第41話 初めてのダンジョン その⑥地獄門攻防戦
アスモとの戦闘を終え地獄門の前まで戻り休もうとしたその時、黒山羊は背後の異変に気づいて振り返り驚愕する。
「ば、馬鹿な…心臓どころか頭まで潰したのだぞ…生きている筈が無い…しかも何だ、あの異常な再生能力は…」
その視線の先には死んだ筈の少女の下半身が立ち上がり、その断面から骨格、内臓、筋肉が形成され失った筈の上半身ががありえない速度で再生されていく姿がその瞳に映し出されたのだ。
「さっきは痛かったぞ、よくも私を殺してくれたな。許さないから。」
まるで何事も無かったのように完全に元通りになったアスモがそう呟き、恨めしそうな顔をしながら黒山羊を睨み付ける。
「――まれ…黙れ…黙れぇー!!生意気な小娘が!どうやって生き返ったかは知らんがもう一度殺してやる!!」
黒山羊が吼え再びアスモに襲い掛かった。凄まじいスピードで距離を詰め、その大きな両手でアスモを掴みその小さな四肢を引き千切る。そして手足を失い地面に転がるアスモ目掛けて強烈な拳を叩き込んだ。何度も何度も…アスモの体が原形を留めなくなるまで――
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辺り一面にはアスモの小さな四肢と細かい肉片になった胴体と頭の残骸が血の海の中で散らばっていた。
「ハァ、ハァ、ハァ…ここまでやれば流石に…いい゛!?」
黒山羊が顔を歪め再び驚愕する。原形を留めぬほどバラバラにしたアスモがまた再生したのだ。…だが先程とは違い一人では無かった。バラバラになった部分が繋がるのでは無く、一つ一つの肉片がアスモの形を模り増殖していったのだ。その数は数十体はくだらなかった。
「「「「また私を殺したな。絶対許さない。」」」」
全てのアスモが憎しみに満ちた瞳で黒山羊を睨みつけ一斉にそう告げた。
「――アアアアア゛ア゛ア゛!!!死ね、死ね、死ねぇえ!!何度でも、何度でも殺してやるぅ!!殺し尽くしてやる!!」
突然発狂したように黒山羊が暴れ回り、全てのアスモが死に絶えるまで力の限り蹂躪し殺し尽くす。
引き裂き、潰し、焼き尽くす。――そして巨大な蹄で足元に転がる死体を何度も踏みつけ擂り潰した。
そこにはまさに地獄絵図とも言えるような凄惨な光景が広がっていた。辺り一面が燃えさかり肉片も残らな程に擂り潰された少女の残骸…そして血の大海と言っても過言ではないほどの夥しい量の鮮血が地面を赤く染め上げていた。
その光景を確認した黒山羊は終わった事に安堵して顔を少し緩ませた。――だが本当の地獄は終わってなどいなかったのだ。
「ふぅ、ふぅ…これだけ潰せば再生など出来ま――ひぃいい!?」
黒山羊が足元を見るなり震え始め恐怖に顔を歪めた。そこにはまるで血の大海に引き摺り込もうとしているかのように無数の手が黒山羊の足に絡み付いて来たのだ。その無数の手が全身を這い上がりながらアスモを模り、黒山羊に爪を立てその体を引き裂いていく。
血溜りの中から凄まじいスピードで再生と増殖を繰り返すアスモ達が黒山羊の全身を覆い尽くし動きを奪うまで、さほど時間は掛からなかった。
地獄門の間に黒山羊の叫喚の声だけが響いた――
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「ふーん、成程のう。「糞野郎」め随分と手の込んだ事を思いついたものじゃな。――しかし妾が黙って見過ごすとでも思っておるのか。貴様の野望はここで妾が邪魔…いや、打ち砕いてやるのじゃ!あの「糞野郎」の悔しがる面が目に浮かぶのじゃ♪クフフフフ…」
