第48話 アクゼリュス王国に潜む闇
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ヤハウェ宮の玉座の間に20名を超える魔神達が佇んでいた。玉座の主が退出したにも拘らずその場には未だに沈黙が流れている。ベルゼブブの事を畏敬しながらも先程、発せられた禁句に激昂した主の様子を目の当たりにして恐怖に身が竦んでいる者も多数いたのだ。
「――ふぅ、それにしても肝を冷やしたぞ。まさか貴様が陛下を怒らせるような発言をするとはな。」
仕立ての良い紺色の燕尾服風のスーツを身に纏った美青年――アルブナリスが沈黙と緊張を解くように息を吐く。
「ククッ…しかし、お前の見解も中々面白かったな。まあ、アスモデウス公の強大な魔力では如何にかの「色欲」と言えども地獄門を通る事は叶わぬだろうがな。」
漆黒のローブと異様な雰囲気を纏った男――イアマズも同様に緊張を解きながらも少し楽しそうに笑いながらラヴィアロスに話しかけた。
「……確かに陛下の仰る通りだったな。私の稚拙な意見でご機嫌を損なわせてしまった。なんと愚かな事を…」
赦されたとは言え、主の不興を買った事に対して気落ちした様子のラヴィアロスが覇気のない言葉を投げる。
「生まれたばかりである我はアスモデウス公の事は良く知らぬが、陛下に背信行為を行うような愚か者がこの国に居るとは思えぬ。やはりラヴィアロス殿の言う通り何かしらの力や謀略が働いた可能性も捨てきれぬ。それに陛下はそれ程お怒りでもなかったように思える。卿が気に病む事などあるまい。」
それをフォローするかのようにヴェルドレが私見を述べる。
「………だな。」
深緑の全身鎧を纏った騎士――ハルサンもヴェルドレに同意するかの様にぼそりと呟く。
「さっきから手前は…こういう時ぐらいは少しはまともに喋りやがれ、ハルサン!!」
先程から軽い返事で返すだけのハルサンの態度に業を煮やした道化師――フォルノックが詰め寄る。
「………」
その様子に動じる様子も無くハルサンは直立不動のまま口を噤む。
「だから喋れや!!」
「諦めろフォルノック、コイツはいつも通り平常運転だ。それとも流暢に喋るハルサンを想像できるか?」
「………そりゃ無理だな。ハァ、もう良いわ。」
アルブナリスのその言葉を聞いてフォルノックは少し考えた後、諦めたように息を吐く。
「――取り敢えず話を戻すぞ。アスモデウス公に関しての調査はラヴィアロスの指揮下で行うとして…第9地区の担当はどうするんだ?はっきり言えば、左遷確定だろ。陛下の側近である俺達「六蟲将」は論外としても指揮官としてここに居る悪魔王の中から選出する必要があるな。さーて、誰が名誉ある第9地区の新総督になるんだろうなぁ?――どうだい?メルコムさんよ。俺ら「六蟲将」が王都で陛下の補佐をしている限り悪魔王の中でも最弱のあんたがやる事なんて無いだろ。立候補してみないか?」
イアマズが「六蟲将」以外のこの場に居る悪魔王5名の中から白髪白髭の小柄な老人――メルコムを名指しし、馬鹿にするような言い回しで挑発した。
名前 メルコム
種族 魔神
階級 悪魔王
レベル 515
職能 「秘匿者」
「何を馬鹿な事を!!如何に陛下の腹心とは言え、ワシは陛下にお仕えして2万年以上経つのだぞ!忠誠心はお主らに劣っているとは思わぬ!誰でも出来る第9地区の復興などでは無く陛下の為に役立つお勤めを果たす事こそワシの責務よ!」
その言葉に激高してメルコムが喚き立てる。
「役に立つ仕事ねぇ…本当に出来るとでも?」
「貴様ぁ!ワシを愚弄する気か――」
「2人とも止めておけ。今回の陛下の命令における人事権は私にある。同じ「六蟲将」とは言え、あまりでしゃばるなよ、アルブナリス。――あとメルコム殿も大言を申されるのは良いが、それを実行に移すには相応の実績と実力が伴わなければいけませんね。最重要指令であるアスモデウス公の調査は我ら「六蟲将」に任せて卿は次の異動に備えて荷造りでもしておいた方が宜しいかと思われますが…おっと、これは失礼。」
メルコムが更に挑発を続けるイアマズに詰め寄ろうとした時、ラヴィアロスが両者を制止した。イアマズに対しては軽く注意しただけであったが、メルコムに対しての彼女の発言は事実上の更迭とも言える辛辣な言葉であった。
