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第35話 魔神王誘拐事件 その⑩事件解決と新たな問題 

主殿ぬしどのよお帰りなのじゃ、ご苦労じゃったの。」

 アスモが微笑みながらゼフォンを迎え労をねぎらった。

「ああ只今、で一つ聞いておきたいんだが、いきなりレベルが上がったけどお前一体何をした?どう考えても10人や20人では効かない量の経験値だったぞ。」

 ゼフォンがレベルが上がった事に対しての疑問を問いかける。

「うむ、それか。まだ確信していないのではっきりとは言えぬが簡単に言えば同じ相手を殺しても主殿ぬしどのが得る経験値よりも妾が得る経験値の方が圧倒的に多いと言う事になるようじゃな。まあこれに関しては後日詳しく調べてみる予定じゃ。詳細はその結果が出てから話すとしよう。」


「同じ相手から得られる経験値が違うか… 種族の差なのか?いや、それにしても…」

 アスモの返答にゼフォンは訝しげな顔をしながら何かを考えている。

「種族の違いは勿論なのじゃが他にも考えられる要因はあると見ておる。まあ、結果がはっきりするまではここで考えておっても仕方あるまい。―で、標的を仕留めた様じゃが無論全員殺しておるじゃろうな?」


「…ああ、船に居た15人全員始末した。それにこの「不可視の外套インビジブル・コート」のおかげで道中誰にも見つかっていない筈だ。」


「そうか、それは重畳じゃ。では主殿ぬしどのよ「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」と「不可視の外套インビジブル・コート」は預かっておくぞ。それらを今人に見せる訳にはいかんからのう。」

 そう言ってアスモはゼフォンから「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」と「不可視の外套インビジブル・コート」を受け取り「次元の倉庫ディメンション・デポット」に仕舞い込んだ。


「ふむ、そう言えば2人共かなり血生臭いのじゃ、妾に至っては返り血で汚れ過ぎか…これではいかんのじゃ、さっさと綺麗にせねばのう。主殿ぬしどのよそこを動くでないぞ「清めの光クリーニング」」

 アスモが魔法を発動し血糊などで汚れた体や服を綺麗に浄化した。

「返り血どころか匂いまで…本当に魔法ってのは便利なものだな。」

 ゼフォンが綺麗になった自分とアスモを確認しながら感心していた。

「これで汚れも臭いも消えたのじゃ。―ではクレアを迎えに行くとするか、主殿ぬしどのよついてくるが良い。」

 アスモがゼフォンを先導しクレア達の待つ監禁部屋へ向かおうとした。ゼフォンはアスモの付いて行こうと踵を返したが、その時あるが視線に映り足を止めた。

「―ちょっと待て。…アレは一体どういう事だ?」

 ゼフォンがあるを指差してアスモに質問する。

「ああ、アレか。アレは上位と高位の治癒魔法を使って損傷した死体を元に戻したのじゃ。あの男は妾が仕留めた事にしておかねばならぬのでな。じゃから元に戻してから胸に打撃を加えて大穴を開けたのじゃ。まあ、こ奴は一応A級冒険者じゃからな。今回の依頼とこ奴らを仕留めた事で妾のランクも確実に上がるじゃろ。運が良ければB級にはなるじゃろうな。」


「そうか、しかしバラバラ死体も元通りに出来るとは…高位治癒魔法ってのは凄いものだな。」



 何を言っておるのじゃ、この程度の事ぐらいで驚くとは…

 いや、人間にとっては高位魔法を使える者が居る事自体が希少じゃったな。ならば仕方の無い事か。

 そ奴の死体を元に戻したのは「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」で斬られた傷痕がある故に元に戻したとは主殿ぬしどのには言えぬからのう。

 しかし主殿ぬしどのも信じてくれたようじゃし上手く行ったようじゃの♪

 確かに主を欺く事は良い事では無い。じゃがこれは主殿ぬしどのにとって良い事なのじゃ、決して悪意がある訳では無い。いずれ主殿ぬしどのは必ず妾に感謝する事になる筈なのじゃ♪



 アスモは自分の言葉を鵜呑みにし、そして高位魔法の効果に驚愕し感嘆の声をあげているゼフォンから見えない様にこっそりとほくそ笑んだ。

「理解してくれて良かったのじゃ。では今度こそクレアのもとへ行くのじゃ!――おっと、ギルドに子供達を迎えに来るように連絡しておかねばいかんの。…確か担当のセレナじゃったか?の回線チャンネルは…確かこれか?―――もしもし、聞こえるか?妾じゃ――」

