第42話 初めてのダンジョン その⑦ゲスの極み
『―――あー、あー、んん゛!…ふむ、これで良いかの?いや、口調も変えねば―――これで良いか?…今から俺が愚かな暴君である「糞野郎」に反抗してやるぞ!グハハハハ!』
アスモに両腕と首を引き千切られ絶命した筈の黒山羊が腰に両手をあててふんぞり返って声高らかに笑っていた。しかし、良く耳を澄ますとその声は黒山羊の足元の方から聞こえているようだ。
よし、声色もこれで完璧じゃな♪黒山羊の死体を完全に修復させ、そして「操り人形」で生きているかのように操る…これならば誰もがこ奴の気がふれたと思うじゃろう…まさか妾が関与しているとは誰も気づくまい。我ながら完璧なプランなのじゃ♪クフフフフ…
死体となっても妾の役に立てるのじゃ、光栄に思うが良い。…褒美と言うわけではないが、寂しくないように一族郎党全てがお主の元へ逝けるようにしてやるからのう♪
地獄門の向うに見える不毛の大地や殺風景な街を見ながら心の中でほくそ笑む。
その瞳に映る都市の名はエクロン王国、第9地区の都市デュパイン―――
間接的とは言え、外道少女の卑劣な謀略によって本日、滅亡を迎える都市の名であった…
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『さてと、あ奴にちゃんと声が届くようにせんとな。「大音響波」。―――さあ!口撃開始じゃ。―――…すぅーーーっ!っおーい聞こえてるか!自己中の無能で間抜けな魔神王ーー!!愚かな貴様の元で奴隷のように働くのはもう我慢出来ん!俺はこの地獄門を破壊して人間界に永住する事に決めたぞ!!―――他の者達も俺に賛同するならば門の方まで集まって来ると良い!!こっちの人間界には自由があるぞ!!』
魔法で声を大きくしてから黒山羊が喋っているかのように骸を上手く操り、良く通る声で地獄門から魔界の方へ向かって大声で叫んだ――
「「「!?!?!?」」」
地獄門の周りにいた6人の魔神達がその言葉を聞いた途端、ギョッとした表情になり固まった。
最初は今起きたありえない出来事が理解出来ずに我を忘れて呆然としていたが、思考が追い付くにつれて事態の深刻さに気付き、暴挙とも言える黒山羊の行動に慌てふためきながら恐怖に顔が引き攣っていった。
「―――お、おい、お前!何を言っているのか理解出来ているのか!!」
リーダー格と思われる上位魔神があたふたと狼狽しながらも必死に注意をする。
『勿論、理解出来ています。…それに貴方方も本心では俺と同じ事を考えているでしょう?現に貧困な暮らしを強いられ、碌に休みも貰えず、延々と地獄門に魔力を送り込む地獄のような日々をお送りになっているではありませんか。なのにあの愚王やその一族は王都で贅沢な暮らしを送っている…これで不平不満が無い方がおかしいですぞ!』
黒山羊はその注意を微塵も気にする事無く、淡々と彼らの不利になるような言葉を続ける。
「――なっ!?ば、馬鹿野郎!!俺達まで巻き込むつもりか!!!」
「そうだぞ!お前だけの問題では無く、お前の一族…いや、この地区一帯の問題になるかもしれんのだぞ!言葉を選べ!!」
魔神達は黒山羊の勝手な言い分に狼狽え、激怒しながらも事の重大さを伝えて諭そうとした。
『何を仰る。我が国の民の大半が私と同じ気持ちだと思います!心の中ではあの愚王に対しての不満を募らせている筈、自分はそれを代表して申し上げているに過ぎません!』
「……もう良い!取り敢えず貴様は黙っていろ!――「消音結界」!!――おい、俺達ではここを通る事が出来ぬ、上位悪魔を呼び寄せてこの馬鹿を引きずり出すように指示を出せ!!」
