第21話 密談
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重臣達が連行され玉座の間には部屋の隅に控える従者や近衛騎士団を除けばフィリップ4世とウィリアム王子そしてゼフォンの3人だけになっていた―
「ゼフォン・グレイヴよ先ほども言った通りに貴公の働きに感謝する。今後とも公国の為にその力を発揮してほしい」
フィリップ4世が期待を込めてゼフォンに話しかけた。
「御意に」
ゼフォンはフィリップ4世の願いに答えるように返答する。だが心の中ではその期待に応える気は一切なかった。
今の所は従う振りをしておくか。まだ辞める訳には行かないからな。
王子はともかくこの男は王の器ではない。このような愚者に従っていたと思うと馬鹿馬鹿しくなるな。
「私からもお願いしますよゼフォン殿。それから貴方が討伐した猛虎ティグルの報奨金の金貨20枚を帰りに褒美と一緒に渡します。こちらまでついて来ていただけますか?」
ウィリアム王子がゼフォンを誘導する。
「では父上、これにて失礼いたします。あと彼らに対しては厳罰な処分をお願いします。」
「無論、承知しておる。ウィリアムよ、今回の件礼を言うぞ。流石は余の後継者だ。そしてゼフォンもご苦労であった。侍従を付けて部屋を用意する故、ゆっくり休むと良い」
フィリップ4世がウィリアムとゼフォンに労いの言葉をかける。
「父上、ゼフォン殿の接待は直接私がしておきますよ。将来の公国の為にも必要な人材ですからね。あと個人的な話もありますしね。」
「うむ、確かにお前に任せた方が良いかもしれんな。では任せるぞ。」
「はい、父上。ではゼフォン殿こちらへ」
ウィリアムは先行しゼフォンを案内する。
「それでは失礼いたします陛下」
ゼフォンはフィリップ4世に一礼しウィリアムと共に玉座の間を退出した。
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ゼフォンはウィリアムに案内され彼の執務室に通された―
「どうぞ、そこのソファーにかけて下さい。飲み物を用意しますが紅茶と珈琲のどちらにしますか?もし良ければ酒でも用意しますが?」
「いいえ、私は下戸なので、紅茶をお願いします。」
「成程お酒は飲めないのですね、わかりました。誰か」
ウィリアムがチリリンとハンドベルを鳴らすと執務室のドアが開きメイドが現れた。
「お呼びでしょうか?」
「すまないが、紅茶を2人分とお茶菓子を用意してくれるかな。あとゼフォン殿にお渡しする褒美と賞金を持ってきてくれないか?」
「承知致しました殿下」
メイドが一礼し準備の為に退出していった。
「さてと、お茶が来るまでに少し時間がかかるでしょうから話でもしませんか?たとえば貴方の能力についてと言うのはどうですか?」
「―っ!」
その言葉にゼフォンは反応しウィリアムに対して警戒をした。
「待って下さい、そう警戒をしなくてもいいですよ。私は鑑定士の職能を持っていますから先程の謁見の場で貴方の能力を拝見させた頂いただけですよ。事前に聞いた情報と違いますが、レベルが53に上がっている上に情報では「持たざる者」であった筈なのですが魔力どころか職能まで習得してありますね。しかも「狂戦士」と言う職能をお持ちのようですね。聞いた事はありませんが多分、固有職能なのでしょうね。」
「成程、殿下は鑑定士の職能を持っているのですね。それでは隠しておく事も出来ませんな。確かに今の私は「持たざる者」ではありません。実は戦場で胸を貫かれる瀕死の重傷を負ったのですが、ある方に治癒魔法で救って頂いた際に運良く異常のあった魔術回路まで正常化したようなのです。そう考えればある意味死にかけて良かったかも知れませんね。」
「そうなんですか。ふむ、そのような事があるのか、まさに僥倖ですね。これはゼフォン殿だけではなく我が国にとっても大変有益な事ですよ。その治癒師いや神官ですかな?まあ取り敢えずはその方に感謝しないといけませんね。で、どなたかご存じで?」
ウィリアムはゼフォンの嘘を信じているようだ。
「いえ、死に掛けの状態で意識が朦朧としておりましたので名前どころか顔もはっきりとは…それに多分…」
ゼフォンは悲しそうな振りをして下を向いた。
「…そうですか。貴重な人材を失いましたね。非常に残念です。」
「はい、その方が与えてくれた奇跡と恩に報いる為にも頑張って行こうと思っております。」
何とか上手く騙せたか。流石に魔神王に治療してもらったとは絶対に言えないからな。
しかし現時点で俺が職能を覚えて魔法を使えるようになったのがばれてしまったのは不味かったな。
だがこの様子では王子には俺の職能は「狂戦士」のみしか見えていない様だ。
アスモの「能力隠蔽」で隠している2つの職能は見る事が出来ない様だ。
まあ、アスモ曰く例え魔神王でも絶対に見破る事は出来ないと言っていたから人間ではまず不可能だな。
まあ、取り敢えず王子には敵意は無い様だし話だけは聞いてみるか。
コン、コン、コン、コン
「入りたまえ」
「失礼します。お茶とグレイヴ中佐への褒美をお持ちしました。」
メイドが一礼し紅茶とお茶菓子を用意し、ゼフォンへの褒美をウィリアムに手渡した。
「ありがとう。中佐と大事な話があるからもう下がってもいいよ。」
「では殿下、失礼いたします。」
メイドが一礼し退出した。
「さて、これで私達以外誰も居ませんから腹を割って話しましょう。この部屋は防音の結界を張っていますから他者に聞かれる事もありませんので安心して下さい。」
