第30話 魔神王誘拐事件 その⑤逆襲のアスモ
アスモが発動させた高位闇属性魔法「闇の監獄」により誘拐犯達のアジトはまさに脱出不能の監獄と化した―
アスモと同じ部屋に居た子供達は魔力の波動が身体を通り過ぎた事は感じたが、一体何が起こったのかは理解出来ない様だ。
アスモが何かした事に気付く者は数人居ても、殆どの者がキョロキョロと辺りを見回していた。
「さーて、今からあ奴らを皆殺しじゃ♪どうやって殺すかの♪おっとその前に人質にここから動かんように指示しておかんとな。―のう、貴族の娘よちょっと良いか?」
アスモが楽しそうに誘拐犯達の処刑方法を考えながら部屋の隅で淡いクリーム色の毛色をした猫人族の少女の看病をしている子爵家令嬢エレナに話しかけた。
「今それどころじゃないんだから話しかけないで!―クレアもっと強力な治癒魔法は出来ないの?」
エレナはアスモを無視してクレアに話しかけている。
「エレナお姉ちゃんごめんなさい。クレアは「治療の光」しか出来ないの。だからこれ以上はこのお姉ちゃんを治す事できないかもしれないの…でも、アーちゃんなら出来るかも…」
クレアが猫人族の少女にむけて下位治癒魔法の「治療の光」を発動させ治療を試みているが効果は薄いようだ。
「アーちゃんって誰?もしかして、さっきのクレアの友達?」
「うん。エレナお姉ちゃんの後ろに居るよ。」
その言葉を聞いてエレナは即座に後ろに立っているアスモに視線を向けた。
「貴方がこの子を治せるかもしれないって本当?どう見てもクレアと同じか少し年下にしか見えないけど…」
エレナは訝しげにアスモを見ている。
「本当だよ。アーちゃんはすっごく強いし、すごい魔法が使えるんだよ!クレアも怪我をあっという間に治してもらった事があるんだよ!」
クレアがアスモに以前助けてもらった事や自分達が魔法を教えてもらっている事を簡単に説明した。
「この子がクレアの師匠?本当に冒険者みたいだけど鋼のプレートって確か最下位のF級じゃないの。…それに強いって言うけど捕まってここに来てるんでしょ、信じられないわ。―でも、この子を助ける望みがあるかもしれないならどんなものにでもすがりつくわ。貴方はクレアが言う様にこの子を治す事が出来るの?出来るなら直してよ!」
衰弱し苦しんでいる猫人族の少女の手をギュッと握りエレナがアスモに少女の治癒を要請した。
「…無論可能じゃが、妾の仕事はお主の救出とクレアの保護のみじゃ。人質達はついでに助けてやるだけじゃ。正直、妾がそ奴を治してやる理由など無いぞ。それにお主のその言い様、人にものを頼む態度ではないの。あとさっきも言ったようにわざと捕まったのであって、あ奴らより弱い訳ではないのじゃ、そこは間違えるでないぞ。」
「じゃあ、貴方は私の救助に来たんでしょ?この子は私の従者よ。一緒に助けるのが義務じゃないの?」
エレナは治療を拒絶するアスモに食い下がる。
「残念じゃが、お主のみの救出依頼しか出ておらなんだな。お主を救出すれば金貨20枚じゃ。早うお主を無事に連れ帰ってプリンをお腹一杯食うのじゃ、さっさと誘拐犯共を皆殺しにしてくるからお主達は大人しくここで待っておれ。よいな?」
アスモは食い下がるエレナを無視し、踵を返して扉の方へ歩いて行こうとした。
「待ちなさいよ!プリンだったら私が100や200、いいえ1,000個でも食べさせてあげるわよ!この子は私が捕まっている事を外に知らせる為にここを抜けだそうとしてこんな酷い目に逢わされたの。だから私の所為でもあるのよ。お願いだからフィーを治してよ…治して…下さい。」
