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第33話 魔神王誘拐事件 その⑧外道少女

 亜空間に閉ざされた「魔王の仕置き部屋ディアーボ・コンデム・チャンバー」の体内にて異様な光景が繰り広げられていた―


 その空間の中心に立つ1人の美少女に平伏し頭を垂れる5つの存在。


 豪華な刺繍を施し魔法刻印ルーンを刻んだ漆黒のローブを纏い、只ならぬオーラを放つその存在は強力な魔法を使いこなす「上位魔導師ハイ・ウィザード」をも上回る「仙人ハーミット」いやそれ以上の存在である「賢者ワイズマン」にも思えた。

 だがそのローブの中から覗く顔は角の生えた悪魔デーモンの頭蓋骨であった。



 屍鬼仙リッチ


 不死族アンデットにおいて最強の一角を担う階級クラスの1つである。

 強大な魔力を誇っていた「上位魔導師ハイ・ウィザード」や「仙人ハーミット」が生前の未練や尽きぬ探究心により不死族アンデット化した成れの果てである。

 そしてそのレベルは最低60~という強力な存在であり強大な魔法はおろか「死霊魔導師ネクロマンサー」という職能スキルを操り、下位~中位の不死族アンデットを召喚し意のままに操る事が出来る。更に召還出来る不死族アンデットの数は最低でも数百体以上なのだ。

 そして死の軍勢を操る屍鬼仙リッチが1体居るだけで都市が滅ぶと言われるほど恐れられている存在。

 その討伐ランクはS級~と言うまさに不死王ノーライフキングの名に相応しい恐るべき不死族アンデットなのだ。

 その理由として屍鬼仙リッチに召喚された不死族アンデット達に殺された者達も不死族アンデットと化し兵力を増強していくと言うまさに質の悪い存在なのだ。

 実際に数百年前にはレベル100を超える「賢者ワイズマン」の上位屍鬼仙エルダー・リッチが一国を滅ぼしたと言い伝えられている。



 だが今回アスモが召喚したのは屍鬼魔仙デイモス・リッチと言う階級クラスである。上位悪魔アーク・デーモンを媒体に冥王がアスモの命令に応えて不死族アンデット化させ人間界に遣わせた人間界の屍鬼仙リッチよりも遥かに強力な不死族アンデットであった。


 単体で一国をも滅ぼせるであろう存在がこの場に5体も居るのだ。それを目の当たりにした誘拐犯達が精神を保っていられる事自体が奇跡であった。

 だが誘拐犯達の視線は屍鬼魔仙デイモス・リッチではなくアスモに集まっていた。

 彼らは聞いていたのだ。アスモが召喚魔法を詠唱した時に名乗った己の名前と彼女に平伏した屍鬼魔仙デイモス・リッチ達がアスモを呼んだ称号を。

 そう確かに「魔神王デヴィル・ロードアスモデウス」と言う言葉を聞いたのだ。


 確かに「魔神王デヴィル・ロード」と言う存在は人間界で耳にする事は無い。例えそれが神話や伝説であってもだ。

 何故なら人間界では魔王=悪魔王デーモン・ロードなのだ。

 だが彼らも馬鹿では無い。魔神王デヴィル・ロードと言う称号が魔神デヴィルの王だと言う事ぐらい誰にでも分かる事なのだ。

 そして彼らは納得がいったのだ。この得体の知れない空間?を簡単に喚び出し、何故、屍鬼魔仙デイモス・リッチ達が平伏すのか?と言う疑問もその「魔神王デヴィル・ロード」と言う一言で理解が出来た。

 やっとこの得体の知れない美少女の正体は何者なのかが分かった。だが死刑宣告とも言える言葉を受けた今となってはそれはもう遅過ぎた。既に手遅れであったのだ。


 そして誘拐犯達はネッドの様にこの絶望的な状況に発狂する者や錯乱し奇声を上げる者などが続出した。

 そしてその中の一人がある行動に出た―


「―おいっ!コイツ舌を噛み切りやがった!?」

「まじか!!だが、この状況じゃこうしたほうが良いかもしれん…」

「…俺達も楽になるには――っ!馬鹿な!?」

 この状況に絶望し目の前の化物達に拷問を受ける位ならばと誘拐犯達の1人ラットが舌を噛み切ったのだ。

 そしてその様子を見ていた他の者達も自ら命を絶つ方が楽になれると言う事に気づきラットと同じ様に舌を噛み切ろうとしたが、舌を噛み切った事により痙攣し窒息により呼吸困難に陥っていたラットの様子が少しおかしい。良く見ると噛み切った筈の舌が見る見るうちに再生し回復していくのだ。

