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俺はJKを助けたいのか、それとも助けられたいのか  作者: 酉 真菜
第2章:人類のため働きつづける世界
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第30話:誠司の終わり

 俺はこの時が来ると胸が踊り出す。

 無味乾燥したこの毎日に唯一の楽しみの時間だからだ。

 俺は排水口に耳を近づける。

 まだ水の流れが聞こえているが、もうそろそろ途切れるだろう。

 俺は静かにじっとその時を待った。

 軽いサーという水の音がだんだんと小さくなり、コロンコロンという水が途切れる音が小さく排水管に響き渡った。

 その後には、低くゴオーとした風の通り抜けるような音が排水管にこだまし始める。

 俺は軽く頭の位置を変え、口を近づけた。


「あー、あー、もしもし、聞こえる?」


 俺は少し耳を近づけて、風の音に混じる人の声を探す。


「カムか?聞こえているか?」


「聞こえていますとも!ハァイジックゥ!俺のおすすめについて聞いてくれるかい?」


「カム、少し時間がないから、わしが先に話してもいいかい?」


 いつもは付き合ってくれるジックが、真面目な口調で答えた。


「いいよ、なに?」


 と俺は気にしてないように答えたが、嫌な予感はあった。


「君は、エマやボブ、ジョージと仲良くやってくれてとてもうれしく思っている」


「別にそれぐらい、大丈夫だよ」


「今まで、いろんな人たちに会ってきた。この収容所に入れられて、自暴自棄になる人もいた。君みたいに、めげずにこうやって会話を楽しんでくれる人がいて、わしはとてもうれしい」


 排水口からはしばらくの間、空気の通る音だけが反響していた。


「わしは思うんじゃ。君みたいな人なら、この現実……収容所を変えられるかもしれないとね」


「変えるって、どうやって俺がこの状況を変えられるっていうんですか?」


「わからない、長年の勘というやつだ。カムだって、研究者の勘も馬鹿にできないことを知っているだろう」


「まあ、そうですが……。でも、それならジックの方がずっと適任だと思いますよ。こんな風にいろんな人たちと楽しく過ごせるのだって……」


「わしにそれは無理だ……」


 俺の脳裏に変なことが思い浮かぶ。


「そんなわけ……。ジックは聞いたことないことでも一瞬で理解してしまうし、理解力のない俺でもわかりやすく説明してくれるし……」


「……カム」


 頭に浮かび上がる黒いすすは、言葉で拭き取ろうとするたびに逆に広がっていってしまった。


「この収容所にいる人それぞれをちゃんと大切にしているし……」


「カム……」


「それに、あの時だって……」


「カム!落ち着きなさい。焦っても仕方ないのですよ」


 焦ってどうにかなるものではないことぐらいわかっている。

 しかし、俺は言葉の勢いで状況を変えられることを願っていた。

 ただ、もうジックの言葉を聞いてしまった……。

 ジックの声色は頭に浮かぶ予感を確かなものにしてしまった。

 こんな時がいつか来ることぐらいわかっていた。

 いろいろ伝えたいことがあるというのに、さっきのように言葉に乗せられない。

 しんとした空気に包まれ、俺は自分のもどかしさに怒りが湧いた。

 ジックが息を吸う音が聞こえた。

 ジックの言葉を遮らなければ……。俺がそう思うのと同時にジックの声が排水口から聞こえてきた。


「もうそろそろお別れの時間だ。次のジックによろしくな」


「それって、どういう……」


 俺にだってその意味ぐらい分かっていた。それでも理解したくなかった。


「No.G41K20250427、出てきなさい」


 かすかにロボットの音が聞こえる。

 ジックは少し息を吸うと、最後に一言、排水管の中に流していった。


「ありがとうな。たのしかったよ、せいにゃん…」


 その時、俺は道の真ん中に立っていた。空は透き通るように青く、周りを赤い建物が取り囲む。

 青々とした街路樹が風でざわざわと音を立てた。

 俺の肩を誰かがポンッとたたく。


『くにぴょんっ!』


 俺は振り返るがそこには、無機質な壁と少し曇ったような若草色のガラス窓だけがあった。

 俺はゆっくりと窓に近づく。一つ上の階に動くものが見えた。

 目の焦点を合わせると、神野先生にそっくりな老いたくにぴょんが、看守ロボットたちと一緒に通路を左側へ歩いていく様子が見えた。


 そこからはあまり意識がなかった。

 俺の部屋のガラスには、血液が飛び散り、俺の頭はガンガンと痛い。

 鼻すじから垂れてきた汗は錆びた鉄のにおいがした。

 何度もガラスに打ち続けられた手の感覚は麻痺し、赤く腫れあがっていた。

 目の前のガラスが急になくなり、俺は前によろめく。

 なにかがお尻に刺さったような感触を感じると、全身の緊張がほぐれていき、俺は眠りについた。


極秘調査報告書 特別項目5

ミスリム顧問と魔法素

 ミスリム顧問とは、ミスリムの3階に位置するAI、(……機密レベル7に該当するため、閲覧は制限されています。……)。ミスリム顧問内では、人間の脳内を再現するため一部に科学素を魔法素に変換する回路が組まれている。この時、生成する魔法素は不安定なため、回路の外側では消失してしまうが、一部M波として漏れ出しているという報告も存在する。長年、魔法素の存在が解明されていなかったため、このAIを複製することは可能であるが、思考回路の説明と改善は未だに可能になっていない。

(ツーヨルゥ協定世界調整機構データ管理室所蔵)

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