第44話 初めてのダンジョン その⑨バフォメット一族の最期
ベルゼブブ(怒メーター)現在値70%
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「…ぐぬぬ……」
魔神王ベルゼブブの仮面から覗く真っ赤な瞳に宿した怒りの炎は鎮火する様子も無く、その真一文字に結ばれた口元からは歯ぎしりのような音が聞こえていた。
アスモの謀略に嵌り反逆者として処分したアンドラスを含む魔神7人全てを粛清し終えてもベルゼブブの怒りは一向に納まる事は無かったのだ。
なぜならばこの騒動の元凶である黒山羊が未だに地獄門の向こうから無言の抵抗をベルゼブブに向け行っていたからである。
魔神達を処分した直後に地獄門から伸びて来た黒山羊の手がまるで先程の処刑を褒め称えるかのように親指を立てたサムズアップのポーズをして現れた。そしてその手を180℃回転させて上下に2,3度動かしたのだ…こちらも万国共通「くたばれ」のサイン。勿論効果は抜群であった。
クフフフフ…「糞野郎」め、さぞ悔しいじゃろうな~♪傍から見れば上位悪魔如きに魔神王がここまで馬鹿にされておるのじゃからな。
でも最初の「GJ」のサインは本当に褒めておるから称賛の証としてお前に贈ってやったのじゃぞ。…まあ、阿呆のお前が妾の思惑以上に道化を演じてくれておる事に対してじゃがな。
それにしてもこの程度でここまで怒っておっては駄目ではないか。このままでは「切り札」を使う事無く地獄門の破壊が出来てしまうぞ。
妾はまだお前の文句を言い足りぬから早う「消音結界」を解いてくれんかのう、こればかりは妾が解除する訳にはいかぬのじゃ。
――おっ、来た来た、次の生贄なのじゃ♪さーて、今から妾がもっと面白おかしくお前に嫌がらせをしてやるのじゃ!ウケケケケ♪
嘲笑うかの如く行われるアスモのベルゼブブへの余念の無い嫌がらせが続いていた矢先、次の犠牲者とも言うべき黒山羊の親族とそれを連行して来た魔神達が巨大な竜種の背に乗りこちらへ向かって来た。
かなりの速度で飛行して来た竜種が地獄門から100メートル程手前で突然、急停止した。そしてその場で萎縮したように震え上がっている。どうやらベルゼブブから発せられる禍々しき波動と圧倒的な威圧感を感じ取り本能が近づく事を拒否してしまったようだ。勿論、その背に乗る魔神や黒山羊の親族達も同じようにそれを感じ取っていた。
「…やっと来たか。――で、何故余の前に来ぬのだ?」
不機嫌そうな低い声でベルゼブブが呟いた。
「も、も、も、申し訳御座いません陛下!御身から発せられる神の如き圧倒的な波動を前にして騎竜が萎縮してしまったようです。魔神である我ら5名はすぐにそちらへ参りご挨拶を行いますが、上位悪魔であるバフォメット族の者達では陛下に近づくだけで気絶してしまう恐れがあると思われます…この場にて待機させておきます事をどうかご了承下さいませ。」
騎竜と呼ぶにはあまりにも巨大な竜種の背から急いで飛び降りた魔神とバフォメット族の者達が即座にその場に跪きベルゼブブの方へ頭を下げた。
「その方らが向こう側に居るバフォメットの親族の者達か?」
「は、はい!清浄にして偉大なる魔神王であらせられるベルゼブブ陛下。私が人間界で地獄門の門番をしておりますバフォメット族のゴルトの父親で族長を務めておりますカプラと申します。そして私を含めたここ居る13名がゴルトの親族になります。陛下の強大なお力の前では私達、上位悪魔如きでは近寄る事が出来ませぬ故、この様な離れた位置からご挨拶する無礼をお許し下さい。――この度は不詳の倅が陛下に大逆の罪を働いたと聞き、誠に申し訳ございません!…ここに居る親族の者は如何なる罪も受ける覚悟はできております。どうか我ら以外のバフォメット族の者達には寛大な処分をして頂けますようお願い申し上げます。」
バフォメット族の族長であり黒山羊の父と名乗りを上げたカプラと言うバフォメット族の男が更に深く頭を下げベルゼブブに謝罪を行った。
「ほぅ、あの者の父親か…まあ良い、貴様らが近づけぬと言う事であれば余はここより移動する故、すぐに貴様らが地獄門の向こうの様子を確認せよ。余やここに居る魔神達ではレベルが高すぎて向こう側を視認する事が出来ぬからな。地獄門を潜る事が出来る程度かそれ以下のレベルの者ならば向こう側を確認する事が出来るであろう?――ああ、それから貴様らの集落は確かカナン山にあるのであったか?」