小さな翼をパタパタとはためかせながら宙に浮き、呻き声を上げながらも直立したまま動かない黒山羊から「記憶閲覧」により情報を引き出したアスモが思案を巡らせ不敵な笑みを浮かべていた。
「う…うが…ぐああ……あがが…」
よく見ると呻き声を上げる黒山羊が体中傷だらけの状態で全身から血を流していた。…いや、現在も引き裂かれたような傷が新しく増えていく。…しかし不可解なのは黒山羊に攻撃を加える者はここには誰も居ないと言う事である。
「こやつの記憶からある程度の情報も得られた事じゃし、そろそろ遊ぶとするか――おっと、いかん!このままでは死んでしまうのじゃ、こ奴は妾が直接仕留める予定なのじゃからな。」
アスモは指をパチンと鳴らし魔法を解除した。すると全身血まみれで疲れ切った表情の黒山羊が地に膝をつき苦しげに呻る。
「はな、離せ!止めろー!!助け―――はっ!?奴らが消えた?夢?いや、体中に奴らにつけられた傷がある……ハァ、ハァ、ハァ…一体、どう言うことなんだ?」
幻覚から引き戻された黒山羊が先程の理解不能な出来事について戸惑っていた。
「ふむ、大した事はなさそうじゃな。しかし、精神耐性があると言うた割に簡単にかかりおるとは情けない奴め、もう少しで死んでしまうところじゃったぞ、お主が死んでしもうたら妾が楽しめぬではないか!――大体、お主が自慢げに言いおったから少し強めに魔法をかけたらこの体たらく…本当に情間抜けな奴じゃのう。妾の「幻覚」は通常のものとは格が違うのじゃ。夢の中で受けた錯覚を脳に信じ込ませる事で幻痛としてでは無く、そのまま現実の傷として反映させてしまう故、お主が怪我をしておるのもその所為なのじゃ。つまり夢の中で死ねば現実でも死んでしまうという事じゃな。――まあ、本当ならば用事が済むまで気持ちの良い夢を見させてやるつもりじゃったが、お主が妾を馬鹿にしたような素振りをしおったから悪夢に切り替えたのじゃ、自業自得じゃと思うがよい。」
膝をつく黒山羊を見下ろしながらその不甲斐無さを注意する。
「俺に精神魔法をかけただと…ふざけるな!!お前程度の魔法が俺に効くなどあり得ぬ!!」
黒山羊は信じられないと言った表情でアスモを見上げ反論した。
「ほーう、では何故お主は幻術にかかっておったのじゃ?」
「そ、それは……そうだ!何かアイテムでも使ったのではないのか!人間界には魔道具と言うものがあると聞いた事があるぞ!!」
「精神魔法は効かない」と豪語した手前、無様に「幻覚」にかかった事を認めたく無い黒山羊は適当な理由をつけて苦し紛れの反論を行う。
「そのような魔道具があるかは知らぬが、妾の職能の前には精神耐性など無意味なのじゃ。もう既にお主の記憶からしっかりと情報はもらったのじゃ。――ちなみにお主の主人のアンドラスとか言う悪魔王のしょっぱい呪縛魔法も解いておいたから秘密がばれても死ぬ事はもう無いのじゃ、感謝するが良い。」
アスモにとっては当たり前だが黒山羊にとっては信じられない言葉を簡単に言い放った。
「ふざけるな!俺の記憶を覗いたなどといい加減な事を抜かすなよ小娘が!職能と言うだけでもおこがましいほど脆弱な力しか持たぬ貴様に何が出来ると言うのだ!――しかも悪魔王であらせられるアンドラス様を侮辱するとは許される事では無いぞ!!」
