第37話 初めてのダンジョン その②地下迷宮調査開始
「――で、「S級依頼」の内容とは何なのじゃ!早う話さぬか!」
アスモがルゴスに依頼内容について話すように詰め寄る。
「りょ、了解しました。アスモ様、少し落ち着いてください。―――では、お話致します。実は昨日――――」
ルゴスは昨日報告を受けたジグルズ遺跡の地下迷宮調査隊が壊滅した件についての経緯をアスモに行った―
「――ふむ、成程のう…中位悪魔が最低でも十数体…下位悪魔に至っては推定100以上とは……」
アスモがその報告を聞き何やら考え込んでいた。
「…はい、正直最悪とも言える状況なのです。実際遺跡内では他の怪物に録に遭遇する事無く最深部に行けたそうです。多分、他の怪物達も地下迷宮から逃げ出したか悪魔達の餌食になったものと思われます。――最近、遺跡周辺の怪物が急激に増えてきたと報告があったのもその事が原因かと。元々公国からの依頼でその事を調査させる為の地下迷宮調査だったのですが……そして最も恐ろしいのは餌となる怪物達が居なくなった時に地下迷宮から悪魔達が出てきたらロマリア公国はもちろん、近隣諸国にとっても最悪の事態になるやもしれません。ですからアスモ様にこの依頼をお受け頂きたいと思ったのですが…やはり難しいでしょうか?」
ルゴスは考え込んでいるアスモを見てやはり彼女でも無理なのかと半ば諦めかけていたその時――
「良し!では今すぐ妾はそのジグルズ遺跡の地下迷宮とやらに行ってくるのじゃ!早うそこの場所を妾に教えるのじゃ!!クフフフフ、悪魔が100体以上か…最高じゃ♪最高なのじゃ♪」
アスモは満面の笑みを浮かべ嬉々とした声でルゴスに返事をした。
ルゴスは内心驚いていた。通常であれば断るであろう最悪な事態にも関わらず、その少女は実に嬉しそうな表情をし笑っていたのだから。
「…本当にお受け頂けるのですか?――ありがとうございます!!しかし今すぐは無理です。残りのA級冒険者3名を念話にて緊急招集しましたが全員集まるまで3日はかかります。3日後に会議を行いパーティーの再編成と打ち合わせを――」
「はぁ!?何を言うておるのじゃお主は?妾は一人で行くのじゃ、スティングとか言う雑魚と大して変わらぬ実力しか無い者などと一緒に行ったところで妾の邪魔にしかならぬわ。」
ルゴスの提案をアスモが途中で遮り「必要ない」と切って捨てる。
「アスモ殿、確かに貴女に倒されはしたが、ローデンスの剣の腕前は公国でも屈指の実力者ですぞ。流石に言い過ぎではないのかな。」
ギルド長モレッツが話に割り込みアスモを諫める。
「雑魚を雑魚と言って何が悪いのじゃ!あ奴は妾に一太刀すら抜く事も出来ずに無様に負けおったのじゃぞ。それに元より妾は誰とも組む気など無いのじゃ!」
「そんな馬鹿な……」
その言葉を聞いてギルド長だけでなくその場にいた全員が驚愕した。
「本当にローデンスが剣を抜く事すら出来ずに……しかしそれでも一人では危険です。公国最強の冒険者「炎王」バルドルまで敗れたのです。私は昨日、アスモ様が破壊した件の倉庫を確認しました。確かにあの状況を見る限りアスモ様が使用された火属性高位魔法「爆炎」の威力は確かに凄まじいものと思われます。しかしながら「炎王」バルドルもアスモ様の威力には少し劣りますが「爆炎」を使いこなせる火属性魔法のスペシャリストでした。…その彼でも地下迷宮の悪魔たちには為す術が無かったのです。やはり一人では危険すぎます!――これ以上A級冒険者を…現在のロマリア公国最強の冒険者である貴女まで失う訳にはいかないのです!どうかご再考ください!!」
ルゴスが必死にアスモを引き留めようと説得した。
「―――クフフ…フハハハハハ!!笑わせるなよ人間…妾とその「炎王」と言うゴミを一緒にするでない。良いか?よく聞け、妾が昨日放った「爆炎」は他の者達が怪我をせぬ様に気を使って威力を抑えたのじゃ、精々3割程度の威力しか出しておらぬわ。ちなみに無詠唱でじゃぞ。ならばそれ以下の魔法しか使えぬゴミが最強の冒険者と言うのならばそれ以下のゴミが付いて来たところで妾の足手纏いにしかならぬのは自明の理ではないのか?」