 誘拐犯達に戦慄が奔る―


「甘かったのう、お主らに自害など許されぬのじゃ。妾の「再生の光(リジェネ・シャイン)」は脆弱な人間如きが使用する通常のものとは次元が違うと思うが良い。効果時間も一刻は十分持つ、しかも時間の流れが遅いここ・・では効果が延長され一日位問題無く再生を続けるのじゃ、残念じゃったのう♪――しかし一々動き回られるのも面倒じゃ、「操り人形(マリオネット)」!」

 ニヤリと微笑みながら言い放ちアスモが中位の操作系魔法を発動した。アスモから放たれた見えない糸が誘拐犯達の動きを奪う。

「これで身動きは取れまい、今から妾はこの屍鬼魔仙デイモス・リッチ達と話がある故、静かにしておれ。少しでも喚き散らせばそ奴からきつい罰を加えてやるから覚えておくが良い。」

 その言葉を聞いた途端、身動きを奪われたこの状況に動揺し声を上げていた誘拐犯達は一瞬にして口を噤む。

「よし、それで良いのじゃ、少しの間そのまま大人しくしておれ。――さてとお主らに質問があるのじゃ、良いか?」

 アスモは口を噤み怯えている誘拐犯達の様子を確認して踵を返し屍鬼魔仙デイモス・リッチ達の方に視線を向け話しかけた。

「「「我ら如きにお言葉を頂けるとは恐悦至極にございます。陛下、何なりとお申し付けください。」」」

 屍鬼魔仙デイモス・リッチ達が頭を下げながら応えた。

「ふむ、では質問じゃ。お主らが単独で召還出来る最高戦力・・・・最大兵数・・・・の数を聞いておきたいのじゃ、答えよ。おっとその前に椅子に座るとするかの。「魔王の仕置き部屋ディアーボ・コンデム・チャンバー」よ妾の椅子を用意せよ。」

 アスモが言葉を発した瞬間、床が蠢きぐにゃりと波打ってアスモの立っている位置に座り心地の良さそうな玉座が現れた。そしてアスモはそこに腰掛け質問をした屍鬼魔仙デイモス・リッチ達の方へ視線を向けた。

「御意に御座います。我らが単独で召還出来る最高戦力はレベル100~110の屍鬼竜ドラゴン・ゾンビを3体まで同時に操る事が可能でございます。最大兵数であればレベル40~50前後の不死族アンデット兵を2.000程召喚可能で御座います。ご用命ならば何時でもご用意致します。」

 屍鬼魔仙デイモス・リッチの一人がアスモの質問に答えた。


 レベル110の屍鬼竜ドラゴン・ゾンビ!?、レベル40~50の不死族アンデット兵2.000だと!?誘拐犯達が心の中で叫び声を上げる。

 次元の違う話の内容に誘拐犯達は恐怖に顔を引き攣らせていた。だが、誰も声を発する事はしなかった。


「ふむ、そうか…5人合計であれば屍鬼竜ドラゴン・ゾンビを最大で15匹…不死族アンデット兵ならば1万程か‥」

 質問の答えにアスモが何やら考え事をしている。



 確かにこの戦力があれば公国の全兵力であれば・・・・・・・・・・あっという間に制圧できるの。

 じゃが、主殿ぬしどのが許す事はまず無い上に例えこの戦力を投入してもあの院長・・・・が公国側につけば多分と言うか絶対に負けるじゃろうな。

 …何せこの国に来て唯一の誤算であったのは今の妾では勝てぬ院長の存在じゃからな。

 それに、いずれ主殿ぬしどのが支配するであろう国を死者の国ミディアンに変えてしもうては意味があるまい。

 じゃが、こ奴ら程度しか召喚出来ぬ今の妾では切り札を使わぬ限りは世界征服どころかこの国でさえ掌中に収めるのも困難な状況じゃな、我ながら情けないものじゃのう。

 この北のアルガルズ大陸で面倒なのは院長、そして帝国の皇帝とやらにトルキア山脈の竜王ドラゴンロードとやらか…

 せめてレベルが100を超えるまでは大人しくしておくとするか。

 それに主殿ぬしどのが動かぬ限りは妾も勝手に無茶は出来ぬ故、主殿ぬしどのが動かざるを得ない状況を作り出す事を考えねばならぬからのう。

 まあ、今はこの屑共への罰と最後の「実験」に向けて動くとするかの…


「ふむ、理解した。今は召喚する必要は無いのじゃ、今からあそこにいる者共に罰を与える故お主らを魔界から喚び寄せたのじゃ、「拷問官トーメンター」としてのお主らの腕前を妾に披露してもおうかの。」