アスモの発言に自分だけでは無く主人までも馬鹿にされたと思い込んだ黒山羊は激昂し敵意を向けた。
「妾の職能?…ああ、表面上のか……ならば信じられぬというのも仕方あるまい。――じゃが、妾の「幻覚」に実際にかかったお主が言うても何の説得力も無いと思うのじゃがの。――良かろう。では貴様の記憶を視た証拠として貴様らの「王」の計画とやらを話してやるのじゃ。ここの地獄門は「五芒星」と「六芒星」の魔方陣を重ね合わせた11ある座標の1つじゃ、つまり11全ての地獄門を下位魔神が通れるぐらいまで広げた後に2つの魔方陣を発動させて全ての座標からエネルギーを送る事によりその中心に上位以上の魔神が通る事が出来る巨大な地獄門を構築させる為の布石みたいじゃのう。そしてこの計画を考えた愚かな「糞野郎」の正体こそトロメーア大陸、エクロン王国の国王にしてゾディアック連合12大魔王―――」
「だ、黙れえぇぇー!!!」
アスモの言葉を遮るかのように怒り狂った黒山羊が襲い掛かってきた。
大きな手を伸ばして振り下ろされた黒山羊の強烈な一撃を容易く躱してバックステップをしながら距離を取る。
「ほぅ、中々鋭い攻撃ではないか。そうじゃ、もっと殺意を込めて打ち込んで来るのじゃ。そうでなくては面白く無いからのう♪――それにしても何を焦っておるのじゃ?お主の呪縛は解いておると言うたではないか、頭は破裂せぬから安心してかかって来るが良い。――まあ、秘密がばれた以上、妾を殺さぬ限りお主の助かる道はもう無いのじゃ、本気で来なければ大変な事になるのう♪クフフフフ…」
不敵な笑みを浮かべながらアスモは黒山羊を挑発した。
「貴様如き…本気を出すまでも無いわ!!「爆炎の息吹」!!」
「阿保め、「疾風の刃」!」
黒山羊から発せられた業火をアスモの強烈な疾風が簡単に押し返す。そして混ざり合った炎と風が紅蓮の竜巻となって黒山羊を包み込む。
「そんな馬鹿な!?――ぎいやぁぁぁーー!!!」
己の放った炎に焼かれ、疾風の刃により全身を切り裂かれながら黒山羊は叫喚の声を上げる。
燃えさかる炎と黒煙に視界を遮られながらもその場に崩れ落ちていく黒山羊の影がうっすらとアスモの瞳に映った。
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「…はぁ、はぁ…がはっ…ぐふっ、はぁ……」
炎が鎮火し煙が晴れて視界が開けていく。その場には全身に火傷と裂傷が走り全身から夥しい血を流している黒山羊が倒れている。そしてその周辺には肉を焦がす独特な嫌な匂いが充満していた。
「愚か者め!本気で来いと言った筈じゃぞ。――次は容赦せず殺すから覚悟を決めて本気で来るのじゃぞ。「完全なる治癒」」
息荒く呻く黒山羊を見下しながら最後通告を行い「完全なる治癒」で一瞬にして黒山羊の傷を治療した。
「――っは!?傷が治っただと…貴様、一体どう言うつもりだ?不意を突いたとは言え先程の攻撃で俺に止めを刺す事も出来た筈だぞ!…その機会を自ら棒に振るとは貴様こそ愚か者よ!」
「はあ!?この期に及んでまだ妾を侮っておるのか?――もう良いのじゃ、お主が阿呆なのは理解出来たから簡単に説明だけしておくぞ。今から妾はお主を殺す。但しハンデとして止めの時以外に職能と魔法は使わぬ。じゃが、それ以外の手加減は一切せぬから覚悟しておくが良い。――では開始じゃ。」
開始の合図と共に一瞬にして黒山羊の懐まで距離を詰めたアスモがその腹を目掛けて右拳を突き上げ放った。不意を突かれた黒山羊は避ける事を諦めて肚に力を籠め腹筋を固めて迎え撃つ。
