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第13話 俺の成長を見よ!

 さてさて。それからしばらく、表面的には静かな日々を送った。

 表面的、というのは家の中が平和という意味だ。

 ひとたび【天眼】を使って人攫いの様子を見ると、家の周りをちょろちょろしていて、大変平和じゃない。


 その日の夕方、俺はボールをなげる練習をしていた。

 これがなかなか、体を動かすいい練習だ。


 俺がボールをなげると、フェンリルキッズ(ロイ、サイ、ピイ)がみんないっせいに取りに行く。

 いわゆる「とってこい」的な遊びだ。

 ちなみにメイは今日もよく寝ている。お昼寝の時間だ。もう夕方だが。寝すぎ。


 3体はみな布団を被った状態で走り回っている。

 この布団を被るのが目下彼らのブームである、と両親は思っている。

 実際のところは対侵入者訓練なのだが。


 みんな、熱心に俺の指示で走ったり取って来たりを繰り返している。

 男が侵入してから、キッズたちも俺と同じ気持ちをくすぶらせているのだ。


 ――負けてたまるか。


 キッズたちからは闘志を感じる。

 うんうん、わかる。

 大人に頼れないいま、俺たちで戦うしかないんだ。


 母さんは1階で夕飯の支度をしている。

 たぶん今夜もパン粥だろう。

 ここしばらく父さんは腹が痛いらしく、夕飯にパン粥が出ることが続いていた。

 病人食とあなどるなかれ。こっちの世界のパン粥はけっこううまい。

 俺たちも一口食べさせてもらえる。いわゆる離乳食というやつだ。

 ああ、考えただけでよだれが……。赤ん坊だから別にいいか。


 ふいに来客を告げるノックが響いた。

 フェンリルキッズたちは慌てて部屋の隅に固まる。――ってこら、俺を真ん中に押し込むのはやめろ、長男だぞ!


 階下から声が聞こえる。

「奥さん!」

「なんだい?」

「ああ、ジェイが職場で倒れたらしくてさ、ちょっと来てくれ!」

「なんだって!?」


 ばたばたと母さんが家を出て行く。

 うーん? 父さんが、倒れた??

 ヘイ【天眼】、父さんはどこ??


 ぎゅいいんと視点が動き出し、大通りを抜けて父さんの職場である鍛冶師の親方の工房が映し出される。

 そこで父さんは額に汗を流しながら鉄を打っている最中だ。


 あー……これは……。

 やってんなぁ……。そうきたか。


 ヘイ【天眼】、人攫いの男はどこ??

 ふたたび視点が動き、今度は家の向かいに生えている木の陰で止まる。

 その木の陰にはいかにもあやしい男――あの人攫いだ。

 そいつはじっと家から出て行く母さんを見つめている。


 ようするに、母さんを嘘の情報で呼び出して、その隙に……ってことだろう。


 ふつうに考えれば、母さんが行って戻ってくるまで時間を稼げば俺たちの勝ち、だ。

 しかし、俺は戦うと決めている。

 母さんの後ろに隠れるつもりなど毛頭ないのだ!

 戦って勝つ!


 俺がふんぬと立ち上がると、キッズたちも臨戦態勢に入った。




 スキル【天眼】で玄関を見る。

 静かに施錠されていたはずの玄関ドアが開き、男が家に滑り込んできた。

 右手には棍棒をもっている。

 おそらく、それでフェンリルキッズに対抗するつもりなのだろう。

 こいつだってノープランでつっこんでくるほど馬鹿ではないということか。


 男はまっすぐに階段を目指す。

 俺は息をひそめて、じっとそのときを待つ。

 男が階段をのぼりきったとき、俺は布団を被ったサイにGOサインを出した。


 ――サイは、1階から階段を駆け上がり、そのまま男の背中に突撃をかました。


 ははは!!

 俺とキッズたちが2階にいると思ったな!? 残念! 俺たちは1階だ!

 ロイが背中に乗せてくれるから、俺は0歳にして家じゅうを移動できるのだ!!


