第24話 魔神王誘拐事件 その①無知との遭遇
「アスモちゃん元気でね。いつでも遊びにいらっしゃい。」
「アスモちゃんまた一緒に遊ぼうね!」
「師匠!俺修行頑張るからな!」
「アーちゃん、やっぱりクレアも一緒に行きたい…」
マヘリアや子供達がアスモに別れの挨拶を告げている。一人だけ若干言葉が違うようだが…
「では妾はこれで行くが、皆も達者でな。-それから妾は主殿の家に住むだけで週に何度かはマヘリアのご飯…もといクレアとマルスの修行を見に来るから別に悲しむ事は無いからの。よいな?」
アスモがそう言って孤児院の皆に挨拶とクレアに釘を刺した。
「‥うん、分かったアーちゃんまたね。」
クレアは一応納得したようだ。まだ悲しそうな顔をしながらだが、それでも精一杯アスモに手を振る。
「うむ、ではさらばじゃ。主殿行くぞ!」
「…え?ああ、そうだな…行くか。-皆、元気でな…また来るよ…」
どんよりとした雰囲気のゼフォンが覇気の無い返事をする。
「どうしたのかしら?ゼフォン兄さん元気がないようだけど…」
マヘリアがゼフォンの様子を見て心配している。
「マヘリア姉ちゃんそれはな、ゼフォン兄ちゃんは3番弟子に降格したんだ。」
マルスがマヘリアにそう告げた。
「3番弟子?」
マヘリアはその言葉の意味がよく分からないようだ。
「あのねマヘリアお姉ちゃん、今はクレアがアーちゃんの1番弟子なんだよ!えっとね、ゼフォンお兄ちゃんは魔法が1番下手だからアーちゃんが3番弟子に降格だって言ったの。」
クレアがマヘリアへ簡潔にわかりやすく説明した。
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話は数時間前に遡る―
アスモは孤児院を出る時間を昼に予定していたので午前中はいつもの孤児院裏の草原でマルス、クレアにゼフォンを加えた3人の魔法の指導を行っていた。
「では、取り敢えず主殿の今の魔力の状態を確認しておきたい。確か「火炎弾」は会得できたと言っておったな?」
「ああ、この1ヶ月で時間がある時に必死に練習して何とか使えるようになった。今まで魔法を使えなかった俺にしては凄く進歩したと思うぞ!」
ゼフォンは自慢げにアスモに告げた。
「宜しい。では魔法を発動させてみてくれ。」
「了解。行くぞ――「火炎弾」!」
ゼフォンが呪文を詠唱し魔法を発動させた。するとゼフォンの手のひらにとてもかすかな火が灯った。それはまさにマッチの火のような大きさ?だった。
「どうだ!凄くないか?たった1ヶ月で会得できたんだぞ!」
ゼフォンは自画自賛している。だが、アスモは冷ややかな視線をゼフォンに向ける。
そしてマルスと、クレアは憐みの目でゼフォンを見ている。
「え?何だ?その反応は…」
ゼフォンはその様子に動揺している。
「…はぁ、自慢するからどんなもんかと思えば1ヶ月もかけてこれか。…マルス、クレアお主らもやってみよ。」
「おお!――「火炎弾」!!」
「うん!わかったアーちゃん。――「火炎弾」」
2人が同時に詠唱し魔法を発動させた―
マルスの「火炎弾」は直径10センチほどの大きさ、そしてクレアは相変わらず子供にしては規格外の大きさである直径50センチほどの巨大な火球を発動させた。
「え?」
ゼフォンは2人の魔法を見て呆然としている。
「2人は2週間の練習でこれぐらいできるようになったのじゃが、主殿は1ヶ月もかけてマッチの火ぐらいの大きさ、いやチンケな火しか起こせなかったのか?さらにクレアは下位とはいえ風魔法と治癒魔法も使えるのじゃぞ!…主殿は一体何をやっておったのじゃ?」
「い、いや、だからな、2人と違って俺は今まで魔法が使えなかったからじゃないかと…これから頑張れば多分出来る様になるんじゃないかな?」
「阿呆!2人共魔法の修行を始めたのは2週間前が初めての事じゃ、主殿が言うように生まれつきの才能などではなく練習による素養によって会得したのじゃ!多分、主殿は出来たからと言って満足し、更なる向上の為の訓練を怠ったのではないのか?」
「そ、それは…」
図星をつかれてゼフォンはぐうの音も出ない。
