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第16話 ハンターとしての稼ぎは?

 二日後の朝、俺はまた姫路駅遺跡の外周に車を停めた。


 左の手首には盾の腕輪を着け、右の手首には揃いの輪を嵌めている。腰には光の刃のナイフを下げ、背中にはレバー式のライフルであるレネゲードと、狙撃銃のオスプレイを背負った。腰の左右には、大型弾頭のハンドキャノンであるアンヴィルと、小型弾頭の拳銃であるバーレッタを吊るしている。三日前と比べると、装備が一つずつ増えていた。


<< 今日は奥へは行かないんですよね >>


<< うん。一つ目の輪まで。そこでどれだけ稼げるか見る >>


 姫路駅遺跡で、ハンターとして食っていけるかどうかを確かめたかった。


 住宅街遺跡なら、答えはもう分かりきっている。装甲の球であるサーベイヤーを狩って中枢を売り、宙に浮かぶ重装甲のシュレッダーを落として心臓部を売ればいい。それだけでユメサキの誰よりも稼ぐことができた。


 だが、ここは違う。機械の強さが段違いで、弾も強化服のシールドも住宅街の何倍もの勢いで減っていく。その消耗に見合うだけの物が取れて、きちんと金になるのかどうか。それがはっきりしなければ、危険を冒して通い続ける意味がなかった。


 ◇


 一つ目の輪に入ると、すぐに耳障りな羽音が響いてきた。


 見上げれば塔と塔のあいだの空から、前半分を装甲の殻で覆ったドローンのホーネットが二機こちらへ向かって降下してくる。そのうちの一機が、正面から青白い光の玉を放ってくる。


 俺は左腕を掲げ、心の中で盾を念じた。


 腕の前に青い膜が丸く展開する。飛来した光の玉が膜に激突し、細い稲妻となって表面を這ったあと、そのまま掻き消えた。体には少しの痺れも伝わってこない。


<< 盾のエネルギー、ほとんど減っていません >>


 三日前は、あの光の玉を一発避けるために、横へ跳ぶしかなかったのだ。


 もう一機が俺の側面へ回りこもうと機体を傾けた。後ろの推進器が覗く。腰から抜いたバーレッタで正確にそこを撃ち抜いた。続けて、撃ち返してくる光の玉を腕輪の盾で防ぎながら、旋回の隙を突いて残る一機の推進器も撃ち抜く。二機は推進力を失い、路地へ相次いで墜落した。


 駆け寄って一機目の機体を表に返す。ここからが今日の本題だった。


 ホーネットの内部に何があり、どこが金になるのか。住宅街のサーベイヤーやシュレッダーなら体が勝手に動くほど熟知しているが、こいつを解体するのは初めての作業だった。


<< アカリ。こいつの高く売れる所はどこ? >>


<< 電気の弾を撃ち出す部品です。機体の真ん中、装甲の殻のすぐ裏にあります >>


 装甲の殻の継ぎ目に、ナイフの刃を指一本ぶんほどの長さに縮めて差しこんだ。


 青白い光の刃は、継ぎ目の奥にある留め具を、まるで抵抗を感じさせずに両断した。装甲がぱかりと外れ、中から手のひらほどの太い筒のような部品が現れる。あの電気の弾を撃ち出していた部品だ。部品を傷つけないよう慎重に刃先を細め、周りに張り巡らされた配線を一本ずつ断ち切っていく。


 今までの解体なら、工具を隙間にねじ込んで無理にこじ開け、配線も力任せに引きちぎっていた。そのため部品の端を欠けさせたり、配線ごと根元から引き抜いて値を下げたりすることも珍しくなかった。


 だが、このナイフは違う。切りたい箇所だけを的確に断ち、残したい部分には一切傷がつかない。手のひらに転がり出てきた部品は、新品同然の完全な状態を保っていた。


<< これ、解体にもすごく便利だね >>


<< はい。もともとそういうことに使う道具ですから >>


 アカリの声に、どこか誇らしげな響きが混ざっていた。


 ◇


 昼を迎えるまでに、俺は一つ目の輪をぐるりと巡った。


 狩った獲物はホーネットが五機、火を噴くドローンであるファイアフライが二機。そして屋上に陣取っていた狙撃の砲台、センチネルが三台だ。


 ファイアフライは、火炎放射の筒の付け根にある黄色い燃料容器を撃ち抜けば簡単に倒せる。だが、それでは機体が自分の火で燃え落ちてしまい、内部の貴重な部品まで黒焦げになって売り物にならなくなってしまう。


