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【悲報】吾輩、九州産のポンコツ栗毛に転生するも、心臓がバケモノすぎてバテるという概念が存在しない  作者: 猫の造形美
九州産馬スノードロップ

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16/20

第六話 私は届かなかった

私は激怒していなかった。

そんな元気はなかった。

私は草を食っていた。黙々と食っていた。

「母上」

「なんだ」

私は地面を見た。母上も地面を見ていた。草があるからである。

私は負けた。正確には。勝てなかった。

二着だった。

二着。非常に微妙な順位である。

褒められる。だが勝っていない。惜しいと言われる。だが負けている。私はこの順位が嫌いだった。

「母上」

「なんだ」

「私は二着だった」

「そうか」

「惜しかった」

「そうか」

「勝てたかもしれん」

「そうか」

私は鼻を鳴らした。母上はいつも通りだった。いつも通りすぎた。

私は悔しかった。とても悔しかった。

五着だった時より。ずっと悔しかった。

あの日。私は本気で勝てると思った。

最後の直線。前にいた。届くと思った。そして届かなかった。たったそれだけだった。

「終わった」

私は言った。母上は草を食った。

「終わっていない」

と言った。私は固まった。

「母上」

「なんだ」

「今何と言った」

「終わっていない」

私は困惑した。非常に困惑した。

母上は。終わった。が口癖である。

新馬戦前。終わった。

除外。終わった。

雨。終わった。

風。終わった。

大体終わっている。

その母上が。終わっていない。と言った。

「なぜだ」

「二着だからである」

「負けたぞ」

「そうであるな」

「勝てなかった」

「そうであるな」

私は地面を掻いた。

「悔しい」

「そうであるな」

「非常に悔しい」

「そうであるな」

「勝ちたかった」

「そうであるな」

母上は否定しなかった。珍しかった。

風が吹いた。春の匂いがした。

「母上」

「なんだ」

「母上も二着だったことがあるか」

しばらく沈黙。

「ある」

と言った。

「悔しかったか」

「悔しかった」

「終わったと思ったか」

「思った」

私は少しだけ安心した。英雄でもそうなのか。

「どうした」

「草を食った」

「またか」

「腹は減る」

私は思わず笑った。少しだけ。本当に少しだけ。

すると母上は言った。

「吾輩は」

珍しく。母上から話し始めた。

「天皇賞を勝った時」

「うむ」

「勝てると思っていなかった」

「うむ」

「だから驚いた」

私は固まった。母上である。天皇賞馬である。

「自信がなかったのか」

「なかった」

「本当にか」

「本当にである」

私は混乱した。私より自信がない。どう考えても。

「母上」

「なんだ」

「それでよく勝てたな」

「吾輩もそう思う」

私は笑った。今度は少し大きく。

やはり変な馬である。英雄とは思えない。

だが。だからこそ。少しだけ安心できた。

「母上」

「なんだ」

「私はまた走る」

「そうか」

「来年も走る」

「そうか」

「今度こそ勝つ」

母上は少しだけ考えた。そして。

「知らん」

と言った。私は激怒した。

「そこは信じろ!」

「競馬である」

「うむ」

「分からん」

私は黙った。反論できなかった。

しばらくして。母上は草を食いながら。本当に小さな声で言った。

「だが」

「うむ」

「まだ終わっていない」

私は何も言わなかった。言えなかった。

だから代わりに。草を食った。

少しだけ美味かった。

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