第28話 魔神王誘拐事件 その③子爵家令嬢誘拐事件
「すまんが妾はこの緊急依頼「子爵家令嬢誘拐事件」を受注したいのじゃ!」
冒険者ギルドにアスモの大声が響き渡った。
獲物に良く聞こえる様にわざとらしく大声で叫んだのだ。
「え!?この緊急依頼をですか?でも危険度はB級以上になりますよ。新人であるアスモ様にはお勧め出来ませんが…」
受付嬢のセレナが困ったような顔で答える。
「緊急依頼に関してはランクは関係ないはずじゃろ?自己責任なのであれば問題無い。妾はちゃんと一筆書くぞ。それにそなたらには断る理由が無い筈じゃ。」
「それはそうなんですが…」
アスモの正論に対してセレナは反論すること後出来ずに黙ってしまう。
「では、依頼の受注を受けてもらうからの。これがサインじゃ!」
アスモは依頼申請用紙にサインをしセレナに手渡した。
「…かしこまりました。緊急依頼確かに受注を受け付けました。こちらが現在まで判っている詳細についての情報になりますのでお持ちください。―但し、くれぐれもお気を付け下さい。危険になったら必ず逃げる様にしてくださいね!」
セレナは渋々とアスモの申請を受け付け情報の書いた用紙を手渡したが、やはり心配な様でアスモに念入りに用心するように進言した。
「了解じゃ。まあ気を使わんでも妾は大丈夫じゃ!では行ってくるのじゃ!」
そう言ってアスモは気楽そうに受付を離れてロビーにある椅子に腰掛けて緊急依頼の情報の書いてある用紙を手に広げ読むふりをして離れた席に座るハンス達3人に気取られぬように彼らの話声に耳を澄ませた。
「おい、あのガキ緊急依頼を受けやがったぜ。」
「新人のF級、しかもガキがB級以上の仕事を受けるとはやっぱガキは馬鹿だな。」
「でもこれで手間が省けるじゃねーか。早速パウロに連絡をするか―」
ハンス達がアスモが受けた依頼に関してひそひそと話をしている。
ふん、屑共め、こそこそと話をしているようじゃが妾には丸聞こえじゃぞ。人間とは基本の身体能力が違うのじゃ。聴覚を研ぎ澄ませればお主らの内緒話など簡単に聞きとれるのじゃ。
おっ、あ奴念話で誰かと話をするようじゃな。甘いのじゃ、妾には念話の傍受など朝飯前じゃぞ!
アスモはそう言って外部との念話を始めたハンスの信号を傍受した。
通常、念話による信号は対象者以外には聞き取れない様に他者には傍受しても暗号化されて聞こえる様になっているのだ。
この暗号を解読する為に「暗号解読者」という職能があるのだが希少な職能の為、公国内にも数える程しか居ないのである。
しかも熟練の「暗号解読者」でもその場での完全傍受は難しく暗号を解読するのに多少の時間がかかるのだが、精神、操作、能力異常の全てを無効化できるアスモの職能「色欲」の前では念話での暗号化など意味が無く只の会話として聞こえる為、全てが筒抜けなのであった。
『―――では、そういう事で――人質が?ハハ――ああ、任せておけって、じゃあな。』
ふむ、念話は終わった様じゃな。それにしてもあの阿呆は…
仕方あるまい、今頃孤児院には主殿も到着しておる頃じゃろうし皆も心配しておるじゃろ。
まだ主殿は念話を使えぬ様じゃし院長にでも伝えておくか…
『もしもし、院長か、妾じゃ。実は―――――』
アスモは傍受した念話でアスモにとって人質となるダークエルフの少女を捕えてあると聞いていたのでそれが誰だか即座に理解出来た為、グレイヴ院長に念話で連絡をしたのだ。