「その程度の攻撃、先程喰らったが大した事など無いわ――ぶべっ!?ぐぼろおぉぉおお!!」
放たれた右拳は黒山羊の体にめり込み、その巨体がくの字に折れ曲がった。そして大量の血を吐き、大地に膝を着いて悶絶している。どうやら一撃で内臓が損傷したようだ。
「どうじゃ、その程度の攻撃とやらは痛いじゃろう?いつまでも「幻覚」と現実を一緒に混同しては駄目ではないか。」
アスモは膝をついた黒山羊の大きな頭を両手掴み持ち上げニヤリと嗤う。
「――ま、待て、まだこちらの体制が整って無い――」
「阿呆が、お主の準備など知らぬのじゃ、もう待たぬと先程言うたであろう。それから戦闘中に喋ると大変な事になるぞ♪ほれっ!」
黒山羊の言葉に耳を傾ける事も無く、嬉々とした表情をしながら黒山羊の頭を掴んだままの状態でその顎目掛けて右膝を放つ。
グシャッ!と言う音で顎が砕け、ブチッ!と言う音で黒山羊の舌が千切れ飛ぶ。
「グヒュ~~~!?――ヒ…ヒヒャハ…ヒョフフォ…」
舌を吹き飛ばされ、まともに話すことが出来なくなった状態になりながらも黒山羊はアスモを睨みつけ口から大量の血を流しながら怨嗟の声をあげる。
「ん~?何か言ったかのう♪あっ、舌が無ければうまく話せんようじゃな。残念じゃのう♪――お主程度では瞬間再生など不可能じゃ、これでもう下らぬ事を話す事も出来まい。――言葉など要らぬ、死力を尽くして抵抗してみせよ!」
憎しみを込めて睨みつけてくる黒山羊を小馬鹿にしたように笑いながら挑発をする。
「………クヒョヒャヒヒャー!!!」
その挑発に怒り狂ったようにアスモに対して丸太のように太い強靭な腕を振るい怒涛の攻撃を繰り出した。
「ほっ、ほっ、おっ、そうじゃ♪もっと攻撃して来ぬか!――うーむ、スピードは……落第点じゃな。連撃とはこうやるのじゃ!」
直撃すれば巨岩をも軽く粉砕するであろう黒山羊から繰り出される攻撃をアスモは楽しそうに全て躱していく。そして黒山羊の攻撃にタイミングを合わせてカウンターのように連撃を叩き込んだ。
「――!?ウビュ、ギュ…ギャギュッ…~~!?」
凄まじいスピードで繰り出されるアスモの連撃が黒山羊の体に叩き込まれていく。膝をつき倒れれば楽になれるかもしれなかったが、絶妙な間合いで放たれる数多の拳が倒れる事を許さない。そして黒山羊に無慈悲な拳の雨が降り注いだ。――その攻撃が止んだ時、黒山羊の体はボロボロになり、立っている事がやっとの状態であった。
「ふむ、中々耐えるではないか。耐久力は及第点じゃな…――さて、次はどうしようか?のう♪」
楽しそうに嗤いながらそう呟きアスモは黒山羊へ向けてゆっくりと近づいていく。
「~~~!!」
先程とは全く逆の展開に狼狽し、アスモの重圧に気圧され、恐怖を覚えた黒山羊は体を震わしながらズルズルと後ずさった。
「こらこら、逃げ腰では駄目じゃぞ。それとも、もう終いか?――それならばお主には死を――」
「ヒャヘリュヒャ!クヒョヒャヒ!!!」
追いつめられ窮鼠のような状態になった黒山羊は覚悟を決め、その大きな腕を広げて襲いかかった。そして大きな掌でアスモの小さな掌を掴み手四つの状態へと持ち込んだ。
「おっ♪今度は膂力を試したいのじゃな?面白い、受けて立つのじゃ。――但し、これが最後だと思って死ぬ気で力を込めてみよ。」
その挑戦に嬉しそうな顔をして黒山羊を見上げて微笑んだ。