「消音結界」で黒山羊の声を掻き消したリーダー格の上位魔神が忠告を無視した黒山羊に対して捕獲命令を下す。
「了解した。すぐに「念話」で呼び寄せよう。レベル90前半までなら一人づつであれば簡単に出入りできるはずだからな。奴のレベルは97だったな。ならば5、6名程送り込めばすぐに取り押さえられるだろう。」
それに呼応した中位魔神が即座に「念話」で人員の手配を行う。
「傷つける事は問題無いが、生かして捕える様に指示はしておく必要があるな。陛下に我らの無実を伝え、慈悲を乞う為にもこいつはアンドラス総督閣下に直接引き渡す必要があるからな。」
「ああ、承知している。この馬鹿の為にデュパインの皆の生命を危険に晒す訳にはいかんからな。――ふぅ、それにしても驚かしおって馬鹿野郎が…」
結界を張った事で黒山羊の洒落にならない暴言が止んだ事に魔神達は安堵していた。
『――それは心外ですな。俺は別に皆を犠牲にするつもりなどありませんよ。この国を出て、一緒に人間界で自由に暮らしませんか?と言っているだけですよ。何せこの国は愚王の所為で自由どころかまともに暮らす事さえ出来ない状況に陥ってますからね。あーーー!本当にあの馬鹿な「害虫の王」め、早く死んでくれないかなぁーーーー!!』
束の間の静寂を打ち破るかのように広大な魔界に暴言が木霊する。
「「「!?」」」
魔神達の顔が驚愕に染まる。「消音結界」を発動した筈なのに黒山羊の声が聞こえたからである。上位悪魔如きが魔神の、しかも上位魔神の結界魔法を打ち破る事などありえない事なのだ。
「馬鹿な!?何で喋れるんだ?…「消音結界」は効いている筈だよな?あれっ!?」
「おいっ!お前「消音結界」を張った筈ではないのか!!」
「当たり前だ!貴様も俺が発動させるのを見ただろうが!」
「じゃあ、何で結界が消えてるんだよ!」
「そんな事よりもこれ以上この馬鹿に喋らせてはいかん!皆で魔法をかけるのだ――――「消音結界」!!」
「「「「――――消音結界」!!!」」」
今度は6人が一斉に完全詠唱で「消音結界」を発動させた。――だが今度は魔法すら発動する様子が無かった…
「!?結界が効かない?…いや、発動すらしないだと……有り得ないだろ…」
全員がその信じられない光景に驚愕し呆然と立ち尽くしていた。
『皆様、わざわざ魔法をかけたふりなんて…そんな小芝居する必要ありませんよ。まだあの愚王は来ていません。本音で話し合おうではありませんか。』
「阿保が!あの猜疑心の塊である陛下が聞いていない筈が無いだろ!国中に分身を飛ばして――」
「おいっ!お前何言ってるか分かってるのか?」
「あっ!?――ち、違うんです陛下!今のは言葉のあやなんです!信じて下さい!!――他の者はどうだかわかりませんが、私は魔法をかけたふりなどしていません。それに今の仕事も満足して取り組んでおります!清浄にして偉大なる陛下の為に働ける事が私の生きがいなのです!私だけは不満など感じておりません!!」
口を滑らせた中位魔神が狼狽え、何もない空に向かって大声で慌てて弁解を始めた。まるで責任転嫁をするかのように…
「貴様ーー!!その言い方では陛下に対して貴様以外の者が不満を口にしていると思われるではないか!」
「そ、そうだぞ!お前昨日の休憩の時に「消音結界」の中で愚痴っていただろうが!!」
「馬鹿野郎!それは不味い――」
「――おいっ!ふざけるな!!それを言ったらお前達も一緒に不満を口にしていただろうが!!」