「御意に御座います。陛下の御前で我らの仕事を披露出来る幸せを与えて頂けるとは冥王様により生み出された我らにとっては神より与えられし天運の様な幸福にございます!―――では陛下、今よりこの愚かな人間達へ拷問を加えさせて頂ます。とくとご覧下さいませ。」

 そう言って屍鬼魔仙デイモス・リッチ達が歓喜の声を上げアスモに更に頭を下げる。

 そして立ち上がりアスモに一礼をしてから誘拐犯達のもとへ向かおうとした。

「いや、ちょっと待て。1人ずつこちらへ連れてくるが良い。こ奴らに少し聞きたい情報もあるのでな。――それに生かしておく者もおる故一人ずつ妾が裁定を下すのじゃ。」


「承知致しました。では1人ずつ連れてまいりますのでご裁可をお与えください。」

 そう言って屍鬼魔仙デイモス・リッチ達が動けない誘拐犯達を引き摺り起こし一人ずつアスモの前へと引き立てた。

「陛下、では最初はこの者への裁可をお願い致します。」

 そう言って最初に屍鬼魔仙デイモス・リッチによってアスモの前に引き立てられたのはラットであった。

「ひいぃっ!!た、助けて!助けて下せえ!!何でも、何でも喋りますから!!せめて楽に死なせて下せえ!!!」

 ラットが身動きの出来ない状況で形振り構わず必死に懇願をする。

「ふむ、最初はこ奴か…それから別にお主らが質問に答える必要は無いのじゃ、妾が今からお主らの記憶を覗くから大人しくしておれば良いだけじゃ。では行くぞ「記憶閲覧メモリー・リード」。」

 アスモが「記憶閲覧メモリー・リード」を発動しラットの記憶を覗いた。そして数分後。

「…こ奴程度の下っ端では大した情報を得る事は出来ぬようじゃな。―もう良い、お主は用済みじゃ。では罰は何にするかの…―っ思い出したのじゃ、確かお主は妾に「麻痺パライザー」をかけた奴じゃの。ならばお主への罰は決まったのじゃ。―おい、こ奴には「電撃」をくれてやるが良い。何せ痺れるのが好きな様じゃからな♪たっぷりと二十四刻罰を与えてから楽にしてやるが良い。」

 ラットの記憶を確認し利用価値が無いと判断したアスモがあっさりと最初の死刑宣告を行った。

「御意に御座います陛下。―さあ、こっちに来るのだ人間よ。我らの働きを陛下の御前にて披露するのだ。貴様にもしっかりと役に立ってもらうぞ。」

 屍鬼魔仙デイモス・リッチがラットにそう言って拘束具の付いた椅子まで引き摺って行った。

「い、嫌だー!!助け、助けてください!お願いします!お願いします!!お願いします!!!」

 嗚咽の声を漏らしながら泣き叫ぶラットの必死な命乞いも虚しく手慣れた手つきで屍鬼魔仙デイモス・リッチが準備を進める。そして椅子に拘束され刑が執行された。

「「電撃の波紋パルス・ウェイブ」」

 そして屍鬼魔仙デイモス・リッチが下位雷属性魔法を椅子に流し刑を執行した。

「う゛う゛う゛う゛ー!!!~~~!!!!」

 ラットが衝撃により声にならない悲痛な叫び声を上げる。椅子から発せられる電撃を浴びて身体から肉が焼ける嫌な匂いと少しずつ黒い煙が沸き起こって来た。

「安心するが良い、偉大なるアスモデウス陛下の命により貴様を二十四刻かけてじっくりと痺れさせてやろう。絶命する前に回復魔法で治療を施す故に簡単に死ぬ事は出来ぬぞ。そして気絶する事すら許さぬ、陛下の為に断末魔の叫びを奏でよ。」

 屍鬼魔仙デイモス・リッチが絶望の言葉をかけ最初の犠牲者に刑の執行を続ける。

 その様子を見ていた誘拐犯達は目の前に広がる凶行に震え上がる。あんな目に遭うぐらいならば罪でも何でも償う、だから助けてくれと神に願った。

 だが、彼らの願いに反して小さな魔王アスモの裁可は続く。

「良い響きじゃ♪じゃが妾はもっと大勢の奏でる合唱コーラスが聞きたいのう。―よし、次。」

 そして次々と裁可が下され誘拐犯達への罰が執行されて行く―

「火じゃ。」

「水じゃ。」

「針じゃ。」

 アスモは色々な刑の執行を屍鬼魔仙デイモス・リッチ達に命令し、そして刑が執行されて行く。

 そしていつの間にかアスモの希望するように誘拐犯達の断末魔の叫びが合唱コーラスとなり、この異様な空間に響き渡る。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図の様なおぞましい光景が繰り広げられていた。



