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第34話 魔神王誘拐事件 その⑨外道少女Ⅱ

「ふむ、意外と呆気無い…いや妾の予想以上の強さであったと言う事かの…」

 驚きと感嘆の表情でそう呟くアスモの視界の先には抜刀される事無く鞘に納まったままの漆黒の魔剣が石造りの床に転がっている。そしてその周辺にはスティング・ローデンスであったものの肉片が散らばっていた。



 ゼフォンとスティングの勝負は一瞬で決着した―


 15メートルほど離れた距離で2人が対峙した瞬間にスティングは魔剣の鞘口を左手で押え右手で刀の柄を掴み抜刀の構えを取り「秘剣・風切かぜきり」の体勢を整える。更に「身体強化魔法(ストレングス)」と「魔法強化魔法コンセントレート」で強化を図り万全の状態でゼフォンを迎え撃つ。

 相手は「持たざる者」とは言え自分よりもレベルは上なのだ。だが油断さえしなければ負ける事などあり得ない。その少しの慢心、いや誤解・・が敗北を招いたとも言えるだろう。


 居合の体勢を取り間合いに入って来るのを待ち構えるスティングにゼフォンは「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」を真横に構え大地を強く蹴った。

「ズドンっ!」と大きな音と共に石造りの床に亀裂が奔り小さなクレータが出来た。そしてスティングが気付いた時にはゼフォンは既に間合いの奥深くまで侵入していたのだ。

 予想をも遥かに上回る凄まじいスピードで一瞬にして間合いを詰められ横凪に払われる「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」にスティングは反応する事すら出来ずに黒い竜巻に巻き込まれたのだ。


 通常であれば勝てぬとは言えスティングは強化魔法を使い万全の状態で臨んだのだ。ここまで圧倒的な戦力差は無かった筈である。

 しかしゼフォンは職能スキル狂戦士バーサーカー」を発動していた。本来の超人的な身体能力に加えて更に「狂戦士バーサーカー」による肉体強化が行われていたのだ。その速度はスティングと戦った時のアスモに匹敵する程の速度であった。スティングが反応する事さえ出来なかったのも無理も無かった。



 所詮そよ風程度では竜巻には勝てぬと言う事かの…

 最初から主殿ぬしどのの勝ちは確定しておったが、まさか魔法もろくに使えぬ状態なのに職能スキルを発動するとは思わなかったのじゃ、しかし技能アビリティは発動しておらん故、完全な発動とは言えぬ。中途半端と言ったところか…

 それにどう考えてもレベル53の強さでは無いのじゃ、レベル60いや60後半ぐらいの実力があるのでは無いのか?

 これ程の実力があれば少しは楽しめるかのう♪主を殺す事は出来ぬが主殿ぬしどのの許可さえあれば訓練と言う名目で戦う事も可能じゃからな。

 何せ誘拐犯達に罰を与える事でストレス発散は出来たが戦闘行為としては相手がゴミ過ぎて欲求不満状態のままじゃからな。今度主殿ぬしどのに頼んでみるとするか…

 ―しかし、最悪なのは実験③の結果じゃの。まさか此れっぽっちとはのう…



 アスモが先の戦闘と実験の結果について考察し「はぁ」とため息を吐いた。

「何だその溜息は?…まさか俺が負ける方が良かったとか言うんじゃないだろうな?」

 ゼフォンが「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」で無造作に空を切り剣についた血を振り払いながらアスモに発言する。

「あのな、主殿ぬしどの考えてもみよ、そなたが死んでしもうたら妾は魔界に帰らねばならぬのじゃぞ、そんな事は絶対に嫌なのじゃ。…妾が残念に思っておる理由はそこに散らばっておる屑の事じゃ。」

 アスモがそう言ってスティングだったものの破片を指差した。

「もしかして死体の原型を留めておいて欲しかったとかか?…しかしクレアを斬ろうとした奴に手加減出来る程俺は器用では無い。悪いがこの件に関して謝るつもりは無いぞ。」


「何を言っておるのじゃ?そんな事では無い、気付かんのか?こ奴から得られた経験値の量を?この程度では次のレベルまでこ奴と同等の者をあと20人程斬らねばならぬのじゃぞ、大問題ではないか!」