誹謗中傷と罵詈雑言が飛び交う中、魔神達は自己保身に走り、お互いに罪の擦りつけ合いしていた。
クフフフフフ、簡単に引っかかりおって間抜けな奴等じゃな♪
それにしても醜いものよのう。――まあ、命が掛かっておっては必死にもなるじゃろうて…
妾の職能の前では結界など無意味なのじゃ。互いに疑心暗鬼に陥り、もっと他者を貶めるが良い。
どちらにせよお主らの運命は決まっておる。奴の「分身」がこの話を聞いていない筈があるまいて。
お主らは奴を怒らせる為の駒なのじゃ、精々、死ぬまで頑張ってもらわんとな。
よしっ!更に燃料を投下してやるのじゃ。クフフフフ♪
『やはり皆様も不満があるのではありませんか!不満を貯めて心や体を壊すくらいならば開き直って発散させた方が良いのです!さあ、皆様もあの愚王に向かって叫びましょう!―――聞いているのか!愚かな「害虫の王」よ!ここにいる全員がお前に対して恨みを抱いているのだ!!民の大半…いや、全ての民が貴様を嫌っているのだ!貴様のような愚王など要らん。我らの国から出ていけーーー!!!』
姿を消し透明になりながらも嫌らしい笑みを浮かべてアスモは謀略と言う名の嫌がらせを続ける。
「き、貴様ァ!!だから俺達を巻き込もうとするな!!」
「そうだ!俺達はお前と違ってそちらへ逃げる事が出来ないんだぞ!!」
黒山羊に対して魔神達の怒号が飛ぶ。だが、その言葉の中には釈明の言葉は一つも無かった。
『ほぅ…その言い方はこちらへ来れるのならば裏切るという事ですよね?』
魔神達の迂闊な言動の揚げ足を取り、更に焚き付けるかのように言葉を浴びせる。
「!?ば、馬鹿言うな!そ、そんなわけ――」
「俺は違うぞ!俺はこいつらとは違う!!陛下を裏切る訳が無い!!」
「だからその言い方では俺達が――」
互いに疑心暗鬼に陥った魔神達が互いを罵倒し、言い争いから殴り合いに発展するまでさほど時間は掛からなかった。
クフフフフフフ、とうとう殴り合いまで始めおったぞ。それにしてもこ奴ら馬鹿じゃの~♪
まあ、実際あの「糞野郎」の事を嫌っておったからこそ、妾の術中に簡単に嵌りおったのじゃがな。
それにしても相変わらず人望のない屑じゃな…――おっ!この反応は来たか?…ん?どうやら違う奴が来たようじゃな。
アスモが感知した方角へ視線を向けると強大な力を持った存在が凄まじい速度でデュパインの方から地獄門の方へと向かって来るのが見えた。
「き、貴様ーーー!!!今すぐ無礼な口を謹んでここに直れ!!私が陛下に代わって貴様に罰を与えてやる!!―――それからこの愚か者を黙らせる事すらせずに門の守護を任されている貴様らが一体、何をしているのだ!陛下に対する背信行為だぞ!!」
真っ黒な天使の翼を4枚背中に生やし、赤銅色の堅牢な全身鎧に身を包んだ3メートルはあろう巨体の男…今のアスモにとっては絶望的な戦闘能力を持った魔神が憤慨の表情で叫び地獄門の方を睨みつけた。
名前 アンドラス
種族 魔神
階級 悪魔王
レベル 632
職能 「脅迫者」
「ち、違うのですアンドラス様!この者には「消音結界」が効かないのです!!」
「本当なんです!我らは必死にこの馬鹿を止めようと…」
魔神達が慌ててアンドラスに弁解を行う。
「何をふざけたことを…もう良い、貴様らの処遇は後程言い渡す。今は陛下に対して不敬を行った愚か者の処分が最優先だ。さっさと捕獲の手配をせんか!!」
その言葉に聞く耳すら持たず即座に切り捨て、黒山羊の捕獲を命令した。
「増援は既に我らが手配済みです!もう少ししたら上位悪魔達が到着するかと…」
