第25話 魔神王誘拐事件 その②冒険者ギルドとすれ違い
「うむ、雲一つない晴天じゃ!妾の冒険者としての旅立ちの日には幸先の良い天気じゃな!」
よく晴れたすがすがしい朝を迎えてアスモは張り切っている。
「お前はまだ試験受けてないだろ、はしゃぐのは良いがギルドの営業時間には時間が早いぞ。ギルドの受付時間は10の刻からだからな。」
「試験など受ける前から合格は決まっておるのじゃ!主殿は妾が不合格になるとでも思うのか?」
「まあ、普通に合格するだろうな。だが、やりすぎるなよ。お前のレベルじゃ実技試験でギルドの結界を破壊してしまう恐れもあるからな。それに一昨日も言ったようにあまり目立つなよと言いたいが、ギルドで冒険者登録する時にはギルド専属の鑑定士が能力を確認するから無駄か…間違いなくお前のレベルがばれた瞬間に大騒ぎになりそうだな。だが、魔王や魔神と言う事だけは絶対に内緒にしろよ。本当に頼んだぞ!」
ゼフォンがアスモに釘を刺した。やはり心配なようだ。
「大丈夫じゃ、主殿よ。ちゃんと「能力隠蔽」で変更しておるし、固有職能も隠しておる。妾の「能力隠蔽」が見破られる事など絶対に無いのじゃ、安心するがよい!」
アスモは何も問題無いと言うように、ふふんと自慢げに笑った。
さて、今日から妾の冒険者としての第一歩が始まるのじゃ。
魔界での退屈の日々を経て人間界にやって来てからも今まで散々我慢してきたのじゃ。
これからは楽しませてもらわんと流石に報われぬ。今日からは妾の好きにさせてもらうのじゃ!
取り敢えず冒険者の資格を手に入れてから仕事をして試したい事もあるしの。
あっ、そういえば大事なことを忘れておったわ!
「主殿よ、小遣いをくれんか? 昨日約束したではないか、早うくれい。」
アスモがゼフォンに小遣いの無心をする。
「小遣いではなく、ギルドで仕事する為の登録に必要な金だぞ。残りを小遣いとして使っても良いと言ったんだからな。余ってから使うようにしろよ。-ほら。」
ゼフォンはギルドで仕事の登録が終わるまで絶対に使わないようにと念を押し、アスモにお金を手渡した。
「おお、銀貨2枚か!これがあればプリンを10個は食えるのう。」
アスモは手渡されたお金を手にして舞い上がっている。
「…おい、登録が終わってからだと言ってるだろ。」
その様子を見て本当に全額をプリンにつぎ込みそうな気がしてきたと不安になったゼフォンが釘を刺した。
「分かっておる。冗談じゃ、冗談。」
この様子では主殿は冒険者ギルドの試験の費用が数年前から無料になった事を知らないようじゃな。
どうするか?教えてやるべきか?…いや、残ったら小遣いにしていいと言ったのは主殿なのじゃ。
じゃから使わなくても妾の物と言う事で問題はあるまい。
後でばれてもその時には妾は冒険者として十分稼いでおるから銀貨2枚などいつでも返す事が出来るしの。
10の刻までまだ時間はあるが先に用事を済ませておくか…
「主殿よ、では妾は行ってくるぞ!」
「おい、まだ時間に余裕があるぞ。家でゆっくりしたらどうだ?」
「いいや、待ち遠しくてウズウズしておるのじゃ!少し街を散策してから行く予定なのじゃ。-そういえば主殿は今日は休みか?」
「ああ、今日は休暇だから昼前位に孤児院に行って魔法の訓練をしようと思ってな。今日からは気合を入れて取り組むつもりだ。」
「そうか、それは良い心がけじゃ。主殿ならば出来ると信じておるぞ。では妾はもう行くからの。」
ゼフォンに別れを告げアスモは冒険者ギルドのある中心街へと向かって行った―
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「ありがとうございました。」
「うむ、美味しかったぞ。また寄らせてもらうのじゃ。」
王都アルアス中心街にある高級喫茶店「カフェ・アンジェロ」からウエイトレスに見送られ用事を済ませたアスモが出てきた。
「ふー、本当にプリンは最高じゃな。5つも食ってしもうた。まだ銀貨1枚も残っておるな。じゃが、そろそろ10の刻になるし冒険者ギルドに向かってもよいかの。‥お、確かあそこは―」
アスモは中心街の東側にある青い看板の店を見て思い出した。
「確かあそこはクレアにもろうた果実の飴を売っている店じゃったか?小遣いもまだ余っておるし丁度良い、寄ってみるかの。」
そう呟いてアスモは青い看板の店「エッダ菓子店」に入って行った。
「いらっしゃい。お嬢ちゃん。」
人当たりの良さそうな妙齢の女店主のエッダが笑顔でアスモを出迎える。
「うむ、ここに果実の飴が置いていると思うのじゃが、何処にあるのじゃ?」