「この男から得た経験値?…まあレベル50前後の奴から得られる経験値なんてこんなもんだろうな。…レベル53になった後に帝国兵百以上と俺より確実にレベルが上のヒドラを2匹斬ったがそれでも上がらなかったしな。まあ他種族と比べると人間のレベルの上昇率は低いからな。」

 アスモの発言に当然の事だろう?とゼフォンが首を傾げながら発言する。

「はぁ!?何を言うておるのじゃ!このままではレベル100を超えるのに一体何万、いや何十万殺さねばならぬと思うておるのじゃ?妾は主殿ぬしどのと能力を同調しておる状況なのじゃ、主殿ぬしどのが得た経験値は妾にも反映されるのじゃぞ。このままでは妾の計画が…あ、やばっ!」

 アスモはしまったと言う顔をして咄嗟に口を塞ぐ。

「ほー、何がヤバいのかな?―まさかとは思うがお前はまだ世界征服とか下らん事を考えてるんじゃないのか?昨日注意したばかりだろうが!」

 ゼフォンが強い口調で注意をする。

「ち、違うのじゃ!…そう!妾がS級冒険者になる為には最低でもレベル100近くになる必要があるのじゃ。S級になればもっと稼げるようになるからのう、つまりは主殿ぬしどのや孤児院の皆の為にもなる事なのじゃぞ!」

 アスモが咄嗟にそれらしい嘘を吐く。

「…ふーん、孤児院の為ねえ?―おっと、そう言えばクレアを迎えに行かないと!アスモ、クレアが居る部屋は何処だ?」

 ゼフォンは訝しげにアスモの答えを聞いていたが、クレアの事を思い出しその話を途中で打ち切った。

「クレアか。…妾もそのクレアの事で思い出したのじゃが、実は主殿ぬしどのに大事な話があるのじゃ。」

 クレアの話題を振られてしめた!と2つの意味で思いながらアスモが「魔王の仕置き部屋ディアーボ・コンデム・チャンバー」の体内で企てていたゼフォンに対しての謀略を仕掛ける。

「クレアの事で大事な話だと?何だ?言ってみろ!」


「うむ、今から妾は先程話したこの事件の「黒幕」を殺しに行こうと思うのじゃが、一応主殿ぬしどのに許可をとっておこうと思ってな。」


「「黒幕」って王族の親族とか言ってた奴か?…取り敢えず真実を話して国側の対応を見ておいたほうが良いんじゃないか?たとえ犯罪者でも王族殺しは極刑だ。余り無茶はしないほうが良い、正直お勧めは出来ないな。」

 アスモの頼みをゼフォンが拒否した。

主殿ぬしどのの言う事も一理あるかもしれぬ。じゃが、妾はその者を許せぬのじゃ!何せそ奴はクレアを…いや、これ以上は主殿ぬしどのには言わぬ方が良いな。…じゃが、やはり妾はそ奴を殺さねばならぬ。主殿ぬしどのよ頼むから許可をくれぬか!」

 アスモは迫真の演技で「黒幕」に対しての怒りを露わにし、そして「クレア」と言う言葉を使い何やら匂わせてゼフォンを謀略に引き込もうとした。

「…おい!そいつがクレアをどうするんだ!!話してみろ!」

 ゼフォンが言葉に怒気を含ませアスモに迫る。

「…本当は黙っておいた方が良いと思ったのじゃが、仕方あるまい。妾の話よりも拷問にかけ殺した・・・・・・・・誘拐犯の記憶から得た情報を直接見せたやった方が判り易いし、妾が嘘を吐いていない証明にもなるしの。―しかし主殿ぬしどのよ構わぬのじゃな?主殿ぬしどのには相当きつい内容じゃぞ。」

