40 研究所内と街の案内
少し早めの夕食を終えて、クラウドに農業研究所の中を軽く案内してもらう。
花だらけの部屋や、光が溢れた温室のような部屋など、研究所の中はなかなか個性的な環境だった。
中には部屋の中に畑があり、まるで屋外のような環境が人工的に作られた部屋もあった。
料理に使われているハーブやお茶はこの研究所の中で栽培されたものだそうだ。
研究所に来た時に渡された臨時職員タグのネックストラップを首から下げているが、同じものをした人たちが居て、何人かと軽く挨拶をした。
臨時職員タグの人たちは、白衣のような服を着た人たちよりも、ややマッチョな体格をしている。
暇だった騎士だろうか? たぶん、作業のために駆り出されたのだろう。
挨拶の際に「来客です、戦力じゃないです」という旨を伝えると、あからさまにがっかりした顔をされた。
研究所には研究チームがあって、それぞれ味の向上のための交配、収量を増やすための研究、薬としての効果の研究、植物どうしの相互作用、魔力への影響の研究、精霊への影響の研究などをテーマに行っているらしい。
研究成果をまとめた資料は図書室に保管され、数年ごとに成果発表の機会があるそうだ。
「お恥ずかしいことに、ここ数年はあまり成果が出ていないのですよ。味と収量の向上に伸び悩んでいましてね。特に今年は不作ですし、突然テカテカの実の収量が減ったりして、皆困っているのですよ……」
「うーん、病気とかでしょうか?」
「おそらく。しかし原因が分からないのです」
よく話を聞くと、変化を観察するために例年同じものを同じ場所で栽培しているとのことだった。
……連作障害では?
学校の社会科の授業で習ったやつだ。原因はたしか、栄養の偏りと、害虫と、毒性。
「……その病気、たぶん心当たりがあります」
「え、本当ですか……!?」
向こうの世界で流行っていた稲作ゲームの知識くらいしかないが、畑づくりを見直した方がいい気がする。そもそも、この世界に妙薬、というか、農薬はあるのだろうか。
実際の畑の状態についてはあまり詳しくないので、対策するなら地精霊あたりに聞いた方が早そうだ。
ユーイならきっと力になれるだろう。
「うちのマンションに適任者がいるので、移設作業が終わったら協力をお願いしてみます」
「……!よろしくお願いします。ありがとうございます」
ぶんぶん、と力強く握手をされた。
一通り研究所の中を案内された後、クラウドに馬車を出してもらい、ファンファレアの街へ向かう。
街の外にも出ることを伝えると、護衛が一人、馬車の横に騎馬でついてきた。背の高い女性騎士のようだ。お疲れ様です。
馬車の中から外の様子を見ながら、クラウドに簡単に街の案内をしてもらう。
あの辺に広場、あの辺に畑、あの辺が住宅街、あの辺が教会で、あの辺に畑。……畑多いな。
「国策で、畑づくりを推奨しているんですよ。小作人じゃなくても畑を持つ家庭は多いですね」
「へー」
あまり背の高い建物は見当たらないようだ。ジャンクション伯爵家と教会くらいだろうか。
ふと、護衛の騎馬が目に留まる。
……馬、いいなぁ。
健脚スキルがあるとはいえ、楽ができるなら馬で楽に移動をしたい。
アイテムボックスがあるので大きな荷物はないし、移動に馬車を使う必要がない。騎馬なら自由に移動できそうだ。
いくつかの商業施設が集まっている場所に案内してもらい、往来の邪魔にならない場所に停車する。
せっかくなので、馬の相場を確認する。
どうやら馬は販売されておらず、1頭1日レンタルで金貨10枚。予想以上に高かった。
「馬は1頭あればそれだけで資産ですから。なかなか入手は難しいでしょう」
「そうですか……」
がっくりだ。その辺に馬が落ちていないものか……。
気を取り直して本来の目的である、手ごろなサイズの肩掛けポーチを購入する。
ポーチの中でアイテムボックスの魔法を使えば、目立つことはないだろう。
外からはポーチの中に物をしまったり出したりしているようにしか見えない。
ついでに野菜、肉、卵、小麦粉を調達。馬車に戻って食材をポーチにしまう。
「ふふ、小さなポーチに大きな野菜を入れている人を初めて見ました」
「うーん、……それもそうですね。あ、じゃあこうすればいいかな」
アイテムボックスの中から買い物籠を出す。
ポーチから野菜を出して、籠に野菜を入れる。野菜の入った籠をポーチに入れる。完璧だ!
自信満々の顔でクラウドを見ると、追撃されたかのように「ブフッ」と噴き出して肩を震わせて笑われた。解せない。
買い物を終えて南門を出る。
護衛騎士が先に行って外出の手続きを行ってくれていたようで、馬車は止まることなく門の外へ出た。
マンション移設の際の移動ルートの確認をするため、街を迂回しながらマンションまで送ってもらう。
この無駄に長い10kmの道のりも、明後日には歩かなくて済むとなると、ちょっと感慨深い。
マンションに着く頃にはすっかり日が暮れてしまった。
表の正門前に停車してもらい、馬車を下りる。周囲には誰も居ない。
今日はちょっと疲れたし、静かに過ごせそうだ。
送ってくれたクラウドにお礼を言う。
「クラウドさん、送って頂いてありがとうございました。助かりました」
「いえ、仕事ですから」
「あの、この職員証はしばらく借りていてもいいのでしょうか?」
「ええ。街の出入りと、施設の出入りで使用するかと思いますので、そのままお持ちください」
「ありがとうございます」
予期せず身分証を手に入れることができた。これで街の出入りがしやすくなる。やったね。
「あの……、ハルカさん」
「はい、なんでしょう?」
「その……。僕も、今日、ここに泊まってもいいでしょうか!?」
「え?」