「そうか、ならば良い。――それからこの愚か者の親族にこの場へ来るように指示を出せ。もし拒むようならば無理やり引き摺ってでも連れて来い!!」
更に黒山羊の集落から人質を捕えて来るように指示を出した。
「承知致しました。すぐに手配を!」
アンドラスの指示に従い、中位魔神が即座に「念話」で手配を行った。
…ふむ、魔王違いじゃな。…こ奴は確かこの地区の総督をしておるアンドラスとかいう奴じゃったのう。顔を赤らめて必死な顔をしておる…まあ、放置しておいたらお主の命も無くなるからのう。
それにしても人質ねぇ、無駄じゃと思うがのう…何せ本人は死んでおるのじゃからな。あ奴の一族がどうなろうと…いや、あ奴の元へ逝かせてやると言った以上は根絶やしにされるまで嫌がら…ゴホンッ、努力をしてやる必要があるのじゃ。あの「糞野郎」と違って妾は責任感が強い名君じゃからな。約束は守ってやるのじゃ♪
はっきり言って、お主に用は無いのじゃ!…と言いたいところじゃが丁度良い、「糞野郎」の国力を低下させる為にもお主も巻き込んでやるのじゃ!精々、妾の掌で踊るが良い。ウケケケケケケケ♪
この国の王の事を「自己中心的」と批判したにも関わらず、それを遥かに上回る屑っぷりを発揮させようと無邪気に笑いながら画策している……まさにゲスの極みと言うべきであろう御年3万6千歳以上の乙女?がそこにいた…
『おお、アンドラス様ではありませんか!総督閣下もあの愚王に愛想を尽かせたのですね?貴方様が味方してくれるならば心強い!!さあ、今こそ決起の時です!』
黒山羊が無責任にアンドラスを煽るような発言をした。
「いい゛っ!?…ざ…ふ、ふざけるなーーー!!私が陛下に対して不満などある訳が無いであろう!!貴様ーー!!今すぐ不敬罪で処分してやるから覚悟しておけい!!!」
黒山羊のその言葉に狼狽し、まるで誰かに弁明するかのようにアンドラスが慌てふためきながら、声を荒げる。
おおー!必死、必死♪顔を更に真っ赤にしておるのじゃ。
愚か者め、こんなに面白い嫌がらせを止める訳が無いじゃろう。ウケケケケケケ♪
『アンドラス様、あんな愚王を恐れる事などありません!ならば俺が証明して見せましょう!――おーい!!どうした!聞こえてないのか?どうせ何時ものように隠れて監視しているんだろう?貴様には言いたい事が沢山あるのだ!どうした?早く出て来い!「害虫の王」!!』
黒山羊が恐れる事無くさらっと、とんでもない発言をした。
「ば、馬鹿者がーー!!何たる無礼を…もう貴様は喋るな!「消音結界」!――――はぁ!?結界が発動しないだと…操作系の「罪科」を持つこの私の魔法が効かないだと…」
先程まで顔を紅潮させて怒号を上げていたアンドラスの表情が目の前で起きたありえない出来事に混乱し固まる。
『何を仰っているのですかアンドラス様!他の皆様と同様、わざわざ魔法をかけたふりなどしなくても良いではありませんか!貴方様は愚王の悪政により衰退していく我が国を憂う名士ではありませんか!!――我ら一同、アンドラス様に早く「罪科」から「大罪」に職能を昇華していただき、新しい魔神王として決起する事を願っているのです!!』
混乱し、恐慌状態に陥っているアンドラスに対して爆弾発言を投下し更に追い打ちをかける。
「黙れ、黙れ、黙れぇーーー!!―――「消音結界」!!……何故だ!?何故発動しない!?――ち、違う、違います!!私は叛意など考えた事すらございません!!本当なんです!本当に――」
「アンドラス様!!増援が来ました!!」
空に向かって弁解を行うアンドラスに中位魔神が増援の到着を知らせる。