 かかった!と心の中でほくそ笑み更にゼフォンを術中に嵌める為のとっておきの切り札をゼフォンに見る様に誘導していく。

 そして生かしてあるネッド・・・・・・・・・からでは無く殺した誘拐犯・・・・・・から得たと嘘を吐いた。

「ああ、構わない。…大事な家族の事だ。知らずにいる方が後悔するかもしれん。だから頼む!」


「…承知したのじゃ、では主殿ぬしどのよ記憶を見せるから少ししゃがんでくれぬか?」


「分かった。」

 そう言ってゼフォンはアスモの前で膝をつき姿勢を下げた。

「では行くのじゃ、「記憶転送メモリー・トランスファー」」

 アスモはゼフォンの頭に手を乗せ魔法を発動しネッドの記憶から得た「真の黒幕」がクレアに対して行おうとしていた事の内容を話している映像をゼフォンの頭の中へ転送した。



 ▼

「―す…殺す、絶対に殺してやるぞ!!うおおおおお!!!」

 数分後、アスモから見せられた記憶を確認したゼフォンが憤怒の表情を浮かべ叫ぶ。


「おいっ!コイツは今どこに居るんだ?コイツいやこの屑野郎だけは絶対に許さない、絶対に殺してやる!!!」

 そして怒号を上げながらアスモに詰め寄って質問をする。

「別に教えても良いが、王族殺しは死刑だから不味いのでは無かったのか?―まあ主殿ぬしどのの気持ちも分からんでもない、何せクレアを慰み者にした後に剥製にしてコレクションに加えると言っておるんじゃからな。腸が煮えくり返るほどに腹の立つ下衆な奴なのじゃ。で、妾が殺れば良いのか?それとも―」

「俺が殺る!だから屑野郎の居場所を教えてくれ。…王族だろうが関係無い、俺の家族に危害を加える奴は誰であろうと許さない!!」

 ゼフォンがアスモの言葉を遮り自らの手で始末をつけると宣言した。

「仕方あるまい…本来なら妾が行くべきであろうが主殿ぬしどのにそこまで言われては譲らざるを得ぬのじゃ。―ちなみにこの男「レネンベルク伯爵」とやらはこの港の船着き場の東端に停泊している船に護衛を伴ってクレアが届くのを待っておる様じゃな。船の帆にはそ奴の紋章が描かれておるから見れば直ぐに判るじゃろう。主殿ぬしどのに見せた記憶の中に殺すべき屑とその紋章がはっきり写っておったはずじゃ。」

 当初の予定通りゼフォンが王族殺しを行う事が決まったが、アスモは一応、仕方なく譲ると言う体裁を取ってゼフォンに暗殺相手の情報を教えた。

「…東端の船着き場だな。では行ってくる。」

 そう言ってゼフォンが踵を返し倉庫を出ようとした。

「待て、待つのじゃ。主殿ぬしどのよ!」


「何だ?早く行かないと逃げられる可能性があるかもしれん。」


「問題無いのじゃ、そ奴はクレアが届くまで動く事はあるまい。―実は先程、誘拐犯の一人を操作して念話テレパスで「伯爵」と話をさせておる。「もう少ししたら商品を届ける」とな。故に相手が警戒するような事は無い。じゃが、主殿ぬしどのがそのまま相手の船に乗り込んだら正体がばれる可能性があるのじゃ。向こうの船には護衛を含めて10人以上は居るそうじゃからな。そ奴らを片付ける間に念話テレパスで応援や主殿ぬしどのの正体を伝えられると困るのは孤児院の者達じゃぞ?」


「孤児院のみんなに迷惑が…じゃあ、どうすれば…」

 ゼフォンは困惑しどうすれば良いか考え込んでいる。

「安心せよ妾に秘策ありじゃ。要は簡単な事じゃ、相手に気付かれなければ良いだけの話なのじゃ。これを見るが良い。「魔装創作エレメンタルギア・クリエイト」!」

 アスモはゼフォンにそう告げてスティングとパウロが着ていた茶褐色の外套を両手に取り「魔装」の力で魔道具マジックアイテムに改良を加える。2着の外套がアスモから放たれる魔力の塊と交わり粗雑なデザインから見事な意匠を凝らした豪華な漆黒の外套へと形を変えていく。

「よし出来たのじゃ、これを着ていくと良い。これならば相手に気付かれる事無く船内に侵入出来るのじゃ。仮に気配を察知出来てもこれを着ている限り主殿ぬしどのとばれる事はあるまい。」