ベルゼブブは向こう側に居る黒山羊の様子を確認するように指示を出した後にふと、何かを含んだような質問をカプラに行う。
「承知致しました。すぐに確認致します!それからご質問の答えですが、陛下の仰る通り我らの集落はあそこに見えるカナン山の中腹あたりです。集落には約3.000名のバフォメット族が住んでおります。そしてカナン山には他の種族も合わせれば10万人は下らぬ悪魔達が陛下の恩恵を受けて幸せに暮らしております。――では陛下失礼致します。」
族長カプラが遥か向こう…約20キロほど離れた位置に見える山を指さし集落の場所をベルゼブブに告げてから地獄門の方へと向かって行った。
「――悪魔10万か……塵とは言え、それだけの魂があれば腹の足しにはなるか…」
不機嫌な顔のままの状態で何かを考えながらベルゼブブは口角を少しだけ上げた。
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「―――申し訳ありません陛下…レベル124の私では向こう側の景色が薄らとしか見えませぬ。あちらで待機している倅の嫁と孫ならば確認出来ると思いますのでこちらへ来るご許可を頂けますでしょうか?」
どうやらカプラのレベルでは地獄門の向こう側を確認する事が出来なかったようだ。
「…良きに計らえ。」
「ありがとうございます!すぐに手配を致します」
カプラは黒山羊の妻子を呼びに行く為に急いで親族達の許まで飛んで行った。
「お爺ちゃん、向こう側を見ればいいの?」
地獄門の前まで現れた黒山羊の妻子。その内の一際小さなバフォメットがパタパタと翼をはためかせながらカプラを見上げて質問した…まあ、小さいと言っても1メートル50強はあるのだが。
「ああ、そうだよトカラ。地獄門は通り抜けられるレベルの魔族や魔法以外はすべて遮断してしてしまう仕組みになっているのだよ。よって地獄門の向こう側を見るには私ではレベルが高いようだから向こう側の様子を見るのに魔素が邪魔をして薄らとしか見えないのだ。そして、ここに居られるベルゼブブ陛下や魔神の方々は我らとは比べ物にならぬほどのレベルの為、何も見えない真っ暗の状態のままなので中を確認する事が出来ないのだよ。だからお前達に向こう側の様子を確認して貰いたいのだ。ヌビアンも良いな?」
「うん!わかったよ、お爺ちゃん。―――あっ!?父ちゃんだ!向こう側に父ちゃんが見えるよ!!」
地獄門を挟んで黒山羊とトカラの視線が合った。
ふむ、妾にはこ奴らの見分け方が全く分からぬ…かろうじて向こう側からこっちを見ておる2回りほど小さな奴と胸と腹の間に乳が6つ生えた奴ぐらいしか区別がつかんのじゃ、多分あの2体がこの黒山羊とやらの妻子じゃろうな…
――うーむ、やはり他の者達は全く区別がつかんのじゃ…同じ顔に同じような体格…いや、族長とやらは少し大柄で髭が長い位か?まあ、今から絶滅を迎える上位悪魔共の事など考えるだけ無駄なのじゃ。
精々、妾の為に道化を演じてもらうとするかの♪
「ふぅ…やはりゴルトが居るのか…で、中の様子はどうなっておる?」
「向こう側に見えるのは一人だけ……間違いなく主人です、お義父さん。」
「そうか…あの馬鹿者め…―――陛下、やはり向こう側に居るのは倅のゴルトで間違いないようです。本当に申し訳ありませぬ!!」
己の息子が犯人である事を確認した族長カプラは深いため息を吐き天を仰いだ。そして悲痛な面持ちをしたまま地獄門から離れた位置に移動したベルゼブブの方へ向けて中空で土下座をし謝罪を行った。
「…確認出来たようだな…やはり単独犯か…おい、聞こえてるおるな?ゴルトとやら…「消音結界」は今しがた解除してやったぞ。――さて、見てわかるとは思うが、そこに居るのは間違いなく貴様の家族だ。貴様の処分は既に決まっておるがここへ跪いて余に詫びねば貴様の家族がどのような目に逢うかを知るが良い…「真紅の太陽球」」
ベルゼブブがカナン山脈の方へ指をさし魔法を発動させるとカナン山の上空に巨大な魔方陣が展開される。そしてその中心から紅く煌めく直径20メートルほど火球が現れた。