アスモはルゴスの言葉に「ふざけるな」と言うような感じで吐き捨てるようにそう言い返した。
「3割……しかも無詠唱で……無詠唱!?そんな馬鹿な!そんな訳が無い!!いくら「高位魔導士」の職能を持っていたとしてもそんな出鱈目な事が出来る訳が無い……この様な事が出来るのは「最高位魔導士」以上だぞ…」
ルゴスがアスモの耳を疑う発言に混乱しブツブツと呟いていた。
「もしかしてアスモ殿は一度職能を習得してから職能のクラスチェンジをしていないのでは?」
ギルド長モレッツがアスモに質問した。
「クラスチェンジ?……何じゃそれは?」
アスモは初めて耳にする言葉に小首を傾げる。
「成程、やはりそうであったか、では説明しましょう。会得した職能はレベルや使用出来る技能、魔法によって教会で儀式を行いクラスチェンジする事が出来るのです。例えば「高位魔導士」ならば「最高位魔導士」に「魔法剣士」ならば「暗黒騎士」や「聖騎士」などと言ったところですな。」
モレッツが納得のいったような表情でアスモに職能のクラスアップについての説明をした。
「―――そ、そうか!それならば納得が出来る。確か「完全なる治癒」を一人で使ったと言う報告もあった。あれは通常ならば「高位神官(ハイ・プリ―スト)」が数人がかりで行う儀式魔法…単体で行うならば「司教」以上の力が必要の筈…だとするとアスモ様は一体どれ程の実力を持っているのだ?」
ルゴスは半信半疑に思いながらも「この少女ならばそれも可能なのではないか」と自分に言い聞かせて納得する事にした。
しかし役員達の中には訝しげに眉を顰め、アスモの発言に対して疑問を口にする者もいた。
「何じゃ、まだ信じられぬ者が居るようじゃな。――仕方あるまい、良い物を見せてやろう二重合成魔法「虹色の治癒光」」
アスモが左右の手に魔方陣を展開しそれを一つに融合させて二重合成魔法を発動させた―
するとアスモを中心に七色の光が部屋全体を包み込んだ。それはまるでオーロラのように神秘的な光であり、その光を浴びた全ての者の身体の痛みや疲労どころか心労さえも回復していく。更には体の芯からエネルギーが湧き上がってきたのだ。そして全員がその心地よい光を浴び恍惚の表情を浮かべていた。
その魔法は「虹色の治癒光」身体的な治癒だけではなく同時に精神や能力異常まで瞬時に回復する事が出来る高位治癒魔法の一種である。
但し、高位魔法とはいっても「高位魔導士」程度では絶対に使用する事は出来ない。使いこなすのは最低でも「最高位魔導士」の職能を習得出来るレベルの者しか使えないのだ。
第一、二重合成魔法のような合成魔法を使える者自体が非常に稀でありロマリア公国でこれを使えるものは存在しないのだ。
「どうじゃ、これで納得出来たか?――まだ納得出来ぬと言うならば「破砕嵐撃波」でもぶっ放してやろうか?まあ、その時はこのギルドとこのあたり一帯が消し飛ぶ事になるがどうするのじゃ?」
「いえいえいえいえ!!アスモ様の実力は先程の魔法で十分わかりました!…当方共が不快な思いをさせてしまい大変申し訳ありませんでした。何卒ご容赦を。」
年端もいかぬ少女が目の前で起こした奇跡とも言える魔法を体感した役員全てがアスモに頭を下げ謝意を述べた。
「フハハハハ、分ればよいのじゃ!これで妾に供など必要無い事が主らには理解出来た筈じゃな?」
己に敬意を払い謝罪の言葉を述べる役員達を見て気分を良くしたアスモは高らかに笑った。
「…これは間違いなく「二重合成魔法」…まさかその若さで使用できる者が居るとは…やはりアスモ殿は確実に「最高位魔導士」以上の力の持ち主、しかも「剣豪」であるローデンスを寄せ付けないほどの体技まで使えるとは…確かにアスモ殿の言う通り他の3人では足手纏いになるやもしれませんな。」
ギルド長モレッツもアスモの実力を目の当たりにし先程の言い分に納得したようだ。