 そう言ってアスモがゼフォンに漆黒の外套を1着手渡した。

「…これを着ると何か効果があるのか?」


「うむ、説明しよう。まずこの外套は魔道具マジックアイテムなのじゃ。元々の性能はこの建物と同じく魔法感知を阻害する効果があったので「千里眼クレアボヤンス」や「鑑定眼(スキャニング)」で視る事や感知する事は出来ぬ。じゃが、肉眼では確認出来る故に隠密性としては程度の低いものであった。そこに妾が「魔装」の力で手を加えて改良したのじゃ。見ておくが良い。―ぬんっ!」

 アスモが魔道具マジックアイテムの説明をした後に何かを念じた。するとアスモの姿が消えた。いやゼフォンの眼には漆黒の外套が景色に溶け込んでいった様に見えたのだ。

「消えた?…何処だ‥‥むう―――そこかっ!」

 ゼフォンは辺りを見回すが視界にはアスモの姿が見えない。そして気配も感じられなかった。だがよく目を凝らし観察するとゼフォンの右側2メートルほどの位置に漆黒の外套を纏ったアスモが移動していた。

「どうじゃ、目を凝らして「色欲ザ・ラスト」の力を使わねば見えなかったであろう?この外套は元々の効果に加えて「消えろ」と念じれば周りの景色に溶け込み視覚阻害を発動するように改良しておる。どうじゃ、凄いであろう。」

 アスモが自慢げに「魔装」にて改良した魔道具マジックアイテムの説明をする。

「確かにこれがあれば簡単に侵入して屑野郎を殺せる…相変わらず「魔装」と言うのは反則な能力だな。正直羨ましいぐらいだな。」


「うむ、もっと褒めても良いのじゃぞ?―おおっ、そうじゃ!この新しい魔道具マジックアイテムに銘を付けねばならぬのう、うーむ何とするか………よし決めたのじゃ!この外套は「不可視の外套インビジブル・コート」と名付けるのじゃ!それにしても相変わらず素晴らしいネーミングセンスじゃな♪」

 アスモが自画自賛をし、うんうんと頷いている。

「うん、まあそうだな。…ハハ…」

 ゼフォンは「そのままじゃねーか!」と思わず突っ込みそうになったが寸前で留まる。考えてみれば「ポチ」よりは遥かにましでもあったし、ここで突っ込めば余計な時間を取られる事になると理解していたからでもある。

「-さて、話を戻すが主殿ぬしどのよ、伯爵を殺しに行くのであれば一緒にいる護衛も従者も必ず仕留めるのじゃ、下手に生かしておくと面倒な事にもなる。それにクレアの引き渡しに一緒にいると言う事は同罪も同じじゃぞ、情けなど要らぬのじゃ。」

 アスモがゼフォンに念を押す。

「―分っている。心配しなくても全員殺すつもりだ。」

 ゼフォンもそれに呼応し「不可視の外套インビジブル・コート」を着こみ準備をする。

「そうか、では主殿ぬしどのよ、「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」の試し斬りついでに奴らを斬り刻んでやるが良い。そらから腰に下げておるなまくらでは役に立つまい。妾が預かっておいてやるのじゃ。」

 そう言ってアスモがゼフォンが腰に下げている剣を強引に剥ぎ取った。

「…すまないな、では行ってくるぞ。―「消えろ」」

 ゼフォンがアスモにそう告げて「不可視の外套インビジブル・コート」に念じる。すると見る見るうちに姿が周りの景色に溶け込んでいく。そして気配を消して伯爵のいる場所まで向かって行った。