ふう、取り敢えず院長には報告して下手に動き回らぬように伝えておいたが、どうやら院長の「千里眼」でも感知出来ん場所に監禁されておる様じゃな。
昨日の奴が付けておった外套でも着せられておるか、監禁場所に同じような仕掛けがしてあるかじゃな。
攫われた子供達が多数おると言う事は多分後者じゃろうな。
まあ、こ奴らは妾をこれから誘導するようじゃし、猿芝居に乗ってやるとするかの。
おっ、早速屑が1人来たようじゃ。
「お嬢ちゃん、さっき聞こえたんだが緊急依頼を受けるって本当か?」
ハンスが嫌みたらしい笑みを浮かべてアスモに近づいてきた。
「そうじゃが、何じゃお主は?妾に何か用でもあるのか?」
アスモはわざと邪険に対応をする。
「そう警戒しなくても良いじゃないか。B級以上の危険な依頼に1人じゃ不安だろ?実はお嬢ちゃんに良い話があってな…」
「良い話じゃと?」
「そうなんだよ。実は犯人らしき男の情報が入ってね。そいつは茶褐色の外套を着た20代ぐらいの男らしいんだが、捕まえようにも警戒が厳しくてね‥もし良かったらお嬢ちゃんが囮役になってくれれば可愛いお嬢ちゃんにつられた犯人が罠にかかって捕まえやすくなるかと思ってね。どうだい?報酬は山分けで4等分と言う事で。金貨5枚なら凄い大金だろ?それにこっちは俺を含めてD級が2人にC級が1人居るから心強いだろ?」
ハンスは言葉巧みにアスモを誘導しているように見えるがアスモからすれば最初から犯人一味と判っているハンスの子供だましの様な説明に内心呆れていた。
はぁ、もう少しましな誘導方法をするかと思えば駄目じゃな、こ奴は…
妾にB級以上の危険な依頼と言っておきながらD級2人にC級1人が居れば心強いとは…
そんな訳無いじゃろうが。阿保なのかこ奴は?
子供相手ならばつられるかもしれんが怪し過ぎるじゃろ。大体、朝から酒を喰らっておるようなごく潰し共が役に立つと誰が思うのじゃ。
それにしても酒臭い屑じゃ、用事が終わったら昨日の屑と合わせて殺してしまうか。
まあ、今回は話に乗ったふりをするのじゃ、取り敢えず目的のガキとあの阿呆を助けなければいかんからの。
「成程、それは良い案じゃな。では妾が誘い出した犯人を離れた場所で待機しているお主達が一網打尽にすると言う事で良いのじゃな?」
「お、おう!そういう事だぜ。お嬢ちゃんは理解が早くて良いな。では早速行くとするか、付いてきな。―おいティン、ラットお前らも行くぞ!」
ハンスは2人の仲間に声を変えるとティンとラットと呼ばれた2人は席を立ちニヤニヤと笑いながらハンス達の後を追って行った。
「……」
ガタンッと言う音と共に少し離れた位置に居た男が1人席を立ち、先を行くアスモ達に遅れて念話をしながらギルドから出て行った―
▼
「ふむ、ここらへんかの…」
アスモはハンス達に教えてもらった犯人が目撃されたと言う王都郊外の人気のない場所に立っていた。
それにしてもあからさまに最初から仕込んでおるような場所に誘導したものじゃな。
ふむ、あそこの建物の裏から昨日の屑の気配がするの。
はぁ、仕方あるまいあそこの裏まで移動してやるとするか‥
アスモはわざと誘い込まれたように見せ、パウロのいる建物の裏まで移動した。
「やあ、お嬢ちゃん。今日は1人かな?」
パウロがフードを外し爽やかな笑みでアスモに話しかけた。
相変わらずむかつく顔をしておるな。昨日は殴り損ねたが、やはりこの顔を見ておるとぶん殴りたくなるの。
しかし、今は我慢じゃな。
「お主は昨日の怪しい奴か?…まさかお主が誘拐犯だったとはの。」
「ほお、俺が誘拐犯だと知っているのかお嬢ちゃんは?」