エレナは泣きながらアスモに縋った。
「おい、今プリン1,000個と言いよったな?本当じゃな?…無論報酬以外で払うと言う事であろうな?妾を騙すと後が怖いぞ。」
アスモはその言葉を聞いた途端更に踵を返してエレナに詰め寄った。
「本当よ。お父様なら私が頼めばそんな事ぐらいしてくれるわ。もしお父様がしなくても私が今まで貯めてきたお小遣いでプリン1,000個ぐらい買えるわ。だからこの子を助けて!」
「貴方は冒険者様なんですよね。お願いします、お姉ちゃんを助けて下さい。」
エレナと一緒に茶系にグラデーションがかかったような綺麗な毛色の可愛らしい猫人族の少女がアスモに懇願してきた。
多分この少女が依頼書に書かれていたもう一人のエレナの従者であり10歳のアビィ系の少女なのだろう。
「良かろう。但し、報酬は払ってもらうからの。―クレアよそこを退くのじゃ。妾がそ奴を診てやろう。」
「アーちゃんが治してくれるの?じゃあ、もうこのお姉ちゃんは大丈夫だね!ジルお姉ちゃん、もう休んでも大丈夫だよ。」
クレアが一緒に猫人族のフィーを治療していたジルと言う金髪セミロングの長身でスレンダーな15歳位のエルフの美少女にそう話しかけた。
「この子が治療を?じゃあ、この子がクレアちゃんが話してくれたアスモちゃんなのね。…でも多分治せないと思うわ。確か彼女はクレアちゃんを治した時に中位治癒魔法の「治癒の波動」を使ったって言ってたわよね。だけどフィーちゃんの怪我は上位以上の治癒魔法が必要なの。だから早く王都の神殿に行って高位神官様に儀式を行って貰う必要があるわ。」
そうクレアに説明するジルをよそにアスモはフィーに近づき診察を始めた。
クレアとこのエルフの娘が「治療の光」を使ったようじゃな。
ふむ、外傷や軽い骨折の治療は出来ておる様じゃが、まあこれでは治せんわな。
それにしても猫人族か。魔界にはおらん珍しい種族じゃな。
名前からして獣人かと思ったが人狼の様な獣人などとは違い、獣と言うより人間に近い姿じゃな。
獣らしいと言えば耳に尻尾、それから手足の周りに生えた毛と肉球ぐらいか。
獣人では無く半獣人と言ったところか…
「ふむ、確かにこの猫人族の娘はかなりの重傷の様じゃな、完全骨折十数か所に亀裂骨折は更に多数か。それに内臓も損傷というか破裂しておるな。―それからこの娘は半獣人であるが故の中途半端な再生能力とお主らの治療魔法で生き永らえておるが、ある意味その所為で死んだ方がましな程の激痛が続いておったじゃろうて。」
アスモはフィーの状態を一瞬で見抜いてその場に居る皆に説明した。
「内臓が破裂…じゃあ私達は今までフィーを苦しめていたの?…そんな、もうフィーは助からないの…うっ…」
「…嫌だよ!お姉ちゃん死んじゃ嫌だよ!…うわーん!」
エレナが膝をつき泣き崩れた。そしてフィーの妹であろう猫人族の少女もエレナにつられて大声で泣き出した。
「アーちゃん…」
クレアが泣いている二人の様子を見てからアスモの服を掴み心配そうに見つめている。
「―はぁ、お主ら泣かんで良いぞ。妾はこの娘の状況を言っただけで「治せぬ」とは一言も言っておらんじゃろ。」
アスモはやれやれと首を振りながらそう告げる。
「…じゃあ、フィーを助けられるの?本当に?…でも貴方の使う中位治癒魔法じゃだめなんでしょ?」
エレナは涙をぬぐってアスモに話しかけた。
「中位じゃ無ければ良いだけの話じゃ。「完全なる治癒」!」
アスモはエレナにそう告げて高位治癒魔法。「完全なる治癒」を発動した。