 アスモは念話テレパスでギルドの担当セレナに依頼解決の一報を伝えながらゼフォンと共に中央倉庫を後にした。




 ▼

 監禁部屋にて誘拐された子供達が不安を募らせていた。

「…ねえ、さっきの地震は何だったの?」

「私には分かりません、お嬢様。…でも凄い音がしましたね‥」

「もう、一刻以上経つよ…あの冒険者様は本当に大丈夫なのかな?」

「大丈夫よ!あの子は「先祖返り」だもの。…でもちょっと遅すぎるかしら?」

 先程のアスモがパウロに止めを刺すために放った一撃により中央倉庫だけでは無く倉庫全体が揺れたのだ。

 その事を知らない子供達はこの異変に対して怯えていたのである。そしてアスモの実力を理解出来ていた子爵家令嬢エレナやエルフの少女ジルですら一抹の不安は隠せないでいた。

「大丈夫だよ!だってアーちゃんは「少し時間はかかるけど心配ない」って言ってたよ、だから大丈夫だよ皆!」

 只一人クレアだけがアスモを信じていた。その表情に不安の色は無い。ただアスモが帰って来るのを今か今かと待ちわびている表情をしていたのであった。


 ―ガチャリ


 と鍵が開錠され扉が開かれた。そして子供達の視線が全てそこへ向けられる。

「待たせたのじゃ、お主らよ帰るぞ。」

 不安を募らせ怯えていた子供達が入ってきた少女を見た途端、表情が綻び安堵の声や喜びの声を上げる。

「本当に一人でやったの?貴方凄いじゃ―」

「アーちゃん!!!」

 エレナの言葉を遮りクレアがアスモに駆け寄って抱きついた。

「…クレアよ心配せんでも怪我などしておらぬから早う離れよ、これでは動けぬではないか。」

 アスモが抱き着いていたクレアを引き離し少し苛つきながら話した。

「うん、ごめんね。…でも心配してたのじゃなくてアーちゃんが早く帰って来ないから寂しかったの。」

 クレアが少し悲しそうな顔をしながらアスモに謝った。

「……おい。」



 あっ、しもうた主殿ぬしどのが一緒であったのじゃ。これはいかんぞ、クレアを泣かすと後が大変じゃの。



「そ、そうか、寂しかったのか。まあお主はまだ8歳じゃからの、寂しがるのも仕方あるまい。うむ、良い子にしてた様じゃな。偉い偉い。」

 アスモはドアの外から感じる殺気にも似た重圧プレッシャーを感じて即座に対応を変えクレアを頭を撫でながら宥める。

「…本当?クレア良い子?」


「そうじゃ、流石は妾の弟子じゃ。」


「うん!クレア一番弟子だからこれからも良い子にしてるね!」

 クレアはアスモから褒められた事に喜び、満面の笑みを浮かべた。

「それからクレアよ、主殿ぬしどのも心配して来てくれておるのじゃ。妾の後ろの方を見てみよ。」


「アーちゃんの後ろ?―あっゼフォンお兄ちゃんだ!お兄ちゃんも来てくれたんだ!!」

 クレアがドアの外に立っているゼフォンを見つけて更に明るい表情になりニコリと微笑みかけた。

「―クレア!どこか痛いとか怪我は無いか?――――良かった、大丈夫みたいだな。…でもこれからは絶対に1人で外を出歩いては駄目だぞ、特に今回はアスモが居なければ本当に危なかったからな。ちゃんと約束できるな?」


「…ごめんなさい。アーちゃんにも注意されたからクレアもうしないよ。」

 クレアが反省しゼフォンに謝る。

「よし、良い子だ。さて、孤児院の皆も心配しているから早く家に帰ろうな。―アスモ、子供達を連れて早くここを出よう。すまないが表の結界をどうにかしてくれないか?」

 そう言ってゼフォンはクレアに微笑みかけ頭を撫でながらアスモに結界をどうにかするように頼んだ。

「了解じゃ!では取り敢えず妾の結界を解除するか…」

 そう呟き指をパチンと鳴らし倉庫中のドアに張ってあった「魔法障壁マジックシールド」と建物内部を覆っていた「闇の監獄ドゥンケル・ゲフィングニス」を解除した。


「―さてと、外側の結界ごと壁をぶち抜くからドアの方まで皆移動し耳を塞ぐのじゃ。――――――ふむ、用意出来たようじゃな。―では行くぞ、「爆炎(エクス・プロード)」!!」

