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俺はJKを助けたいのか、それとも助けられたいのか  作者: 酉 真菜
第1章:世界と世界の交錯の始まり
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第15話:ほころびの破片

 あずさの車窓からは、北アルプスの山々が見えてきていた。

 昨日、丸一日休みはしていたものの、誠司も真菜もみこも甲府を過ぎる頃には寝息を立てていた。

 向かい合わせた座席の中、ただ静寂が支配していた。

 英利羽は3人の寝顔をよそに、まぶしい太陽を浴びながら窓の外を眺めている。

 富士山が見えなくなってどれぐらい経っただろうか。

 北アルプスの向こう側から雲が迫ってきているように感じる。

 もしかしたら、塩尻に着くころには雨が降っているのかもしれない。

 傘を持ってきてはいないため、濡れながら帰ることになるかもしれない。

 しかし列車はそんなことをお構いなしに北上していく。

 英利羽がいくら案じようとも、列車は淡々と走り続けるのだ。


 4人は無事に塩尻の家へと帰ってきた。

 1週間も空けていないというのに、この中央の部屋が懐かしく感じた。

 この4人で暮らしていた生活もすぐに懐かしい思い出に変わってしまうのかもしれない。


 4人はすぐにお風呂に入ってパジャマに着替える。

 明日からはもう通常運転だ。

 誠司はなんだか嫌気が差してきていた。

 休みが終わるこの日、いつまでも普通の日常に戻りたくないと思ってしまう。

 明日のことを憂いながら、誠司は眠りに落ちていった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 次の日、誠司は病院を開ける準備をする。

 いつも通りの診察が始まった。

 そんな中、英利羽は自室にこもっていた。

 ああ、誰かと顔を合わせるのも面倒くさくなってくる。今日は一人でいようかしら。

 真菜やみこと会話するのが億劫だ。とにかく誠司が帰ってくるまで待とう。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 夕方に誠司が帰宅してくる。英利羽は誠司の姿を見るとゆっくりと近づいていった。

 誠司の耳元で何か話すと、誠司は首をかしげながら、自室に入っていった。


 ――――――カナカナカナカナ……


 外ではヒグラシが盛んに鳴いていた。

 車の音に勝るヒグラシの鳴き声も、この地下室では聞こえてこなかった。

 誠司が自室から出てみると、中央の部屋に真菜とみこ、英利羽の姿があった。

 誠司はゆっくりとドアを閉める。少し間をおいて、誠司は振り返った。

 誠司は笑顔だった。


「やっぱりよくわからないんだが、今から何をするつもりだ?英利羽が全員を集めるなんて……。まさか、英利羽眠っているんじゃないか?それなら、眼鏡くんはどこに隠れているんだ?麻酔銃は打たれなかったのか?」


 誠司は半笑いで話しながら、1つ余っているイスに座る。

 誠司の目線は英利羽にロックオンしていた。じっと彼女の表情を見ている。

 英利羽が口を開いた。


「そうだよ。推理ショーでもやろうと思ってね、()()()()()


 誠司の笑顔が少し引きつる。

 英利羽はその顔の変化を見逃さなかった。ああ、もう話すしかないのだろう……。


「わたしは、誠司のことをはじめから信用してなかった。急に得体のしれない男がわたしたちをわたしたちの時代から引きずり出して、素っ裸にしたのだから……。」


 真菜もみこも何かを察し、テーブルの上のトランプをまとめる。

 ついに英利羽がなにか見つけたのかもしれない。

 2人が静かに英利羽を見守った。

 英利羽は続ける。


「最初はここが未来であることも、誠司が病院を営んでいることも疑っていた。はじめて診療所を見に行ったあの日、やっとわたしは20年後の未来であることを実感した気がする」


「そりゃ、ここは2037年だからね……」


 誠司の言葉を受け流し、英利羽は話を進める。


「ただなぜ誠司はわたしたちの面倒を見ているのか、全く分からなかった。なぜただの町医者が被災者の支援をしているのか」


「それは大震災だったから……」


「それにこの施設には1人しか職員がいない。被災者支援をたった1人で行うなんて重荷すぎると思う。逆に病院の看護師さんには、わたしたちのことを隠しているようだし……」


 真菜とみこがじっと考えている。誠司は口を少し開けるが、全く声が出なかった。


「おそらくそれだけだったら、わたしは被災者を私欲のために利用した人だと、あなたのことを思っていたわ。だけど、東京での出来事を考えると、そうではないことに気が付いた」


 英利羽は言葉を切る。誰もが黙ったままであった。

 英利羽は息を吸うと、


「東京で竿田さんって方に会ったわ」


「えっ?何で知っていr」


「3人で誠司の後をつけていたのよ。あなたたちは2018年度卒業らしいわね。きっと東京でも大きな被害が出た大震災のことも鮮明に覚えているはずなのに、彼は知らない様子だった」