「来たならさっさとあそこの馬鹿を捕えて来い!!――良いか?生かして連れて来るのだ…必ずだぞ!生かして私の前まで引き摺って来い!!」
紅潮した顔を更に赤く染め興奮したアンドラスが哮り、中位魔神に命令した。
「承知しました!――おい、貴様らよく聞け。この地獄門はレベル90までならば簡単にすり抜ける事が出来る。よって80代後半のレベルである貴様ら4人の上位悪魔が順番に向こうへ渡り奴を取り押さえろ!貴様らが奴を押さえている隙に残り3名のレベル90台の上位悪魔を送り込む。以上で作戦は終了だ。――奴のレベルはお前達より上の97だ。捕獲の際に怪我どころか死ぬ者も出る可能性がある。だがこれ以上奴の暴走を許せば我らどころか親族…いや、デュパインの民全てが処罰の対象になるやもしれんのだ!デュパインの命運は貴様らの働きにかかっていると思って死力を尽くして来い!!!」
中位魔神が7名の上位悪魔達に檄を飛ばし奮起を促した。
「「「了解しました!!!」」」
その言葉に呼応し、次々と上位悪魔達が地獄門に向けて突入を開始した――
最初に地獄門を通り抜けたレベル88の人型上位悪魔が腕を組み、ふんぞり返っている黒山羊に対して体当たりをし掴みかかった。
「うらぁ!!――よしっ!捕えたぞ!!皆、俺に続いて早く押さえ……あれっ!?大して抵抗も…それに身体が冷たい…まさかコイツ!?おいっ!お前ら――」
黒山羊の異変に気付いた人型上位悪魔が仲間へ向かって注意を促そうと後方へ視線を移したその時信じられない光景を目の当たりにする。
「なっ!?」
自分の後に続いた3人の上位悪魔…その全てが既に事切れ骸となり地面にボトリと落ちていく様子が見えたのだ。その骸は何か凄まじい力で吹き飛ばされたかのように頭や胴体が無残に無くなっていた。
この地獄門の間には黒山羊しか居ない…だが、ただの骸である黒山羊が攻撃を加えて来る筈は無いのだ。
この部屋には何かが居る…見えない何かが…得体のしれない恐怖に人型上位悪魔は顔を引き攣らせた。
クフフフ、怖いか?怖いじゃろうなあ♪
本来ならば少し遊んでやっても良いのじゃが、今は正体がばれる訳にはいかぬ。じゃから最初から「狂戦士」を発動させてもらうのじゃ!
見えない「魔獣」に襲われる恐怖に怯えてもっと妾を楽しませてみよ!
おっ!?更に追加で来よるな…何と!レベル92とは…最高の経験値が来たのじゃ♪
「貴様ら無事か?もう安心しろ!今から俺もさん…ギャボォ!?」
多少の時間をかけて人間界側の地獄門に上半身を乗り出した上位悪魔が声をかけようとした矢先、見えない魔獣が容赦の無い一撃を繰り出しその頭を吹き飛ばした。さらに頭のない骸を地獄門から強引に引っ張り上げて地面へ無造作に放り投げた。
更に続いて地獄門を潜り抜けようとする上位悪魔達も立て続けに見えない魔獣により呻き声すらあげる間も無く、一撃で頭を吹き飛ばされた。
「そんな…90台以上の上位悪魔を一撃だと…ここには一体何が居やがるんだ…はっ!?来るなー!ここに来ては駄目だーー!!黒山羊は裏切ってなんかいなかったんだ!こっち側に化け物が居るんだ!!だから――」
「残念~♪お主らが来る少し前に妾がここに「消音結界」を発動したのじゃ、じゃからお主の声は向こうには一切届いておらぬ。――それにしても思わぬご褒美がもらえるとはのう。まさか追加の経験値がわざわざ魔界から来てくれるとは何と予想外の吉事よ。今日はレベル93で打ち止めかと思うたが、目標のレベル100以上に到達するとは予想外じゃったの♪」