 アスモが壁に向かって手を翳し高位火属性魔法を発動させた。すると凄まじい轟音と共に大爆発を起こし建物の外壁が内側から結界ごと吹き飛んだ。

「「「「………スゴイ…」」」」

 その強烈な威力の魔法が生み出した衝撃的な光景を目の当たりにした全員が目を丸くして驚愕していた。

 そして薄暗かった部屋に明るい太陽の光が射した―



「うわぁ!外だー!!」

「本当だ!これで家に帰れるんだ!」

「うう…やっと帰れるんだ…お父さんとお母さんに会えるんだ…良かったよう…」

 子供達が歓喜の声を上げてはしゃぎ回る。中には助かった事に安堵し泣き崩れる者までいた。

「お主らよ、はしゃぎ回るのは良いが絶対にここから離れるでないぞ。もう少しすれば冒険者ギルドの手配した者達が馬車で迎えにやって来るから大人しくしておるのじゃぞ!良いな?」

 アスモが子供達に注意を促した。

「「「はーい!」」」

 アスモの注意に素直に返事を返した子供達は嬉しそうに笑い合っていた。

「ギルドの連中が来るまで半刻はかかるそうじゃ、主殿ぬしどの達も楽にして待っていると良い……とは言えぬ様じゃな。」

 アスモが周りを見渡すと轟音による影響であっという間に倉庫街に居た人達が集まって来たのだ。

「何だったんだ?さっきの凄い音は…」

「おい、あそこにあんなデカい倉庫あったか?」

「…いや、あそこは巨大な壁に囲まれた空き地だったはずじゃ…」

「倉庫の西側から煙が…おい、壁がほとんど消し飛んでるぞ。大量の火薬でも保管してたのか?」

 野次馬達がぞろぞろと倉庫の近くに集まりだし辺りを見回している。


「へー、こんな所に倉庫がねえ、ちょっと入ってみようぜ!」

「おお!楽しそうじゃん、行こうぜ!」

 一部の野次馬達が突如現れた巨大な倉庫の中に入ろうとしていた。

「おい、待たんかお主ら、妾の手柄を勝手に荒らされては困るのじゃ。勝手に入る事は許さぬぞ!」

 アスモが野次馬達の前に立ちはだかり道を塞いだ。

「あぁ!?何だこのガキ!口のきき方に気をつけろよコラァ!」

 野次馬の一人がアスモに向かって拳を振り上げた―

 だがその拳は振り下ろされる事無くゼフォンの手によって掴まれた。

「そこまでだ。この倉庫は冒険者ギルドの手配した者達が調査をする事になっている。勝手に入れば不法侵入罪と捜査妨害に当たるぞ。今すぐこの場から立ち去らなければお前達を拘束し逮捕する事になるが良いのか?」


「っ痛え!…な、何だお前!役人か?偉そうに言いやがって。手を離しやがれ!…糞、動かねえ。」

 野次馬がゼフォンに暴言を吐き、掴まれた手を振り解こうとするがびくともしない。

「公国軍所属のゼフォン・グレイヴ…中佐だ。2度は言わんぞ、どうする?」

 ゼフォンが凄みを利かせた声で野次馬に凄んだ。

「中佐!?…いや、ハハ、冗談ですよ、冗談。すぐに離れますから勘弁してくださいよ…」

 ゼフォンの階級を聞いた途端、野次馬が卑屈になり態度を改めた。

「ならさっさと消えろ。 ―と言いたいが、お前は一応・・子供に手を上げようとした。それだけは許されん…」

 ゼフォンがそう告げた直後野次馬の顔面にゼフォンの裏拳がめり込む。そしてグシャッと言う鈍い音と共に野次馬が十数メートル先まで吹き飛んだ。

 野次馬は道に転がりぴくぴくと痙攣している。一応生きてはいるようだ。

「死なない程度に力は抜いてある。あそこの屑を連れてとっとと消えろ。」

 ゼフォンが周りの野次馬達にどすの利いた声で警告をした。

「は、はい。すぐに消えます!」

 野次馬達が蜘蛛の子を散らす様にその場から逃げ出して行った。


主殿ぬしどのよ、別に助けに入らぬでも妾が対処したのに。あーあ、妾も殴りたかったのじゃ…」

 アスモがつまらなそうにふてくされていた。

「もし俺が間に入らなかったらどうしてた?」


「うむ、まず腹に一撃加えて内臓を損傷させてから膝をつかせて顎を砕き、目を潰して最後に四肢を全て叩き折ってやるのじゃ。無論、殺すとややこしい事になるから殺さぬ様に7,8割殺しと言ったところじゃな♪」