すると一瞬にして息も絶え絶えであったフィーの呼吸が落ち着き、血の気を失っていた肌にも生気が戻り、体中にあった痣も消え去った。
そして次の瞬間にフィーが目を開けて起き上がった。
「「「……」」」
周りでその様子を見ていたクレアを除く3人はその光景を見て呆然と立ち尽くしていた。
「…あれ、身体が楽になった?痛みも全く無いよ?え?え?」
フィーは自分の身体を触り出し全く異常が無い事に混乱ていた。
「フィー!!夢じゃないのよね!本当に治ったのよね!」
「お姉ちゃん!良かった―!うわーん!!」
全快したフィーの姿を見て最初は呆気に取られていた二人がフィーに抱きついて泣いていた。
「やっぱりアーちゃんは凄いね!!」
クレアは満面の笑みでアスモに微笑んだ。
「当然じゃ、この程度の些事など妾には朝飯前じゃ。」
アスモは自慢げに胸を張っている。やはりお世辞には弱い様だ。
「…嘘、嘘よね…」
その場に居たジルだけはこの光景を未だに信じられない様であった。
今この子間違いなく「完全なる治癒」を使ったわよね。
ありえないわ。だって上位どころか高位治癒魔法なのよ!
高位神官だって一人で上位の「再生の光」を使える人がこの王都には数人いるかどうかのレベルなのに高位治癒魔法の「完全なる治癒」を使ったのよ。しかも無詠唱で。
こんな事有り得ないわ。高位治癒魔法は神殿で高位神官が数人がかりで儀式を行う魔法なのよ。無詠唱で発動させた何て聞いた事すら無いわ。私の故郷のエルフの里でも出来る人なんていない。
この子は一体何者なの?正直次元が違いすぎるわ。
それにその手枷…え?ええ!?
「ちょっと、貴方!その手枷は魔抗鋼材じゃないの!!何で魔法が使えるのよ!!」
ジルはアスモの付けている魔抗鋼材製の手枷を見て驚愕の声を上げた。
魔抗鋼材を身に着けられている以上、魔法は一切使えない筈なのだ。あくまで通常であればだが…
「ん?これか?妾にはこんな物効かんぞ。そう言えば確かに邪魔にじゃの。―クレアよちょっと離れておれ。」
そう言ってアスモにくっついているクレアに離れる様に告げた。
「うん、アーちゃん。」
クレアはその言葉に応じ少し離れた。
「ふむ、よっと。」
バキン!―ベキッ、ベキッ―
アスモが手首を軽くひねった瞬間に手枷を中心でつないでいた鎖が引きちぎられ、更に手首についたままの手枷をそれぞれの人差し指で剥がす様に破壊したのだ。まるで果物を剥く様な手つきであった―
ジャラン…カン、カン…
と音を立て魔抗鋼材製の鎖と手枷が地面に落ちた。
「「「「……」」」」
周りに居たクレア以外の4人はその様子に先程よりも呆気に取られていた。
いや、4人だけでは無くその様子を離れて見ていた他の少女達も呆然としている。
皆、一体何が起きたのか理解出来ないほど混乱していた。
アスモが簡単に破壊した魔抗鋼材は鋼鉄よりも強度があるのだ。普通ならば素手で破壊などできる訳が無い。
物語や伝説で英雄が魔抗鋼材や銀魔鋼を叩き割ったとか云う昔話を聞いた事はあった。
だが、目の前の少女は皆の前で実際に破壊したのだ。しかも叩き割るのではなく簡単にちぎったのである。
目の当たりにした者が驚くのは無理もあるまい。
だが、相変わらずクレアは驚きながらも尊敬の眼差しで微笑みながらアスモを見ていた。
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「さてと、今度こそあ奴らをぶち殺しに行くのじゃ、お主らよ絶対にここから出てはいかんぞ。良いな?」
その場にいる皆にそう告げてアスモは扉の方へ歩き出した。
