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非戦闘員なので逃走スキルで生き延びます~タワマンでスローライフ始めます~  作者: 雪城
第一章 住所不定の転移者

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22 まともな昼食が食べたい

昨晩、久しぶりに人と一緒に食事をしたせいか、誰かと食事をしたい気持ちが強くなってしまっていた。

これまで家族や友達と一緒に食事をとる習慣だったため、部屋で一人寂しくパンとブロッコリーをかじる食事がとても寂しく感じてしまう。

できればメティス様を昼食に誘いたいが、昨晩、夕食に誘った際に断られたことを思い出した。


「そういえば、メティス様や神様は食事をしないのですか?」

「どちらでも大丈夫。食べても、食べなくても。私たちの力の源は、万物の祈りから生まれるから」

「祈り、ですか」


メティス様がゆっくりと立ち上がり、近くの本棚を見つめる。本棚に入った本の背表紙をなでる。


「そう。魔力が巡って、祈る力を伝わって、神々に届く。私にとっては本。書かれた想いが力となる」


なでた本がうっすらと光り、光がメティス様の指先に吸い込まれるようにすっと消えた。


「祈りが届かない時や、その手段を持たない物から直接力を得る時には食事を行う。おいしくないから、私はあまり好まない」

「そうなんですか……」


食事はあまり好きではないらしい。


「ただ……、この本は不思議。手が込んでいるのに、人の魔力をほとんど感じない。魔力をほとんど感じないのに、変わった質で、密度が濃い」


メティス様が自動車学校の教本を見つめる。機械印刷された量産品。人が介在するところはほとんどないだろう。


「食べたことがない味がする。おいしい」


自動車学校の教本は美味しいらしい。ぺろりと舌を出してうっとりとした表情をする。

人のことは言えないが、あまり健康にはよくなさそうに見えた。


「ええと……その、もう少し、まともな食事を召し上がった方がいいかと思います……」

「そう? ハルカもあまり食べていないように見える」

「う……まぁ、そうですが……」


栄養不足はお見通しのようだ。


「これ、あげる。ポーション。足りてない栄養はとれるはず」


メティス様がポケットから取り出す。しどろもどろになりながら、とりあえず受け取る。


「ありがとうございます……」


栄養ドリンクのような黄色い色をしていて、細いガラスの容器に入っている。量的には100mlくらいだろうか。紙コップ半分くらいだ。

蓋を開けると、何とも言えない湿布のような香りがした。匂いも見た目も相まって、炭酸のないルート●アのようだ。これ本当に飲めるの?


「……あの……ちなみにこれ、何でできているんでしょうか?」

「いろんな生き物と草」


すごく雑な回答がされた。ぐいっと飲むように促される。

薬っぽい匂いに脳が嫌がっているが、もしかしたら味は美味しいかもしれない。意を決して一気に飲む。

飲み切って、しばらくフリーズする。メティス様が感想を求めてきた。


「……どう?」

「…………後味、最悪ですね……」

「だよね」


鼻に抜ける湿布と青汁のような味わいが、世界の理不尽さをダイレクトに伝えてくる。

メティス様、知っていて渡しましたね?


「でも、元気出た?」

「……まぁ、そうですね」


不思議と体がポカポカと暖かくなってくる。ここ数日、急激な環境の変化で、色々なストレスを知らず知らずのうちに抱えてしまっていたようだ。不思議と安心感が湧いてくる。


「ありがとうございます。なんか、元気出てきました」

「うん、よかった」


メティス様が柔らかく微笑む。無口ながらも優しさを感じて、少し心がジーンとした。


「あの、よければお昼、一緒に食べませんか?」

「それは遠慮する」


あっさり断られた。ダメ元だったけどやはりダメだった。


「そうですか……」

「私には食事、それと同じような味がする」


たしかに遠慮したい味だ。

しょんぼりとしながら、私は図書室を後にした。部屋に戻ってお昼を食べようかとも思ったが、元気も湧いてきたので外に出ることにした。あと20階に戻るのがめんどくさかった。


……もう少し美味しいものが食べたい。というか口直しがしたい。


自販機に立ち寄る。昨日買った物は補充され、急遽あつらえたような値札が付いていた。

中身は先日とは代わり映えしないバリエーションだ。

すぐに食べられる物がほとんどない。ポテチとかが食べたいが、せいぜい精霊特製ゼリーとポーションしかない。


財布の中身を確認する。昨晩、パトリックから巻き上げた銀貨4枚と銅貨8枚。私を人質にした髭の男から剥いだ身ぐるみ、財布の中に入っていた金貨4枚と銀貨2枚。合計金貨4枚と銀貨6枚と銅貨8枚。

金貨1枚1万円、銀貨1枚1000円だから、銅貨1枚は100円くらいだろう。たぶん。約4万6800円。

第二騎士団大隊長の財布に4800円しか入ってなかったのが驚きだった。そんなものなのかな? あまりお金を持ち歩かない主義なのかもしれない。


財布は潤っている。しばらくは大丈夫だろう。

といっても、この辺りの物価が分からない。

物価が価格高騰インフレしていたら3日も持たない気はする。


「はぁ、即金で不労所得が欲しい……」


ため息混じりに、女子高生にあるまじき事を呟く。

いくら若かろうが体力があろうが、不労所得は欲しい。全人類の夢だ。せっかく家賃0円の寝る場所があるのだし、このままニートライフをエンジョイしたい。

幸いにもパトリックからの賠償金が入る予定なので、しばらくは大丈夫だろう。財布をじっと見つめる。


………お金、あるなら、外に買いに行けるよね……?


ユーイに共用施設の案内をお願いしているが、それまでかなり時間がある。

せっかくだし外で買い物がしたい。食べ物の値段も気になる。服も欲しい。


1階の様子を見つつ、外に出るタイミングをうかがう。人がいないことを確認し、こっそり外に出た。


マンションの外の植栽は、昨日騎士団の人間に魔法攻撃をされたせいで酷いことになっていた。

障壁を張りなおす際に弾き飛ばされたゴーレムのボディは見当たらない。おそらく野次馬に持っていかれてしまったのだろう。ユーイが怒るわけである。


こそこそと身を隠しながら私は街道に出た。



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