「そうじゃ、今からお主を捕えて人質を解放させてもらうから覚悟するのじゃ!」
アスモは一応、打ち合わせ通りに大声でハンス達に合図を送った。
その声を発した途端、ハンス達が2人に向かって駆け寄ってきた。
「…っ、何だと!伏兵が居たのか!」
パウロがわざとらしく驚いて見せる。
「ヘヘヘ、もう逃げられないぜ。」
ハンス達が嫌らしい笑みを浮かべて話しかける。
「そうだな…4人に囲まれちゃあ、もう観念するしかないよな?―お嬢ちゃん!」
パウロはアスモに向かってそう叫んだ。その言葉と同時にハンス達はアスモを取り囲み剣を向ける。
「…お主達、最初から妾を嵌めるつもりじゃったのか?」
アスモは驚いた顔をして4人を見回した。
どうやら仕方なくではあるがこの三文芝居に乗ってやることにしたらしい。
「おっと、大人しくしなアーちゃん。大人しく捕まればお友達のクレアちゃんともすぐに会えるぜ。もし抵抗したらクレアちゃんが痛い目にあうかもしれないがどうする?」
下種な笑みを浮かべながらパウロがアスモに話しかける。
「…そんなっ、クレアが!…仕方あるまい。捕まえるがよい。」
アスモは両手を上げて抵抗する素振りを止めた。
「へへ、良い子じゃないか。じゃあ、こっちに―」
「待ていっ!」
岩陰に隠れていた何者かが颯爽とアスモ達のもとに現れた。
「「「え?」」」
その場に居る全員が驚きの声を上げた。
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「お前達がお嬢様を攫った犯人一味だな。もう逃げられんぞ。」
その岩陰から現れた男はアスモ達から少し遅れてギルドから出て行った男であった。
どうやらアスモ達の後をつけてきたようだ。
「何だ、お前は?」
パウロが驚いたように声を上げる。
「コイツ…ギルドに居た奴じゃねーか!」
「ちっ!後を付けられたか‥」
ハンス達の言動を聞きパウロが3人を睨む。
「まあそんなに怒るなよパウロ、こんな奴1人位俺たちで片付ければ良い事じゃねーかよ。パウロはそのガキを逃がさない様にしておけよ。」
そう言ってハンス達は男に向かって剣を向けてにじり寄って行く。
「お嬢ちゃん、囮に使ってしまって済まなかった。だがもう安心して欲しい。今からこいつらを捕えてお嬢様と君の友達の居場所を吐かせるから大人しくしておくんだよ。」
男はそう言ってアスモに安心するように話しかけ、両手に篭手を嵌めてハンス達に向かって構えを取った。
何じゃこ奴は?周りにも十数人が隠れておったから誘拐犯共の仲間じゃと思っておったが違ったようじゃ。
では周りにおる奴らは全て誘拐犯では無くこの男の仲間と言う事か?1人別格が居る上に他の奴らもC~D級ばかりじゃな。
おいおい、誘拐犯共に勝ち目は全くなくなってしもうたではないか…
屑共のレベルは19,22,27と言ったところか。じゃがこの男は…
名前 ハロルド・モーガン
種族 人間
職業 ユーヘイム子爵家 武術指南役
レベル 36
職能 「魔闘士」
このハロルドと言う男ですら屑共より遥かに格上なのに周りにおる奴らまで出てきたら逃げる事すら出来んじゃろ。
能力を鑑定眼で見た所、周りにおる別格の1人はA級冒険者のようじゃし、これはもう詰みかの。
これでは予定が狂ってしまう。妾の金貨20枚が…
うん?A級冒険者が周りの奴らを殲滅していくのう。…ではこのA級とハロルドと言う男が子爵令嬢の救出班で周りにおった11人が屑共の仲間であったのか?