「了~解。ククッ…」
「ぐっ…おのれ小娘共が…」
「おや、偉大なるベルゼブブ陛下から全権を委任された私に何か意見でも?まあ、次の人事までには少し時間がありますからその間にメルコム殿が手柄を立てれば陛下からの信頼も回復するかと思われますが…」
「フン、ワシがその気になれば手柄の一つや二つ簡単に上げる事が出来るわ!!卿は精々、第9地区の人選に時間でもかけておれば良いわ!ワシはこれで失礼する!!」
何かを含んだような言い回しを行うその言葉に不満を募らせながらも後が無い事に焦燥するメルコムはラヴィアロスに捨て台詞を吐き、手柄を立てる為に早々に玉座の間から退出して行った。
「フフ…ご自由に。他の皆様も陛下の為に尽力して下さい。私達だけでは無く陛下も全能の眼で貴方達の事をしかと見ておられますよ。あと「六蟲将」は全員この場に残るように。では、これにて解散です。」
ラヴィアロスの言葉を合図にその場に同席していた幹部達も玉座の間から足早に退出して行く。
この場の話ではメルコムが第9地区の新総督となる可能性が高いのだが、メルコムが万が一手柄を立てた場合は自分達が左遷される恐れがる為に「六蟲将」を除く悪魔王達の胸中は穏やかでは無かった。各々が何かしらの功績を上げようと躍起になっていたのだ。
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「おい、「念話」で伝えられたお前の指示通りにメルコムの爺さんを煽ったが、あれで良かったのか?……あの様子じゃ勝手に何かするつもりだぞ。」
イアマズが小首を傾げながらラヴィアロスに話しかけた。どうやらメルコムを挑発したのは彼女の指示によるものだったようだ。
「勝手に何かをでは無く、アスモデウス公の調査を始めそうな勢いだったな。あの様子では奴自身が動くのではないのか?」
アルブナリスも今後行われるであろうメルコムの行動に懸念を抱き、ラヴィアロスに諫言する。
「ああ、奴は勝手に独断で動くだろうな。私の指示も無く独断でな。フフフ…」
「ラヴィアロス殿、ならば何故止めぬのだ?陛下はこちらの仕業と気取られるなと仰っていた筈だぞ。金を使ってアクゼリュス王国の臣民を買収するのが常套手段ではないのか?如何に貴卿とは言え、偉大なる陛下の命に背く行為を見過ごすわけにはいかぬ。」
「それは問題無い。この場の発言は陛下も把握しておられる。その上で我らに対して御咎めが無いという事は陛下が黙認されたという事だ。我ら「六蟲将」には特例で禁止された「念話」すらも許されている。それに奴が成功しようが失敗しようが陛下や我らには何も問題は無い。何せ今まであの国に侵入した者で生きて帰った者は一人たりとも居ない。まるで神隠しに逢ったかのように消えてしまうのだよ。そしてその全てが最初から居なかった者として処分されている……アスモデウス公の手によってな。あの方は随分と高尚な趣味をお持ちだそうだ…「拷問」と言う趣味をな。故に捕えられし者達は全て公の趣味の玩具にされているそうだ。まあ、あくまで噂だがな。何せあの国には建国以来、侵入者など存在しないのだから…」
「………それにあの国には危険な「何か」が居る…」
今まで沈黙を守っていたハルサンがラヴィアロスの言葉に続くように急に口を開き意味ありげな発言をした。
「「何か」が居る?ハルサン殿それは一体…」
「おいおい、やっとまともに喋ったと思ったら危険な「何か」ねぇ?…アスモデウスの従僕である4体の竜王達の事か?確かに東西南北全ての国境付近に居を構えているからなあ…」
フォルノックが思慮を巡らせながら先程のラヴィアロスの報告で出た竜王の事を思い出した。
「ああ、先程の話に出た最大の竜王である東のアジ・ダハーカ、西のティアマト、南のニーズホッグに北のヴリトラだったな…特にアスモデウス公の配下で最強にして最小の竜王と呼ばれるティアマトは洒落にならんな。」
「ああ、確かそのレベルは856だったか…如何に基本性能で上回る魔神である我ら「六蟲将」でもこのレベル差では正面からまともに戦り合えば勝ち目は無い。」
