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俺はJKを助けたいのか、それとも助けられたいのか  作者: 酉 真菜
第1章:世界と世界の交錯の始まり
16/40

第16話:ばれちゃった!

 その日は、しとしとと雨が降っていた。

 道路の幅は、多くの車が行きかうのには狭いようだった。

 歩道を小さなゴルフバックを持った高校生の4人組が歩いている。

 高校生の1人が大きな身振りをしながら、3人に話している。

 腕を大きく広げながら、4人の先頭を歩いているその高校生の話を、水色のシャツを着た高校生が遮った。


「結局、さっきからなんの話をしているのさ……」


「なんの話って、どうやったらアニメの登場人物たちに会えるかってことだよ」


「そんなの無理じゃん。実話ならまだしも、フィクションのキャラクターたちは存在しないんだぜ」


「だからって、どうやったら直接会えるか考えるだけならいいじゃん」


「別にダメだとは言ってないけど……。それで、松本はどんな方法を思いついたの?」


 早足で歩いていた松本は、急に足を止めると3人の方へ振り返った。


「それが難しいんだよ。もしコロもんの物語トンネルみたいなものがあればいいんだけど、無理そうなんだよね」


 背の高い白いジャージを着た高校生が興味を持って、松本に近づいた。


「無理ってどういうこと?」


「つまりね、物語って基本的に作者の頭の中で作られているじゃん。小説だろうが、マンガだろうが、ドラマだろうが、アニメだろうが、そこで表現されている世界って作者の頭から出てこないんだよ」


「そうだね」


「だからといって、もちろん作者の頭の中に本当にあるものはただのニューロンの塊でしかないんだよ。つまり、こっち側の人間がその世界に入ろうとしても、キャラたちを連れ出そうとしても、実在しないから不可能なんだよね」


「それはさっき山本が言っていたとおりじゃん」


 おそらく汗が渇いたであろう青い服に身を包んだ山本がうんうんとうなずく。

 松本は話を続けた。


「そこでだ。キャラたちに会うためには、3通りの方法を俺は思いついた」


「3通り?」


「1つ目は、物語の世界を完全に再現した仮想空間を作って、VRでダイブする方法だ。キャラたちの性格などをAIに完全に学習させられれば、会って話したりすることもできる。フルダイブ型のVRと高性能なAIさえあれば、結構簡単そうにできると思うんだよね」


「たしかに。それでいいんじゃない?何か問題があるの?」


「でもよく考えてみてほしい。高性能なAIで作り出されたそのキャラっぽい人格って本当に本人と言えるのだろうか」


「実在しないんだから本人もくそもないだろ」


 これまで饒舌だった松本は少し言葉を詰まらせた。しかし、すぐに言葉が口から出てきた。


「たしかにそうだが、俺はAIが作り出したキャラは本人になりえないと思う。そこで2つ目を考えた。2つ目はこの広い宇宙の中で、物語の世界観と全く同じパラレルワールドが存在し、そこに住む平行世界人こそがそのキャラそのものなのではないかと」


「まあ、たしかに?」


 背の高い片野もその隣の山本も首を傾げた。キツネにつままれたような顔だ。


「たとえば、もし俺たちが住むこの世界と全く同じパラレルワールドがあった時、そこに住む山本とここにいる山本に違いはあると思う?」


「この山本とは違うじゃん」


「でも自分が山本に対してしてきた行為もすべて平行世界人の自分がやっているんだよ。それに、構造的な違いは何一つないんだよ。ここにいる山本自身にとってみれば、それは違う自分だけれども、そのほかの俺らにとってみれば完全に本人であると言い切れるのではないだろうか?」


「まあ、そんな気がする」


 片野はやはり首を傾げた。後ろにいる野崎に目を向けるが、野崎も肩をすくめている。


「まあ、少なくとも1つ目よりは本人である可能性が高いでしょ?」


「まあ、それはね」


「でもこの2つ目にも問題点がある」


「なんだよ、それ」


 山本は少しがっかりした顔をする。


「そもそもそんな平行世界があったとして、どうやってそこに行くのか?この広い宇宙の中で、少なくとも近くにはないことは明らかでしょ?」


「そもそも論じゃん。それじゃあ、結局無理じゃん」


「まあ、そういうことになるね。そこで3つ目というワケ」


「3つ目ね。3つ目は?」


「俺ね、3つ目は2つ目よりも実現しやすいし、1つ目よりも本人に近いと思うんだよね」


「いいじゃん。それって?」


 4人は交差点に差し掛かった。ちょうど赤信号に変わったため、少し待たされそうだった。

 左側からサイレンの音が近づいてくる。

 サイレンの音が徐々に高くなってきた。

 松本は、横断歩道の前で振り返ると、少しためて口を開いた。

 サイレンを鳴らしながら、白い大きな救急車が松本の後ろを通っていく。

 松本の声は救急車の音に負けて、3人の耳には届かなかった。

 片野が耳に手をあてる。


「えっ?なに?全然聞こえなかった」


 松本はもう一度、口を開いた。


「人・造・人・間」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 2023年、人間の性格の遺伝的要因と環境的要因の体系的な解明がなされた。