 ▼

「ふむう、碌な情報を持った奴が居らんの…次っ!―おぉ!やっとお主か。では先に記憶を確認するぞ「記憶閲覧メモリー・リード」。」

 そう言ってアスモがスティングの記憶を覗き込む。そして数分後にスティングに話しかける。

「成程のう、お主はそれなりの情報を持っておる様じゃ、これは確かに役に立つ。先程の奴らとは違い「表」では無く「裏」の黒幕の事を知っておる様じゃしな。しかしもう少し有益な情報は無いものかのう。――おい、スティングよ、お主には話がある。聞いておるのか?」


「…‥れの…腕…剣士の…」

 アスモがスティングに話しかけるが返事も無く何やらぶつぶつと呟いている。

 先程の戦闘で腕を失った事に失望し心が壊れているようだ。腕はアスモの魔法で少しずつ再生してきてはいたがまだ完全に治るには暫く時間がかかりそうな状況であった。

「何じゃ、こ奴あの時から壊れたままか?―仕方あるまい。おい、誰かそこら辺に転がっておる刀を持ってくるのじゃ。それからスティングよ、お主の腕を直してやろうではないか「完全なる治癒パーフェクト・リカバリー」!」

 アスモが高位治癒魔法を発動しスティングの失われた腕を一瞬にして再生させた。

「…あ、ああ、ああ!腕、腕、俺の腕が!!腕が治った!?」

 再生した自分の腕を見てスティングが少しずつ正気を取り戻していく。

「陛下、刀とはこれでしょうか?」

 屍鬼魔仙デイモス・リッチが床に転がっていたスティングの刀をアスモのもとへ手渡した。

「そうじゃ、ご苦労。ふむ、銀魔鋼(ミスリル)製か…この世界ではこの程度のがらくたが一応業物になるのか?」

 そう呟きながらアスモが手渡されたスティングの刀をまじまじと見ている。

「ああ、俺の刀…」

 スティングが愛刀を目の当たりにして狼狽える。

「さて、スティングよお主に話がある。どうじゃ、聞く気はあるかの?」


「…俺に話、今更何を?」

 スティングが訝しそうにアスモを見る。先程の2度目の戦闘の時の様な絶望を与えられるのではないかと警戒していた。

「そう警戒する事は無い。お主には利用価値があると踏んだのでな。どうじゃ、妾に仕えてみぬか?この魔神王デヴィルロードアスモデウスの配下になれるのじゃぞ、悪い話ではあるまい。」


「俺がお前、いやあんたの配下にだと?これだけの化け物共を配下に置いておきながら今更俺如きを必要とする理由があるのか?」


「簡単な事じゃ、妾は表立って動くつもりは無いのじゃ、魔神王デヴィルロードとして動けばこの世界など簡単に征服出来てしまうからのう。人間界でゆっくりと楽しむために冒険者などと言う職業ジョブをして遊んでおるのじゃ。じゃからA級冒険者の肩書があるお主を手元に置いておけばこの国では動きやすいじゃろ?何せあそこで火あぶりになっておる図体が大きいだけの屑と違ってお主は冒険者としては名士で通っておる様じゃからな。―それに妾に降れば褒美をやるぞ「魔装創作エレメンタルギア・クリエイト」!」

「魔装」の力によりアスモから発せられた魔力の塊が手に持っていたスティングの刀と融合していき銀魔鋼(ミスリル)の刀がその白銀の姿から漆黒へと塗り替えられていく。そして只ならぬ波動オーラを放ち、まるで魔剣とも言えるような業物へと変貌した。

「…おお!おお!!」

 その様子を見てスティングが驚嘆の声を上げた。

「どうじゃ、妾の配下になればこの刀をくれてやろう。―但し条件があるのじゃ、まず第一の試練・・としてお主には罰を受けてもらう。妾に剣を向けたのじゃから当然の事じゃ。じゃが軽いものにしておいてやろう、まあそれでもきついとは思うが試練として耐えるのじゃな。そしてそれに耐えられれば第2の試練・・としてある男・・・と立ち会ってもらう。その試練を見事達成すればお主にこの剣を授けて妾の配下にしてやろうではないか。お主の働き次第では魔神デヴィルに転生させてやる事も考えてやろう。さてどうするのじゃ?」

 アスモが微笑みながらスティングにとても耳障りのよい言葉をかける。

「あんたに従えばこの剣を俺にくれるのか?しかも俺が魔神デヴィルに…それが本当ならばあんた、いいや魔王陛下に従い試練を受けます!どうか俺を陛下の配下にして下さい!!」

