第28話:施設の全容がわかってしまった・・・
「英利羽、今何時?」
みこが聞くと、英利羽は懐中時計を開いた。
その時、ガラスの一部がゆがみ、チャッ子と一誠が姿を現した。
「ただいま戻りました」
とチャッ子が言った。みこと英利羽は顔を見合わせ、チャッ子をぎゅっと抱きしめた。
みこと英利羽の仲が元に戻ったように見え、一誠は胸をなでおろしたのだった。
二人はチャッ子から離れると、みこがチャッ子に聞いた。
「で、調査はうまくいった?」
「完全に把握したわけではありませんが、かなり情報を得ることができました。二人も何かわかりましたか?」
今度は、英利羽が答えた。
「そんなに多くはないけど、一応ね」
チャッ子はニコッと笑うと、二人の前に正座した。一誠はチャッ子の後ろであぐらをかいた。
「まずは、お二人の報告が聞きたいです」
みこがノートを取り出すと、パラパラとめくった。
「ロボットたちの監視は、3時間おきに組まれていることがわかったよ、地球時間でね。それに今まで気がつかなかったけど、監視ロボットにも種類がたくさんあって、よく見るこいつはほぼ3時間ごとに現れる」
そういうと、みこはノートに書いたイラストを指さした。みこは続ける。
「こんな格好をしたやつとか、首のラインが赤色のやつもいたけど、そいつらは4回に1回現れるぐらいかな。まあ、そんな感じで基本的にロボットたちの監視は地球時間でローテーションが組まれているっていうのがみこたちの結論かな」
「地球時間で3時間おき……とても有益な情報です。この17日間、見える範囲で囚人の出入りはありましたか?」
「それもあった。それがおもしろくて、囚人の出入りはタイタン時間で動いているらしいんだよね。タイタン時間で6時間おきに出ているように見えたよ」
その後も、みこと英利羽は部屋の中から観察して気付いたことをチャッ子たちに伝えていった。
「事細かく、二人が観察してくれたことは本当に助かります。この先の予定が立ちやすいです。では、今度は私たちの調査報告をしましょう」
チャッ子はどこからか一冊の本を取り出した。赤い装丁でかなり分厚い本だった。古い本のようで、全体的に少し黒ずんでいる。
チャッ子はそれを目の前に軽く投げた。すると、その本が勝手に開き、中からページが外れてしまった。
そのページが少しひらひら風のようなもので吹かれた後、ページがまた勝手に動き出す。
黄ばんだページはあれよあれよという間にトランプタワーのように組みあがっていく。
1分かかっただろうか、本はその上にページでできたお城を作りあげた。
「すご!これは?」
と英利羽が聞く。一誠が前に乗り出して答えた。
「これはね、俺たちの調査結果ともいえるだろうね」
「これが?」
みこと英利羽は物珍しそうに組みあがったお城を眺めている。
「まず、この施設はミスリム山脈のふもとにあって、10階建て、大きく2区画に分けられているんだよね」
一誠は立ち上がってそこに現れた模型の周りをまわりながら、続けた。
「こっちの大きな区画が10階建ての一般区画。そして、もう一つの方が4階建ての生物災害源隔離区画。この間にある大きな扉がこの二つを分けているんだよ。一度大きな扉を通り抜けたことを覚えているかい?」
みこはうなづいた。一誠は、本を次のページにめくった。
さっきまで立ち上がっていた模型はページの中に収まり、次のページから別の大きな模型が現れた。
「これがこの施設の内側だよ。一般区画のこっちの壁側の3階に誠司がいる。このあたりをエリアCというから、エリアCの端だね。実は、俺たちがいるここは生物災害源隔離区画だけど、同じ3階なんだよ。このあたりはエリアIIと呼ばれている」
一誠は、模型を覗き込みながら、指をさしていた。みこも英利羽もじっと見ている。
一誠は、少し移動すると、施設の端と端を指さした。
「この左側の端にはエネルギー施設、つまりここの電力等をまかなっている場所。逆に右側が処理施設……まあ、処刑場と呼べるね」
みこと英利羽の顔が少しゆがむ。一誠は気にせず続けた。
「次に、この施設での移動経路だけど、一般区画にはエレベーターが2か所、左奥と一般区画中央にある。そして、この区画の右端……つまり区画を分けている大扉のところにらせん階段があることを見つけた。こっちの区画は比較的に動きやすい」
みこと英利羽はうなずく。
「一方、今いる生物災害源隔離区画の方は、3人が使ったエレベーター一つしか存在しないんだよね。監視が来る場所も決まっているけど、俺たちが上下に動ける場所も決まってしまっている。ここを封じられるとかなり困ってしまう。一方で、横に動ける通路だが、量区画をつなぐ細い通路が3か所あることがわかった。この3階にもあるよ。ここから見えるかな……」