どうする?屑共を助けて2人共殺すか?いや、ギルドにばれると冒険者どころではなくなってしまうの…
アスモがそんな事を考えていると既にハロルドとハンス達の戦いの火蓋は切って落とされていた―
「おらっ!」
「喰らえっ!」
「ふん!」
ハンス達が同時に3方向からハロルドに仕掛けた。ハロルドはそれを軽く躱し、右側の長身のティンの右腕目掛けてシュッと素早く蹴りを放った―
ゴキリと音を立ててティンの右腕が逆方向に折れ曲がり、持っていた剣がボトリと地に落ちた。
「ぎいやああああ!!」
ティンは絶叫と共に膝をつき蹲った。
「何だ今の動きは…早すぎて見えねえ…マジかこの野郎、強過ぎだろ。おい、油断するなよ。」
「ああ、でもコイツ化け物だぜ。どうするんだ‥」
ハンス達はティンの様子を見て怯んでいるようだ。
「大人しく投降すれば命は取らぬ。但し大人しくお嬢様の居場所を吐けばだがな…」
そう言い放ちハロルドがハンス達に向かって行く。
「―おっと、そこまでだ。」
そう言い放ち1人の男がハロルドに近づいてきた。
その男はいつの間にかハロルド達の側に現れていた。パウロと同じ茶褐色の外套に身を包んだ長身の男だった。その腰には剣では無く刀を差している。
だがパウロとは違いその身に纏った強者の闘気が危険信号として男の実力をハロルドに知らせていた。
ハロルドは即座に警戒し男に対して慎重に間合いを取り構えた。
「旦那!」
「「スティングの兄貴!」」
その男を見た途端、パウロ達の顔が余裕の表情に変わる。
どうやらハロルドの仲間では無く誘拐犯側の人間だったようだ。
こ奴は誘拐犯側じゃったか、では周りに居た11人の冒険者達は救出班の方であったか。
それにしてもA級冒険者のくせに誘拐犯をしておるとは情けない奴じゃな。
そこの屑共なら判るが金など簡単に稼げるのではないのか?それとも人身売買の方が儲かるのか?
まあ良い、これで当初の目的通り、いやそれ以上の収穫になりそうじゃな♪
アスモは心の中でほくそ笑んだ―
「―貴様は「風切」のスティング・ローデンス!何故貴様ほどの男が…」
ハロルドは外套で隠されていた男の顔を見るとそう叫んだ。
「何故か?そりゃ金回りも良くて人も斬れる仕事ならば喜んでやるに決まっているだろ。怪物じゃ殺す時の表情に変化が無くてつまんないんだよな。やはり殺すなら人間に限る。何せバックが大物なんで多少の無茶も揉み消してくれるからな。本当に最高の仕事さ。―それから周りに待機させていたお前の仲間の11人は全員斬ったからな。助けはには来ないぞ。」
スティングが不敵に笑いながらハロルドに向かって言い放った。
「くっ!…確かに貴様が相手では私では歯が立たんだろう。だがここで諦める訳には行かん。―お嬢ちゃん、私が時間を稼ぐから何とか逃げ切ってこの事をギルド、いや公国軍に伝えてくれ、犯人はスティング・ローデンスだと!この男以上のA級冒険者や将軍は今王都に不在だが、公国軍のゼフォン・グレイヴならばこの男を倒せるはずだ!早く行ってくれ!」
ハロルドがアスモに叫んでそう告げる。
「おいおい、気を抜いてる暇があるとでも?」
スティングが一瞬にして間合いを詰め、ハロルドの眼前に迫った―
「―おのれっ、破っ!!」
「「秘剣・風切」-」
ヒュ、ヒュンッ―
カチッ!
ボッ!