「いや、東京ではそんなに被害がなかったから……」


「なら、なぜわたしたちはここにいるのかしら。おそらく被災をした際に意識不明だったりしない限り、年をとらずに20年は眠ってないと思う」


「いや、それは……」


「まだおかしなところはある。おそらく大震災の影響で、あるはずの路線がなくなっていた。青苧線や首都線だわ。駅や街並みがかなり変化しているところも考えると、かなり甚大な被害が出たとしか考えられない」


「それはその……」


「なのに、竿田さんの記憶にはない。図書館へ赴いても、何一つ東海道大震災なんてワードは一つも出てこない。明らかにおかしい」


「図書館……」


「そう。そして、わたしは図書館で大きな手掛かりをやっと見つけた」


 英利羽はスマホを取り出すと、写真一覧を開く。

 その写真には、真菜とみこによく似た2人が表紙になっている雑誌だった。


「これって……みこ?それに海南や未希までいる……」


 みこはその写真から目が離せないようだ。


「やっぱり。このイラストは他人の空似ではなく、真菜とみこについて描かれたものなのね」


「つまり……?」


「まあ、待って。わたしはその雑誌の中身を確認してみたの。どうやら、わたしも含めてアニメの主人公らしいわね」


「アニメの主人公?」


 みこの体が固まっている。


「真菜とみこは2017年に放送された『でぃべ~と!』の世界の登場人物。わたしは同じく2017年に放送された『彼女たちは今日も京都でぶらぶらします。』の世界の登場人物」


「『でぃべ~と!』?『彼女たちは京都……』?」


「『彼女たちは今日も京都でぶらぶらします。』ね。略して、かの京って呼ばれているらしいわ」


「つまり、みこたちの生活がアニメとして放送されているってこと?え?つまり、みこたちは……どうゆうこと?」


「つまり、この誠司にわたしたちの生活を監視されていて、都合よく、わたしたちをこっちの世界へ連れ出したのよ」


 みこは口が開いたままになっていた。真菜もうつむいている。

 ようやく誠司は声を取り戻したようだった。


「監視だなんて……聞こえの悪い……」


「だってそうじゃない。わたしたちのプライベートを勝手に見ているんでしょう?監視、盗撮って言われても仕方がないわ」


「でも、俺だけじゃない。視聴者全員が見ているわけじゃないか……」


「そうだとしても、あなたがテレビの外に連れ出したから、わたしたちは視聴者の存在に気が付いたんじゃない。知らない方がよかったことをあなたが暴いた。つまり少なくとも一番悪いのはあなたなのよ」


「……」


 誠司はただうつむくことしかできなかった。誠司自身の自覚もあるらしい。

 英利羽は畳みかけるように続けた。


「早くわたしたちを元の世界に戻しなさいよ。戻せるんでしょうね?」


 英利羽はうつむいた誠司の顔を下から覗き込む。

 誠司は反射的に目をそらした。誠司は顔を上げると、小さくため息をついた。


「もう無理なのかもしれないな……いつかは話さないといけないと分かっていたんだけど」


「やっぱり……」


 みこは思わず、口に手を当てる。真菜は誠司をじっと見ていた。


「君たちを元の世界に戻すことはできないんだ。原理的に……」


「だってこっちの世界に来ることができたというのに、みこたちの世界に行けないってどうして?」


「少し英利羽の説明に間違っていることがあるんだ。そもそも、どうやったらアニメの世界から現実世界へ君たちを取り出すことができると思う?」


「未来なんだから、そんな装置あるんじゃないの?」


「よく考えてみるとわかると思うんだけど、アニメの世界ってただのデータの塊なんだよ。著者たちが頭の中で作りあげられたものが、やがて作品になる。本来、君たちはデータの塊でしかなく、物体を伴わなかった。だからMRユシマみたいな施設が作られるんだよ」


「でもこうやって私たちは存在しているのは?それが何よりの証拠じゃない」


「原作、アニメはデータだけだが、そこに物体さえ与えてしまえば存在することができるのだ。」


「つまり……?」


 とみこは誠司に聞く。英利羽も真菜も俺の方をじっと見てくる。

 3人は固唾をのんで誠司の次の言葉を待った。

 誠司が言葉を発する。

 英利羽の眉が吊り上がり、さらに目が大きくなる。

 真菜はまたうつむいてしまった。


極秘調査報告書 15

でぃべ~と!

2017年4月から2クールで放送されたアニメ。私立日枝女子高校の弁論部4人の成長と奮闘を描く。主人公は部長の西井海南。ライバル晴天高校との全国大会決勝の場面が名シーンとして語られている。また1クール目のエンディング『Symmetry Show』や17話の挿入歌『Nothing Hardtek』が話題にもなった。その後、スピンオフ作品やゲーム化にもつながった。

(ツーヨルゥ協定世界調整機構ミスリム山脈収容所所蔵)

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