 激しい怒りの炎を身に纏った黒い凶刃がこの事件の黒幕である「伯爵」に迫る―



 ふむ、倉庫内から気配は消えたの。主殿ぬしどのは予定通り伯爵を殺しに行ったようじゃ♪

 しかし何ともまあ面白い様に事が運んでおるのじゃ。

 主殿ぬしどのは知っておるのじゃろうか?今から殺しに行く男が王子の義父・・・・・にあたる者じゃと言う事を。

 しかもこ奴は表向きは民の信頼を一身に集める名領主であり、王子や貴族達からも尊敬を得ている名士だそうじゃからな。

 そしてこ奴は誘拐犯の「黒幕」として死ぬのでは無い。何者かによって暗殺される・・・・・と言う事になるのじゃ♪クフフ…



 アスモはほくそ笑み悪い顔をしながら抜け殻のように座り込み呆けているネッドに近づき話しかけた。

「―のう、ネッドよこの組織の「黒幕」は誰かのう?妾に教えてくれぬか?」


「はい、この組織の「黒幕」はノータス商会の会長にしてノータス領領主であられるジョルジュ・フロイデ・ノータス男爵であります。」

 焦点の合わない虚ろな目でネッドがそう答えた。

「そうじゃ、お主は取り調べを受け数刻でその事を役人に吐いてしまうのじゃ。良いな?―それから「レネンベルク伯爵」とやらは知っておるか?」


「はい、承知しました。役人からの取り調べでその事を伝えます。―それから「伯爵」の事ですが直接お会いした事はありませんが、名領主であり王子の義父にあたるとても素晴らしい方だと噂で聞いております。」

「真の黒幕」である「レネンベルク伯爵」と直接裏で繋がりのある筈のネッドがおかしな返答をしている。

 アスモによって行使された精神操作系魔法「記憶操作マニピレーション・メモリーズ」により記憶を改ざんされていたのだ。



 クフフ、上手い事記憶を操作出来た様じゃ♪

 何せ、極一部の者以外にとって「あの方」=「黒幕」とやらはノータス男爵じゃと思っておるようじゃからな。妾が罰を加えた中にはスティングとネッドしか知らぬ事実であった。

 しかも「伯爵」とやらは随分と狡猾な奴で捜査の目が己に行かぬように証拠の改ざん、更にノータス男爵と言うスケープゴートに責任を擦り付けられる様にしておる。

 例えノータスとやらが真実を喋った所でその反論さえも封殺出来る様に既に手を打っているようじゃ。

 用意周到な事じゃが、それは無意味になるじゃろうな。「男爵」は司法で裁かれるじゃろうが、「伯爵」は凶刃に斃れる事になるのじゃからのう♪

 主殿ぬしどのの家族に手を出そうとした事が運の尽き、因果応報と言ったところじゃが、妾にとっては物怪の幸いと言ったところかの。

 それに予定通り「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」で斬り殺される事になるじゃろ。何せあの剣の切れ味は桁が違うのじゃ、そこら辺にある並みの剣の刀傷とは全く違う事になる。

 仮に主殿ぬしどのが行かずとも妾が「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」を使って斬り殺す予定じゃったからのう。

 つまり「伯爵」の死因は伝説級レジェンダリー以上の切れ味を持つ巨大な武器・・・・で殺されたと言う事実になるのじゃ。

 尚且つ「伯爵」の護衛はレベル30~40台の騎士が10名以上おる。その者達を屠り伯爵の首まで取れる存在など公国には数える程しかおらぬ。しかも一応の・・・ナンバー1,2は王都には居らぬのじゃ、ならば犯人は更に絞られよう。

 まあ、表面上全く関係無い主殿ぬしどのを最初に容疑者の一人として疑う事は現段階では無いじゃろうが、仮にあったとしても最初だけで「伯爵」が死ぬ事により得をする対立派閥の貴族達や他国が送り込んだ暗殺者による事件と言う事で一応・・収まるじゃろうな。あくまで今は・・じゃがの…

 こちらとしても今主殿ぬしどのが犯人だとばれては不味いのじゃ。故に主殿ぬしどのが帰り次第「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」を回収し「次元の倉庫ディメンション・デポット」に戻しておけば証拠の武器を捜す事すら出来ぬ。

 まあ、いずれ時を見計らって主殿ぬしどのに「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」を常時携帯して貰う様に仕向けるつもりじゃがの…

 今必要なのは主殿ぬしどのが裁かれる事になり公国と敵対する事になる状況では無く主殿ぬしどのと王子との間に妾の謀略で猜疑心を挟ませ信頼関係などを築かせぬ事が重要なのじゃ。

 例え「男爵」の証言を封殺した所で王族が暗殺されれば絶対に隅々まで証拠や痕跡などを調べる筈じゃ、ならば確実に「伯爵」の高尚な趣味とやらがいずれ暴かれよう。そしてこの情報を表向きには出さずとも王子は絶対に知る事になる筈じゃ。