 スティングはどうやらアスモの甘言に陥ってしまった様だ。



 クフフフ、阿呆が掛かりおったのう、これで実験③は上手く行くのじゃ♪

 誰がお主の様なゴミなど必要とするものか。大体ゴミ屑のお主が魔神デヴィルになどなれる訳が無いじゃろ。本当に人間は愚かな生き物よのう♪

 何せ主殿ぬしどのに勝てると抜かしたのじゃ、お主には有言通り主殿ぬしどのと戦って貰うとしよう。

 そして貴様には経験値として主殿ぬしどのと妾の糧となって貰った後にその首を妾の手柄として冒険者ギルドに差し出す事は最初から決めておったのじゃ。

 A級でも上位のお主を仕留めたとなれば妾のランクも確実に上がるじゃろう。

 精々、叶う事の無い夢を見て断末魔の叫びを上げるが良いわ♪



 アスモは希望に満ちた表情をするスティングを嘲笑うかの様にほくそ笑む。

「良かろう、では第一の試練じゃ、―おい、こ奴には打擲を与えよ。但し、決して死なすでないぞ。壊す事も許さぬ。良いな?」


「御意に御座います。―さあ、こっちへ来い。」

 屍鬼魔仙デイモス・リッチがアスモに一礼しスティングを引き摺って行く。

「陛下!このスティング・ローデンス必ずや陛下の試練に耐えて見せます!!」

 スティングはアスモにそう告げて偽りの試練を受ける為に刑場まで連れられて行った。


「…クフフ、まあ精々道化を演じて見せよ♪」

 屍鬼魔仙デイモス・リッチが召喚した骸骨兵スケルトン・アーミーに棍棒で打擲され苦痛に顔を歪めているスティングを見ながらアスモが嫌らしい嗤いを浮かべ呟いた。


 ▼

「さてと、次じゃ!―今度はネッドではないか。この中では一番位が高いお主には組織の詳細や「裏」の黒幕についてもっと詳しい情報を得られる事を期待させてもらうのじゃ。では行くぞ「記憶閲覧メモリー・リード」。」

 アスモはネッドの記憶を視た。そして数分が経過した時にアスモの期待通りのいやそれ以上の情報がネッドの記憶から手に入った。

「…クフフフ、アハハハハハハハ!!最高じゃ!最高じゃぞネッドよ!!褒めて遣わすのじゃ!使える、この情報は使えるのじゃ!さて、この貴重な情報を使いどう画策して主殿ぬしどの一芝居打つ・・・・・とするかの…」

 アスモはネッドからもたらされた貴重な情報に歓喜し声を高らかに嗤った。そして手に入れたその情報をもとにゼフォンに対して何か謀略を企てるようだ。

「こ奴には罰は不要じゃ、後で妾が直々に頭の中を弄るとしよう。では次!―ほう、貴様が最後とは良く出来た話じゃの。このゴミ屑の記憶など視る必要も無い、こ奴には「蟲」を使え。但し殺さぬように細心の注意を払うのじゃぞ、こ奴は妾が直々に止めを刺すのじゃからのう。良いな?」

 アスモは己の前に引き立てられ錯乱し恐怖に怯えるパウロの顔を見るなり彼の記憶すら視る事も無く吐き捨てる様に刑の執行を言い渡した。

「御意に。しかし「蟲」を使うとなればこの程度の人間では数分ですら耐えられぬかと思われますので貴重な「種」を使用する事になりますが宜しいでしょうか?」


「こ奴は妾を最も不快にさせたのじゃ、故に最も苦しい「蟲」の罰を与えるのじゃ。じゃから例え貴重な「種」であろうとも妾にとっては些末な事じゃ、何せこ奴には簡単にくたばってもらっては困るのじゃからのう。この世に生まれて来たことを後悔させてやるが良い!」


「何と陛下を不快にさせるとは…承知致しました。この愚かな下等生物に私の持てる全ての技術を駆使して責め苦を与えさせて頂きます。―おい、人間よ貴様には「蟲」による刑を実行する。まずはこの「再生の種リヴァイブ・シード」を体内に埋め込ませてもらおう。これは大変貴重な物なのだぞ。使用を許可して頂いたアスモデウス陛下に感謝しろ!」