「よし、やるかの。お主ら少し下がれ。」
扉の近くにいた少女達に告げてアスモは扉の前で構えを取った。どうやら扉を破壊するつもりのようだ。
少女達もその言葉に応じて距離を取る。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
その様子を見ていたエレナが必死にアスモを止める。
「何じゃ、まだ何か用があるのか?ならば早うしてくれんかの。」
アスモは面倒くさそうにエレナに告げる。
「貴方その扉、叩き壊すつもりじゃないでしょうね?」
「その通りじゃ、こんな扉程度破壊するのは妾にとっては簡単な事じゃ、心配する必要はないぞ。」
「違うわよ!無理やり壊したら大きな音であいつらがやって来るじゃない、あっちにはA級冒険者が2人も居るのよ。」
「あの程度の奴らなぞ妾の敵では無いのじゃ。」
「貴方は大丈夫でも、あいつらが一斉に襲い掛かってきたら私達は身を守る術が無いわ。ここに居る皆は貴方とは違って戦う事なんて出来ないのよ。」
エレナは必死にアスモを説得する。周りの皆もエレナの言葉を聞き不安そうな顔をしている。
ふぅ、面倒くさい奴じゃな。仮に奴らが全員ここに来たとしても妾の相手にはならんと言うとるのに。
しかし、監禁されていた時の恐怖と言うものがここに居る人質共にはあるのじゃろうな。
派手に暴れたかったが仕方あるまい、奴らのもとへ行くまでは大人しくしておくか…
「分かったのじゃ、では静かにここを出る事にするとしよう。」
エレナの返答に少しうんざりしたような顔をしていたアスモが口を開いた。
「静かにって…でもどうやって出るの?」
「簡単な事じゃ、見ておればよい。「念動力」」
エレナの心配をよそにアスモは扉へ向かって手をかざし魔法を発動させる。
するとがガチャリと扉の鍵が開く音が部屋に響いた。「念動力」により鍵を開錠したのだ。
「どうじゃ、簡単じゃろ?」
アスモは自慢げに言い放った。
「…貴方ね、それが出来るなら最初からやればいいじゃない。どう考えても扉を壊そうとする方が面倒でしょ!」
エレナは少し機嫌悪く、そして呆れ果てたようにアスモに告げる。
「…確かにそうじゃな。まあ、気にするでない。では行ってくるぞ!」
アスモがそう告げて扉に手をかけた。
「アーちゃん…一人で大丈夫?」
クレアが心配そうな顔でアスモに声をかける。
「何じゃ、クレア。もしかして一緒に行くとか言わんじゃろうな?正直言って邪魔にしかならんからお主はここに居れ。良いな?それに妾の実力は知っておる筈じゃろ?安心せよ、あ奴ら如きに遅れなど取らんのじゃ。」
「うん、わかった。クレアここで大人しくしてる。…でも気を付けてねアーちゃん。」
クレアは一応納得したようだが、やはりアスモと一緒に行きたそうな顔をしていた。
どうやらクレアはアスモが心配なのでは無くアスモと離れるのが嫌なようだ。
「よし、いい子じゃ。ではこれをやろう。」
アスモはそう言って腰に下げている袋を外しクレアに手渡した。それを受け取ったクレアは袋からきれいな紙に包まれた丸い物を取り出して驚く。
「これはエッダおばさんの所の果実の飴…こんなに沢山あるの初めて見た。アーちゃん、これクレアにくれるの?」
「そうじゃ、妾は2個食べたから残り33個あるはずじゃ。ここに居る皆に1個ずつくれてやったとしても十分余るじゃろ。残りはすべてお主の物にするが良い。」
「うん!皆にちゃんと配るね。アーちゃんありがとう!大好き!」
クレアは満面の笑みを浮かべてアスモに抱き付いた。飴を貰ったというよりもアスモから何かを貰ったと言う事が嬉しいようだ。