「……ウギュギュ…――ビャヒャヒャ…ウビョヒャヒュ…」
黒山羊は驚愕し顔を引きつらせる。両手に渾身の力を籠めて押し潰そうとしたがアスモはビクともしなかったのだ。
「この程度か…その巨躯にものを言わせて上から押し込めばどうにかなるとでも思うたのか?何と愚かな。落第じゃ…と言いたい所じゃが、お主はついておらぬのう。何せ妾に膂力で勝ったのはサタンのみ。お主の「王」も昔、素手でボコボコにしてやった事もあるのじゃぞ。この状態でも多少のレベル差の相手に負ける訳が無いのじゃ!!」
小さな掌にギュッと力を入れて黒山羊の掌を握り潰した。凄まじい握力で潰された指が原形を留めないほどにグチャグチャになる。
更に掌を掴んだままの状態で苦痛に顔を歪める黒山羊の両腕を力任せに引っ張り捥ぎ取った。そしてポイッと千切れた腕を無造作に投げ捨てる。
「!?ヒューーゥ………ギュヒャアアアァァァア゛ーーー!!!」
最初は自分に起こっている非現実的な状況に思考が追い付かなかった黒山羊も宙を舞う引き千切られた自分の両腕と体から溢れ出す大量の血を見て正気に戻った。そして突然襲い掛かってきた激痛により断末魔の叫びを上げる。
「どうした?お手手が無くなって、もう降参かのう?――しかし、ここで負けを認めたらお主の一族はどうなると思う?確かお主の一族はエクロン王国の北部にのみ生息しておる固有種じゃったな。…例えば妾が地獄門からこの状況の事を叫ぶだけでお主の言う「清浄にして偉大なる王」とやらが確実にお主の一族を女、子供関係無く一匹残らずこの世から消すじゃろうなぁ♪エクロン王国の国民であるならば、お主もあ奴の気性ぐらいは理解しておるじゃろう…諦めるか?それとも助けを呼びに地獄門まで逃げてみるか?まあ、あのサイズではお主が完全に通り抜けるまでに数分は掛かるじゃろうな。―――それから「使い魔」を隠れて救援要請に使おうとしても無駄じゃぞ!「雷の槍」!」
アスモが魔法を発動させると右手に青白い稲妻を纏った光の槍が錬成された。そしてその槍を振りかぶり地獄門の方へ向かって移動する小さな黒い影に目掛けて投擲した。
「ピギュイイィィーーーー!!!」
放たれた槍は流星の如く一直線に飛んで行き、地獄門へ向かおうとしていた黒い影…黒山羊の「使い魔」を貫き消滅させた。
「残念でした~♪お主も「使い魔」も地獄門を通過する事は許さぬ。妾の存在があの「糞野郎」にばれてはいかぬからのう。どの道、お主には妾の経験値としてここで死んでもらうのは確定しておるのじゃ。まあ、万が一勝てればお主の一族も助かるのじゃがのう?――ほれほれ、頑張ってみよ。早うせぬと失血死するやもしれんぞ♪」
嫌らしい笑いを浮かべながら黒山羊を見下した後、更に追い詰めるように一族の生命の危機を強調し挑発した。
「――フゥー、フゥー、フゥー、…――ハァ!!!」
その言葉を聞き、覚悟を決めた黒山羊がバックステップで距離を取り身を屈め構える。そして膝を大きく曲げ大地を強く蹴り飛び上がり床や壁、天井などを蹴り上げて更に加速していき弾丸のようなスピードでアスモ目掛けて渾身の力を込め突撃を開始した。
黒山羊の鋭く尖った角が標的であるアスモを撃ち抜こうと一直線に向かってきた。
「ふんっ!」
アスモはその場から微動だにせず迎え撃つ。そして突進してくる黒山羊の角を両手で掴んだ。その凄まじい衝撃により数メートル程後ずさったがそれ以降は黒山羊が力を込めようが、びくともしなかった。
「――!?」