「もうよい、主殿は1番弟子から降格して3番弟子とする。1番弟子はクレア、2番弟子はマルスじゃ!主殿はこれから「マルス以下」と呼ぶからの。悔しかったらもっと努力をせい!」
「おま…それは流石に―」
「そうだぞ師匠!「マルス以下」って間接的に俺の事馬鹿にしてないか?」
「やったー!クレアが1番弟子ー!」
ゼフォンの小さなぼやきはマルスとクレアの声にかき消される。
「何じゃ、文句があるのか主殿よ?あとマルスよ、別にお主を馬鹿にはしとらんぞ。主殿にそう言うことで子供より劣っているから努力をしろと発破をかける為に言うたのじゃ。」
「何だそういう事か。了解だぜ師匠!」
マルスは納得したようだ。これだから子供は単純で良いなと密かにアスモは思っていた。
「主殿よ。「持たざる者」であった主殿が魔法が使えるようになった事で舞い上がるのは致し方ない事じゃが慢心せず訓練しておればこの1ヶ月での成果は全く違ったものになっておった筈じゃ。今日より気合を入れ努力するようにせんといかんぞ。補助魔法は院長に習うのじゃろう?このままでは笑われる所か呆れられてしまうぞ。」
「ああ、そうだな…そうするよ。すまなかったな。」
ゼフォンはアスモに反論する事すら出来ず、肩を落とし落胆している。
「うむ、では昼まで魔法の訓練じゃ!皆良いな?」
「おお!今日もやるぜ!!」
「うん、クレア頑張る!」
「…ああ」
2人の子供は元気よく答えたが1人の中年からは全く覇気を感じなかった。
そうしてアスモが孤児院を出るギリギリまで修行を開始したのだった―
以上がゼフォンの元気がない原因であった。
「-そう、それで兄さんは元気がないのね。でも本当にすごい事だと思うわ。ゼフォン兄さん、私は兄さんが今まで使う事が出来なかった魔法が使えるようになったんだから舞い上がってしまうのは仕方が無い事だと思うわ。それにこれからもっと練習すれば兄さんの事だから上達は早いと思うの、私も手伝うから一緒にがんばりましょうね。」
マヘリアが落ち込んでいるゼフォンに励ましの言葉をかける。その言葉にゼフォンは少し元気を取り戻したようだ。
「…ああ、そうだな!慢心せずにこれから努力していく事にするよ!お前にはいつも迷惑ばかりかけてすまないなマヘリア。」
「いいのよ、私の方こそ兄さんに世話をかけてばかりだから気にしないで。でも少しでも元気になってくれて良かった。」
そう言ってマヘリアがゼフォンに微笑みかける。
「主殿―!早うせんか!」
先を歩くアスモがゼフォンに呼びかける。
「ああ、すぐに行く!じゃあ皆、また来るよ!」
「「ゼフォン兄ちゃんまたねー!」」
子供たちがゼフォンに別れの挨拶を告げる。そしてゼフォンは手を振りながら先行するアスモに追いつくために走り出した。
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「やっと来おったな。早う行こうぞ!妾は今日にでもギルドへ行って冒険者になるのじゃ!」
そう言ってアスモがゼフォンをせかす。
「いや、ギルドの登録は午前中に受付する必要がある。だから冒険者ギルドへ行くのは最速で明日になるぞ。今日は街でお前の生活に必要な物を揃える予定だ。確か服は「魔装」で何着か作っていただろ?下着もマヘリアが用意していたな。じゃあ、布団や日用品だけでいいかな?」
「…布団などどうでもよいのじゃ!何でそれを昨日の夜に言わなかったのじゃ!それならば今朝にでもギルドに向かったというのに主殿の阿呆!」
アスモはゼフォンを責め、ふてくされている。
「今日は孤児院の皆に挨拶と俺たちの魔法の訓練をするとお前が言ったじゃないか。俺を責めるなよ。それにたった1日じゃないか、1ヶ月も我慢できたんだから今日ぐらい我慢しろよ。」
「確かに妾もそう言ったが、昨日の時点で教えてもらっておれば…」
アスモはまだ納得できないようだ。
「-はぁ、分かった、明日冒険者ギルドに行く時に渡すお金を少し多めに渡してやる。そのお釣りでプリンぐらいは食べれるはずだ。それを小遣いにすると良い、それで良いだろ?」