その火球が現れた瞬間に薄暗い魔界の空が晴れ、カナン山とその周辺地域が陽が射したように明るくなった。そして眩い光を放つ火球から排熱される熱気によりその周囲数百メートルの空間が大きく揺らいでいる…まさに「小さな太陽」とも言うべき球体が出現したのである。
それを目撃した誰もがベルゼブブが発動した究極魔法「真紅の太陽球」が凄まじい破壊力を秘めている事を理解していた。
そして小さな太陽がカナン山の中心へゆっくりと堕ちて行く…
小さな太陽が山頂に到達した瞬間、大地を揺るがす轟音と共にカナン山が眩い光に包まれた。常人ではその光を直視すれば失明は免れない程の輝きを放っている――そして爆発と同時に発生した全てを溶かす熱線と爆風が山頂を中心に広がって行き、全てを蹂躙し尽くしたのだ。カナン山に住む10万を超える悪魔達は逃げる間も無く溶かされ、消し炭となった…
究極魔法「真紅の太陽球」の熱核爆発とも言える圧倒的な破壊力により標高1,400メートル、総面積約12万ヘクタールを誇るカナン山は跡形も無く吹き飛んでしまった。そこに住む全ての生物達と共に…
山全体を包み込んでいた砂塵がだんだんと晴れて行き、カナン山があった場所が姿を現した。そこは全てを焼き尽くされ焦土と化した大地と直径10キロはある深く広大なクレーターが形成された見るも無残な荒荒野と化した…
「「「ああっ!?」」」
黒山羊の親族達だけでは無く、5人の魔神達も一斉に驚きの声を上げた。
「……今の光と大きな音は何なの?――あっ!?山が無い?僕らの村が…お爺ちゃん!!お爺ちゃん!!皆、死んじゃったの?」
不安気な表情のトカラが族長カプラの腕をギュッと掴み揺すった。
「何て事だ…カナン山脈には我が種族以外にも大勢の者達が居るのに…」
カプラはその質問に答える事が出来ないでいた。今起きた出来事に対して思考が追い付いて来ないのだ。
目の前で突然起きた衝撃的な光景を目の当たりにした者達はこの事態を理解出来ずに只、呆然と立ち尽くしていた。
再び沈黙が空間を支配する――
ベルゼブブ(怒メーター)現在値20%
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「フハハハハハハ!声も出まい!貴様の愚行による責任を貴様の種族達が受ける羽目になったのだぞ!さぁ、先程も申したようにここへ来て余の前に跪け。さもなくば貴様の妻子や親族にはカナン山の者共が味わった一瞬の死などでは無く、この場で引き裂かれ苦痛を味わってから死ぬ事になるぞ!但し、呼びかけに応じ余に謝罪をすれば家族だけは助けてやろう…良いな?これが最後の余の情けだぞ。」
カナン山ごとバフォメットの集落を吹き飛ばした事により黒山羊への報復が上手く行ったと勘違いし、機嫌を良くしたベルゼブブが楽しそうに笑った後に最後通告を告げた。
…何とあの阿呆、山ごと吹き飛ばしおったぞ。妾の予想を遥かに超える暴挙に出おったな。こちらに対して愚行などと抜かしおったが、その言葉そっくり返すのじゃ。どう見てもお前のやった事の方が愚行ではないか。
単細胞とは思うておったが、ここまでとは……
どう考えても最初は父であり族長のカプラとやらに責任を取らせる形を取りその場で処刑し、次に妻子と親族、そして集落に居る者全てを人質として脅しをかけるのが常套手段じゃろうに。
いきなり集落どころか山に住む何も関係の無い10万の悪魔達を消滅させるような事をすればお前が約束を守る気など最初から無いのは一目瞭然ではないか。…これでは例え黒山羊が生きておったとしてもそっちへ行く筈が無いじゃろうに。
究極魔法を使って山を吹き飛ばし、それを見せつける事で黒山羊に対して意趣返しが出来たと思っておるようじゃが、最初からお前をおちょくっておるのは妾なのじゃ。まあ、妾としては黒山羊への褒美として一族郎党をあ奴の許へ逝かせてやる予定じゃったからありがたい話なのじゃがな。
お前は鬱憤が少し晴れて愉悦に浸っておる顔をしておる様じゃが、妾には只の間抜け面晒した阿呆にしか見えぬわ。
はぁ、こんな単細胞と同列に扱われておるとは…泣きたくなるのじゃ。
それにあの阿呆め、黒山羊の目の前で親族を引き裂いて殺すだけじゃと?――全然駄目じゃ!論外じゃな!お前には拷問の美学が無いのじゃ!