「…はぁ、だろうと思ったから間に入ったんだよ。お前のやり方じゃ過剰防衛だ。もしかしたら冒険者資格を失う可能性もあるぞ。それに俺が代わりに殴っておいたんだから我慢しておけ。」

 アスモの洒落にならない返答にため息を吐きながらゼフォンがアスモを諭す。

「まあ主殿ぬしどのの頼みじゃ、仕方あるまい。一応・・とは言え妾の為に怒ったと言う事で納得しておくとしよう。」


「アーちゃん!あのね、エレナお姉ちゃん達がお話しがあるって言ってるよ!」

 子供達と一緒に倉庫の近くで待機していたクレアがアスモに呼びかけた。

「話?――おお、そうじゃ!お主プリン1,000個の事は覚えておるじゃろうな?反故にすると許さぬぞ!」

 アスモが猫人族キャットピープルのフィーを治療した時の約束を思い出しクレアと一緒に居るエレナに詰め寄った。

「勿論覚えているわ、貴方との約束はちゃんと守るわよ!」


「ふむ、そうか。それは良い心がけじゃ♪―では何の用なのじゃ?」


「そ、それは…お礼を…」

 エレナが恥ずかしそうに口ごもる。

「何じゃ?聞こえぬぞ?はっきり言わぬか。」


「――お礼よ!「ありがとう」って言おうとしたのよ!…あっ、ごめんなさい。――えーと、…改めて言うわ。私達を助けてくれてありがとうございました。」

「「「ありがとうございました!」」」

 エレナの言葉と同時に子供達もアスモにお礼の言葉を述べた。

「うむ、しっかりと礼を言えるとは中々良い心がけではないか。安心せよ今回の依頼は子爵家令嬢の誘拐事件となっておる。報酬はそこの娘の子爵家からもらう事になっておるから他の者達は金を支払う必要は無いのじゃ。…まあ、どうしても礼がしたいと言うのであれば、この美少女冒険者アスモは強く、美しく、そしてとても頼りになると知り合い縁者に触れ回るが良い。そうすれば妾の知名度も一気に上がり指名依頼も増えるやもしれぬしの。…強制はせぬが感謝しておるのならば言っても良いのじゃぞ?」

 アスモが遠まわしに子供達に対し自分を売り込むように指示をした。

「うん、大丈夫だよ!帰ったらみんなに教えて自慢するんだ!」

「私も凄いカッコいい冒険者の女の子に助けてもらたって言うわ!」

「私もパパとママとそれから近所の人たちにもちゃんと伝えるからね。」

 アスモの言葉に子供達が呼応し約束を誓った。

「そうかそうか、お主達がそうしたいのであれば仕方あるまいな。…ではよろしく頼むのじゃ♪」

 アスモは嬉しそうな顔をして頷いていた。




 ▼

「あれは冒険者ギルドの紋章じゃないかしら?―やっぱりそうだ!皆、迎えの馬車が来たわよ!」

 ジルがこちらへ走って来る数台の馬車を見つけて皆に呼びかけた。

「お迎えが来たの?」

「本当だ!馬車がいっぱい来たよ!」

「お嬢様、これでお屋敷に帰れますね。」

「ええ、ええ!本当に、本当に良かった…お父様や皆に会えるわ。」

「それに公国軍の治安部隊の人達も一緒に来たみたいだからもう大丈夫みたいね。みんな本当に良かったわね。」

 子供達が歓喜の声を上げこちらへ向かってくる馬車に向かって大きく手を振る。

 そして6台の馬車が倉庫の前に停車した。

「―やっと来おったか、これで依頼は完了と言ったところかの。金貨20枚とプリンが1,000個♪当分の間おやつには困らぬのじゃ♪クフフフフ。」

 ギルドの馬車を確認し、アスモが依頼が完了した事を報告する為に馬車の方へ歩み寄る。



 6台の馬車の内4台が冒険者ギルドの紋章旗を付け、残りに2台は公国軍の紋章旗を付けていた。

 馬車から治安部隊の人間やギルドの職員達が降りてきて子供達に駆け寄り安否を確認している。

 そし冒険者ギルドの紋章旗を付けた馬車の中で一番豪華な意匠を施した馬車の扉が開き、高価そうな紳士服を身に纏った中肉中背で整えた口髭を生やした40~50代ぐらいの紳士が降りてきた。そして辺りをキョロキョロと見回している。