「何と!お釣りでプリンを食べてもいいのか?今更撤回は出来んからの!そうか、ならば仕方がないの。では今回は我慢するのじゃ!さあ主殿、妾の日用品を買いに行こうではないか!」
アスモはその言葉に喜びを隠せないようだ。
「…本当に現金な奴だ。じゃあ、行くか。―ああ、それから最近子供の誘拐事件が数件報告されている。昨日は貴族の娘が攫われたそうだ。孤児院の皆には伝えてあるが、お前にも言っておく。まあ間違いなく大丈夫だとは思うが、一応不審者には気をつけろよ。」
ゼフォンは仕方ないといった様子で少し呆れていたが、大事な事を思い出しアスモに一応注意をした。
「ふむ、拐かしか。そんな阿呆がおったら見てみたいものじゃな。」
そして二人は街まで買い物に出かけた―
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王都アルアスの中心街に見るからに怪しい男が辺りをキョロキョロと見回している―
あらかさまに怪しいその男は茶褐色のフードマントを被り何かを物色しているようだ。
男の名はパウロ・サンソン。いつものように今日も獲物を物色していた。
ただ、今からパウロが目を付ける獲物が彼の人生の幕を閉じる事になる存在とは露知らずにある少女に声をかけることになるのだ。
昨日は良い商品を仕入れる事が出来たな。見た目も良いし何より子爵家の娘なら相当な値が付くはずだ。
だが旦那たちの情報では子爵家も冒険者ギルドに捜索依頼をかけたらしいし、そろそろ王都を離れないとヤバイ事になりそうだな。
多分今週一杯が潮時になるだろう。小遣い稼ぎにもう少し頑張るとするか。
他にもエルフとか高く売れる亜人のガキはともかく人間のガキを大勢捕まえたがこいつ等はあまり儲けにもならない。目玉になる商品がもう少しほしいな…おっ!あれは―
パウロは下種な事を考えながら辺りを見回していた。そしてついに獲物を見つけた。
この時の彼にとっては最高のそしてのちに迎えるであろう彼の最期にとっては最悪の獲物がいたのだ。
おいおい、ありゃ淫魔のガキじゃないか?もしくは夢魔か…
いや、あの角に小さな悪魔の翼に悪魔の尻尾…間違いなく淫魔の特徴だ!
しかも顔も極上の美少女じゃねーか!歳も8,9歳ぐらいか、これは最上級の獲物だ。一体幾らの値がつくんだ?
おいおい、こんな良い事があって良いのか?最後に最高の獲物を見つける事が出来るなんて俺は本当についてるぜ!!
これを逃す手はねえ、見た所1人の様だしまずは声をかけてみるか…
パウロは極上の獲物に狙いを定め、いやらしく笑いながら歩み寄っていった―
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「はぁ、主殿は遅いのう。まだやっておるのか?」
アスモは雑貨屋の前の広場の椅子に腰かけゼフォンを待っていた。自分の日用品の買い出しに付き合っていたのだが、ゼフォンが店主との値切り交渉を開始してしまい、なかなか決着か着かず、飽きてしまったので外で待つ事にしたのだ。
魔王である妾の物を買うのに値切るとは誠に情けない話じゃな。
まあ仕方あるまい郷に入っては郷に従えとも言うし主殿の懐事情もあるしの…
しかし、まだ終わらんのか?早う家に帰って休んで明日の朝1番に冒険者ギルドへ行きたいのじゃ!
あーもう、早う来んのか…―ん?何じゃあ奴は?
アスモは自分に向かって歩いてくる怪しい男に目を向ける。
「やあ、お嬢ちゃん。こんにちは、いやもう夕方だからこんばんはかな?」
パウロがアスモに近づき声をかけてきた。
「…」
アスモは当然無視する。
「ごめん、ごめん、怪しい者じゃ無いんだよ。ここら辺の者じゃないんで道を聞きたいと思ってね。ああ、顔を隠していたから警戒していたのかな?ほら、これで良いかな?」
そう言ってパウロは被っていたフードを外し顔を見せる。その顔は決して格好良いとは言わないが人当たりの良さそうな好青年には見えるだろう。特に子供にとってはフードを外した時のギャップから警戒心を和らげるであろう笑顔を見せていた。あくまで子供相手だが…
何じゃ、この間抜け面は…むかつく顔をしとるのう、ぶん殴ってやろうか?