アスモはエッダに話しかけた。
「あら、前に来たことあったかしら?お嬢ちゃんみたいな可愛い子なら一度見たら忘れる事は無いのだけれど…あっ、そうそう果物の飴だったわね。それなら左側のショーケースに並んでいるわ。」
エッダはアスモに目的の飴の売り場を教えた。
「おお!これじゃ、確かにこの包みに入っておったわ。クレアに貰ったのはこの赤い包みに入っておった苺の味がする飴じゃったな。」
「クレアちゃん?そうか、お嬢ちゃんがクレアちゃんの大事なお友達だったのね。」
「妾が大事な友達か‥お主はクレアの事をよく覚えておるのか?あまり小遣いがもらえぬ様じゃしそれ程頻繁には来れんじゃろうに。」
「まあクレアちゃんはこの町では珍しいダークエルフと言うのもあるけど、1年ほど前からうちの常連でね。2週間に一度は飴を買いに来てくれるのよ。いつもその果物の飴を大事なお小遣いで1つ買って食べるのがあの子の唯一の楽しみだって言ってたけど、この間は大事な友達にあげるから今回は我慢して自分の分は安い方の鼈甲飴を買って行ったわね。その時の大事な友達と言うのが、あなただったって事ね。」
エッダはアスモに先日のいきさつを詳しく説明した。
「ふむ、確かにあの時あ奴は普通の飴しか食べていなかったな。相変わらずお人よしな奴じゃな…ふむ、スマンがお主よこの銀貨で買えるだけの果実の飴をくれんか?」
アスモはそう言って女店主に残りの銀貨1枚を手渡した。
「えっ!銀貨1枚分も買うの?果物の飴は1個銅貨3枚だから33個は買えるけど…」
「問題無いのじゃ。銀貨1枚分で良い。クレアにもいくつか分けてやらねばならんしの。味も何種類かあるようじゃし、内容のチョイスはお主に任せるぞ。」
「クレアちゃんにあげるね。―うふふ、あなたはクレアちゃんと一緒で良い子なのね。この飴は7種類あるから各5個づつにして袋に詰めておくわ。銀貨1枚なら33個だけど沢山買ってくれるお礼と、これからの常連さんになってもらう期待として銀貨1枚で35個にしておくわね。」
女店主はそう言って飴を袋に詰めていく。
「そうか!それは助かるのじゃ。無論、これからも妾の行きつけとして利用させてもらうぞ!」
「はい、用意出来たわ。またいつでも来てね。今度はクレアちゃんと一緒にいらっしゃい。」
そう言ってエッダはアスモを見送った。
アスモは受け取った袋から早速飴を一つ取出し頬張った。
「うまうま、―これは林檎か?これも美味じゃの!店主よ絶対にまた来るぞ、ではの!」
アスモは頬張った飴を味わいながら満足そうにエッダにそう告げて店を出で行く―
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アスモが中心街で飴を買い食いしていた頃とほぼ同じ時間帯に1人の少女が王都中心街の外れにあるゼフォンの自宅の近辺を彷徨っていた―
「確かゼフォンお兄ちゃんの家はここら辺だってマルス兄ちゃんが言ってたけど…」
クレアは不安な顔で辺りを見回している。どうやら迷ってしまったようだ。
今日はゼフォンお兄ちゃんが魔法の訓練に来るって言ってたからお迎えに行って、アーちゃんの顔を見に行こうと思ってたのに迷っちゃった…
場所はマルス兄ちゃんに教えて貰った通りならここの近くであってる筈なのに同じような家が多くてわからないよ。
怒られると嫌だから皆に内緒で来たけど、マルス兄ちゃんについて来てもらった方が良かったかな?
どうしよう、早く行ってアーちゃんと少しでもお話ししたいのに…
クレアは初めて来た場所に戸惑い、また遠い所まで1人で来るのは初めてな為、不安を隠せないでいた―
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「たしか、昨日の淫魔のガキはここら辺に向かって歩いて行ったよな?」
そう呟きながら誘拐犯パウロ・サンソンは相変わらず魔道具の怪しい茶褐色のフードマントを纏い、町の中心街の外れにあるゼフォンの自宅近辺をキョロキョロと見回していた。
そして思いがけない獲物を見つけてしまう―
「おお!あれはっ!?」
パウロの目に留まったのは銀髪のダークエルフの美少女であった。道に迷って戸惑っているクレアが運悪く見つかってしまったのだ。
おいおい、あれはダークエルフのガキじゃねーか。しかも銀髪で銀の眼って…こりゃ間違い無く純血種!
歳は昨日のガキと同じ8,9歳位で顔立ちも極上品だな。こりゃ昨日の淫魔のガキよりも貴重な獲物だぞ!ついてるにも程があるだろ。最高じゃねえか!
