24 服の調達
買った串焼きを平らげる。
食べ終わった串をアイテムボックスに入れようか迷ったが、汚れそうな物はなんとなく入れたくない。
そういえば、と、ちょうどいい紙袋を持っていたことを思い出した。
アイテムボックスから紙袋を取り出して、食べ終わった串をその中に放り込む。
片手鍋と箸が入っていた異次元紙袋だが、かなりの容量がありそうなので、ゴミ袋にするには十分だ。
……よし、これは今後もゴミ袋として活用しよう。溜まってきたらマンションのごみ捨て場に中身だけ捨てよう。
異次元ゴミ袋をアイテムボックスにしまい、散策を再開する。
串焼きでお腹が満たされたので、服を買うために服屋を探すことにした。
街の人とマンションの野次馬の服装を見た限りだが、庶民の私服は無地の服が主流のようだ。
白、ベージュ、黒、茶色に、紺、濃い緑と、落ち着いたシンプルなカラバリ。柄物はほとんどない。
女性服は、襟や裾に、同系色の色の糸で刺繍が入っている。
……流石に今着ているパーカーとスニーカーは少し目立つな。
人とすれ違うたびにチラチラ見られる。
広場から1つ道を外れた通りを歩いていると、被服店と書かれた看板を見つけた。
小窓は開いているが、高い位置にあって中の様子が見えない。意を決してそっとドアを開ける。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
中に入ると愛想の良いおばさんが声をかけてきた。赤毛の髪をお団子に結って、エプロンをしている。おそらく店員だろう。お客さんは私だけだった。
「おや。お嬢ちゃん、珍しい服を着ているね」
「少し遠くの国から来たばかりなんです。流石にちょっと目立つので、この国の一般的な服が欲しくて」
見回すと、一通りの既製服が飾られていた。服屋で間違いないようだ。
店内を見回すと、女性服の取り扱いはあまり多くなさそうだが、帽子やカバンなどの小物も扱っているようだ。
「ふぅん、なかなか仕立てのいい服を着ているじゃないか。この辺りじゃあまり見ない作りだね」
珍しそうに見回される。若干居心地が悪い。
「一人かい?」
「はい。あんまり高い服は買えないんですが、普段着で、よさそうなサイズのものを何着か欲しいです」
「なるほど。お嬢ちゃんくらいのサイズなら、ワンピース、それからシャツとスカートがあるよ。あとは肌着かな。少し待ってておくれ」
そういって店員のおばさんが奥に引っ込む。少しして戻ってきた。奥に在庫があるようで、思ったよりも沢山抱えて持ってきてくれた。
「ほれ、ワンピースは白と紺と緑。スカートはベージュと紺だね。シャツは白しかなかったよ。どれがいい?」
おばさんが私に見えるように服を並べる。
白の服には刺繍がなく、紺の服には襟元に小さな花の刺繍が入っていた。緑の服には袖口に葉のような刺繍が入っている。スカートはどちらもロング丈の巻きスカートで無地の色違い。シャツはチュニックのようなゆったりとしたもので紐がついており、肌着は薄い生地のようだった。
「ええと、それぞれおいくらになりますか?」
「白いのは銀貨6枚、紺と緑はそれぞれ金貨1枚だね。シャツとスカートはそれぞれ銀貨4枚。肌着は銀貨2枚だね」
お財布には金貨4枚と銀貨6枚。思っていたよりも服が高い。できれば金貨3枚以内に収めたい。
……着回しを頑張ろう。
「それじゃ、紺のワンピースと、シャツ2着。それからスカート1着。あと肌着を3着下さい」
「まいど。籠はあるかい?」
「ええと、ないので、すみませんが籠も売っていただけませんか?」
「いいよ。たくさん買ってくれたから、おまけしてこれもあげよう。全部で金貨3枚でいいよ」
小動物の骨のようなものがついたアクセサリーをおまけしてもらった。服を全部籠に入れ、支払いをする。お財布残高は金貨1枚と銀貨6枚。だいぶ減っちゃった。
「せっかくだから着替えていくかい?」
「いいんですか? 助かります」
おばさんが衝立の裏に案内する。着ていた服を籠に入れ、買ったばかりの紺のワンピースに袖を通す。悪くないサイズ感だ。
