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【悲報】吾輩、九州産のポンコツ栗毛に転生するも、心臓がバケモノすぎてバテるという概念が存在しない  作者: 猫の造形美
九州産馬スノードロップ

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第二話 私は勝利した

私は激怒していなかった。

正確には、激怒する理由が見当たらなかった。

これは極めて珍しい事態である。

私は満足していた。大変満足していた。

何故ならば。私は勝ったからである。

「母上」

「なんだ」

母上は草を食んでいた。

最近気付いたのだが、母上は大体草を食っている。

英雄とはそういうものなのだろうか。

「私は勝った」

「そうか」

反応が薄い。

「私は勝ったのだぞ」

「知っている」

「一着だ」

「そうであるな」

「新馬戦だ」

「そうであるな」

私は少し不満だった。母上はもっと驚くべきである。

私は競馬を知らぬ。だが、一着だけは分かる。一番前である。つまり最強である。

「母上」

「なんだ」

「私は最強である」

「早い」

私は激怒した。

「なぜだ!」

「一勝である」

「だが勝った!」

「そうであるな」

「つまり最強だ!」

「飛躍している」

母上は冷静だった。あまりにも冷静だった。私は不満だった。

周囲の人間は違った。

『白毛だぞ』

『綺麗だなあ』

『勝ったぞ』

『将来楽しみだ』

皆、私を称賛していた。当然である。私は勝ったのだから。

だが母上だけは違った。

「母上」

「なんだ」

「皆は私を評価している」

「そうか」

「母上だけだぞ」

「何がであるか」

「冷たい」

母上は少し考えた。そして。

「吾輩も勝った」

と言った。

私は固まった。当然である。そうだった。

母上は天皇賞馬だった。私が一勝したくらいでは驚かないのである。

なんということだろう。

英雄の娘とは、これほど高い壁に挑まねばならぬのか。

私は燃えた。

「母上!」

「なんだ」

「私は三冠馬になる!」

「無理である」

即答だった。私は激怒した。

「なぜだ!」

「クラシック登録も終わっていない」

「細かいことを言うな!」

「重要である」

母上は現実的だった。私は理想主義者だった。

この時点で話が合わない。

「私は歴史に名を残す!」

「残さんでよい」

「なぜだ!」

「面倒である」

意味が分からなかった。歴史に名を残すことの何が面倒なのだろう。

やはり英雄は違う。高みに立つ者だけが見える景色があるのだ。私は感心した。

すると母上が言った。

「吾輩は有名になった結果」

「うむ」

「知らない人間が写真を撮りに来る」

「うむ」

「落ち着かん」

私は理解できなかった。英雄とは大変なのである。

その時だった。遠くで牧場の人間が言った。

『相変わらず仲良いなあ』

『ずっと一緒ですね』

『お母さん大好きなんだな』

私は鼻を鳴らした。全く違う。

私は依存しているわけではない。尊敬しているだけである。憧れているだけである。

偉大な英雄の教えを学んでいるだけである。それだけだ。

「母上」

「なんだ」

「私はいつか母上を超える」

母上は黙った。しばらく草を噛んでいた。そして。

「無理であるな」

と言った。

私は激怒した。

必ず、かの偉大なる母を打ち破らねばならぬと決意した。

私は競馬を知らぬ。だが、負けず嫌いだけは分かる。

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