竜王と言う言葉を耳にしてイアマズとアルブナリスもアスモデウスの従僕達について思い浮かべた。両名ともハルサンの言う「何か」を読み取ったような顔をしている。
「いや、レベルは500程度だが正直、奴の「罪科」職能「秘匿者」の隠蔽能力は有能だ。奴ならば竜王の領域を潜り抜けてもおかしくは無い。ハルサンが言っているのはその事では無い。」
ラヴィアロスが3人の辿り着いた答えを否定した。3人は更に思考を張り巡らせる。
「――そうかっ!?分かったぞ!「あの女」の事だな!確かにありゃ最悪…いや最凶の存在だな。しかし「あの女」が動くのか?」
数十秒の沈黙の後、フォルノックが不意に何かを思い出したように口を開いた。
「成程、「あの女」ならば納得がいく。王を名乗っていないだけで階級は偉大なる我らの陛下やアスモデウス公と同じ魔神王だからな。確かに竜王など足元にも及ばぬ超越者だ。……だが、公とは仲が悪くその旗下にも入っていないのだろう?今は一国民として王都ダイオスに居る筈だが…」
「待て!貴卿ら、今何と申した?陛下やアスモデウス公以外にも魔神王がいらっしゃると言うのか?」
その言葉に驚きの表情を浮かべたヴェルドレが声を上げ問いかけた。
「…ヴェルドレ、生まれたばかりの貴様が知らぬのも無理は無い。我らが陛下の所属するゾディアック連合は12人の魔神王により治められている。そしてこの大陸や他の大陸にも大勢の魔神王は存在するのだ。――まあ、この話は後でゆっくりと教えてやる。今は理解出来ぬ貴様が口を挟む必要は無い、静かに聞いておけ。」
「承知した。すまぬが後で宜しく頼む、アルブナリス殿。」
「ああ、後でな。で、話は戻るが俺も「あの女」が動くとは思わぬ。それどころか「あの女」自身がこの好機を利用しないのが気に掛かる。公が不在の今ならば簡単に王位簒奪が可能だろう…レベル4桁を超える「あの女」を倒せる者などアクゼリュス王国には居ない筈だぞ。」
「確かに「あの女」が動けば厄介だがあの性格からして動く事はまずあるまい…それに私とハルサンの危惧している事はそれでも無いのだ。アクゼリュス王国には確実に危険な「何か」が居る。寧ろその「何か」の為に「あの女」がこの状況でも動かないのでは無く、動けないかもしれないのだ。それの正体をを確かめる為にメルコムを泳がせるのだ。私の予想通りならば奴が戻って来る事は二度とあるまい。国境で竜王に捕まるかアクゼリュス公国内で「何か」に捕まるかは奴の運次第だな。まあ、奴に監視用の蟲を取り付けた私としては正体を知りたい後者であって欲しいものだが…フフフ。」
意味深な言葉を響かせながらラヴィアロスは不敵に微笑む。
アスモデウスの支配するアクゼリュス公国に存在する竜王、そして「あの女」と呼ばれる魔神王以外にも危険な存在が居る事を確信しているラヴィアロスはその「何か」の正体を知る為にメルコムを焚き付け、捨て駒として利用する事にしたのであった。
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「さて、今度こそ解散とするか。私は陛下の命令を遂行するのが最優先の為、ヴェルドレの教育と指示はアルブナリスに任せても構わぬか?」
「問題無い。貴様は陛下の指令を優先させておけ。それから地獄門の事に関しても早急な対応が必要だからな。」
アルブナリスが快くその申し出を引き受ける。
「ああ、そちらも同時進行で行うつもりだ。ではヴェルドレの件は任せたぞ。」
「それにしても早く地獄門を開いて「アレ」を手に入れ、アスモデウスの奴を殺すのが楽しみだなぁー」
「………おい貴様、口を慎め、2度目だぞ。」
玉座の間から退出しようとしていたラヴィアロスがフォルノックの発言を耳にした途端、急に足を止め気難しい顔でフォルノックに視線を向け注意する。
「あん?2度目……一体、何を怒ってやがるんだ?」
忠告の言葉の意味が理解出来ないフォルノックは突然、不機嫌になったラヴィアロスの態度に首を傾げた。
「何故だと?…本当に理解できないのか貴様は。」
「もしかして「アレ」の事か?ここには俺ら「六蟲将」しか居ないんだぜ。しかも俺らや陛下以外には聞こえて無い筈だ。それに「アレ」って言っただけじゃ誰も理解出来ねーよ、何も問題無いだろうが。」
