才児として名を馳せるときが。
ああ、やっぱり異世界転生、賢くてニューゲーム!
こうじゃなくちゃつまらない。
俺はにこっと笑ってやる。どうだ、天才に見えるだろう??
俺は胸を張って、俺がやったのだと全力アピール。
しかし、そのアピールはシルヴァの到着によってかき消されてしまった。
「泥棒が入ったとか……!?」
シルヴァは蒼白で髪を振り乱しながら駆け込んで来た。
ああ、イケメンが台無し。
彼はまっすぐに俺のところへやってきて、そのまま抱き上げた。
「大丈夫なんですか」
母さんが肩をすくめる。
「それが、子どもたちがやっつけちまったみたいなのさ」
「子どもたちが!?」
「しかも、侵入してきたのは誰だと思う?」
「誰って」
「リゲルのことを探ってた男さ。そいつが、わたしの留守に入ってきて……リゲルがフェニックスの杖を使った、かもしれない、らしいよ」
「まさか」
シアンが言葉を付け加える。
「フェニックスの力は抜けている。使用済みだ。子どもたちは異状がないのだから、対象はその男と考えるのが妥当だろう」
「そんなこと、可能なんですか」
シアンはゆっくりと瞬きをして、それから言った。
「リゲルは、特別な子どもなのかもしれない」
その通り!
俺のこと、天才児って呼んでくれていいぜ~?
しかも、杖を正しく使えてたみたいで、安心安心。ああ、俺ってやっぱり天才児!?
シアンは手を叩いた。
「ひとまず、男の方はまかせておけ」
「どうする気だい?」
「街から出す。どこか遠くの街の監獄に連れていかせよう……もっとも、杞憂かもしれないがな」
「どういう意味だい?」
「フェニックスの杖を受けたのなら、もうリゲルのことは忘れているはずだ」
「ああ……」
大人たちが後処理の話を始めると、急激に睡魔が襲ってきた。
ああ、眠い。
俺ってまだまだ赤ん坊。
シルヴァも赤ん坊の抱き方がうまくなっちゃってもう。ああ、眠い。
シルヴァが俺を覗き込んでいる。
彼の目はいつでもやさしくてあったかいものであふれている。
でもいまだけは心配と不安がその瞳に浮かんでいて。
……また心配をかけちゃったな。
でも、もう大丈夫。
そんなにきつく抱きしめるなよ。
俺、天才児だからさ。
大きくなったら魔法を使って、剣も使って、ドラゴンは……倒さないで、できれば背中に乗せてもらって……竜騎士ってのも悪くないな。
ああ、でもフェンリルに乗って戦うのもいい……ロイはきっと乗せてくれるだろうし……。
ああ……早く大きくなりたいぜ。
瞼を閉じると、あっというまに夢の中に落ちていった。