「――4,25,26,27人も…こんなに子供達が攫われていたとは。――あれは確かに子爵家御令嬢のエレナ嬢ですな。…ではギルドに報告があった件は真実であったと言う事か。しかしローデンスやドレアム達まで誘拐犯の一味であったとは…未だに信じられぬがもし真実ならばギルドの信用に係る大問題だな。だが、誰があの2人を相手に子供達を救出できたのか?念話テレパスにてセレナ君に連絡してきたアスモと言うF級冒険者はまだ8歳の少女と言う事だから他に協力者がいた事になるのか…――おおっ!あの人は!…成程、あの人ならばローデンス達が敵わなかったのも無理は無い、お礼を言っておかねばいけませんね。」

 紳士は子供達の様子を確認した後、事件を解決した功労者?のゼフォンを見つけて彼に向かって歩み寄って行った。


「おい、お主がギルドの責任者じゃな?」


「ん?そうだがお嬢ちゃんは―――っ、淫魔サキュバスの少女、では君がアスモ君か!」


「誰が淫魔サキュバスじゃ!お主ぶち殺されたいのか!言葉には気をつけよ!!」

 アスモが淫魔サキュバスと言う言葉に反応し怒気を含めた声で紳士を注意した。

「そ、そうか淫魔サキュバスでは無いんだね。それはすまなかったね。―では改めましてアスモ君、私はロマリア公国冒険者ギルド本部支配人のオリバー・ヨアキム・ルゴスです。君が史上最年少の冒険者試験合格者と言う報告は職員達から聞いていますよ。それに君がセレナ君に報告してくれた内容もちゃんと聞いています。現場を見る限り確かに背後には大きな組織がありそうですね。…そして当ギルド所属の冒険者達も関与していたそうで…実に情けない話です。そして君もエレナ嬢救出に一役買ってくれた事は報告を聞いて理解出来ました。報酬はギルド本部で支払いますから少しお待ち下さい。――おっ、丁度こちらへ来ましたね。ゼフォン・グレイヴ殿!―ではアスモ君、後程。」

 ギルド支配人ルゴスはアスモに一礼しゼフォンのもとへ歩いて行った。


「これはこれは、はじめましてゼフォン・グレイヴ少尉…いや確か昨日中佐に昇格したそうですな。ご昇進おめでとうございますグレイヴ中佐。私はロマリア公国冒険者ギルド本部支配人のオリバー・ヨアキム・ルゴスと申します。今回は当ギルドの汚点とも言える事件を解決して頂き誠にありがとうございます。中佐には後程、相応の報酬をお支払させて頂きます。いやー、それにしてもドレアムはともかくローデンスまで倒してしまうとは流石は公国第3位の実力者ですな。」

 ルゴスはゼフォンに丁寧に挨拶を交わし感謝の言葉を述べる。

「いや、今回の事件解決に俺は関与していない。ここに到着したのは事件が解決してからだ。」


「―はい?では誰が解決したと言うのです?仮にもA級冒険者2人を相手に勝てる者など…」


「おい、ルゴスとやら、この事件を解決したのは妾じゃとセレナに伝えておったじゃろうが、犯人共は1人を除いて全て妾が始末したのじゃ、礼を言うなら妾にじゃぞ!」

 アスモがルゴスに詰め寄り話しかけた。

「君がかい?…馬鹿な。君は実技試験の泥人形マッド・ゴーレム相手に苦戦したと聞いていたが…」

 ルゴスはその信じられない言葉に訝しげな顔をしながら目の前の少女を見る。

「本当だよ!アーちゃんが悪い人たちをやっつけたんだよ!」

「そうです。私は死に掛けていたところを高位治癒魔法で治してもらいました!」

「その子本当に凄いのよ。確か「先祖返り」?だったかしら…それに…―――とにかく凄いのよ!」

「フフフ、エレナちゃんは本当に面白い子ね…ギルドの支配人さん、その子の能力ステータスを視てみたらわかると思うわ。正直言って私達も本当の実力を聞いてみたいし。」

 子供達全員がアスモに助けてもらったとその場に居る者達全員に証言をした。

「高位治癒魔法!?「先祖返り」!?はは、まさかね…しかし私達にわざわざ嘘をつく理由など無いし、一応アスモ君の能力ステータスを確認してみるか。正式な登録もまだしてなかったことだしね。では「鑑定眼(スキャニング)」」