<< 燃料の容れ物を撃たずに止める方法ってある? >>


<< 火を噴いているあいだ、筒の付け根の、燃料の容れ物の少し上に、筒を動かしている継ぎ目があります。そこを断てば火は噴けなくなります >>


 路地の先から現れた次のファイアフライが、猛烈な勢いで炎を吐き出してきた。


 左腕の盾を構えて正面から受け止める。青い膜の向こう側で激しい熱風と炎が渦を巻くが、強化服のシールドは少しも減らない。


 炎の勢いがふっと途切れたその一瞬に、強く地を蹴って間合いを詰めた。筒の付け根へ光の刃を滑らせ、燃料容器の真上にある駆動の継ぎ目を一閃する。放射筒がだらりと力なく垂れ下がった。


 攻撃手段を失ったファイアフライが、ふらつきながら高度を下げていく。無防備になった後ろの推進器を、バーレッタで手早く撃ち抜いた。


 地面に落ちた機体は炎に包まれることもなく、火を作り出す中枢部品も燃料の供給機構も、完全な形のまま無傷で手に入った。


<< お見事です >>


<< 盾とナイフがなかったら、近づけてないよ >>


 盾で防ぎ、踏み込んでナイフで急所を断つ。そうして初めて傷のない部品が残る。銃と力任せの解体だけに頼っていた頃には、到底真似のできない稼ぎ方だった。


 ◇


 屋上のセンチネルは、背負っていたオスプレイで狙撃して処理した。


 前回の偵察と同じように、建物の物陰から物陰へと渡り歩きながら一台ずつ始末していく。今回は万が一の反撃にも動じることはなかった。撃たれそうになればすぐさま盾を展開し、センチネルの放つ重い一撃を青い膜で受け止める。膜は大きく撓んだものの、弾丸を通すことはなかった。


 仕留めた三台はいずれも比較的背の低い塔の屋上に陣取っていたため、すべて外階段を駆け上がって回収して回った。残骸から腕の部品と、精密な狙いをつける目の部品を、ナイフで丁寧に取り外していく。


<< アラタさん。空に目印役のドローンが一機です >>


 アカリの声に顔を上げると、立ち並ぶ塔のずっと向こうの空を、細身の影がこちらへ向かって飛んでくるのが見えた。目印役のスポッターだ。あいつに目印をつけられれば、どこからともなく砲撃が降り注いでくる。


 俺はすぐさまオスプレイを屋上の縁に据え、照準を合わせた。


 距離はまだ十分にある。向こうはこちらの存在に気づいていない。引き金を絞ると、放たれた弾丸が細い機体を正確に捉えた。スポッターは空中でくるりと回転し、そのまま下層の路地へと落ちていく。待っていても、砲撃が飛んでくる気配はなかった。


<< 先に見つけて先に落とす。作戦どおりですね >>


<< うん。今日はここまでにしよう >>


 背嚢の容量にはまだまだ余裕があり、体にも疲れは残っていない。だが、今日の目的はあくまで駅の遺跡でどれだけ稼げるかを確かめることだった。二つ目の輪へ足を踏み入れるのは、収支を見極めてからで遅くはなかった。


 ◇


「おい」


 ゲンの店のカウンターに背嚢から出した戦利品を並べ終えると、ゲンが低く唸るような声を漏らした。


 ホーネットから取り出した電気の弾の発生部品が五つ。ファイアフライの火炎発生部品が二つ。それにセンチネルの腕の部品と目の部品がそれぞれ三台分。どれ一つとして傷のない、極上の状態だった。