 サイは抜け目なく、男の手からこぼれた棍棒を咥えて再び1階にかけもどる。

 キッズたちのなかで一番わんぱくで力が強いサイの背後からの一撃に、男は悶えてまだ動かない。


 さあ、この隙に!

 俺はロイに合図して、台所に連れていってもらう。ロイもきっちりと布団をかぶっている。

 みんなハロウィンのおばけみたいでかわいい。

 って、ちがうちがう。そんなことを言っている場合じゃない。


 目指すは、戸棚の中にある魔法の杖(勝手に命名)だ。

 ロイが台所の作業台の上に立ち、その背の上に、俺が立つ。

 どっかの音楽隊みたいだ、なんて感想はおいておいて。


「ぬぐううう!!」


 めいいっぱいに背伸びをして、戸棚の取っ手に指をひっかける。

 ひっぱると、その拍子にバランスを崩してしまう。

 ぐらりと傾き、床に落ちる、と思った瞬間、ロイが俺の首根っこを咥えて助けてくれた。

 ふぃ~。危ない。危ない。


 見上げると、戸棚の扉は開いたようだった。その奥に、魔法の杖があるはずだ。

 もう一度――と足に力を入れたとき、「このクソ犬がぁ!!」という声が聞こえた。


 計画通りなら、キッズたちが交互に攻撃をしかけているはずだ。

 男が階段を上にのぼっているときは、1階からサイが。

 男が下にくだっているときは、2階からピイが。

 階段はこの家で一番狭く、よけることは困難だ。

 なにより、ふだんキッズたちが遊び場にしているので、ここが一番やりやすい。


 さあ、彼らが時間を稼いでくれている間に、俺は俺の仕事をするんだ!

 俺はふたたびロイの背中によじのぼり、戸棚の奥に手を伸ばした。


 お、いけそうだ……! この硬いやつだろ!

 指先の感覚を頼りに、それを掴む。

 やった! 杖だ!!!


 俺がガッツポーズを決めると同時に、階段の方からひときわ大きな音がした。

 振り向くと、男がよたよたと歩いてきた。


「ひっ、い……ぐぅっ……!」


 ――頭に、めっちゃでっかいたんこぶをこしらえて。

 うっわ、痛そー……。

 サイとピイが背後から追撃しようと低い体勢になっている。

 あれ、これってもしかしてキッズたちで十分対応できたかんじか???


 なんて呑気に考えていたら、男の凶暴な目と目があってしまった。


「なるほど、スキル持ち、か。ふつうの子どもだと思ってはいけないわけだ」


 ぎくっ。いや、いまさらギクリもなにもないか。

 だったらなんだ、これが正解だ。

 俺は胸を張る。そうだ、俺がスキル持ちだ。


「だ!」

「あまり、大人をなめない方がいい」


 背後からサイが突撃する。

 しかし、男はその一撃をいなすと、サイの首根っこを掴んで――そのまま台所の上にいた俺とロイに向かって投げつけた。


「キャイン!」

「だあ!!」


 よけるのも間に合わず、そのままサイの体が直撃する。

 足元が不安定な俺はそのまま落下する。


「ざまぁみろ」


 男の声。近づいて来る。

 ああ、立たないと。

 でも、頭がぐらぐらする。

 杖さえあれば……ああ、魔法の杖が、あんなところに転がって……。

 ロイ、ピイ、サイ……杖を、杖をとってくれ……。


 ロイとサイは台所の上で、ピイは俺を庇いに飛び出したのか、俺の下敷きになっている。

 ピイはすっかり怯え、しっぽが後ろ脚の間に入ってしまっている。

 ピイ、勇気を出して、いまから杖をとって……。


 ――だめだ。

 決めたじゃないか。

 俺が戦うって。


 俺は足に力を入れた。

 立ちあがる。この先はまだ俺にはできない。

 でも、いましないといけない。

 俺は一歩を踏み出した。


 ――歩ける。 

 一歩、二歩、三歩。

 掴んだ。俺は右手に杖を掴んだ。


「観念しろ」


 男がこちらに手を伸ばした瞬間、俺は振りむき、男としっかり目を合わせて――フェニックスの羽を引き抜いた。



 

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