 ルゴスが子供達の言葉にまさかと思いながら「鑑定眼(スキャニング)」でアスモの能力ステータスを視た。

「…………ひ、ひいぃぃぃぁぁぁぁあああ!!メ、魔人メイガス!?レベル69!?えええええ!!!」

 アスモの能力ステータスを確認したルゴスが叫び声を上げて恐慌パニック状態になりその場にへたり込む。

 衝撃的なルゴスの言葉を聞いて周りの者達は驚愕を通り越して唖然としていた。

「はは…レベル69って、公国最強じゃないの。確かにレベルは60以上はあると思ったけどここまでとは…本当に末恐ろしい子だわ。」

「公国最強ってあのシュトラウス将軍より強いの?本当に?」

「エヘヘ、やっぱりアーちゃんが一番すごいんだ!!」

 子供達はアスモに視線を移し感嘆の声を上げる。

「フハハハハ、どうじゃ驚いたかお主らよ、もっと妾を称えるが良い!何せ妾はいずれS級冒険者になるのじゃぞ!分かったならば妾に指名依頼を寄越すのじゃ、この場に居た者ならば料金は少し負けてやっても良いぞ、出来れば怪物モンスター退治などが良いのう。」

 ニッコリと微笑みながら大声でしたたかに営業活動を行う恐るべき実力を持った美少女にその場に居た全員の視線が集まる―



 ▼

「さ、先程は失礼致しました!非礼をお詫びいたします!どうかお許しを…」

 恐慌パニック状態から回復したルゴスが狼狽えながらアスモに謝罪した。

「まあ、分かれば良いのじゃ。妾の能力ステータスを視たのであれば妾の報告に虚偽など無いと言う事が分かったであろうな?」


「はい、勿論です。アスモであればローデンス達A級冒険者では相手にならなかったでしょうな。―それではアスモ、これより貴方様に救出して頂いた子爵家御令嬢や他の子供達と一緒にギルドまで馬車でお送りさせて頂きます。私達は公国兵の方々と現場検証を行う必要がありますのでここで失礼させて頂きます。御者の者や職員一同にはアスモ様に失礼が無いようにお伝え致しますのでご心配無く。もし当方共の対応に何か不備があれば私にお申し付けください。尚、報酬も到着次第、完了手続きを行うように指示しておきますので手続き終了後にお支払させて頂きます。」


「うむ、了解した。それから先程も言ったが組織の幹部と思わしき男を一人だけ生かして捕えておるのじゃ、怪我などさせずに気絶させておるだけじゃから早う起こして取り調べをする事じゃな。黒幕を捕えねば事件が解決した事にはならんのじゃ、これ以上罪も無い者達が酷い目に遭うのは妾も心が痛むからのう。よろしく頼んだのじゃ。」

 アスモが策を仕込み済みのネッドに関しての情報を伝え早めに取り調べを行う様にルゴスに指示をした。

「―幹部を確保ですか。流石はアスモ様、捜査にご協力頂きありがとうございます。取り調べ担当者には必ず伝えさせていただきますのでご安心ください。それにご心配なく、今回の件は我々冒険者ギルドの者達が関与していた事実がある以上、名誉挽回の為、事件の首謀者達はギルドの威信にかけましても必ず捕えて見せます。」


「そうか、それは頼もしいのじゃ。流石は冒険者ギルド支配人じゃな。さて妾はそろそろ行くとするかの。ではさらばじゃ。―――主殿ぬしどの、クレア!早う帰ろうぞ!」

 アスモはルゴスに簡単な別れの挨拶を済ませ、ゼフォンと子供達と共に馬車に乗り込みギルドへ向かって行った―







 ▼

「ふぅー、今日は疲れたのじゃ、依頼を解決させた事よりもその後のギルドや子爵家での応対に疲れてしもうたの。まあ、プリンやケーキ?とか言うデザートをお腹いっぱい食えた事が出来た故、良しとしておくか。それにしてもプリンは当然としてケーキ?とやらも最高に美味かったのじゃ、明日また食いに行かねばならぬの♪何せ金はあるのじゃからな、クフフフフ。」