「ありがとうございます、サイズもちょうどいいみたいです」
「うんうん。気に入ってくれたようで何よりだよ」
おばさんがにこにこして答える。
「あー、でも、うちでは靴は扱ってないから、もし靴も買うなら隣の靴屋に行っておくれ」
……確かに、ワンピースにスニーカーはすごく違和感がある。
「ちょっと待ってな」
おばさんが店を出て隣の店のおじさんに声をかけ、何やら話している。仲がよさそうな雰囲気だ。
戻ってきたおばさんが、にかっと笑って知らせてくれた。
「お待たせ。安くするよう値切っといたからね!」
あらやだ、頼もしい。
おばさんにお礼を言って、隣の靴屋に移動する。短髪の灰色の髪をした糸目のおじさんに声をかける。
「すみません、お世話になります」
「しゃーねぇなぁ。嬢ちゃん、足のサイズを測るから靴脱いでそこに座ってな」
言われた通り、スニーカーを脱いで木の椅子に座る。
おじさんが目印をつけた紐を私の足にぐるぐる巻き、サイズを測る。
販売する店員さんというよりも、靴職人のようだ。
何やら、あーでもないこーでもないと独り言を言った後、3種類の靴を出して、私の目の前にドンと置いた。
「これが草木で編んだ草木靴。1足銀貨3枚。軽くて風通しがよく、履きやすい。ただ、耐久性はいまいち。こっちが布と柔らかい木で作った木布靴。1足銀貨8枚。特徴はないが、まぁ、この辺では一般的に履かれてるやつだな。んで、こっちが朝に歯向かう者の革で作った朝革靴。見ての通りこじゃれているが、正直少し蒸れる。んでちょっと高い。金貨1枚と銀貨5枚」
朝に歯向かう者って何なんだろう……。牛革みたいなものかな?
「ええと、それじゃ布と木で作った靴をください」
「木布靴か。2足買うなら1足あたり銀貨7枚にするが、どうだい?」
「うーん、銀貨6枚になりませんか?」
「そいつぁ難しいなぁ。……銀貨6枚と銅貨8枚でどうだ?」
「もう一声!」
「かー、しゃーねぇなぁ、じゃ銀貨6枚と銅貨6枚だ。これ以上は負けらんないぜ」
「わかりました、買います!」
1足あたり銀貨6枚と銅貨6枚。2足合計で金貨1枚と銀貨3枚と銅貨2枚。
銅貨がないので金貨1枚と銀貨4枚を取り出し、おじさんに払う。
「えーと、釣りは銅貨6枚だったか?」
「8枚ですね」
にしし、と笑っておじさんが銅貨8枚を渡す。受け取った銅貨が8枚あることを確認し、財布にしまう。
残高は銀貨2枚と銅貨8枚。……使い過ぎたかな。
「嬢ちゃん、若ぇのに計算ができるたぁ、てぇしたもんだな」
「そうですかね……」
どうやら実年齢よりも若く見られているらしく、なんだか子ども扱いされる。
……もう18歳なんだけどなぁ。
おじさんから木布靴を2足受け取り、1足をその場で履く。サイズもちょうどいい感じだ。
もう1足と、履いていたスニーカーは籠に入れる。荷物が思いがけず沢山になってしまったので、あとでアイテムボックスにしまうことにした。
「ああ、そうだ。おじさん、この辺りに野菜や果物を売っている店はありませんか?」
「ん? それなら広場を抜けた先に市場があるから、そっちを見てくるといいよ」
「わかりました、探してみます。ありがとうございました」
おじさんと、様子を見ていたおばさんにお礼を言い、店を後にした。
◇◇◇◇
「……あのお嬢ちゃん、どこぞの貴族様かしらねぇ」
「わからん。だが、貴族様はこんなしみったれた店で買い物なんてせんじゃろ。しかし平民にしちゃあ、あの嬢ちゃんは礼儀がきちっとしてたなぁ。訛りもねぇし」
「どこぞの商家の娘さんかもねぇ。異国から来たって言ってたけど、北のユライア公国でも、南のログウォール公国でもあんな服は見なかったわ。もっと遠くから来たのかしら」
「エーレンガルド公国の向こうには海があるから、海の向こうから来たのかもしれんなぁ」
「馬鹿言うんじゃないよ。平民の女の子が、あーんなに化け物がひしめいている海を渡れる船になんて乗れるわけないじゃないのさ」
「はは、ちげぇねえ」
賑やかな道沿いで、服屋と靴屋の笑い声が店先に響いていた。