妾ならゆっくりと丁寧に手足の指を爪先から細かく刻んで行き、薄く皮を剥ぎ、泣き叫ぶ姿を見せた後に治療してから更に同じ事を何度も何度も繰り返し両者の精神を壊さぬように細心の注意を払って愉しんで…じゅるり…――っは!?いかん!拷問の事になるといつもの悪い癖が出てしまうのじゃ。
さて、「糞野郎」のせいで予想外の展開になってしもうたが上手く修正して事を進めていくとするかの…
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『貴様ァーー!!よくも我が一族…いや、関係の無いカナン山の者達まで手にかけるとは…この暴君め!!』
数分の静寂が流れた空間を再び黒山羊の怒号が打ち破った。
「なっ!?馬鹿者が!陛下に対して何と言う事を申すのだ!愚か者め!!――第一、貴様がこの様な真似をしなければこの悲劇が起こる事は無かったのだぞ!!貴様が罰を受ければここに居る親族だけでも助けて頂けると仰っているのだ。寛大な処置を与えて下さる陛下に感謝するのが筋であろう。」
上位魔神が怒気を含んだ大声で黒山羊へ向かって注意する。
「そうだぞ、ゴルトよ…確かにお前は助からぬが妻子の罪は問わぬと陛下自らが言っておられるのだ。――息子であるお前の犯した罪は私の罪でもある。安心せよ、私も一緒に罰を受けてやるからな。」
族長カプラも息子を諭そうと説得を続ける。
『はっきり言っておくが俺は愚王に頭など下げるつもりなど毛頭無い!』
「はぁ!?貴様はまた陛下に対して不敬を働くとは…」
呆れた面持ちの魔神達が怒りに満ちた声を震わせている。
「申し訳御座いませぬ陛下!ゴルトよ、お前は何故そんな事――」
「皆は本当にそいつが約束を守るとでも思っているのか?普通ならば裁かれるのは俺とその親族の筈だ。それを行わず、カナン山に住む我が種族を含む無実の10万もの人々が愚王の手により殺されてしまった…しかも本人は楽しそうに笑ってやがる。これが王のする事か?――この国は間違っているのだ!他国とは全く違う!如何に魔神王の庇護下にある事が安全とは言え、これでは只の奴隷と変わらないだろ!王都は煌びやかな建物が立ち並び、コイツの親族や腹心共は贅沢三昧の生活を送っているそうだ…しかもコイツは信義に厚く我ら民達の事まで気遣って下さった忠臣のアンドラス様やこの地獄門の結界の維持作業に当たっていた6名の魔神の方々を碌な詮議も行わずあっさりと殺したんだぞ!!奴の足元を見てみろ!あれが現実だ!!』
その言葉を聞いて全員が一斉に地上の方へと視線を向けた。
「首が無い…だが、あれは確かにアンドラス様のお体…もう一人は上半身が…多分残りは陛下の…」
「ああ…アンドラス様…おいたわしや…」
こちらに向かってくる途中でアンドラス達の反応が無くなった事を感じ取り予想はしていたのだが、その地面に転がる無残な遺体を目の当たりにし、魔神達やバフォメット族の者達はアンドラス達を憐れみ小さく悲痛な声を上げた。
『アンドラス様達は最後まで無実だとその屑に言っていたのだ。それをこんな酷い目に…――この屑を暴君と呼ばずして何と呼ぶ?俺にはもう奴に下げる頭など無いのだ!!魔界でのバフォメット一族は滅亡するだろう。正直、親族の者達には悪いと思う…だが俺には人間界で野望が出来たのだ。この人間界では俺の実力でも国を持つ事が出来るかもしれないのだ。ならばこの人間界でバフォメット一族を再興させる為に俺は人生をかける事にしたのだ!すまないが俺はもう魔界には戻らない……出来れば俺に賛同してくれる者達が後続として現れてくれる事を切に願う。』