 アスモがゼフォンの自宅に帰り自室のベットに飛び乗り寝転がりながら今日の出来事に関して微笑みながら思い返していた。

「おーい、寝る前にちゃんと歯を磨いて着替えろよ。」

 ドアの外からゼフォンの声が響く

「寝転がっておるだけじゃ、まだ寝むとうないぞ。―そうじゃ、主殿ぬしどのよ報酬の半分を渡しておくのを忘れておったのじゃ、ほれ受け取るが良い。」

 そう言ったアスモが金貨の入った袋をゼフォンに手渡した。

「報酬の半額を孤児院に寄付するってのは本気だったのか?――――っ!?おい!半額でこんな大金なのか?金貨が15枚もあるぞ!」

 ゼフォンが袋の中身を確認し予想外の大金に驚きの顔をしアスモに問いかけた。

「ギルドで手続きを済ませた後、成功報酬として貰ったのは金貨20枚じゃったから本来は半金で10枚の予定であったが、先程子爵家に行った時に子爵から直接「娘達を無事に送り届けた事に対する礼金」として金貨10枚を更に貰ったのじゃ。多分将来を見据えて妾とのパイプを作っておこうと言う魂胆があると思うがの。まあ、先行投資と言うやつじゃろうな。何せ妾は公国最強の冒険者じゃからな♪これからもっと稼ぐから気にする必要は無いのじゃ、遠慮なぞする必要は無いぞ主殿ぬしどのよ。」


「そうか、では遠慮なく貰っておく。金だけでは無く、子爵家で約束を取り付けてくれた孤児院へのお菓子の配達の手配までして貰って本当に感謝している。―いや、何よりもクレアを救ってくれてありがとう。」

 ゼフォンがアスモに向かって深く頭を下げ感謝の言葉を述べた。

「良い良い主殿ぬしどのよ、今の妾と主殿ぬしどのは一蓮托生なのじゃ、それにクレアは妾の弟子でもあるからのう。助ける事にやぶさかで無いのじゃ。礼を言う必要などないのじゃ、クフフフ。」


「正直、魔王であるお前がそんな事を言ってくれるとはな。正直驚いているが、本当は良い奴なのかもしれないな。――さて、明日の仕事もあるしそろそろ寝るか。じゃあ、おやすみアスモ。それからちゃんと歯磨きと着替えをしてから寝ろよ。お前も明日ギルドに行く事になっているんだろ?」


「分かっておる、もう少し落ち着いてから、言われた事をちゃんとして寝るから心配するでない。では主殿ぬしどのお休みなのじゃ。」

 アスモが部屋を出て行くゼフォンと互いに手を軽く振り挨拶を交わした。



 やはり主殿ぬしどのに褒められると何故だか照れてしまうのじゃ。よう分からぬがいい気分じゃな♪ 

 謀略を巡らせておる身としては主殿ぬしどのにあそこまで感謝されてしまうと少し後ろめたい気持ちになってしまうではないか…

 いや、これは主殿ぬしどのにとっても後々必ず良い方向に向かうはずじゃ、間違い無い筈じゃ!

 しかし、妾の能力ステータスを聞いた後のギルドの者達や子爵家の者達の驚き呆けた間抜けな表情は中々面白かったのう♪

 あの反応を見る限りやはり人間界のレベルは低いのじゃな。最弱の状態の妾に驚くとは信じられん事じゃぞ。

 そう言えば依頼の完了手続き後に掲示板をチラッと見たが確かF、E級では怪物モンスター退治の依頼は無かったのう。

 明日もう一度ギルドに行く用事があるからその時にもう一度見てみるか…もしかしたら今回の件でランクがCかB位になっておれば良いのじゃがな。そうなれば仕事の幅も広がるしの。

 更に運良くば助けたガキ共の親達が指名依頼をくれるやもしれぬ。特に子爵家はその可能性が高いのじゃ、何せスティングに殺されたお抱えの冒険者と武術指南兼専属ボディーガードじゃったか?多分あの派手な登場をした割に瞬殺されおった阿保じゃな…何せそ奴らを含めて護衛が殆ど死んだらしいからの。

 まあ、妾はそ奴らが始末された場におったが面倒事はごめんじゃから「知らぬ」で通したからの。まあ、どうでも良い人間がどうなろうが妾の知った事では無いのじゃ。

 そう言う事で子爵家も新たな護衛を募集するのに大変らしいのじゃ、それに妾にも直接子爵が専属ボディーガードの打診をしおったが断ったのじゃ。

 人間如きが妾を雇おうなどおこがましい。本来ならぶち殺してやる所じゃが…まあ、追加報酬も貰ったし孤児院に毎週1回プリンやケーキ?などのお菓子を1年間無償で届ける約束を交わしたから今回は勘弁してやったのじゃ。

