運命さえも撃ち抜く弾丸(ヴェラドリング)編⑤
「殿方様の……マシンガンが……!?」
――真っ二つにされてしまった。あまりに突然の事で、アタシも固まってしまった。これまで幾度となく困難を切り抜けてきた殿方様のマシンガン。まさに秘密兵器のような存在だった。
しかし、それが今……アタシ達の目の前で真っ二つにされてしまったのだ。
「……チェックメイトだぁ!」
しかし、そんな中でも止まらないスターバム。彼の魔法剣が、殿方様に向かって振り下ろされそうになったその寸前――!
「……佐村光矢!」
突如として強烈な金属音と共にスターバムの剣を槍で受け止めてくれるエンジェル・アイが現れた。彼は、槍で魔法剣の攻撃を受け止めながら後ろにいたアタシ達に告げた。
「今のうちに女とエッタを連れて逃げろ! 佐村光矢!」
彼は、そう言うとそのままスターバムと1対1で戦い合う事に――。その間に殿方様は、エッタさんと協力してアタシを運び……スターバム達が戦っている所から少し離れた場所に移動した。お腹の出血が止まらないアタシは、すぐに横にさせられた。殿方様が急いで、応急処置のためにと、自分の服の袖を破ってアタシのお腹に当てようとしているのを見てアタシは、告げた。
「……おやめになってくださいまし! これくらいの怪我、なんて事はありません! 時間が経てばすぐにでも治ります!」
「良いから! 喋るな……」
殿方様の声は、少し悲しそうだった。そりゃあ……自分の愛用していたマシンガンが壊されてしまったら……。
「……くそ。俺の事なんか……庇うんじゃねぇ。俺は、どうせ不死身なんだ。何回死のうが……俺は、魔力さえ後で送ってくれればいつでも立ち上がれるんだ……。なのに……お前が死んじゃ……マリア達に後で合わせる顔が……ねぇだろ」
武器の事なんか、どうでも良かったんだ。殿方様は……アタシの事を心配してくれていて……だから、そんなに悲しそうなんだ。
アタシの事……ちゃんと心配してくれているのですわね……。
今まで……この人の旅について来て、その中で……アタシは、心の何処かで少し諦めていた。アタシは、どうせ……先輩には、勝てない。あの人が、殿方様の中で一番である限り……アタシは、きっと見向きもされない。
そんな事を心の何処かで思っていた。……でも、殿方様にとって、そんな事は関係なかった。相手が先輩じゃなくても……殿方様は、助けてくれようとしてくれる。
それが、知れた事が嬉しい。アタシを心配してくれる事が嬉しい……。他人から心配される事なんていつぶりだろう……。真摯に向き合って貰えた事なんていつぶりだろう……。
でも――1つだけ引っかかる事がある。
「……どうせ不死身だからって……見殺しになんかできませんわ」
「……ルリィ?」
「アタシは、殿方様の事が好きです! 好きな人が、いくら不死の肉体を持っていたとしても……それが、貴方を見殺しにできる理由には、なりません! アタシだって、貴方を守りたい! 貴方を救ってあげたいんです! それじゃあ……いけませんか?」
アタシと殿方様の目が重なり合う。アタシ達は、見つめ合った。長い間、見つめ合った……。
いつの間にか、ここが戦場である事とか、少し向かった先では、まだ戦闘が続いているだなんて事も忘れてしまっていた――。
アタシ達は、お互いに見つめ合い……そして、やがてアタシは自分が恥ずかしくなってしまい、彼から目を逸らしてしまった。
この直後、殿方様もアタシから目を逸らし始めた。アタシ達は、見つめ合った後に今度は長い間、目を逸らし合うのだった……。
――すると。
「……んっ、んん!」
大きな咳払いをするエッタさんが、目を逸らし合っていたアタシ達に告げてきた。
「あのぉ……すいません。その……良いですか?」
慌てた様子で、殿方様がエッタさんの方を振り向いて頬を紅くした状態で彼女に尋ねる。
「……ど、どうなさいました?」
「いえ、その……ルリィさんの傷なんですけど……私、治せそうです」
「え……?」
エッタさんは、そう言うと早速自身の掌に魔法陣を出現させて、真剣な顔になってアタシの傷を見つめ始める。彼女の掌の魔法陣から感じる魔力の雰囲気や香り……アタシは、これに何処か親近感のようなものを感じた。
「……貴方、まさか!? 治癒の魔法を……?」
すると、エッタさんはアタシの傷に掌をかざして、淡い青色の温かい魔法を施しながら告げるのだった。
「……はい。私、治癒の魔法が使えるんです。これ位の傷なら……治すのにそこまで時間はかからないと思います」
アタシと殿方様は、びっくりして彼女の魔法を施してくれている様子を眺めていた。
「……マリアと同じ……魔法が使える奴が、他にいるなんて……」