「ほぅ、戻らぬとな…随分と饒舌な演説を行ったようだが、所詮は自分の身が可愛いと言ったところであろう?余の事を愚かや屑などと言っておきながら今、貴様のやっている事自体が屑の所業ではないのか?貴様の親族達はどう思っているだろうなぁ、さぞ恨めしい顔を――」
「よく言ったゴルトよ!!」
「――何ぃ!?貴様今何と申した!!」
怒気を含んだ声を発してベルゼブブは族長カプラを睨み付ける。仮面で隠れてはいるがその表情が憤りに満ちている事は想像がついた。
「良く言った…と倅を褒めたのです。ベルゼブブ陛下――いや、暴君ベルゼブブよ!!――お前達よ…すまぬな。」
族長カプラはベルゼブブに対し決別の言葉とも取れる暴言を吐いた後に周りに居る親族達に謝罪の言葉を述べた。その言葉を聞き何かを理解したかのように全員が頷きカプラにニコリと微笑んだ。そして全員が覚悟を決めた顔をしベルゼブブを睨み付けた。
プッ!クハハハハハハハハハ♪…流石の妾もこの展開は全く予想出来なんだぞ!
マジか!?「糞野郎」め上位悪魔如きに反旗を翻されよったのじゃ!こんな魔神王がおるなど聞いた事すら無いぞ!!妾がそんな事をされたら恥ずかしくて生きていけない程なのじゃ!!
阿保じゃ、本物の阿保がおるのじゃ!!――ウクッ…ククク…お腹痛い…クヒヒヒヒヒ♪
3万6千年以上の人生で初めて見た己の予想の遥か斜め上を行く衝撃的な光景を目の当たりにしてアスモは地獄門の向こうで大声を上げて笑いたい気持ちを押さえつつも中空で腹を抱えながら喉の奥で押し殺すようにか細い声で唸るように笑っていた。
ベルゼブブ(怒メーター)現在値60%
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「…ほぅ、余程、死にたいようだな……」
その言葉を発すると同時に雰囲気が一変し周囲の空気がピリピリと張り詰め出した。
ベルゼブブは離れた位置から動かない…だが、その体から放たれる禍々しき波動がだんだんと強くなって行き、その重圧によりその場に居る全員の体が震えだした。圧倒的な力を前に本能が恐怖に震えているようだ。
「――…くっ!?こんなに離れていてこれとは…やはり魔神王…何と言う力だ。しかし只では滅びぬ!!――ヌビアン!!トカラを連れて地獄門を抜けて人間界へ行くのだ!!お前達だけならば簡単に向こう側へ行ける!!私達が命がけで時間を稼ぐから早く行けぃ!!」
族長カプラがヌビアンとトカラに黒山羊が居る筈の向こう側へ逃げるように告げた。
「――でもお義父さん…」
「嫌だよ!お爺ちゃん達も一緒に行こうよ!!」
2人が悲壮な顔で族長カプラに向け叫ぶ。
「馬鹿者!!早く行くのだ!!お前達3人が居ればバフォメット一族が滅びる事は無い!!魔界では無理であったが、向こう側で幸せを掴んでくれ…それが我ら種族の願いなのだ!!これが父として…祖父として出来る最期の仕事だ!」
「そうだ!早く行くんだ!俺たちの犠牲を無駄にする事無く幸せになってくれよ!」
「バフォメット一族に栄光あれ!!」
族長カプラと親族達が2人に向けて最後の別れを告げる。
「――はいっ!お義父さん…義兄さん達もお達者で…トカラ!早く門を潜るのよ!!」
「…うんっ!!」
彼らの覚悟を目の当たりにしたヌビアンはトカラを強く抱き締め地獄門の中へ侵入しようと翼を羽ばたかせた。その様子を確認した族長カプラ達は2人を逃がす時間稼ぎを行う為に勝ち目の無い戦いを挑みにベルゼブブの方へと向かって行った。
安心せよ、黒山羊の妻子なら妾がしっかりと面倒を見てやるのじゃ。こっちへ来た瞬間に一撃で仕留めてやる…と言いたいところじゃが、残念じゃな。
如何に単細胞とは言え、魔神王なのじゃぞ。周囲数キロ圏内は奴の間合いじゃ。逃げる事など不可能じゃな。
