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【悲報】吾輩、九州産のポンコツ栗毛に転生するも、心臓がバケモノすぎてバテるという概念が存在しない  作者: 猫の造形美
九州産馬キリシマノカゼ

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馬視点1

吾輩は馬である。


名前はキリシマノカゼ。


……いや、本当のことを言うと、中身は数年前までただの冴えない会社員だった元・人間である。


気付いたら鹿児島の泥臭い牧場で、栗毛の牝馬に転生していた。


意味が分からない。


転生直後、吾輩は絶望した。


なぜなら、ここが競馬の主要国・日本でありながら、競走馬のエリートたちが集まる北海道ではなく、競馬界の僻地「九州」だったからだ。


競馬の知識が浅い吾輩でも知っている。


九州産馬という響きには、高確率で中央で惨敗して早死にするか、最悪の場合、サクラ肉になるという不穏な未来がつきまとっていることを。


「死んでたまるか。絶対に馬肉ステーキにされて胃袋に収まるのだけは御免だ」


そう誓った吾輩は、生き残るために必死で走った。


霧島の放牧地は地面が硬く、火山灰が目に入って最悪だったが、生きるために毎日狂ったようにステップを踏んだ。


その結果、気付いたら和種馬並みに頑丈な蹄と、どれだけダッシュしてもゼーゼー言わないバケモノ染みた肺活量が完成していた。


前世のインドア生活では考えられない超健康体である。


そして迎えた夏の小倉、2歳新馬戦。


周囲の馬は一頭数千万円のピカピカのエリートばかり。


対する吾輩は、身の丈に合わない夢と罵られるド田舎の11番人気である。


馬券を買っている人間たちの冷ややかな目線が痛かった。


ゲートが開いた瞬間、吾輩は思った。


「あ、こいつら速すぎん?」


エリートどものダッシュ力に、出脚で一瞬置いていかれる。


前世ならパワハラで訴えるレベルの出遅れである。


だが、減量特典で乗っていた若手の宮崎蓮くんは、無理に競らせず、吾輩を中団あたりまで落ち着いて持っていってくれた。


そして向正面、まだ他の馬たちがのんびり脚を溜めているタイミングで、宮崎くんはゴーサインを出した。


『え、もう?』


困惑しつつも、霧島の火山灰で鍛えたスタミナで、吾輩は早々に脚を使い始めた。


最後の直線、まだ余力を残していたはずのエリートどもが、力の使いどころを間違えたかのように次々とバテて失速していく。吾輩だけは普段通り淡々と足を動かし続けた。


気付いたらクビ差で勝っていた。


勝ち時計は超平凡。


周囲は「早仕掛けがハマっただけ」と笑ったが、こちらは生き残るために必死である。


続く2戦目は秋の中京。


しかも最悪なことに、雨でドロドロの不良馬場だった。


他の良血馬たちが「脚元が滑る!」「泥が顔にかかって嫌だ!」とメンタルを病んで外へ逃げていくなか、吾輩は思った。


「霧島の火山灰に比べれば、中京の泥などただの水たまりだ」


と。


インコースの泥沼を、頑丈な蹄でガシガシと掴んで進む。まだ他馬が脚を溜めているうちに、吾輩はさっさと前めのポジションへ取りついた。


最後の急坂で周囲が力尽きていくなか、吾輩だけは同じペースを維持して突き抜けた。


結果は2馬身差の勝利。


周囲は「雨の特殊馬場に助けられただけ」とまだ舐めていたが、賞金はしっかり加算された。


これで一先ず馬肉最速ルートは回避である。


しかし、世の中は甘くない。


オープンクラスに上がると、大人の事情で宮崎くんから、競馬界のレジェンド・竹豊騎手へと乗り替わりになった。


年末の阪神、万両賞。馬場はカラカラの良馬場。


竹豊さんは非常にスマートな手綱捌きで、吾輩を中団前目に収め、道中から早めに脚を使わせてくれた。


しかし、さすがは中央のオープン戦、エリートどもの純粋なダッシュ力とスピードの最大値が違いすぎる。


最後の直線、吾輩も早めに動いた貯金を使って必死で走った(上がり34秒9)が、まだ脚を溜めていた前の馬たちは、もっと速いキレ味でビューンと飛んでいった。


結果は4着。


良馬場のスピード勝負では、早めに動くだけでは埋まらない、吾輩の最高速度そのものの限界を突きつけられた。


終わった。


やっぱり九州産馬の限界か……。


そうガックリ肩を落として検量室に戻った吾輩だったが、下馬したレジェンド・竹豊さんは、向井先生とオーナーの源次郎じいさんに向かって不敵に笑った。


「この馬、どれだけ走っても息が上がらない。距離は延びれば延びるほどいい。来年はクラシックへ行きましょう」


……ちょっと待ってほしい。


長距離ということは、3000メートル以上走るということか?


あの地獄のようにしんどい早仕掛けを、良血馬たちと延々とやり合うのか?


馬肉は回避できそうだが、今度はステイヤーという名の、過労死寸前の職人ルートが目の前に開かれようとしていた。


吾輩は馬である。


生き残るために手に入れた心臓のせいで、3歳春、さらに過酷な泥臭い戦いへと引きずり込まれようとしている。

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