 尊敬する義父を信じたい気持ちもあるが確たる証拠が露見すれば誘拐事件に関わっていたのでは?と言う疑念が生まれる。

 そして誘拐事件について再度調べる事になる。その時に攫われた子供、そして解決した冒険者が主殿ぬしどのの関係者だと判るであろう。そうなれば確たる証拠が無くとも主殿ぬしどのに対して疑心暗鬼になる筈じゃ。

 人間と言うものは愚かな者なのじゃ、例え不正を許さないなどと言っておっても大切な人間や身内が殺されたと言うのであればどの様な理由があったとしても犯人を許す事は出来ない筈じゃ、よって主殿ぬしどのに対して猜疑心が少しでもあれば傍で重用などする事はあるまい。

 まあ、これでも駄目ならば他にも手は色々あるしのう♪

 主殿ぬしどのには悪いが高々このちっぽけな国の将軍程度で満足してもらっては困るのじゃ、妾の目標はあくまで主殿ぬしどのがこの人間界を征服し、人の身で「魔王・・」と呼ばれる存在となってもらうのが最終目標なのじゃからのう。

 例えどの様な手を使ってでも目的は達成させてもらうのじゃ♪


 ―しかし主殿ぬしどのに対する策略は上手く行ったが、実験③の結果が最悪なものに終わってしまった事が堪えてしもうたの…

 この世界を征服する為には最低でも魔王か闘神クラスに匹敵するレベルに到達せねばならぬ。まあ、竜神やあ奴・・は最悪の場合切り札・・・を使って対処すればよいのじゃが。

 魔王や闘神のレベルは400以上…仮に妾の眷属をぶつけるとしても200以上に到達する必要があるのじゃ、しかし先程の実験で得られた経験値はほんの僅かのみ…どう考えても数十万単位の者を直接殺す必要がある。

 それに経験値まで同調している状態では人を大量虐殺すれば確実に主殿ぬしどのにばれてしまう。それだけはまずいのじゃ。

 ならば怪物モンスター退治でもするのか?とも考えたがそう都合よく数十万もの怪物モンスターが居るとも思えぬ。その前にこれでは時間が余りにも掛かり過ぎてしまうのじゃ。

 本当に困った。うーんどうしたものかのう…



 アスモはゼフォンへの謀略が成功した事には喜んでいたが最も重要な事であった実験③の予想外の結果に落胆していた。

「―して、…ろして……殺…して…」

 全身血まみれでボロボロの状態で地に伏しているパウロが掠れた声でアスモに懇願している。

「ちっ、人が大事な事を考えている時に煩い屑じゃ!…貴様の不快な顔を見るのも、耳障りな声を聴くのも、もううんざりなのじゃ!望み通りぶち殺してくれる!!!」

 アスモがパウロに対して怒りを露わにし強く拳を握りしめてパウロに近づき拳を振りかざした。

「くたばれ屑が!!!」

 そして本気で拳をパウロ目掛けて振り下ろした―


 ズドオオォォン!!!


 凄まじい衝撃に倉庫全体が揺れる。パウロの身体が爆散し、石造りの床に巨大なクレーターが出来た。

「ふんっ!最後まで不快な屑じゃったな――ん?んん!?これは!?…おぉ♡」

 パウロの命を絶った瞬間アスモの胸に刻まれた魔法刻印ルーンにジュッ!と熱が伝わった―


「おお!この感覚は…間違い無くレベルが上がった感覚じゃ♪何千年振りの心地の良い感覚じゃろうか…どんな快楽よりも気持ちが良いのう♡この瞬間をどれだけ恋い焦がれたか…」

 アスモのレベルが69に上がったのだ。

 数千年振りに味わう最高の快楽とも言える状況にアスモは恍惚の顔をし愉悦に浸っていた。


「――おっと、いかん。ついつい快感に身を任せてしもうたのじゃ。それにしてもこの粉々になった屑から得られた経験値がスティングの30倍以上と言うのは一体どういう事なのじゃ? 屑のレベルは確か8じゃった筈じゃぞ。…経験値を多く持っておる人間が居るのか?いや、それは有り得ぬ。ならば一体………まさかっ!―いや、うーむ、しかしそれ以外考えられぬか…ならばもう一度試してみるか…」

