19 パーティールームと賠償請求
屋上菜園で食材を一通り収穫し、2階のパーティールームへと向かう。
高さを実感した後だからか、下りのエレベータでパトリックがまた青い顔をする。
「………大丈夫なんだろうな?」
「暴れなければ大丈夫ですよ。このエレベータは最大で10人まで乗れます。重量的にも問題はないです」
エレベータに乗り込み、行きと同様ユーイがエスコートする。動いている間、パトリックがぎゅっと目をつぶっている。
それ、逆に怖いんじゃないかなぁ……。
あっという間に2階に着いた。
エレベータを降り、途中で図書室のメティス様にも声をかけたが、同伴を断られた。食事よりも本が読みたいそうだ。
「こちらがパーティールームです。パーティールームの利用は事前予約制ですので、ご利用の際はコンシェルジュにお申し付けください」
「わかりました」
パーティールームは広めの会議室のような作りだった。
横長の木製テーブルと椅子が置いてあり、ワゴンのような台がある。冷蔵庫とミニキッチンが設置されている。
……この冷蔵庫も私の部屋のやつと同様、何かしら注文できるタイプなのだろうか?
念のために冷蔵庫の扉を開ける。水の入ったグラス1脚だけが入っていた。
一度閉めて、もう一度開けると、今度は3人分のグラスが入っていた。やはり異次元冷蔵庫っぽい。
「そこの冷蔵庫は飲み物だけオートチャージです」
「私の部屋のものとはちょっと違うんですね」
「ええ。最上階のものだけちょっと特別な仕様です。通常は水のみ補充されます」
パンとブロッコリーと塩がチャージされるのはグレードが高いサービスらしい。
ユーイが入り口近くにいる水色の精霊に声をかける。
精霊が集まり、横長テーブルにテーブルクロスが敷かれ、テーブルウェアが並べられた。渡した食材がミニキッチンまで運ばれて、慌ただしい動きをしている。
緑色の光に案内されるままに、椅子に着席する。
「手伝わなくても大丈夫ですか?」
「ご心配には及びませんよ」
私だって多少は料理できるんだけどなぁ。パスタとか炒め物くらいしか作れないけど。
キッチンでは包丁もないのにみるみるうちに食材がカットされ、鍋に張られたお湯に投下されている。おそらく風魔法を転用しているのだろう。
椅子に座ったまま眺めていると、私の目の前に水の入ったグラスが置かれた。一口飲む。
………うん、軟水。ミネラルウォーター。
ユーイさんが切り出した。
「……さて。移設先の詳細を伺う前に、まずはこのマンションの修繕費ですが」
切り出しにくい話題をスパッと切ってきた。パトリックがばっと顔を上げる。
「ユーイ殿、先に謝罪をさせてくれ。申し訳なかった。神の建造物だとは思わなかったのだ」
パトリックが深々と頭を下げる。ユーイの眉がぴくりと動く。
「ほう。……神が作ったのでなければ、何をしてもよい、と?」
「あ、いや、そういうわけではないのだが………」
はぁ、と息を吐いた。
「まぁ、いいでしょう。謝罪は受け入れますが、修繕費は変わりませんので」
「う、うむ………」
ユーイは小さな手帳を取り出すと、書き付けてあった破損した箇所を読み上げる。
パトリックが気絶している間に確認していたものだ。
「まず、エントランス前の植栽。エントランスの自動ドアと、障壁2枚。絨毯、フロアコート、大理石のテーブル、アンティークチェア。焼けた壁のタイルは全面張り替えとなります。1階通用口前の扉。私への傷害行為は、移設先の提供との相殺で不問と致しますが、精霊従業員への慰謝料と、不埒者を呼び込んだせいで怪我をしたハルカさんへの治療費と慰謝料。また、障壁の貼り直しの際、警備ゴーレム4体のボディを外に遺棄せざるを得ませんでした。これらの費用を請求させて頂きます」
障壁も修繕の対象なのか。ちょっと意外だ。さりげなくゴーレムが投げた斧で壊れた扉が含まれている。ユーイが一瞬私をチラリと見て手帳に何やら書き付け、ピリリと1枚、紙を破る。
どうやら請求書のようだ。パトリックさんに進呈。
「こちらの金額になります」
「はぁっ!? 馬鹿な! 高すぎる!!」
略称表記だが、白金貨24枚、金貨50枚、銀貨2枚。
横に約2450万2000円と、私に気を遣ってか、日本円も併記してくれている。
白金貨1枚100万円、金貨1枚1万円、銀貨1枚1000円のようだ。
べらぼうに高いが、内訳を見ると私への治療費と慰謝料が1000万円と1番高額だった。
次いでゴーレムのボディ、4体合わせて1000万円。金額の妥当性は不明である。
「妥当な金額ですよ? 内訳をご覧ください」
「ぐ、……むむぅ。たしかに妥当かもしれないが、これはあまりにも……」
パトリックが渋い顔をする。妥当らしい。
「払えないようであれば仕方ありませんね。我々はもう少し海のある方へ行くつもりですので、その時は最短経路でジャンクション領の街を通過させて頂くだけです。もしかしたら設置先を求めて数日フラフラするかもしれませんね。通った後はさぞかし見通しの良い景色になることでしょう」
ユーイがにこりと笑う。タワマンごと街を壊滅させながら移動する様子を想像して、背筋がぞくりとする。できれば遠慮したいところだ。私達は特撮映画の怪獣ではない。
「………すまない。持ち帰って数日検討させてくれ」
「おや? まだ立場をご理解頂けていないようですね。貴方は言うなれば人質ですし、我々が蛮族の土地に数日も滞在する理由はないのですよ?」
「………即金で、私の個人資産から賠償させて頂く………」
ひどい恫喝を見た。