殿方様は、心底驚いているみたいだ。実際、魔法をかけはじめてから数分でアタシのお腹から流れていた血が止まり始めていた。
さっきまで、尋常じゃない位血だらけになっていたはずのお腹が、一気に真っ赤じゃなくなっていく。それと同時に……傷口もみるみる塞がっていっているのが分かる。
「凄い……! 本当に先輩と同じ治癒の魔法を使えるなんて……」
アタシが、感心しているとエッタさんは、魔法をかけながら殿方様に告げた。
「……ルリィさんの怪我については、私に任せてください! ですからジャンゴさんは、アイくんのほうをお願いします!」
「……分かった。頼んだぞ」
殿方様は、そう告げるとすぐにホルスターに装填された二丁の拳銃を手に取り、戦場の方へと戻って行った。その後ろ姿をアタシは、見つめていた……。
エッタさんは、告げた。
「……心配ですよね? 分かります。私も貴方の立場なら……きっとあぁいう風にしていたと思います」
エッタさんの顔は、心の底からアタシに同情をしているような顔だ。彼女も、きっとエンジェルという人に対してアタシや先輩達のような思いを何度も抱いた事があるのだろう。だからこそ、アタシは告げた。
「……いつも殿方様が、戦場へ行く時……その背中を見るのが、アタシは辛いのですわ。……いいえ、きっとアタシだけではありませんわ。先輩も……サレサも、ルアも……皆、殿方様の事が大好きだから。……でも、それなのに殿方様は、戦ってしまうから。彼を1人にしたくないのに……彼が、戦場へ向かっていく時、アタシには……なんだか殿方様が遠くへ行ってしまう感じがして……凄く嫌ですわ」
「分かります。私も……アイくんが、戦いに行く時が嫌いです。……本当は、もっと……ずっと一緒に焼き芋を食べて、一緒に過ごせればそれで良いのに……。それでも戦いに行ってしまうんです。……アイくんが、前に言ってました。……俺のこの力は、きっと自分を孤独にする。いつか、全ての戦いが終わった頃には、俺は誰の事も覚えていない。それでも、ついて行こうって思えるのかって……。アイくんの力って、勇者の力なんですよね。……私、彼と何十年も一緒にいるのに彼の事全然知らなくて……でも、はじめて彼の魔法を知った時から何となく気づいていたんです。彼の力が、勇者の力である事。ジャンゴさん達と出会って、そしてさっきのスターバムの話を聞いて今では、それも確信に変わりました。きっと、ジャンゴさんの持つ勇者の力も……アイくんと同じように人を孤独にしてしまう位、凄い力なのかもしれません。でも……孤独にはなって欲しくないです。ジャンゴさんにも……アイくんにも。私は、例え……アイくんが全てを忘れてしまっても……私だけは、絶対に忘れないように覚え続けていようと思って、その覚悟でこれから先も一緒にいます」
「……エッタさん」
治癒の魔法をかけながら彼女は、そう言っていた。……その眼差しは、とても輝いて見えた。彼女の強さが、アタシにも伝わってくる。
アタシも……少しばかり覚悟のようなものができた気がした。
「……そうですわね。殿方様のためにも……アタシ、これからも支えてあげたいですわ! アタシなりのやり方で……!」
そして、それと同時にエッタさんの治癒の魔法が終わり、アタシの怪我は完全に完治した。先程までお腹にあった大きな傷跡も綺麗さっぱり消えており、そこには先程まで傷があった事がまるで嘘であったかのようであった。
――体も問題なく動かせますわ……! これなら!
「完治完了です! これで、もう何も問題なく動けます!」
エッタさんが、そう言うのでアタシは、彼女に告げた。
「……ありがとうございますわ! 治りたてで申し訳ありませんが、アタシ……これからちょっと行かなきゃいけない所がありますので、失礼いたしますわね!」
すると、エッタさんは少し心配そうな顔でアタシに告げてきた。
「大丈夫ですか? いくら完治したとはいえ……あんまり激しい動きは体に良くないと思いますよ……」
しかし――。
「大丈夫ですわ。むしろ、今行かなきゃいけないのですわ。そうしないと……アタシなりのやり方を果たせなくなってしまいますわ……」
エッタさんは、それを聞くとすぐにコクリと首を縦に振って告げた。
「……分かりました。気を付けてくださいね。無理はなさらず……私も、またアイくんの元へ戻ろうと思います。私も……自分なりのやり方でアイくんの事を支えます!」
「お互い頑張りましょう!」
そう言うと、アタシは龍の姿へと変身して、すぐに天高く昇っていき、ヘクターおじ様の家がある方へ向かって一直線に空の上を飛んで行った――。
――待っていてくださいまし! 殿方様……。新しい武器とやら……このルリィが、必ずや殿方様のために……! 急いでお届けしますわ――!