「確かに合成魔法を使える者はこの国には居ませんからね。同じ高位魔法と言っても通常のものとは威力も使用難度も桁が違いますからね。それを使いこなせるとは…最早S級の領域と言っても良いレベルですね。――今回のジグルズ遺跡の地下迷宮調査の件ですが、私はアスモ様に全てをお任せしたいと思います。皆さんの意見はどうでしょうか?」
「虹色の治癒光」の光を浴び冷静さを取り戻したルゴスも改めてアスモの実力に心服し今回の依頼について全権を委ねる事に納得したようだ。
「「「我々も異論はありません。アスモ様にお任せします。」」」
そして役員達全てもルゴスに呼応しこの案件について承認した。
「よしよし、これで決まりの様じゃな♪では支配人よ、妾は今すぐ出立するからそのジグルス遺跡とやらの場所を教えてくれんか?」
「承知しました。ジグルス遺跡は王都から北へ約120キロはあります。馬車で半日以上掛かりますので直ぐに案内の者と馬車の用意を致します。では暫しお待ちください。」
ルゴスが出立の準備を整えようと席を立とうとした。
「案内も馬も必要ないのじゃ!妾は一人で行くと言うておるじゃろ。馬などよりも妾が直接走って行った方が遥かに速いのじゃ、その程度の距離ならば妾なら一刻も掛からぬ。じゃから早う場所を教えんか!」
「走ってですか?……承知しました。では直ぐに魔道具の「導きの珠」をご用意いたしますのでお待ちください。」
そう告げてルゴスは部屋を出て行った。
「「導きの珠」?何じゃそれは?」
「簡単に説明しますとその「導きの珠」に目的地を入力するとコンパスの針の様に目的地まで正確に指針を刺して案内してくれるという魔道具なのですよ。」
モレッツがアスモに魔道具に関しての説明をした。
「――成程のう、ならばそれがあれば目的の遺跡まで簡単に行けると言う事か…やはり魔道具と言うのは便利な物じゃな。」
アスモは「導きの珠」の説明を聞き、その性能について感心していた。
「そう言えばアスモ殿、遺跡調査に行く前に職能のクラスチェンジをしてみてはどうですか?何でしたら私の方から念話で教会の方に事前に連絡しておきますが、クラスチェンジしておけば確実に仕事の幅も広がり指名依頼や今回の様に国からの依頼が多数寄せられてくると思いますよ。」
モレッツが冒険者としてのアスモの今後の事を考慮して職能のクラスチェンジを行う事を薦めた。
「職能のクラスチェンジか…いや、今は必要ないのじゃ、この仕事が終わってから教会に行くとしよう。何せ今回の遺跡調査で確実にレベルアップする筈じゃからな♪その様な些事は後にしておけばよいのじゃ。――そう言えば今回の報酬の話をしておらなんだの。で、今回の報酬はいくらなのじゃ?」
悪魔が大量にいると言う報告に興奮していた為に報酬の事をすっかり忘れていたアスモがそれを思い出しモレッツに質問した。
「そうでしたな、最も重要な事をお話しせず申し訳ない。今回の報酬は当初の予定ではA級冒険者一人につき金貨50枚、B級には金貨20枚を予定しておりました。予算の総額は500枚を上限としてパーティー編成を行うつもりでした。」
モレッツが今回の依頼についての報酬の詳細をアスモに説明した。
金貨500枚…昇進前のゼフォンならば一生働いても稼ぐ事が出来ない程の金額である。
「総額で金貨500枚のう……良し、今回は妾一人で行く故に金貨300枚で手を打ってやろうではないか。何せ予算は国から出るのじゃろう?しかも主らギルドは元々の依頼主の国から貰う手数料に加えて更に金貨200枚も儲かるのじゃぞ、ならば妾の提示額は破格ではないのか?」
「金貨300枚ですか…承知しました。それでお願いします。確かに個人が受け取る報酬としては破格の金額ですが今回のS級としての依頼内容では問題無いとしか言いようがありませんからな。――但し成功報酬とさせていただきますぞ。」
モレッツが念の為と言わんばかりにその事を強調し話を詰める。
「無論構わぬのじゃ。失敗した時は金など要らんのじゃ。――まあ失敗なぞ絶対にせぬがな。」