それにしてもこ奴の被っておるフードは魔道具か?違和感があるから見てみたら感知魔法を阻害出来る様になっておるな。まあ、妾の職能の前には無意味じゃがな。
多分、こ奴が主殿が言っておった拐かしの犯人ではないのか?子供を攫って魔道具のフードで自分と一緒に存在を隠して感知出来ん様に移動するのじゃろうな。
確か被害者は貴族のガキや人間のガキじゃったか?まあ妾には関係ないし助けてやる義理もないからどうでも良いわ。
それにしても面倒じゃの、主殿はまだかのう?
「で、お嬢ちゃん、道案内を頼みたいんだけど。おじさんを案内してくれるかな?勿論、お礼はするよ。」
「…煩いぞ、妾はこの辺の道など知らんのじゃ、とっとと消えんか阿呆が。」
余りにもしつこい様子にアスモの機嫌が一気に悪くなった。パウロはアスモの様子を視て一旦引いた。
おいおい、機嫌が悪くなっちまったな。それにしても随分口の悪いガキだな。
それに相当警戒しているな。こりゃ最初からフードは取っておくべきだったかな?
ガキは馬鹿だから少し優しい顔でご褒美でもチラつかせれば大概付いて来るもんだが、まあ最悪の場合は昨日の貴族のガキみたいに無理やり攫ってやっても良いしな。
何せ超大物だ。下手すりゃ昨日のガキより高く売れるだろ。淫魔の子供なんて貴重過ぎて市場に流れないからな。
大金の為、コイツは絶対に逃がす訳には行かないぜ。
周りは‥よし、人が居ない。今なら行けるか―
パウロがアスモに向かって何かを仕掛けようとしたその瞬間―
「おーい、アスモ!何処だ?」
ゼフォンが雑貨屋から出てきてアスモを捜していた。
「―ちっ!…主殿か。ここじゃ!」
アスモは少しだけ悔しそうな顔をしながらゼフォンの呼びかけに答えた。
「スマンスマン、交渉が長引いてな。だが予想以上に値切れたぞ!ハハハッ!」
ゼフォンは上機嫌だ。この様子ではかなりの額が浮いたのだろう。
「はぁ、そうかそれは良かったの。もう少しゆっくりしておれば阿保をぶち殺してやる所じゃったのに…」
アスモは仕掛けてきたパウロを殺すつもりだったらしい。残念そうな顔をしている。
「おい!何があったかは知らんが、それは駄目だぞ!流石に洒落にならん。」
ゼフォンがその言葉を聞いて焦る。
「もう良いのじゃ。あの阿呆は主殿を見た途端にさっさと逃げおったわ。」
「もしかして噂の誘拐犯が居たとか言うなよ。まあ、そんな偶然は無いよな?ハハハ」
「かもしれんな。」
アスモはどっちつかずの返答をした。
「これで買い物は終わりか?主殿よ。」
「ああ、これで終わりだ。家に帰ってご飯にするか。」
「うむ、腹も減ったしのう。さっさと帰るか。」
そう言って2人は帰路に就いた―
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雑貨屋前の広場から移動するアスモ達をパウロは遠く離れた位置から見ていた―
くそっ!邪魔が入りやがった。もう少しで獲物を確保できたのに…
アイツが保護者か?軍服を着てたってことは兵士か?
流石に俺1人では危険かもしれない。ちっ!こんな時に限って旦那達が居ない…
確かあのガキの名前はアスモだったか、生意気な態度も気に入らねえが下手に暴れて傷つける訳には行かないからな。
今日は諦めるが絶対に逃がしはしない。必ず捕獲して売り飛ばしてやる!
パウロはそう心に決めて夕闇の路地裏に消えて行った。
一先ず命の危機は去ったのだ。今回で潔く引いておけばそれなりの金も入り命を失う事も無かったろうに…
己が無知故の怖いもの知らずである事に気づかぬまま、最凶の獲物を狙っていた―