「駅か」


「ええ。一つ目の輪まで」


「生きて帰ったか」


「約束しましたから。礼は生きて帰ってから言えって」


 ゲンはふんと短く鼻を鳴らした。


 それからホーネットの部品をおもむろに取り上げ、作業用の灯りにかざして目を細めた。切り離された継ぎ目の滑らかな断面を、無骨な指先でそっとなぞる。


「……この切り口は何で切った」


 鋭い問いに、やはり気づいたかと思った。


「新しく買った工具ですよ。よく切れるんです」


「ほう」


 まったくの嘘というわけではない。アカリの言うとおり、あれは暮らしのための道具なのだから。


 ゲンはしばらく無言でその切り口を見つめ、やがて何も言わずに部品を台の上へ戻した。


 カウンターの帳面をめくり、計算機を弾き始める。その手元が止まるまでの時間は、普段の買い取りのときよりもずっと長かった。


 示された画面の数字を見て、俺は少しだけ息を吐く。


 住宅街遺跡に潜り、一日にサーベイヤーを四体狩って大稼ぎした日の、倍近くに達する金額だった。


 ここから今日使った弾薬代を引いてみる。大型弾頭のアンヴィルはほとんど撃たず、シールドセルに至っては腕輪の盾のおかげで一本も消費していない。弾代を差し引いても、手元に残る利益は住宅街の稼ぎを遥かに上回っていた。


「駅の部品は、珍しいからな」


 ゲンがぽつりと言った。


「誰も取ってこん。取ってこれる奴がおらんからな。だから値がつく」


「なるほど」


「ただし」


 端末を操作して代金を振り込もうとしていたゲンの手が、ぴたりと止まった。


「毎回こうはいかんぞ。あそこは深く入るほど硬くなる」


「わかってます」


「わかってるならいい」


 ゲンは指を動かし、代金を俺の情報端末へと振り込んだ。


 ◇


 その日の夜、新居の居間でアカリと今日の収支を突き合わせた。


<< 一つ目の輪で、住宅街遺跡の倍近く。弾代を引いても、ずっと黒字です >>


<< うん。通う意味はあるね >>


 頷きながらも、俺は昼間の戦いの光景を頭の中で一つずつ反芻していた。


 倍近くの稼ぎ。数字の上では確かに申し分のない結果だ。


 だが、相手にした機械の強さは住宅街のものとは比較にならなかった。ホーネットは二機、三機と組んで襲いかかり、ファイアフライは逃げ場のない狭い路地を炎の壁で塞いでくる。屋上のセンチネルは複数台が射線を重ねて同じ通りを封鎖し、それらに対処しているあいだにも、上空からはスポッターが忍び寄ってくるのだ。


 左腕の盾がなければ、強化服のシールドセルを何本使い切っていたか知れない。光の刃のナイフがなければ、部品を無傷で回収するどころか、火に巻かれるか銃弾で砕け散っていただろう。最適化によって研ぎ澄まされた肉体と、旧時代の装備があって、ようやく掴み取れた倍の利益なのだ。


 もし、普通のハンターが一般的な装備のままここへ足を踏み入れたらどうなるか。


 稼ぎが倍になるどころの話ではない。撃ち尽くす弾薬と使い果たすシールドセルの代金だけで利益の半分は吹き飛び、いずれは手痛い反撃を受けて生きて帰れなくなるのが関の山だ。


<< ここが不人気な理由、よくわかったよ >>


<< はい。敵の強さと組んでくる厄介さに比べて、稼ぎが見合わないんです。普通の装備でしたら >>


<< 俺のは普通じゃないからね >>


 今の俺の力と装備なら、十分に割に合う。それに、この危険な機械たちを相手に実戦を重ねていけば、ハンターとしての腕も自然と引き上げられていくはずだ。稼ぎを得ながら、同時に体を鍛え上げることができる。そう割り切って通い続けるのが、今の自分には最も適しているように思えた。


<< はい。しばらくは外周と一つ目の輪で稼いで、少しずつ二つ目の輪へ足を伸ばしていくのがいいと思います >>


 焦って先を急ぐ理由はどこにもない。


 中等教育の勉強は始めたばかりで、終わるまでまだ三か月かかる。技術者の試験を受ける建物も姫路支部の役所も、まだずっと深い中心部にある。無理に奥を目指して途中で命を落としては、元も子もなかった。


 まずはこの浅い領域で着実に稼ぎを重ねる。そうして駅の遺跡特有の警備機械の癖を頭に叩き込むのだ。どの敵がどこに陣取り、どのように連携して襲いかかってくるのか。どの部品が、どれほどの値で取引されるのか。それを一つずつ覚えていけばいい。


 居間の窓の向こうでは、ユメサキの街を囲む巨大な防壁が、夜の暗闇の中に静かに沈んでいた。


 あの壁を越えた遥か東の地平に、姫路駅遺跡の塔の群れがそびえ立っている。


 あの高く連なる塔の群れこそが、これからしばらくのあいだ、俺の生きる稼ぎ場だった。

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