 そう言って屍鬼魔仙デイモス・リッチがパウロの胸に何かを埋め込んだ。

「ひっ、止め、てっ!…いぎっ!?ぎぃぃやぁぁぁー!!」

 パウロが激痛に顔を歪めて叫喚の声を上げる。


 パウロは全身が熱くなる感覚を覚えた。まるで全身の細胞が活性化しているような感じである。

 そしてアスモにより最も痛めつけられ未だに再生途中であった傷があっという間に再生して行き完全に回復してしまったのだ。


「どうだ?素晴らしいだろう?この「再生の種リヴァイブ・シード」は細胞の活性化を1,000倍以上増殖させる事が出来る効果を持つ貴重な代物なのだ。まあその分寿命も1,000倍縮むのだがな。そこに陛下が貴様にかけた「再生の光(リジェネ・シャイン)」の効果が合わさればどのような傷であろうと瞬時に再生するであろう。つまり貴様は頭を吹き飛ばされるか心臓を失わぬ限りもう死ぬ事は出来ぬ状態なのだ。そして今から貴様にはあそこにある壺の中に入り「餓鬼蟲グール・ワーム」による刑を受けるのだ。数千を超える「餓鬼蟲グール・ワーム」が貴様の皮膚、肉を食い散らかし地獄の責め苦を与える事になる。更にこの蟲は激痛を伴う神経毒を持っている故にその痛みにより気絶する事すら出来ぬ、陛下を不快にさせた罪を後悔し詫びながら罰を受けるが良い!」

 屍鬼魔仙デイモス・リッチが大量の「餓鬼蟲グール・ワーム」が中で蠢く壺までパウロを引き摺って行く。

「嫌だ、嫌だ、嫌だー!!!助けて、助け…―う、う゛う゛あ゛ァ゛ァ゛ーーー!!!」

 パウロは叫び必死に抵抗を試みるが見えない糸により体の自由を奪われている状況では指一本すら動かす事が出来ない。

 そして抵抗する事すら出来ずに「餓鬼蟲グール・ワーム」が蠢く壺の中に放り込まれた。

 壺の中で数千を超える「餓鬼蟲グール・ワーム」がパウロに群がり喰らいつきバリバリと食事を始めた。

 通常であれば数千の蟲に食い散らかされれば短時間で骨だけになってもおかしくない状況であったが、「再生の種リヴァイブ・シード」と「再生の光(リジェネ・シャイン)」の相乗効果により食いちぎられた皮膚や肉が瞬時にして再生してしまう。その為にパウロは死ぬ事が出来なくなり究極の激痛を味わう事になっているのであった。


 そして誘拐犯たち全ての処遇を決めたアスモは断末魔の合唱コーラスが響き渡る阿鼻叫喚の地獄のような空間の中でまるで心地よい音色でも聞いているかのように目をつむり耳を澄まし寛ぎそして微笑んでいた―




 ▼

「ふわぁーあ、やっと終わったのじゃ、人間の反応は泣き叫ぶだけで大した変化も無くあまり面白う無かったのう。」

 アスモが欠伸をしながら伸びをする。

魔王の仕置き部屋ディアーボ・コンデム・チャンバー」の体内にはおびただしい数の拷問器具と周りに転がる誘拐犯達の躯が多数転がっていた。死因は感電死、焼死、水死、窒息死など色々な拷問を受けた無残な状態の死体が9体あった。

 そして生き残りは打擲により全身の骨を折られ、血みどろのスティングとアスモに頭の中を弄り回されたネッド、そして「餓鬼蟲グール・ワーム」に全身を食い散らかされ魔法と種の効果も切れ、皮膚や肉が剥がれボロボロの状態で息も絶え絶えなパウロの3人であった。


「さてと、そろそろ行かんと主殿ぬしどのが痺れを切らせておるやも知れぬ。では外の世界に戻るとするかの。―お主らよもう下がっても良いぞ。今回は大義であった、冥王チェルノボーグにはご苦労であったと伝えておいてくれ。」