「分かった、分かったから早う離れよ。―では今度こそ妾は行くのじゃ。それから安心せよ、鍵は掛け直しておく。ついでに結界も張っておいてやるからお主らはここで大人しくしておれよ。奴らに仕置きをする故少し時間はかかると思うが心配はするでないぞ。」
そう言ってアスモは今度こそ扉を開けて部屋を出て行った―
ガチャリ―
部屋を出たアスモは再度「念動力」を使って扉に鍵を掛けた。
「ふぅ、やっと部屋を出れたのじゃ。しかし子供のお守は疲れるのう。まあ仕事じゃし仕方あるまい。おっと、結界を張っておかねばならんかったな。「魔法障壁」」
アスモは中位魔法を発動し扉に結界を張った。
「おっ、そうじゃ。奴らが逃げれぬように他の部屋の扉にも結界を張っておくとするかの。まずは奴らの位置を探るか…居った、確かに一所に集まっておる様じゃな。人数は12人か。クフフ、少しは楽しめるかの♪」
そう呟いてアスモは誘拐犯達が居る部屋以外の全ての扉に結界を張って誘拐犯達の居る中央倉庫目掛けて疾走していった―
▼
「あ、ちゃんと鍵が閉まった。それに扉から魔力が感じられるわ。…本当に結界も張ってくれたみたいね。」
エレナが感心しそう呟く。
アスモが約束通り鍵を閉め、結界を張ってくれた事に安堵していた。
「はい、エレナお姉ちゃん。アーちゃんがくれた飴だよ。ジルお姉ちゃんも食べて。」
皆に飴を配り終わったクレアがエレナとジルに飴を手渡した。
「ねえ、クレア。あの子大丈夫かな?向うは冒険者が大勢いるのよ。しかもA級が2人も。どう考えても勝ち目があるとは思えないわ。やっぱりここから逃げ出す手を考えたほうがよかったんじゃ…」
「大丈夫だよ。アーちゃんすっごく強いから。だって今は公国で2番目に強いって言ってたもん。だから悪い奴なんかに負けないもん!」
「公国で2番…あのね、クレアちゃん。一つ聞きたいんだけどアスモちゃんって悪魔系の亜人よね?淫魔か夢魔に見えるけど、種族が何か聞いてる?」
「2つとも違うよ。えっとね、アーちゃんは「魔人」だよ!」
「…やっぱり、じゃあもう大丈夫ね。―皆、アスモちゃんが戻って来るまでクレアちゃんから貰った飴でも食べて大人しく待っていればいいわ。彼女が戻ってきたら家に帰れるから心配する必要はないわ。」
クレアからアスモが魔人である事を聞いた途端ジルは予想が当たった事を確信した。アスモがその幼い歳で人知を超えた能力を持っている事に納得したのだ。
「ねえ、何であの子が魔人だったら大丈夫なの?確かに魔人は魔神の末裔で人間よりも優れているけどあの子は子供じゃないの。」
エレナは1人で納得し、頷いているジルに質問した。
「そう、あの子は魔人なのよ。あの姿の魔人なんて見たことある?あの子は「先祖返り」なのよ。普通の魔人は人間と変わらない姿だけどあの子は悪魔系、いいえ、魔神近い姿をしているでしょ?あの姿で生まれて来たって事はそれだけ魔神の力を強く持っている証拠なのよ。簡単に言えば隔世遺伝って事ね。」
ジルが流暢に説明する。
「「先祖返り」?…魔神の姿に近いってそんなに凄い事なの?」
エレナは今一つ理解出来ない様だ。
「少し難しかったかな?んー、じゃあもっと簡単に言うとね、アルガルズ大陸最強の魔人と言われているヴェノア帝国皇帝も「先祖返り」の魔人なんだけど皇帝は角が生えているだけなの。それでも最強と言われる強さがあるのよ。つまり角どころか翼や尻尾があって、より魔神に近い姿をしたアスモちゃんはもっと強い魔人になれる可能性があるって事なの。」