ハロルドがそれに気付き渾身の右拳を放ったがすでに遅かった。ハロルドの右拳はポトリと地面に落ちていた。
ハロルドの右拳が放たれた瞬間には既にスティングの刀がハロルドを捉えていたのだ。
「―これが「風切」と呼ばれる貴様の居合術か…お嬢様お許しを…」
ハロルドはそう呟いたが動かない、いや動けなかったのだ。先の一瞬で腕だけではなく胴にも一撃喰らっていたのだ。
切れ目の入った胴がずれていき上半身がベチャリと地に落ち大地に血だまりと臓物をまき散らす。
そして苦悶、いや無念の表情を浮かべハロルドは息を引き取った。
「チッ、この程度かよ雑魚が。もう少し遊べると思ったんだがな…それにしてもゼフォン・グレイヴなら俺に勝てるだと?確かにレベルは奴の方が上だ。だが俺の最速の技能である「風切」は只の剣技ではなく刀に風を纏わせ抜刀の速度をさらに上昇させた高速の刃だ。職能の無い奴には躱せる筈が無い。今は仕事が優先だがいずれは奴を斬ってやるさ。―おい、お前らこの場所に長居するのは不味いからさっさと移動するぞ。」
そう呟いてスティングはパウロ達のもとに歩いて行く。
名前 スティング・ローデンス
種族 人間
職業 A級冒険者
レベル 46
職能 「剣豪」
阿保かこ奴。この程度で主殿に勝てるとは笑わせおるな。
例え風魔法で抜刀の速度を上げていたとしてもお前の鈍間な剣など主殿なら余裕で躱すじゃろう。今は魔力の修行中で職能が使えなくとも生まれ持っての身体能力が違うわ。
まあ妾ならばあの程度の剣技簡単に掴む事も可能じゃな。
あのハロルドと言う男には悪いがこれで当初の予定通りじゃ、大人しく捕まってこ奴らのアジトに行くとするかの。
「スティングの兄貴、何でもっと早く助けに来てくれなかったんだ?
「そうだぜ、もう少し早ければティンも腕を折られる事も無かったのに…」
ハンスたちが不満を漏らす。
「お前らが間抜けにも跡をつけられた上に囲まれやがったから周りの奴らから仕留めてたんだろうが。もし、一人でも逃せばややこしい事になるかもしれん。如何にあの方がバックに居ても公になっては揉み消すのにも手間がかかる。…それにお前らを助けてやった俺に文句でもあるのか?」
スティングはそう言ってハンスたちを睨み付ける。
「い、いや、そんなん事は無いさ。冗談だよ兄貴。-ラット達もそうだよな?な?」
「おっ、おうっ、そうだぜ!ありがとうございます兄貴!」
ラットたちもそれに呼応し即座に首をぶんぶんと縦に振った。
「おい、お前らそのガキに魔抗鋼材製の手枷をしておけよ。」
スティングがパウロ達に指示を出す。
「え、何でなんだスティングの兄貴?こんなガキに手枷なんて必要ないだろ。確かに冒険者だけどコイツのレベル何て知れたものだぜ。」
ハンスがスティングに問いかけた。
「…だからお前は何時までもD級なんだよ。そのガキはお前よりいや、お前らよりも上の実力だぞ。さっきの奴ほどではないが間違いなくレベルは30はある筈だ。俺の見込みに間違いは無い。だからさっさと手枷をしておけ。それから馬車に乗せろ。」
「マジかよ!じゃあこのガキ最初から俺たちの罠にはまったふりをしていたのか…糞っ!ぶん殴ってやりたいが大事な商品に傷をつける事が出来ないからな。おい、さっさと手を出せよ。俺には勝てても兄貴からは逃げられないのは判っているだろ?大人しく従って馬車に乗りな。」
「…」
アスモは無言で手を差し出した。そしてその手には魔抗鋼材製の手枷が嵌められたのだ。
魔抗鋼材とは魔道具である「魔法封じの粉」にも使われている魔法を通さない特殊な金属である。
その強度は鋼鉄よりも固く出来ており、魔抗鋼材で作られた手枷を嵌める事で魔法は一切使えなくなるのだ。まあアスモにはどちらの意味でも無意味なのだが…
「用意出来たか?―では行くぞ。」
「へいっ、旦那。おらっ!早く乗りやがれガキ!」
パウロはアスモの手枷に付いている鎖を引っ張り強引に馬車の荷台に押し込んだ。
そしてアスモを積み終わったパウロ達は馬車に乗り込み馬に鞭を打った。
▼
「……」
ガタガタと揺れる馬車の中には無言と無表情で怒りを抑えている1人の魔神が居た。
誘拐犯達が招き入れたのは商品では無く魔王なのだ。
彼らは死の直前までそれに気付く事なく最も招かれざる客を乗せ馬車を走らせ墓場まで向かって行った―