「「「御意に御座います。偉大なる陛下の御前で下賤な我らが働けた事を一生の宝とします。冥王様にもしかとお伝え致します。―では陛下これにて失礼致します。」」」

 平伏しながらアスモにそう告げて屍鬼魔仙デイモス・リッチ達が魔界へと帰って行った。

「ふむ、帰ったか。では「魔王の仕置き部屋ディアーボ・コンデム・チャンバー」よ主も妾達を外の世界へ戻して帰るが良い。」

 アスモがそう告げた途端、この異様な空間が一瞬にして収縮を始めて大量の拷問器具と共に消え去った。

 そしてアスモと無残な9体の躯と廃人同然の3人は中央倉庫に戻った。

 あちらでは1日経ったがこちらの世界では一刻程しか経っていないのだ。

「さてと、早う主殿ぬしどのを迎えに行って「実験③」と楽しい「計略」を実行せねばのう♪」

 そして「魔王の仕置き部屋ディアーボ・コンデム・チャンバー」の中でじっくりと彼に対しての謀略を企てていたアスモは嬉しそうにゼフォンを迎えに倉庫を出て行った―



 ▼

 アスモに指定された倉庫街の外れにある異様な魔法刻印ルーンが施された巨大な倉庫の近くでゼフォンが影を潜めていた。


「…約束の一刻は過ぎたぞ。クレアは無事なのだろうか?―くそっ!アスモはまだ来ないのか?」

 ゼフォンがアスモの到着を今か今かと待っていた。

「―殿!主殿ぬしどの!、ここじゃ!」

 アスモが倉庫の扉を開きゼフォンのもとへ駆け寄ってきた。

「アスモ!クレアは無事なのか?」


「無論無事じゃ、怪我すらしておらぬ。…しかし主殿ぬしどのよ、少しは妾の事を心配してくれても良いのではないか?」


「す、すまん。お前ならば大丈夫だと思っていたのでな。しかし本当に感謝している、ありがとう。お前がこの国に来てから世話になってばかりだな。」

 ゼフォンがそう言ってアスモに頭を下げ礼を言った。

「良い良い、主殿ぬしどのの家族の為じゃ、それにこの事件は妾の仕事でもあるのじゃ。しかし主殿ぬしどのにそこまで言われると照れてしまうの、クフフ。」

 アスモはゼフォンに礼を言われて少し嬉しそうにしながらそう答えた。

「この中にクレアが居るんだな?…それから誘拐犯達はお前が既に捕えてあるのか?」


「クレアはこの倉庫の部屋の1つに妾が結界を張り誘拐された子供達と共にそこで大人しくしておるのじゃ、誘拐犯達も既に妾が全員捕えて罰を与えておるのじゃ。―しかし何時までもここにおって人目に付く訳にも行かぬ。主殿ぬしどのよこのお守りを着けるが良い。これを着けておれば結界を壊す事無く出入りできるのじゃ。元々は誘拐犯共の結界を抜ける為のものじゃったが、少し改良を施して妾が内側に張った結界も抜けられる様にしておるのじゃ。」

 アスモが誘拐犯達が倉庫に入る為に身に着けていたお守りと同じような物をゼフォンに手渡した。見た目はほぼ同じだが水晶の輝きが増し魔力を帯びているように見える。

「分かった。これを着ければ中に入れるんだな。では行こうか。」


「うむ、では妾が中を案内するのじゃ、ついてくるが良い。」

 アスモがゼフォンを先導し倉庫の中に入って行った―



 ▼

 倉庫内の通路の中央をアスモがゼフォンを案内し子供達が待つ部屋を素通りして中央倉庫の方へ向かって歩いて行く。

 そして中央倉庫の中へゼフォンが案内され目の前に広がる惨状を目の当たりにした。

「―ここがクレアや子供達の居る部屋でないのは理解出来る。だが、何なんだこれは?…この大量の死体は誘拐犯達なのか?生き残りが1人、いや死に掛けも入れれば2人程か‥何故殺す必要があった?答えてもらうぞアスモ!!」

 ゼフォンが怒気を含めた口調でアスモに追及する。

「こ奴らの状況の説明か?簡単な事じゃ、妾を殺そうと襲い掛かって来た故に返り討ちにしただけじゃ。正当防衛じゃぞ、それが何か問題でもあると言うのか?―それに主殿ぬしどのよ落ち着くが良い。先にクレア達に会わせなかったのは今この場に主殿ぬしどのが来ている事を内緒にしておく必要があったからじゃ。こ奴らと言うかこ奴らの黒幕の処遇をどうするか決める為にな。」


「正当防衛か…お前ならば殺さなくても捉える事が出来たはずだろ。―それに奴らの黒幕だと?…そんなものは治安部隊か国に任せておけばいい事だろう。」


「ほう、国とな?多分それは無理じゃろうな。今回の黒幕は王族の親族じゃ、途中でうやむやにされるのが落ちじゃぞ。それに何故妾が殺意を向けて襲い掛かって来る屑共に手加減をせねばならんのじゃ?今回の様な場合は冒険者ギルドの約款にも問題は無いと記載されておるはずじゃぞ。それにこの中の殆どの者が冒険者じゃ、しかもA級冒険者が2人もおったぞ。妾を責めるよりもこの国の腐敗した状況を嘆いた方が良いのではないか?」