「―嘘!じゃあ、あの子本当に凄いんだ…でも、まだ子供だし危ないかも…」
ジルの言葉を聞いてエレナは驚愕した。子供である自分でもヴェノア帝国皇帝の強さや恐ろしさは聞いた事がある。
だが、いくら「先祖返り」の魔人が強いと言ってもアスモが幼女であると言う事に一抹の不安は隠せないでいた。しかし次の言葉を聞いてエレナも家に帰れることを確信した。
「それから彼女が使った魔法。「完全なる治癒」は治癒魔法の高位魔法なの。普通なら高位神官が数人がかりで儀式を行う儀式魔法なの。しかも個人が単独で使用する為の最低取得レベルは60からなのよ。つまりあの子は最低でもレベル60はあるって事なの。レベル60よ。60以上なんて公国には最強と謳われるシュトラウス将軍しか居ないのよ。単純に考えればあの2人程度じゃあの子には勝てない筈よ。だってレベル差が最低でも10以上はあるんだから。」
「レベル60…でも…確かに魔法でフィーを一瞬で治したわよね。―じゃあ、本当に家に帰れるんだ!やったフィー達や皆と一緒にここを出られるのね!」
エレナは少し考えたがジルの話に納得がいき、安堵している。
シュトラウス将軍は知っているどころか面識すらあるのだ。その時、父や周りの人間に例え国中のA級冒険者が数人がかりで向かって来たとしても将軍を倒す事は出来ないと聞いた事があったのだ。
そしてジルもこの話を他の子供達に聞こえる様に再度判り易く説明すると皆も安堵し微笑んでいた。
「ね?皆、アーちゃんはすっごいでしょ!」
クレアがアスモの事を嬉しそうに自慢し微笑んでいた。
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中央倉庫で誘拐犯達が集まって打ち合わせをしていた―
「へへへ、ネッドの旦那、そろそろガキ共の値踏みでもしますか?」
パウロがそう言ってネッドと呼ばれる男に声をかけた。
「そうだな。あの方には例のダークエルフの容姿を確認して早く報告するように言われているからな。相当楽しみにしているようだったぞ。」
「そうですか、そいつは良かった。それから淫魔のガキの鑑定もお願いしますね。」
パウロがアスモの鑑定をネッドに依頼する。どうやら彼は「鑑定士」の職能を持っている様だ。
「ああ、任せておけ。何せ子爵家令嬢と同じく今度のオークションの目玉商品だからな。しっかり確認させてもらうよ。」
ネッドがパウロにそう答えた。
そして彼はこの後すぐにアスモの能力を鑑定眼で鑑定する事になるのだが、彼はこの場に居た事を最初に後悔する事になる。
「そろそろガキ共をここに運ぶ―」
ドガアァァァーン!!!
中央倉庫の重厚な鋼鉄の扉が吹き飛ばされ奥の壁に叩きつけられた。壁は大破し、そして扉はズシンと振動と大きな音を立てて床に転がる。
分厚い鋼鉄の扉の中央がひしゃげ大きく変形していた。
アスモが勢いよく蹴りを加えて扉を蹴り壊したのだ。
「何事だ!」
「鋼鉄の扉が…」
誘拐犯達が吹き飛んできた扉の惨状に戸惑いながらも入口に目を向ける。
「おい、あのガキどうやって…」
「手枷も鎖も無いぞ。」
「いや、その前にどうやってあの部屋から?鍵はかけたはずだぞ!」
「…」
誘拐犯達はアスモの姿を見て驚愕していた。
「ふむ、全員揃っておる様じゃな。…お主らは随分と妾に甞めた真似をしてくれたからのう。今から皆殺しにするが楽に死ねるとは思わぬ事じゃ!!」
アスモがそう言い放ち笑みを浮かべながら誘拐犯達に向かって歩を進めた―
魔人アスモの最初の犠牲者達は今から自分達の身に起こる惨劇が始まる事をまだ知らない―