「問題無い」と言った表情でアスモはそれを了承した。まあ、最初から失敗する事など微塵も考えてはいないのだから当然である。
「承知しました。ではアスモ殿、ジグルズ遺跡の地下迷宮調査を正式に依頼させて頂きます。何卒よろしくお願いします。」
「「宜しくお願いします。」」
報酬についての交渉が完了した事で役員達が正式にアスモに頭を下げて契約が完了した事を告げる。
「では交渉成立と言う事じゃな。全て妾に任せておくが良い。――金貨300枚か…クフフフフ♪」
アスモは今日の目的でもあった自身のレベルアップにおける「実験」も行える上に昨日を遥かに上回る破格の報酬が手に入る事に歓喜し心の中でガッツポーズを決めていた―
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「アスモ様、お待たせしました!「導きの珠」の用意が出来ました。これをお持ち頂ければ目的地まで案内を―――」
「必要ないのじゃ。先程、ギルド長より詳しく聞いたからそれの説明の必要はないのじゃ、それから報酬に関しても交渉済みなのじゃ。じゃからそれを早う妾に寄越すのじゃ。」
アスモがルゴスの言葉を遮り「導きの珠」をルゴスの手から強引に奪い取った。
「既に説明と報酬の話までですか…それは失礼しました。ではアスモ様、ジグルズ遺跡の地下迷宮調査の件よろしくお願いいたします。――但し、最初に言った通りアスモ様まで失う訳にはいきません。危険だと感じたら即座に撤退をお願いします。この様な危険な状況では逃げる事も勇気ですよ。これだけはお忘れ無くどうかお気をつけて…」
「お主は心配性じゃの、妾ならば問題ないのじゃ!今回のS級依頼を簡単にこなしてさっさとS級冒険者になるのじゃからな!――では行ってくるのじゃ♪」
そう言って今から死地へと向かう筈のアスモはまるで遊びにでも行くかのように楽しそうに部屋を退出した。役員達はその小さな体からは想像出来ないほどの自信に満ち溢れ、そして大きく見える背中を見送った―
「本当に大丈夫なんでしょうか?――それにしても合成魔法なんて私は初めて見ましたよ。見る限り実力は他のA級など相手にもならないとは思いますが…」
「確かに「二重合成魔法」を使うほどの凄まじい実力者ではあるが中位悪魔十数体以上を含む悪魔100体以上が相手となると…しかし彼女ならば…」
「やはり、恥を忍んで他国のギルドに要請をしてはどうでしょうか?ムスペル王国のS級冒険者の内1名だけでも応援を要請しては?――一応、念の為ですよ?」
「うむ、確かに次の手を考えておく必要があるか…しかしあの少女を見ていると何かやってくれそうな期待感を感じてしまうのも事実だな。」
「ええ、彼女には他者とは違う特別な何かを感じてしまいますね。もし依頼が失敗したとしても無事に帰って来ることを祈りましょう。」
アスモを見送った役員達はどう考えても絶望とも言える地下迷宮調査にたった一人で向かう事に対しての不安もあったが、各々が何かしらの期待を少女に寄せていたのも事実であった―
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応接室を出てアスモは目的地へ向かうため正面玄関ロビーを歩いていた。すると――
「「「アスモ様、A級冒険者昇格おめでとうございます!」」」
「凄いな嬢ちゃん!俺なんか10年以上やってもC級なのによ。」
「史上最速だって?しかもローデンスですら相手にならない実力者だって聞いたぜ!」
「あのー良かったら、私たちと組んで頂けませんか?一応B級なんで今回の地下迷宮調査に参加させて頂ければ…」
セレナ達受付嬢の祝辞の挨拶に加えてギルドに居るほぼ全ての冒険者達や野次馬たちがアスモを取り囲み奇異や羨望の眼差しでアスモを見つめていた。
「――祝辞を言っておるセレナ達はともかく、鬱陶しいぞお主ら!はっきり言っておくが妾は誰とも組む気は無いのじゃ、それに今から遺跡に向かうから早うそこを退くのじゃ!――妾の邪魔をするならばぶち殺すからの。良いな?」