「何?王族が関与だと?それにA級冒険者まで…にわかには信じられん話だが…いや確かにお前が俺に嘘をつく理由が無いか。」

 ゼフォンがアスモから告げられた事実に衝撃を受け考え込んでいる。

「おお、そう言えばあそこの隅に転がっておる男がクレアを斬ろうとしたのじゃがどうする?主殿ぬしどのの言う様に生かして国とやらに引き渡すのか?」

 アスモが部屋の隅で瀕死の状態になっているスティングを指差しゼフォンに嘘を吐いた。

「クレアを斬ろうとしただと!!引き渡しなどしない!今すぐ止めを刺してやる!!」

 ゼフォンの眼に怒りの炎が宿りその視線がスティングに向けられた。



 クフフ、かかったのう。やはり主殿ぬしどのは家族の事になると我を失い激高してしまうようじゃの。

 この様子ではネッドの記憶の中にあった黒幕の事を教えてやれば確実に殺しに行くじゃろうな。

 それにしても妾の思惑通りに事が進んでおる。怖いぐらいじゃな♪

 さてと、主殿ぬしどのもやる気の様じゃし、そこに転がっておる屑には有言通り主殿ぬしどのと戦って貰うとするかの。



「まあ、待て主殿ぬしどのよ。見た通りそ奴には先に妾が罰を与えておるのじゃ、殺すのは簡単じゃが己の腕に自信があるらしく何と主殿ぬしどのにならば勝てるとか抜かしておってな。楽に殺すよりも怪我を直してやった万全の状態で得意な剣術とやらで圧倒してから殺した方が絶望を味あわせる事が出来るとは思わぬか?それに妾も主殿ぬしどのの剣の腕を直接見ておきたいのじゃ、たまには妾の願いも聞いてくれれば嬉しいのじゃがのう?」

 アスモがゼフォンに提案した。

「別にどちらでも構わん。…だがお前には感謝している。だからその提案に乗ってやろう。早くそこの糞野郎を治療してくれ。」

 ゼフォンはアスモの提案を受け入れスティングと立ち会うことを決めた。

「了解じゃ。―では主殿ぬしどのよ預かっておったこれを使って試し斬りを行うが良い。折角の名剣も使わなければ宝の持ち腐れじゃぞ。「次元の倉庫ディメンション・デポット」!」

 そう言ってアスモが魔法を発動し何もない空間に手を突っ込んだ。そして何かを掴んだように引き抜くとその手にはアスモよりも遥かに大きな巨大な大剣が握られていた。そしてそれをゼフォンに手渡した。

 その剣はアスモがゼフォンの為に「魔装」により作り出した「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」であった。

「ああ、感謝する。確かにコイツを実戦で使うのは初めてだ。しかし試し斬りの相手がこんな糞野郎だとはな…」

 ゼフォンが「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」を握り素振りを始めた。

「では、妾はあそこの屑を治療して主殿ぬしどのと立ち会わせるように準備をする。そこで少し待っておるのじゃぞ。」

 ゼフォンにそう告げアスモはスティングのもとへと駆けて行った。




「「完全なる治癒パーフェクト・リカバリー」!」

 アスモが高位治癒魔法でスティングの傷を一瞬にして治した。

「陛下…俺は試練を耐えましたよ。だから―」

「確かに第一の試練は耐えたようじゃ、そして次が第二の試練じゃ。―あそこにおる男は知っておるな?お主はあの男に勝てると言ったじゃろう?じゃから妾の前であの男を倒してみせるのじゃ。勝てば約束通りお主を妾の配下とし魔神デヴィルに転生させてやろうではないか。どうする?」

 アスモはそう告げて「魔装」により強化した魔剣を手渡した。

「あいつはゼフォン・グレイヴ…奴を斬れば本当に俺を魔神デヴィルにしてくれるんですね?」


「無論じゃ、他の者共は悉くお主よりも過酷な罰を与え殺したが、お主にはきついとは言え打擲のみで殺すような罰では無かったはずじゃ。妾が殺す気なら既に先程の拷問で殺しておるじゃろ?―で、試練を受ける気はあるのか?」


「当たり前です!陛下の為にあの男…ゼフォン・グレイヴを必ず斬って見せます!!」

 そうアスモに告げてスティングが魔剣を手に取り立ち上がった。



 本当に妾の思惑通りに上手く事が運んでおるのじゃ♪

 さて、この屑では確実に主殿ぬしどのには勝てぬじゃろうが主殿ぬしどのの本気も見ておきたいし丁度良い余興じゃな。

 一応この公国では最強クラスの人間同士の立ち合いじゃ、少しは楽しませて貰うとしよう♪

 さあ、「実験③」の開始じゃ♪



 離れた距離で対峙するゼフォンとスティングの戦いの火蓋が切られるのをアスモがニヤリと嗤いながら見守っていた―


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