 アスモはこの予想外の出来事に驚愕しそして何かを思案し視線をネッドに向けた。

「生きておるのはこ奴だけか…いや、こ奴は謀略の為、今は殺す事は出来ぬ。――仕方あるまい今回の仕事が終わった後に怪物モンスター討伐の依頼でも受けてみるとするかの。妾の予想通りならば実験③の結果が大きく変わって来るかも知れぬ。後日新しい実験としよう♪」

 アスモはネッドを予定通り謀略の駒として利用する事にした。そして先程考え付いた新しい実験に何か希望を見出したようだ。


「―さて主殿ぬしどのが帰って来る前に先手を打っておかねばならぬのじゃ。―おい、ネッドよ今から妾が指を鳴らすとお主は正気に戻る。良いな?」

 そう呟いてアスモがパチンと指を鳴らした。すると催眠状態の様に呆けた状態であったネッドが一瞬にして正気に戻った。

「―ん?あっ…あぁ!!化け物!た、助け―」

「正気に戻ったのならば早う寝ておれ。ふんっ!」

 正気を取り戻したネッドがアスモを見た瞬間に叫ぼうとしたが、その前にアスモの手刀がネッドの意識を絶った。



 ―さてと、こ奴を役人に引き渡して「黒幕」を吐いて貰うにしても何時までも生かしておく訳には行かぬ。

 妾の精神操作が見破られる事は無いとは思うが主殿ぬしどのが取り調べに参加した場合は下手をすればと言う事も考えられるのじゃ、要らぬ詮索をかけられる前に始末しておくとするか…

 ならばどうやって殺すかのう?全身から血を噴き出したり体が溶ける様な死に方では疑われてしまうじゃろう。

 ならば最もシンプルに心臓発作で死んで貰うとするか。それならば誰も疑わぬじゃろ。―そうじゃな、時間は二日、48刻後に設定しておくとするか。



「ではやるとするか「死に至る病タナト・フォリック」」

 アスモが能力ステータス異常系魔法を発動しネッドが二日後に心臓発作を起こす様に効果を付与し死の病を与えた。

「まさに死人に口なしじゃ♪まあ、他の奴らに比べれば楽に死ねるのじゃ、妾に感謝するが良いぞ。さてと次は… ―ん?この反応は…主殿ぬしどのめ「伯爵」を仕留めおったか♪―それにしてもやはり主殿ぬしどのから送られる経験値はしょっぱいものじゃな。十人以上仕留めておるはずなのに屑一匹にも満たぬとは…―さて、そろそろ主殿ぬしどのも帰って来るじゃろ。妾も帰る用意をするか。いや、主殿ぬしどのが帰って来るまでに早うやる事を終えなければならぬのじゃ!」」

 アスモがゼフォンが用事を済ませた事を感じ取りニヤリと嗤う。

 そして今度は急いでなにやら倉庫を物色し出した―



 ▼

「ふむ、これは使えるか…これは何かのう?色々あり過ぎて調べるのが大変じゃな。取り敢えず時間が無いから後で詳しく調べる事にして今は「次元の倉庫ディメンション・デポット」にしまっておくとするのじゃ。」

 アスモがそう言って倉庫から物色した多種多様な魔道具マジックアイテムを手に取り次々と「次元の倉庫ディメンション・デポット」に放り込む。

「他に何か良いものは無いかの?…ふむ、この剣は何かに使えるかも知れぬな。まあ使えなければ売れば良い。妾が作り出した名刀じゃ、確実に良い値で売れるじゃろう。死人が持っておっても意味などあるまい妾が有効活用してやるのじゃ。」

 そう言ってスティングに授けた魔剣を手に取り「次元の倉庫ディメンション・デポット」に放り込む。更に部屋中にある色々な物を物色し更には転がっているネッドや死体からも魔道具マジックアイテムを剥ぎ取り仕舞い込んで行く。

 まさに外道の所業であった―



この34話で「魔神王誘拐事件」を完結させる予定でしたが、上手く話をまとめる事が出来ずに次話にて完結となります。

長々と読みづらい文章で申し訳ありませんが宜しくお願いします。

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