その場にいた全員が目の前の小さな少女から発せられる威圧感に気圧され数歩後退した。
「フン、分れば良いのじゃ。――では行くとするかの。」
「あの、アスモ様。まさかお一人でジグルス遺跡の地下迷宮調査に向かわれるのですか?あと三日もあれば他のA級冒険者たちが戻って来ると聞いておりますが…」
セレナが不安げな表情をしながらアスモに質問した。
「無論一人で行くのじゃ、他の奴らなど足手纏いにしかならぬわ。妾にとっては邪魔でしかないのじゃ。」
「でも、危険です!地下迷宮には大量の悪魔たちが居ると聞きました。――もしアスモ様に何かあれば…」
その言葉にに不安を募らせ更に心配そうな表情をしてアスモを見つめていた。
「――セレナよ、お主はそう言いながらも妾ならば大丈夫だと心のどこかで期待しておるじゃろ?心配する必要など無いのじゃ。妾は今回の地下迷宮調査を簡単に解決してS級冒険者になるのじゃからな!期待して待っておくが良い!」
そうセレナに告げてアスモは二コリと微笑みかけた。
「~♡!!――はい!アスモ様がそう言うならば大丈夫だと思います。それにアスモ様なら史上最速でS級冒険者にもなれると思います!――ですがお気を付けて行ってらっしゃいませ。あなたが無事なのが何よりも喜ばしい事なのですから…」
セレナはアスモの言葉に納得しそしてその笑顔に魅入られたように頬を染めていた。
「うむ、では行ってくるのじゃ!セレナよ吉報を待っておるが良い。――おお!それから帰って来たら先程のケーキ屋の情報を教えてもらうからの、良いな?」
「はい、必ずご案内しますから必ずご無事にお帰り下さい!――それからアスモ様、S級冒険者の史上最年少記録は中央大陸最強の…いいえ、世界最強の冒険者「戦女神」が打ち立てた13歳と2か月です!アスモ様ならば必ず更新できると私は信じております!」
セレナは背を向けて手を振るアスモの背中を見つめて恋慕の情を更に抱く―
「――フフ、あの様子では完全に堕ちておるようじゃの。妾の従順な従僕になるのも時間の問題なのじゃ♪……ん?従僕?従僕……おお!そうじゃ!そう言えば妾にも人間界では初めての従僕である「「ポチ」が居ったのじゃ!血の契約を結んでから1ヶ月か…多少は精進しておるじゃろうか?妾の眷属ならば多少のレベル差があろうとも完全詠唱でミューテーションを起こさせれば確実に喚び出せるのは昨日確認しておるからのう。――良し、ある程度王都を離れてから後で召喚してみるとするのじゃ。目的地は…こっちの方角じゃな。その前に「千里眼」などで監視されては困るから一応アレを着ておくとするかの。」
駒として利用する予定のセレナの従順な態度を見てアスモは人間界に召喚された当日に従僕としたパイロヒドラの「ポチ」の事をふと思い出し、久々に喚び出す事を決めた。
そして念の為「次元の倉庫」から「不可視の外套」を取出して装着し監視の目を警戒をしながら「導きの珠」の指針が示す目的地のジグルス遺跡に向かって走り出した――
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王都アルアスから80キロ程離れたドガの森まで移動しアスモは足を止める。
「ふむ、ここら辺りまで来れば、誰も監視などせぬじゃろう。――では、始めるとするかの。」
アスモが完全詠唱で召喚魔法を発動し、人間界で初めて血の契約を行い従僕とした「ポチ」を喚び出した―
するとアスモの眼前に直径数十メートルはある魔法陣が展開され光を放つ。更に中心から煙が立ち込め魔法陣全体に広がって行く。
そして「ピカッ!」と魔法陣全体が眩い光を放ち、喚び出されし者が姿を現――す事は無かった。
魔法陣から輝きが失われた後に居る筈の者は現れず不発に終わたのだ。
「はぁ!?何故現れぬのじゃ?間違い無く完全詠唱を行った筈じゃぞ!確実にミューテーションが起こるのは昨日確認済みの筈…高々レベル94、いや多少上がっておっても100前後が関の山、昨日の屍鬼魔仙を上回るなど考えられぬのじゃ。ならば只の失敗か?――仕方あるまい、ではもう一度やってみるとするかの――――」