「そうでは無い、貴様は2度アスモデウス公を呼び捨てにしたのだ。これがどういう事になるのか理解出来ているのかフォルノック?」
的外れな答えを聞いてピクリと眉を動かし不愉快な表情になったラヴィアロスが威圧するようにフォルノックに詰め寄る。
「我らの宿敵を呼び捨てにして何が悪いんだ?それにアスモデウスの事をぶっ殺すのが陛下の悲願、俺らはそれを手助けするのが使命じゃねーか。」
その様子に悪びれる事無く詰め寄ってくるラヴィアロスに自ら真正面の位置まで近づき、そう言い放った。
「…3度目だぞ。」
「おい、フォルノックもう止めろ!」
「ラヴィアロスの本意はそういう事じゃないんだよ。理解しやがれ阿呆が!」
「……愚か…」
「貴卿ら、この場での諍いは陛下に対する不敬にもなるのだぞ。止めておけ。」
「うるせーな!3度目だろうが4度だろうが何度でも言ってやる!何故、不倶戴天の敵であるアスモデウスを敬わねばならんのだ?第一、地獄門を開ける事だってアスモデ――ぐおぁ!?」
電光石火の如くフォルノックの首にラヴィアロスの三つ編みが絡み付く――しかしそれは彼女の美しく長い赤色の髪の三つ編みでは無く、重厚な蠍の尻尾と変貌しその先端部からは禍々しき波動を放つ尖鋭な毒針がフォルノックの顔の寸前で静止していた。そして妖艶な美貌も崩れ、狂暴な昆虫のような真っ赤な複眼でフォルノックを睨みつけていた。
フォルノックは喋るどころか動く事すら出来ない。下手な反応を見せれば絡み付いた蠍の尾が即座に首をへし折り、その毒針で顔を貫き猛毒を流し込む事が理解出来ていたからである。
「――良く聞け、如何に陛下と折り合いが悪かろうがアスモデウス公はゾディアック連合、序列第3位にしてアクゼリュス王国の国王陛下であらせられる。遺憾ではあるが陛下よりも格上のお方だ。それに「この場では聞いていない」と高を括って呼び捨てにする行為が露見した場合…まして仮にアスモデウス公の前で愚かな貴様が口を滑らせた場合はどうなると思う?………まず貴様はその場で粛清されるだろう。それは何も問題無い、失態を犯した貴様が死ぬのは当然の事。だが、その後どうなるか貴様は想像出来ないのか?愚かな貴様の失態で恥をかくのは陛下だぞ!側近にして眷属である貴様の不始末は陛下の手落ちとして責任を痛罵される事になるのだ!!貴様はその様な事態になる事すら想像が出来ぬのか?この愚か者め!!心の中で反感を抱く事は構わぬが言葉や態度で表すことは許さん。先程、陛下も侮る事は許さぬと仰った筈だぞ。それに「アレ」を手に入れた後、陛下がどう使うかは我らが考える必要など無い。我ら配下は全て陛下の駒だ。駒である我らが口を出す事すら烏滸がましいのだ!それを理解しておけ。――良いか、反論、若しくはもう一度公を呼び捨て、貶めるような発言をしたら即座に貴様を殺す。陛下により「六蟲将」同士の私闘は禁じられているがその時は禁を破ってでも殺すからな…理解出来たなら一度だけ頷け。」
その言葉を聞きはっとした表情を見せた後、フォルノックは真剣な瞳でラヴィアロスを見つめて強く一度だけ頷いた。
「……次は無いから気を付けておけ。――では私は先に退出させてもらう。各自は指定した座標に配下を配置して地獄門開通の術式を展開するように。後は任せたぞ。」
「「「了解」」」
フォルノックの反省する姿勢をその眼を見て感じ取ったラヴィアロスは蠍の尻尾を解きフォルノックを解放する。そして全員に指示を出し退出して行った。
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「げほっ、げほっ……くっ…下手打っちまったな。確かにあいつの言う通り陛下に恥をかかせる所だったぜ。情けねえな。」
獰猛な蠍の尾から解放されたフォルノックが首を抑え、咳き込みながら懺悔の念を抱き、反省の言葉を呟く。
「今頃気付いたのか。…ったく本当に気をつけやがれ阿呆が!」
「ああ、ラヴィアロスが言った通り次は俺達もお前を殺す事に躊躇はしないから気を付けておけよ。――出来ればそうならない事を願うがな。」
「………だな。」
ラヴィアロスを含め、この場に居る全員がベルゼブブの眷属として生み出された同じ転生魔神…それぞれがフォルノックに対して非難を浴びせながらも内心では彼の心配をしている様であった。