あーー、それにしても笑い過ぎて涙が止まらぬ。道化では無く最高の喜劇を妾に見せてくれたのじゃ、まさにGJなのじゃ!バフォメット一族よ…この「色欲の王」が称賛を送るのじゃ♪
笑い過ぎにより流した涙を拭いながらアスモは地獄門の向こう側のバフォメット一族達に向けてサムズアップポーズを贈った。――まあ、「不可視の外套」と「色欲」の力で姿も存在も隠している状態ではそれを見る事すら出来ないのだが…
そしてアスモが再び向こう側の方へ視線を向けた時には既に決着がついていた。
「……体が…動かな…いぎぃ!?」
「おがあざん…いだい゛…よ…」
抱き合ったままの状態で黒山羊の妻子が地獄門のすぐ手前で硬直し激痛に顔を歪めている。周りを良く見ると族長カプラを含め全てのバフォメット達が同じような状態になっていた。
「フフフフフフフ、愚か者が…本当に一匹でも逃げ切れるとでも思っていたのか?余がその気になれば貴様らのような上位悪魔如き1キロ圏内であれば闘気のみで滅する事も可能だ。だが、それでは地獄門を破壊してしまう恐れがあるのでコレと蟲を使わせてもらったぞ。」
身動きすら取れないバフォメット達にそう告げてベルゼブブは右手に持った王笏を掲げて口角を上げニヤリと嗤った。
その右手に持つのは大罪魔神器「暴食の王笏」
魔神器とは魔神の固有能力である「魔装創作」により創られた武具の中でも強力な力を秘めた物にのみ与えられる名称である。
勿論、人間界にも強力な魔神――歴代の魔王達により創られた強力な魔神器や闘神達により創られた聖神器と呼ばれる物もある。
かのヴェノア帝国皇帝グレゴールの持つ「滅竜剣」もその魔神器の一つに数えられる。残念ながらゼフォンの持つ「巨人の殺しの剣」は創作したアスモの力が弱体化したままの状態だった為に伝説級と呼ばれるカテゴリーに分類されている。まあ、それでも人間界においては最高クラスの武器なのだが…
そしてベルゼブブがその手に持つのは魔神王が己の血肉を使って生み出した「大罪魔神器」と呼ばれる桁違いの武具…いや、最早兵器と言っても過言では無い程の力を秘めている。その威力は凄まじく究極魔法ですら足元にも及ばぬ力を発揮する事が出来るのだ。
「大罪」の名を冠する通り魔神王の職能の力を秘めた能力を持つ物まで存在している。
この「暴食の王笏」を使用すれば只一種を除いて全ての蟲を意のままに操る事が出来ると言うベルゼブブと同じ恐るべき力を使う事が出来るのである。
「蟲」を操るだけと言えば大したことは無いと思われがちだが、魔界には竜王にも匹敵するレベル500を軽く超える蟲達が生息している。単純に言えばその蟲達を意のままに使役する事が出来るという事なのだ。さらに使用者の魔力によっては軍隊の如く大量の蟲を操る事が可能になる恐るべき魔神器の一つ。
勿論、アスモも己の「大罪」の名を冠する魔神器を所有している。その名は「色欲の爪」…条件付きではあるがその力が発揮されれば魔神王ですら殺す事が可能であり、大罪魔神器の中でも上位に数えられるほどの恐るべき破壊力を誇っている。
そして「暴食の王笏」を使用する事によりベルゼブブは使役する分身や蟲達をより強力にパワーアップさせる事が出来るのだ。
「大罪魔神器…蟲を…使った?――うぐおっ!?体の中に何かが…いる゛!?」
族長カプラが顔を歪めながらベルゼブブを睨むが突如襲い掛かって来た激痛によりその場で悶え苦しみだした。
「今から死を迎える貴様らに話しても意味は無いが…まあ、良かろう。最期に面白い話をしてやろう。余が監視の為に分身である数万匹の蟲を国中に放っているのはこの国の民であれば誰もが知る周知の事実…だが、監視以外の蟲を放っている事は誰も知るまい。数ミリにも満たぬ小さな蟲だ。まあ、その数は数百万匹なんだがな…――ここからが面白い話なんだが、実はその蟲を使ってこのエクロン王国に住む6,000万の民全てに余の分身の卵を産み付けているのだ。そして余が魔力を送り込めば卵が孵り内部から貴様らのような反逆者を喰らい尽くす仕組みとなっておる。そしてこの「暴食の王笏」を使用する事で活性化を早め、より強力な蟲が貴様らの体を糧に産れて来るのだ。」
