表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/6

再度

「あっ」



 反射的に、足が止まる。


 何ともなく振り向いた美紀の隣には、もちろん誰もいなかった。


 自販機からカフェラテの缶を取り出して、プルタブに指を引っ掛けながら歩き出した矢先のことだった。


 男とも女ともとれる声だった。

 一文字分だけだと子供か大人かまでは分からないが、どちらだったとしても今周辺に人の気配はない。


 強いて当たりを付けるなら、豆粒に見える程遠方を歩く人影二つが漏らした可能性くらいだが。


 ――でも。

 聞こえるわけないよ。あんな遠くで『あっ』て言われたって。


 かきり、と開けたプルタブの穴を口に付けて、美紀はカフェラテを一口あおった。

 イヤフォンが原因の耳の不調ってやつかな。そんな(ささ)やかなひらめきを採用して、気にしないことにすべくカフェラテの味へと気を散らす。

 そんな矢先。


 ぶびびぃ。


 と、そこそこデカめな虫の羽音が頭上から迫り来た。



「――うぎゃ!」


 猿みたいな悲鳴を上げた美紀の手から、缶がするりと滑り落ちる。

 手の甲にとまった虫に驚いたせいか、空いた左手でそれを叩き払った衝撃からか、原因など彼女からすりゃどっちでも良かった。


 かこん、びしゃ。

 と、アスファルトの固さに負けてひしゃげた缶が、カフェラテをぶちまけながら美紀の足元に転がった。

 次いでその横に、焦げ茶色の平べったい昆虫も弾き落とされる。


 ひっくり返って足をわきわき動かしているそいつのフォルムは、見紛(みまご)う事なきゴキブリであった。


「なんっ、キモ、何でいるの、も゛ー!」


 手の甲を這われた感触を上書きするように、美紀は利き手を服で擦り拭く。


 どこぞのご家庭から飛び逃げてきた個体かもしれない。成虫よりは小さなサイズ且つ大分弱っていたという点は、美紀にとっては幸運といえるだろう。


 ……とはいえそれも、それを『幸運だ』と思える余裕が彼女にあれば、の話である。



「何でわざわざ手にとまるの、ったく……」


 コーヒーひと缶も気軽には買えなくなってきたこのご時世。

 ほんの一口分を味わう為だけに小銭を支払ったわけではない。美紀にとっては不幸以外の何物でもないアクシデントだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