どうやら上手い事、人通りの少ない路地に向かって行きそうだな。
コイツはチャンスだ!昨日のガキの前に捕獲しておこう。
あの様子ではどうやら道に迷っているようだし、まずは優しく話しかけて警戒心を解いておくとするか‥
パウロはニヤリと嫌らしい嗤いを浮かべクレアに向かって歩き出した―
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「やあ、お嬢ちゃん、こんにちは。何か探しているのかな?良かったら、おじさんが探すのを手伝ってあげようか?」
パウロは今回はフードを外して顔を見せ爽やかな笑みを浮かべクレアに話しかけた。
「…クレア1人でアーちゃんを捜せるから大丈夫だよ。それに知らない人について言っちゃいけないって皆言ってたもん。」
クレアは訝しそうにパウロを見る。昨日ゼフォンから最近王都で子供の誘拐事件が頻繁に起こっている事を聞いていたので尚更警戒していた。
このガキかなり警戒してやがるな。どうするか‥攫うか?
いや、この時間帯に路地裏とは言え中心街で大声をあげられたら誰かが来ちまう可能性もある。
もう少し慎重に事を運ぶか―
「へー、クレアちゃんて言うのか。捜してる子はアーちゃんだっけ?もしかしたらおじさんの知っている子かも知れないよ。名前か特徴を言ってごらん。」
「アーちゃんを知ってるの?…本当に?」
「ああ、もしかしたら知ってる子かも知れないよ。なんなら名前を言ってごらん。」
「えっとね、アーちゃんは「アスモ」って言う名前なの!」
クレアがアスモの名前をパウロに告げてしまう。これがクレアにとっての大失敗であった。
「―っ!」
その名前を聞いてパウロは心の中で歓喜した。
アスモだと?間違いない。あの淫魔のガキの事だ。
ハハハ!笑いが止まらねえ。コイツは最高だ。攫う必要も無く、この極上品を倉庫まで連れて行けるな。
それに後でこのガキを餌に淫魔のガキも手に入れる事が出来るだろう。
ついてる!俺は最高についてやがるぜ!笑いが止まらねえ。
さてと、このガキを上手く誘導して倉庫まで連れて行くとするか―
「アーちゃんってのはアスモちゃんの事だったのか!勿論、おじさんは知ってるよ。」
「…本当に?クレアが名前を言ったからじゃないの?」
クレアは全く信じていなかった。だが次のパウロの台詞を聞いた途端に信じてしまう事になってしまう。
「嘘じゃないさ。アスモちゃんは真紅の髪に2本の角、それから小さな翼に悪魔の尻尾を生やした女の子の事だろ。‥確か歳は8歳か9歳だったかな?おじさんは近くに住んでるから彼女のお家の人と知り合いなんだよ。」
「アーちゃんだ!おじさん本当に知り合いだったんだ!じゃあ、アーちゃんのお家知ってるの?」
クレアは興奮してパウロに詰め寄る。
よしっ!ビンゴだ!
パウロは心の中でガッツポーズをした。
「ああ、知ってるよ。近所だからね。けどアスモちゃんは今朝早くあっちの港の方に用事があるって言ってたからね。ほら向こうの東の港さ。行ってごらん。アスモちゃんがいる筈だよ。道はわかるかい?」
パウロは反対側の東側の港の方を指差してクレアにアスモの居場所を告げた。
「…あっち?東の港…」
クレアはそれほど街には詳しくないので困っているようだ。
「道がわからないのかな?―何ならおじさんが案内しようか?アスモちゃんの友達なら案内してあげないとね。早く行かないとアスモちゃんが移動してしまうかもしれないけど、どうする?」
パウロがクレアに畳み掛ける。
「早く行かないとアーちゃんが居なくなるの?…おじさん、クレアをアーちゃんの所まで連れて行ってください。おねがいします。」
クレアはアスモが移動したら会えなくなると思って焦ってしまい冷静さを欠いてしまう。そしてパウロに案内を頼んでしまったのだ。
子供だから仕方が無いと言えば仕方が無いのだが、事態は最悪の展開に向かってしまった。
「よし、じゃあおじさんがアスモちゃんの所まで案内してあげよう。付いておいでクレアちゃん。」
パウロがフードを被り先導して東の港にクレアを連れて行く。そのフードの中に下種な笑いを浮かべながら―
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王都アルアス中心街にあるロマリア公国冒険者ギルド本部―
クレアが攫われた事など露知らず、買い食いを終えたアスモは当初の予定通り冒険者ギルドの前に到着していた。
その外観は本部と言うだけあって王都の中心街にふさわしい綺麗な作りで立派な建物であった。
「ここが冒険者ギルドじゃな。マルスに聞いた通りなかなか小綺麗な所の様じゃ。もう10の刻は過ぎておるし早速、試験の登録をするとしようかの。」
そう呟いてアスモはギルドの門を潜った―