体内で蠢く蟲により麻痺した体が動かず、激痛に顔を歪めている族長カプラに近づきながら更に口角を上げ笑いかけながら絶望的な事実を告げた。しかしその仮面から覗く瞳から怒りの炎は消えてはいない。笑っているような態度をとってはいるがその心中は穏やかではなさそうだ。
「…ぞ…ぞんな゛…ぞれじゃまるで…」
「そう、貴様ら国民全てが既に人質であり、余の餌でしかないという事だ。これは余と眷属以外の者は誰も知らぬ秘密なのだぞ。内緒にしておけよ…まあ、今から死ぬ貴様らには誰にも話しようがないのだがな。――さあ、余に背いた罪を悔やみ苦痛を味わって死ぬが良い!」
ベルゼブブの右手に掲げた「暴食の王笏」が光を放った。次の瞬間、バフォメット達の凄まじい断末魔の叫びが合唱となり空間に響き渡った。
「「「「「メ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ェェ!!!!」」」」
バフォメット達の体の穴と言う穴から大小様々な形をした蟲達が飛び出し、ギュイギュイと鳴き声のような嫌な音を立てている。更にボコボコと体内で蠢いていた蟲が内臓や肉を喰らいながらバフォメット達の頭や腹を喰い破って出てきた。そして数十秒後にはそこにバフォメット達が居た痕跡は全く無く、食事を終えた大量の異形の蟲達がその空間を飛び回っていたのである。
「ふん、愚かな塵共め…身の程を知れ。――さて、妻子や親族が断末魔の声を上げ蟲達に喰われていく様を見るのはどうであった?最高の見世物であっただろう?ハハハハハ!……本来ならばこれで貴様を始末する事も可能だと言いたいところだが、体内にある分身の卵を孵すには余の魔力を直接送り込む必要がある。強大な力を持つ余の魔力が地獄門を通る事が不可能であるからそれは出来ぬのだ。故にアンドラスへ貴様に呪縛魔法を仕掛ける様に命じたのにあの愚かな反逆者め…それにしても運の良い奴だな貴様は。――どうした?先程までの威勢が無いようじゃないか。家族を失った事がショックだったかな?フフフ…」
ベルゼブブは少し怒気を含んだ低い声で吐き捨てるように呟いた。そしてその視線を地獄門の方へ向け、わざとらしく挑発するように両手を広げ手招きするような仕草をして口角を上げてニヤリと嗤った。
国民全てに蟲の卵をねぇ……中々、面白い話が聞けたものじゃな。もう少し詳しく聞く為に「糞野郎」を揺さぶってみるか。
まあ、予想外の出来事が続いたとは言え、これで予定通りバフォメット一族は滅んだのう♪
黒山羊とやらよ、妾はちゃんと約束を守ったぞ。あの世で家族と楽しく暮らすが良い…と言いたいところじゃが、多分バフォメット一族の魂は「糞野郎」の餌に…そしてお主の肉体と魂は妾が使うから全員あの世へ逝くどころか転生すら不可能なのじゃがな。
まあ、妾はちゃんと有効活用してやるから安心せよ。上位悪魔如きをこの「色欲の王」が役立ててやるのじゃ、感謝するが良い♪
――それにしても「糞野郎」の分際で挑発して来るとは…あの阿呆はもう勝ったつもりなのか?
甘いのう、お前が相手にしておるのは黒山羊では無く、かつてお前を半殺しにして泣かしてやった「色欲の王」なのじゃぞ!今回もお前の敗北は既に決まっておるのじゃ!
さ~て、そろそろ第3ラウンド開始と行こうかのう♪
そして運命の第3ラウンドのゴングがアスモの中で鳴り響いた――