アスモは再度、完全詠唱による召喚魔法を行使したが結果は先程と同じで不発に終わる。
「………何故じゃ!何故喚び出せんのじゃ!まさか拒否しとるとでも言うのか…いや、それは通常ならば有り得ぬ筈じゃ。では人間界では勝手が違う?うーん、訳が分からぬのじゃ。――それにしてもあの阿呆め折角、妾がトカゲや蛇では無く竜種じゃと認めて眷属の一員にしてやったと言うのに恩を仇で返しおって。妾の喚び出しに応じぬとは従僕としての心得がなっておらんのじゃ!もうあ奴など妾の眷属でも従僕でも無いのじゃ!二度と喚んでやらぬからの!!」
アスモは召喚の失敗についての可能性を思案したがはっきりとした答えは出なかった。しかし何よりも主人の呼びかけに応じない「ポチ」に対して苛立ちと怒りを露わにしていた。
「フン、もう良いのじゃ、さっさとジグルス遺跡に行ってこの怒りを悪魔どもにぶつけてやるとするのじゃ!中位悪魔や下位悪魔程度でも100近くおれば楽しめるじゃろうて♪」
アスモは気持ちを切り替え、ジグルス遺跡に向かって再び走り出した。
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王都を出発してから約一刻でアスモはジグルス遺跡に到着した。
目の前に広がる光景には巨大な神殿や街並み、そして数々の彫刻の残骸が広がっていた。
かつては美しい神殿や都市がここにはあったのだろう。だが現在は建造物や彫刻の殆どの装飾が剥がれ、崩落していた。多分盗掘や略奪もあったと思われる。
そして長年に渡る放置の為に大きな被害を受け最早都市としてどころか重要な歴史的建造物としての機能など一切無い廃墟と言えるような状況であった。
「ここがジグルス遺跡か…それにしても「不可視の外套」を装着しておったとは言え街道沿いでは碌な怪物に出会う事が無かったのう。余りにも雑魚なので相手にもせんかったが、この遺跡の地下迷宮では悪魔ども以外にまともな怪物はおるのじゃろうな?少し心配になって来たのじゃ。」
そう呟きアスモは遺跡周辺を見渡している。120キロ以上の道程をたったの一刻で走って来たにも拘らず息切れ一つしていなかった。
「さてと、入り口は……おお!あれじゃな。早速入るとするのじゃ、悪魔♪悪魔♪経験値~♪」
地下迷宮への入り口を発見したアスモは楽しそうに口ずさみながら「不可視の外套」を着込んだままその中へと入って行った――
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アスモが遺跡の中へ入って行った頃と同時刻にロマリア公国に戦慄が奔る――
トルキア山脈より災害級と言っても過言ではない怪物が凄まじい速度で王都上空を飛来し北へ向かって通り過ぎて行ったのだ。丁度アスモが召喚魔法を行ったドガの森周辺に向けて…
そして森に降り立ったその怪物は辺り周辺を見回し必死に何かを探していた。
ロマリア公国の国民全てがその怪物の恐怖に顔を引き攣らせた。何故ならばその怪物は下手をすれば1月前のヴェノア帝国の軍勢よりも強力な力を秘めた存在であったからだ。
今の国の状況ではその怪物の逆鱗に触れた途端に滅亡が決まるかもしれない…突然現れたその怪物に対しての対策など疲弊しきった国では出来る筈も無く、為す術が無かったのだ。
今は只全ての者が居もしない神に公国の未来を祈る事しか出来なかった。
アスモはまだ知らない。ドガの森に現れた己の予想を遥かに上回る存在の事を…
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地下迷宮に入りアスモは怪物が居ないか自己の感知魔法を使って周囲の気配を探っていた―
「おっ!居ったのじゃ。…まあゴミじゃが結構な数が居るから役には立つか。よーし実験開始とするかの♪」
種族 昆虫種
階級 鬼人蜘蛛
レベル 28
アスモは見つけた怪物達に向かって嬉々として走り出した―