一誠が模型から離れ、ガラスに近づいていった。ガラスに顔を押し付けているが、どうやらここから通路を視認することはできないらしい。
一誠の様子に少しあきれた様子で、チャッ子が説明を引き継いだ。
「この通路は、この収容所に連れてこられるときに使った船を整備する場所につながっています。整備はこの17日間で行われた様子はありませんでしたが、おそらく修繕用に100機ぐらいの護送用ロボットが待機していました。一方で、一般区画の中央部には、約3万機ほどの監視ロボットが配備されていました。このあたりをうろついているやつです」
その数字にみこと英利羽は目を丸くした。チャッ子は二人の方を向いて軽くうなずくと、説明を先に進めた。
「この施設の司令塔は、この中央部の1階から下に大きな計算機が存在していました。それとは別に、3階にまた大きな計算機が存在しています。これは何をやっているのかよくわかりませんが、その周りには、警備用なのか3階の計算機所属のロボット部隊20機がいるようです」
一誠とチャッ子が話した施設の全容は、みこが想像していたものよりもずっとずっと規模の大きいものだった。みこも英利羽も何か反応しようとするが、口はあんぐり開いたままだった。
ガラスに顔を付けていた一誠がようやく戻ってきた。二人の顔を見ながら、一誠は付け加えた。
「たしかに、3万機は多いかもしれないが、対処できない数じゃない。それよりも気になるのが、最後のロボット20機だ。3階の別サーバー自体が気になる」
「そうですね……。今回調査に向かいましたが、転送ゲートについて完全に理解することはできませんでした。3階の計算機もその類のものではなければいいのですが……」
チャッ子が少し考え込む。みこは開いた口を閉じると、チャッ子と一誠に質問を投げかけた。
「……それで、ここから脱出する算段はついているの?」
「それは、大丈夫です。今回の調査で魔力場が比較的に安定している場所を見つけました。ここなら脱出する魔法が使えると思います」
「それってどこ?」
「この3階の計算機の裏側です」
「えっ……この裏側って、どうするの?」
「裏側と言っても、計算機のそばに行く必要はありません。近くに行きさえすればいいのです」
「近くって……」
みこは不安そうな顔をする。しかし、チャッ子は何やら自信がある様子だ。
「先ほど話したこの細い通路は、ここ生物災害源隔離区画と船整備場と一般区画を結んでいると言いました。この通路の先を見てください」
みこは模型上の通路を指でたどった。みこたちのいる区画から、まっすぐ整備場までのびている。整備場への通路を分岐すると、90°左に折れ曲がった。その先にあったのが、そうあの3階のサーバーだった。
「そうです。この通路は、計算機の裏に出ます。つまりこの曲がり角にさえ到達できればよいのです」
「そこで、この収容所を吹き飛ばすとか?」
「そんなことをしたら、たとえ爆発に巻き込まれなくても、収容所の外では簡単には生き残れません。外は-180℃ほどの極寒なんですよ」
「-180℃……」
みこは思わず、震えあがる。みこの頭の中では、この収容所の周りは白銀の世界だった。
「使うのは、テンポラリーヴァース、略してTVというものです」
「TV?テレビ?」
「テレビではありません。高次元空間に新たな時空を一時的に作り出したものです」
「コウジゲン?時空?」
「簡単に言えば、つまり一種のタイムマシンを魔法で生成し、元の時間に戻るということです」
「ああ、タイムマシンか。つまり、タイムマシンを生成するために、うまく魔法が使える場所に行きたいってことね!」
「まあ、そういうことです。注意点は、私がTVを生成している間、他の魔法が使えないということです。一誠には、誠司の救出に向かってもらうため、3人で協力してどうにかそれまで見つからないようにする必要があるということです」
3人、つまり、みこ、英利羽、そして真菜のことである。
みこと英利羽は振り返った。
真菜は相変わらず、部屋の隅でうずくまったままなのだった。
極秘調査報告書 特別項目3
テンポラリーヴァース(TV)
大量の魔法素を余剰次元空間に流し込むことにより、新たなブレーンを作り出すことができる。このブレーンはほぼ魔法素によって生じているため、一般的なブレーンに比べ不安定な性質を持つ。また他ブレーンから侵入してきた科学素と全く同じものをそのブレーンに返すことで、安定さを保とうとする。他ブレーンとの結合が切れる際に、相対的なブレーン内全粒子速度を逆転させることができるため、チャッ子はタイムマシンとして利用している。我々の用いている転送ゲートは、ゲート内と外の時間相対速度を変化させることによる時間移動であり、原理が全く異なっている。
(ツーヨルゥ協定世界調整機構データ管理室所蔵)