渾身の一撃を簡単に止められた事により黒山羊は驚愕し唖然とするしか無かった。
「最後の切り札が自慢の脚力に頼っての只の突進とは何の捻りも無い愚行じゃの。せめて翼を利用して軌道でも変えれば少しは楽しめたかもしれぬのじゃがのう。まあ、そこまではお主の低能な脳みそでは思いつかなかったようじゃな。これでは避ける事も撃ち落とす事も――そしてこのように簡単に掴む事も可能じゃぞ。まあ、身体能力のみで戦ったとは言え、少しは楽しめたか…――では予定通りお主には妾の経験値となってもらうのじゃ♪職能「狂戦士」発動。技能LV2「魔獣」行使。」
アスモは「狂戦士」を発動した。先程の悪魔達との戦闘で技能のレベルが上がった事により「猛獣」の時よりも肉体強化が大幅に向上していた。四肢の筋肉が少し肥大し身体から赤い闘気が立ち込めて来る。そして金色の瞳の瞳孔が獣の様に鋭くなり更に強膜の部分が真っ赤に染まっていった。
「では、さらばじゃ♪」
微笑みながらそう告げるとアスモは黒山羊の角を掴んだままの状態で首を捻じ曲げ引き千切った。胴体からは大量の血が噴き出し、辺り一面を血の海に変える。…まるで木の実でも捥ぐかのように軽く捻っただけで強靭な筋肉で覆われた黒山羊の太い首からその頭が簡単に取れてしまったのである。黒山羊は喚く事も断末魔の叫びを上げる事も無く絶命した。
そしてアスモの胸にある魔法刻印に大量の熱が伝わる――
「はぁ♪何とも心地の良い事じゃ♡レベル93になってしもうたぞ。一気に8も上がるとは最高じゃな♪――死人に褒美はやれぬが褒めて使わすのじゃ。妾の糧となった事を誇りに思うが良い。クフフフフフ♪」
そしてアスモは右手に掴んでいた黒山羊の頭を無造作に投げ捨て地獄門の方に向けて足を踏み出した――
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「うーむ、それにしても中々の出来じゃな。良く安定しておるではないか。これは破壊するのも骨が折れそうじゃな。さて、どうしたものかの…」
部屋の中央にある巨大な地獄門を見上げてアスモが対処方法を思案していた。
開いた側である魔界からならば破壊出来るが、こちらの人間界側の門から閉じる場合は破壊では無く、ゲートに魔力を送り込んで次元の歪みを修復せねばならぬ。しかもこれだけの大きさの門を閉じるのは今の妾では少し時間が掛かりそうじゃな…
しかもその間に邪魔が入らぬとも限らぬ…いや、国家をあげての計画としてやっておる以上、確実に邪魔が入るじゃろうな。うーん、面倒じゃ…
「よしっ、取り敢えず向こうの様子を見てみるのじゃ、状況確認せねば対策を練る事も出来ぬからのう。」
そう呟きアスモは「不可視の外套」に念じて姿を周りの景色に擬態させた。
「そうじゃ、一応「色欲」で効果を上げておかねばならんの。多分向こうには上位以上の魔神と言うか確実に「糞野郎」の分身がおる筈じゃからな。妾の存在が感知されては不味いのじゃ。」
更に対策として「色欲」を使って自分の存在を感知出来ないように対策を施した。
「よしっ!では調査開始なのじゃ♪」
小さな翼をパタパタとはためかせながら中空にある地獄門の中心から感知魔法を使い門の向こうの確認を行う。
魔界側の地獄門の位置は上空100メートル程の高さに展開され、その周りを6人の魔神が取り囲み魔力を送っていた。
そして地獄門の向こうである魔界の景色―――目の前に広がるのは美しく広大な大地…などでは無く、薄暗く淀んだ空に草木は枯れ果て、岩山と荒野の広がる不毛の大地であった。