 クレアも孤児院に無事送り届けたし院長にも今回の妾達の行った事はばれておらんようじゃったしな。

 何せあの男だけは今敵に回す訳には行かぬからのう。


 そう言えばネッドはそろそろ吐いておるじゃろうか?表の黒幕である「男爵」とやらが捕まり本当の黒幕である「伯爵」は名士として何者かにより暗殺された事になるか‥滑稽な事じゃな。

 遅くとも2,3日中には港に停泊してある船の捜索が始まるじゃろうな。その時「伯爵」の死体が発見され犯人候補として主殿ぬしどのと妾の名が一応候補に上がるじゃろうな。

 まあ、証拠どころか目撃情報も無く現時点・・・では動機すら無い妾達が疑われる可能性は低いのじゃ。それに公国での最高戦力とも言える主殿ぬしどのと最強の冒険者である妾を確証も無く敵に回すような真似はせぬじゃろうて。

 そんな事より明日はギルドへ行って怪物モンスター退治の依頼を必ず受けねば行かんのじゃ!依頼が無ければトルキア山脈辺りまで遠征し怪物モンスター狩りをすれば良い。

 何せレベルアップに関する実験じゃからな。これが最も重要な事なのじゃ。

 …妾の予想通りならば経験値の差は種族だけでは無く職能スキルが関係していると思われるからのう。

 まあ、明日確認して見ぬ事には何とも言えぬがの。



 アスモが今日起こった様々な出来事について考察をしていた。


「さーて、早う寝て明日に備えるのじゃ!――おっと歯磨きと着替えを…」

 そう呟いてアスモは洗面所に向かって行った―




 ▼

 子爵家令嬢誘拐事件が解決した当日深夜に王都アルアスにある冒険者ギルド本部の会議室でギルド役員達がある議題について話し合いを行っていた―

「―――――では全員承認すると言う事でこの議案は決定と言う事で宜しいでしょうか?」

「うむ、問題あるまい。ただでさえA級冒険者を2名失ったのだ。それに今回の件はある意味僥倖とも言えるだろう。」

「「我らも賛成です。異議無し!」」

 役員達の満場一致の意見によりある事が決まったようだ。

「では今回彼女を――」

「大変です!!ジグルズ遺跡の地下迷宮ダンジョン調査に派遣していた「風鷹団ホークウインド」が全滅、同行していたヒューロ・バルドルも死亡しました!!」

 突然会議室のドアが開き駆け寄ってきた職員が必死の形相で耳を疑うような発言をした。


「何だと!!「風鷹団ホークウインド」が全滅と言う事はジャック・テーズも死んだと言う事か?―馬鹿な…バルドルとテーズが…A級冒険者が2人もだと…」

「…ジグルズ遺跡で一体何があったのだ…」

「「風切」、「鋼拳」に続いて「旋空」に公国最強の冒険者「炎王」バルドルまで…今日一日で公国内のA級冒険者を4名失ったのか…何て事だ…」

「…悲観していても仕方がありません。すいませんが詳しい内容を教えてくれませんか?」


「は、はい!唯一生き残ったB級冒険者のリアリュ・ボーザの報告によりますと今回派遣したA級2名、B級8名の冒険者達で地下迷宮ダンジョン探索を行い無事に最深部にまで到達しましたが、そこで大量の下位悪魔レッサー・デーモンと十数体の中位悪魔メッゾ・デーモンを発見し戦闘状態に入ったそうです。…そしてなす術も無くチームは壊滅。…尚、その場に居た中位悪魔メッゾ・デーモンのレベルは最低56以上だそうです。」


「馬鹿な!レベル56以上の中位悪魔メッゾ・デーモンが最低でも十数体居ると言う事か…そんな化物共が地下迷宮ダンジョンの外に出てきたらどうすればいいんだ!」

「「………」」

 信じられない驚愕の内容にその場に居た全員が戦慄を覚えた。冒険者ギルド本部に激震が走る―




「――いや、もしかしたら彼女ならば…」

 皆が混乱する中で只一人、支配人ルゴスだけが今日出会った美少女に一縷の望みを抱いた―


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