自分以外しか生者の居ない空間に無邪気に笑う小さな少女の声が響き渡った。
「この声…まさか子供か?お前は何故ここに…いや、何故こんな真似をするんだ?」
恐怖に顔を引き攣らせる人型上位悪魔が辺りを見回しながら声の主に質問をした。
「ふむ、確かにお主はどうせここで死ぬから教えてやっても良いじゃろう。妾はそこに転がっておる黒山羊とは違って優しいから教えてやろう。――簡単な話じゃ、こちらから地獄門を閉じるのが面倒じゃから「糞野郎」をおちょくり倒した挙句に怒らせて門を破壊させるように仕向ける事に決めたのじゃ。まあ、お主らを巻き込むようにしておるのは単純に嫌がらせなのじゃ、エクロン王国に生まれた事を呪うが良い。」
「只の嫌がらせ…だと?――たったそれだけの為に数十万の者達を巻き込むつもりか!」
その発言に唖然としアスモに対して怨嗟の声を上げる。
「たったそれだけじゃと?違うの、「糞野郎」をおちょくれる上にエクロン王国を弱体化させる…そして何よりも妾が楽しいからに決まっておろう。馬鹿なのかお主は?――まあ良い、もう死ね。さらばじゃ♪」
「――ちょ、待って!助け…でぇえ!?」
命乞いする暇さえ与えずに最後の1人も一撃のもとに屠り去る。
見えない魔獣の攻撃により人間界へ送り込まれた7人の上位悪魔達はあっという間に全滅してしまった――
「よしっ!レベルアップなのじゃ♪ハァ~♡今日だけでレベルが33も上がるとは…クフフフフフフ、アハハハハハハハ!!やった!やったぞ!これで最高位魔法が使えるようになったのじゃ!!「流星雨」や強力な三重合成魔法などの広範囲攻撃魔法を使う事でこれからはもっと簡単に経験値を得る事が出来るのじゃ!――ん?そういえば経験値の追加がもう来ぬな…一体どうしたと―――あはぁ♡やっと来おったなぁ♪」
地獄門の向こうに見える小さな存在を見つけてアスモは嬉しそうに微笑みながら黒山羊の体勢を立て直して闘いの準備を整える――
「奴らを送り込んでから数分は経過している…向こうは一体どうなっているのだ?早くしないと…おぉ!?――――ひいぃっ!?陛下!!!」
苛立ちと困惑の表情を浮かべていたアンドラスがいつの間にか現れたその存在に気付いた瞬間硬直し、その表情が一瞬にして青ざめる。
「「「………」」」
6人の魔神達もその存在を目にした途端に口を噤みその場で一斉に跪く。
アンドラスを含め全員が死刑宣告を受けたような罪人のように恐怖に震えていた。
その視界の先には宙で羽ばたく体長5センチほどの真っ黒な蠅のような蟲が威嚇するように大きな顎をガチガチと鳴らしながら燃えるような真っ赤な目で地獄門の方を見つめていたのだ。
それは只の蟲などでは無い。国民を監視する為にエクロン王国を統べる魔神王が国中に送り込んだ万を軽く超える分身の一匹である。
この分身が得た情報は全て魔神王の元へ記憶として送られる。つまりこの場の出来事の殆どが既に伝達され露見しているのである。
アスモの卑劣な謀略により嵌められたとは言え、自分達に弁解の余地があるとは思えなかった。実際に王に対しての不満や後ろ暗い事があるのは事実でもあったからだ。
そして冷酷無比で残忍な暴君と呼ばれる自国の王の恐ろしさは十分に理解している。故にアンドラス達は生きる事を諦めた。
クフフフフ、来おったな「暴食の王」ベルゼブブよ!
分身などでは無く本体もすぐに王都フィリスティアから引っ張り出してやるのじゃ!――さあ、2万4千年ぶりの勝負の開始と行こうぞ!!
魔界と人間界の狭間……地獄門を挟んで禁じられていた魔神王同士の壮絶?な戦いが今、開幕する――