「ハルサン…手前は相変わらずかよ。へっ、まあ良いや。」
各々の心配するが故の叱責の言葉を聞き、フォルノックは少し安堵した表情みせた。
「確かに今回の事はフォルノック殿に落ち度がある。あの状況では我も卿を庇う事は出来なかったであろう。――しかしラヴィアロス殿は流石だな。我では瞬殺されるやもしれん実力者だ。あの容姿…基礎となる蟲は蠍か…」
ヴェルドレがフォルノックに注意を促しながらも先程のラヴィアロスの一瞬にしてフォルノックの動きを封じた実力に感嘆の声を上げる。
「まあ、実際あいつのレベルは俺たちの中でも最上位だからな。流石我が国NO、2と言ったところだ。あと「六蟲将」全員が「合成魔蟲」から生まれたとは言え、お前の言う通り基礎はすべて違うからな。ラヴィアロスが蠍、俺が蛾、イアマズが蜂、フォルノックが蜘蛛、ハルサンが蟷螂、そしてお前が兜虫だ。全員が様々な蟲の特性を持っているが、それぞれの基礎となる蟲の特性が最も反映されている。――さて、地獄門の事もあるし俺達も解散としようか。ヴェルドレは俺について来い。俺達の仕事やこの国、ゾディアック連合の事を教えてやらなきゃならんしな。」
「承知した。ではお三方失礼する。」
ヴェルドレが残る3人に一礼した後、先に退出したアルブナリスを追従していった。
「ああ、アルブナリスにしっかり教えてもらうと良い。」
「おう、お疲れさん。」
「………」
「手前は挨拶ぐらいはまともに喋れや!!」
フォルノックの怒号が玉座の間に響いた――
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全員が玉座の間を後にして数時間が経過した後、メルコムは職能「秘匿者」の技能を使いアクゼリュス王国の南方にあるラタトスク山脈から侵入し見事に竜王ニーズホッグの領域を抜ける事に成功していた。
「クカカカカ、我が職能に掛かれば認識される事無く竜王の領域を潜り抜ける事など造作も無い。――さて、ラヴィアロスの言う通りアスモデウス公が居ないのであればワシを捕えられる者など居ない。陛下の為に情報を手に入れあの忌々しい「六蟲将」共の鼻を明かしてやるわ。奴らのしたり顔が驚愕に変わるのが楽しみだ。クカカカ…」
ラタトスク山脈を抜けゾディアック連合最大にして自国の3倍はある国土を誇るアクゼリュス王国の王都ダイオスを目指しメルコムはほくそ笑みながら翼を広げて空を駆ける。
だが、王都ダイオスに到達する直前にメルコムは異変を感じ取る。
「…痴れ者め…」
「ん?今何か聞こえ――何だっ!?」
圧迫感のある声が頭の中に直接響いたと同時に空間に突如現れた漆黒の闇がメルコムを覆い尽くし共に消え去った。
アスモデウス陣営の表向きの最強はレベル856を誇る竜王ティアマト――だが、メルコムを飲み込んだ「何か」の正体はアスモデウスが生み出した次元獣「魔王の仕置き部屋」。アスモデウスの旗下でNo,2のレベルを誇る造魔である。昨日人間界に呼び出した一部とは違い、その完全体のレベルは888…そしてその脱出不能の監獄の中で罪人を待ち受ける獄卒――アスモデウス陣営、真の最強であるもう一人の「何か」が待つ絶望の空間へとメルコムは飲み込まれていったのだ。
ラヴィアロス達の危惧していた存在――「侵入者は全て捕獲せよ」と勅命を受け主の命を忠実に遂行する「何か」は2体いたのだ。
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時はメルコムがアクゼリュス王国に侵入する数時間前に遡る――
自国でそのような事が起こっていることも知らずにアスモはベルゼブブに対する嫌がらせを完了させていた。
「ふぅ、これで罠の準備は完璧じゃ。今後、ここの地獄門はまともに開ける事すら出来んじゃろうて。「糞野郎」の悔しがる間抜け面が浮かんで来るのじゃ、クフフフフフフ♪――さて、依頼も達成したことじゃし、後始末を早うして、帰ってプリンを食べるとするかの♪」
ベルゼブブに対する嫌がらせの罠の仕掛けを見事にやり遂げた事に満足し会心の笑みを浮かべながらアスモはジグルス遺跡地下迷宮の最下層の隠し部屋を後にした――