その視界の更に先には大きな街が見える。その大きさはロマリア公国の王都よりも遥かに広い石造りの建物がひしめき合う巨大な街であった。そこに住む人口は数十万は下らないであろう。まさに都市と言っても過言ではない規模であった。
だが、そこに住む民達には活気も無く、無邪気に走り回る子供の姿さえ見当たら無かった。その街の様子はまるで大量の囚人を閉じ込めておく為の巨大な収容所のように思えた。
相変わらず痩せ細った土地に何も無い国じゃのう…まさに不毛の地とはこの事じゃな。妾の美しく豊かな国とは大違いじゃ。それに住民共も辛気臭い顔をしておる。
確かに魔神王はその圧倒的な力を誇示して己の好きなように国を治めておる。じゃが、時には寛大なる心で情けや容赦を与えてやる必要があるのじゃ、民が無くては国は成り立たぬのからのう。――じゃが、この国の「王」は民を蔑ろにして恐怖と力で押さえつけ、逆らう者は全て皆殺し…恐怖統治のみで国を治める暴君でしか無い愚か者じゃ。力のある魔神王で無ければとうの昔にクーデターでも起こされておるぞ。
まあ、あの愚か者と妾を比較する事自体が間違いなのじゃ。仕方あるまい、統治しておる「王」の格が違い過ぎるのじゃからな。
この国の民に同情はするのじゃ。まあ、妾の民でもない奴らの事など、正直どうでも良いのじゃがな。
所詮、連合とは言っても仲良しごっこの一枚岩ではないのじゃ。――他国の…特に「糞野郎」の劣等国家の将来など妾には関係ないのじゃ。寧ろ国力が低下してくれるだけでありがたい事じゃ、どんどん衰退していくがよい♪クフフフフ…
おっと、いかんいかん。調査の続きじゃったな…ふむ、地獄門の周りにおる魔神6名の内訳は上位が2、中位が4じゃな。こ奴らが操作魔法で地獄門を制御しておるようじゃな。……少々、厄介じゃな。
この地獄門は先程仕留めた黒山羊ぐらいの上位悪魔ならばギリギリ通る事は出来るが魔神は通る事は出来ぬ。じゃが、妾が地獄門をこちら側から閉じようとしても必ず邪魔が入るじゃろうな。
確実に上位以上の存在が邪魔を――ん?上位以上…んん?……おおっ!?そうじゃ!良い事を思いついたのじゃ!!こちら側からは破壊出来ぬがあちら側からならば破壊は可能なのじゃ。…ならば「糞野郎」に直接地獄門を破壊させるように仕向ければ良いのじゃ。
どうせあ奴の事じゃ、自分の国内の至るところに「分身」を飛ばしておる筈じゃからな。すぐに捕まるじゃろうて。クフフフ…
それにしても「糞野郎」の分際で「清浄にして偉大なる王」と民に呼ばせておるとは…片腹痛いどころかあ奴の頭の中も相当痛いようじゃな…
魔界では魔神王同士の戦いは禁止されておる。じゃが、妾の居るここは人間界…そして「色欲の王」だとばれなければ何をしても無問題なのじゃ!
ばれたら確実に国際問題に発展、更にサタンの奴にブン殴られるじゃろうが妾には「色欲」がある故、隠密裏に行う限りは絶対にばれる事は無いのじゃ。
ならば存分にあの「糞野郎」に嫌がらせが出来るのう♪昔は物理的にボコボコにしてやったが、今回は精神的にボコボコにしてやるのじゃ!
既にあの単細胞の悔しがる面が脳裏に浮かんでしまうのじゃ、ウケケケケケケ♪
――さーて、お楽しみの為にもしっかりと準備をせねばいかんのう♪
地獄門を破壊する為に同じゾディアック連合の魔神王との直接対決?を決めたアスモは地面に転がる黒山羊の頭を見つめてニヤリと嗤った――