 後にノーベル医学生理学賞を受賞する偉大な発見によって、脳疾患や精神疾患の治療が飛躍的に向上した。

 そんな中、松本は認知発達科学研究室に配属されていた。

 その解明についての論文が掲載された後、その研究室でも松本を含める何人かが関連研究に携わった。

 ある日、その研究室の合田教授が松本のところへやってきた。


「どうだい、研究の方は?希望は見えてきたかい?」


「いや、依然としていい結果が出てきてくれませんね」


「そこでなんだが、ドイツに行ってみる気はないかね?」


「ドイツ?」


 急な話に松本は固まった。


「あの汎用AIを作ったトーマス教授ってわかる?」


「はい、世界初の……エウダイ……」


「エウダイモニアね。彼の研究室にウチから一人、テクニシャンとして参加させてもらえることになったのだけれどもどうかな?無理にとは言わないけれども、いろいろ学べるいい機会だと思ってね」


「是非!でも私なんかで……」


「君はかなり優秀だから、適任だと思うよ。それに、留学する前に中野さんのところで勉強させてもらえることになっているし」


 中野さんとは誰だろうか……。その留学前にかなり忙しくなりそうなことはすぐにわかった。


「ああ、中野さんのところはね、SLATを使った移植の研究をやっているところなのだよ。世界初SLATからの肝臓移植に成功したのも中野さんの仕事だよ」


「そうなんですか!」


 松本はネットニュースになっているのを見たことがあった。SLATの移植研究なんてあまり触れてこなかった分野だ。


「ドイツに留学する前に、そこで移植技術などを学んでくるといい。きっとトーマス教授のところでも役立つ」


 その後、中野教授の下で松本は新たに様々な技術を習得した。今まで松本にかかわりが薄かった分野だったからか、知れば知るほど学びたい最新研究や習得したい技能が出てきたため、ドイツ留学に行くのが惜しくなるほどだった。


 しかし、トーマス教授の下で松本はさらに多くのことに触れた。トーマス教授の専門はAI研究という全く違う庭であった。今回松本が参加したのは、そのうちの生物学的な研究グループだった。

 松本は、そのグループの中で脳構造と意識の関係についての論文を書いた。著名な論文誌に掲載されることはなかったが、そこでの松本の経験は後の人生でかなりの影響を与えることとなった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 数年後、松本は重大な倫理違反を起こし、大学から除籍処分となってしまった。

 多くの先生や学生たちは松本を邪険に扱う中、合田教授は最後まで松本の面倒を見た。


「君みたいなとても優秀な学生を失うのはつらいよ。たしかにやってはならない違反だったかもしれないが、君の学ぶ権利が奪われたわけではない。研究に参加することができなくても、いつでも私の研究室に来なさい。また君と有意義な討論ができる日を楽しみに待っているよ」


「はい、本当にありがとうございました。今後のことが決まったら、必ず連絡します」


 そういうと、松本は大学を出ていった。

 松本は大学から盗み出した試料を抱えて、姓を変え、塩尻にある病院を継ぐこととなった。


 病院の耐震レベルが弱いということがわかり、改修工事がなされることになった。

 松本は、この改修工事に先んじて、様々な増築を考えた。

 その一つが地下の研究施設だった。

 研究施設が出来上がると、大学から盗み出した試料などを使って研究を再開させたのだった。

 そう、重大な倫理違反というのは、遺伝子改変を施したヒトの受精卵を作成し、成長させたことだった。

 松本誠司、改め、湊誠司は院長として勤めながら、地下で着々と研究を進めていった。

 トーマス教授の下で教わったAI技術を駆使し、エウダイモニアにはかなり劣るものの、人造人間を作成するのには十分な特化型AIを作成した。

 誠司はその特化型AIを“ヴェロンテ”と名付けた。

 ヴェロンテは主に、ヒトの性格形成にかかわる因子の計算とその形成手順の構築を行っていた。


 ヴェロンテの作成には、誠司がトーマス教授の下で書いた論文も役立っていた。

 遺伝子改変などによって、誠司は理想の女の子を作成していく。

 ヴェロンテとその人造人間の脳をつなぐことによって、仮想世界で人生を送ってもらった。

 脳や身体がどんどん成長し高校生に見合った体格になった。

 身体は完成し、脳の形成を残すのみだった。

 白く細長い安静容器の中に3人入っていた。

 誠司は「でぃべ~と!」や「かの京」にいたキャラをモデルとして作成していた。

 彼女らはアニメの中で映像化されていた帰宅路や友達とのおしゃべりを追体験していた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 その日は意外とすぐにやってきた。

 もうすぐ完全な脳の形成が終わる。モニター上には山吹真菜の字があった。

 ロボットアームによって、山吹真菜が入った安静容器が手術台にまで移動させられる。

 誠司は無影灯のスイッチをONにした。

 タブレットを握りながら、状態を確認する。

 待ちに待ったこの瞬間だった。一人で研究するのは本当に大変だった。

 安静容器に入った液体がドバッと床に落ちる。

 そこには、きれいにされた遺体のように安らかな顔をした真菜が寝ていた。

 少しずつ真菜の顔に血の気が出てきた。


 ――――――もうすぐだ。もうすぐ真菜が目覚める。


 それにしても綺麗な顔立ちだ。我ながら傑作ともいえるのではないだろうか。

 期待通りの顔つきにおもわず笑みが止まらなかった。

 そのとき、真菜の瞼が少し動くのだった。


極秘調査報告書 16

彼女たちは今日も京都でぶらぶらします。

2016年1月から放送されたアニメ。毎回京都のあまり知られていない名所を巡る日常系アニメ。ただでさえ多い京都の観光客を、聖地巡礼するヲタクたちによって倍増させたという噂もあるほど人気を博した。2017年7月からは2期目を放送。2期目からは、合宿編など京都以外の名所を巡ることもあった。

(ツーヨルゥ協定世界調整機構ミスリム山脈収容所所蔵)

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