「…ウィリアム殿下は一体何をお考えなのですか?」
ゼフォンは訝しげにウィリアムを見ている。
「まだ私が信用出来ませんか?先ほども言ったように警戒は必要ありませんよ。単純に今後の公国の為に貴方の力を私に貸して欲しいのですよ。」
「今後の公国…ですか?」
「ええそうです。ゼフォン殿はこの国についてどう思われていますか?特に今日国の中枢たる者達を見てどう思いましたか?」
「正直に言っても良いんでしたね?」
「勿論です。」
「では、はっきり言えば重臣達は自分の利益や保身の為にしか動いていないように思いました。正直今の国が弱体化している状況ではあんな奴らに国政を任せる訳には行かないのではというのが自分の感想です。」
「成程、そうですね。ヴェノア帝国の脅威は今の所去ったとはいえ、国力が低下している状況で不戦協定を結んでいるとはいえ我が国の国境に隣接する北のムスペル王国やメルキオ公国が攻めて来ないとは言い切れませんからね。だから今も国境にボルス将軍の騎士団を常駐させていますからね。特に今はシュトラウス将軍も待機していますから多分大丈夫だとは思いますが、絶対とは言い切れませんので警戒しておく必要がありますけどね。」
「確かにムスペルはともかくメルキオは7年前に停戦協定を結ぶまでは小規模衝突とは言え何度も戦闘行為がありましたからね。」
「そうですね。ですからこのような状況で国政を司るのが愚か者達では話にならないでしょう?正直言えば今回のように己で真実を調べる事無く貴方を裁こうとした父上も王の器ではないと思っていますからね。国政の頂点がこのような状況では民もたまったものではありません。民が居なくては国は回りませんから人心が離れてしまっては困るのですよ。だから私は将来を見据えて優秀な人材と知己になり将来の公国の為に一緒に尽力していただける人を探しているのです。勿論、ゼフォン殿もその一人です。」
「…随分と物騒な話に聞こえますね。傍から見ればクーデターでも考えてると思われても仕方が無いような内容ですよ。まあ殿下が仰ることも理解できますが現時点で行動を起こすのは無理があると思います。それに私は殿下に力を貸すとは一言も言ってませんよ。」
ゼフォンは冷静に対応しているようにしているが内心は王子であるウィリアム自身が現体制どころか父親である公王の批判をしている事に驚きを隠せない。
王族であったとしても貴族達と同様に自己保身の事しか考えていないと思っていたのだ。
しかしウィリアムを見る限りその言葉に嘘は無く真実を語っているようだ。
「そうですね、今は事を起こす気はありません。仮にクーデターが成功したとしても疲弊した状況では他国の侵略を防ぐことは出来ませんからね。今は国内の膿を排出するために諜報活動や領地の査察を行っている状況です。ゼフォン殿には今後の公国の為に力をお貸し頂きたいと言う事です。今は無理ですがいずれは貴方に将軍として私の腹心になっていただきたいのですよ。」
「私が将軍ですか?あまり実感がありませんね。」
「何も問題は無いでしょう。貴方の経歴は調べてあります。魔力が無かったと言う事だけで国軍の入隊試験は魔力以外は主席ではないですか。しかも今は魔法も使えるではありませんか。それに私は生まれや出身などは気にしません。優秀な人材で信用が置ける人であればね。ですが今すぐに答えが欲しい訳ではありません。急な事で考える時間は必要でしょうから時間をかけて頂いても結構ですよ。」
ウィリアムは真剣なまなざしで必死にゼフォンを説得している。今後のロマリア公国の為に彼にとってゼフォンの力は絶対に必要なのだ。
その様子を見てゼフォンは考え込んでいる。
王子の俺に対する評価は随分と高い様だな。
最初は話だけ聞いて聞き流そうと思っていたのだが確かに条件は悪くない。
魔力が使えるようになった今は魔法の訓練をしてから冒険者にでもなって金を稼ぐつもりだったが褒美と賞金で金貨が70枚もある。これだけあれば孤児院の生活も暫くは安泰だろうな。
それに今どちらにするかと選択を迫られる時ではないのだ。
ならば現時点は王子に話を合わせておいても良いだろう。
「殿下のお気持ちはわかりました。私も現体制の構造改革は必要だと思います。但し、時期的にはまだ時間がかかると思われます。それまでに私も殿下の力になれるように努力はします。‥それから失礼を承知で申し上げますが、その間に殿下が王の器であるかどうかの見極めをさせていただくつもりです。」
「本当ですか!ありがとうゼフォン殿、それに失礼な事ではありませんよ、私自身が王を批判しているのに自分の評価を恐れてはこの時点で王の器ではないと言っているようなものです。貴方の眼鏡にかなう様に努力していきますよ。」
ウィリアムは喜びゼフォンに握手を求めた。ゼフォンもそれに応じ彼と握手を交わす。
「これからよろしくお願いしますねゼフォン殿。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします殿下。」
「堅苦しいですね。私は知己となれる方を探していると言った筈です。2人の時は名前で結構ですよ、なんでしたら気さくにウィルと呼んでもらっても結構ですよ。」
「流石にそれは‥第一殿下が私に敬語を使っている方がおかしなことだと思いますが」
ゼフォンはウィリアムの気さくな態度に戸惑っている。
「普段から誰に対しても敬語なのですが‥わかりました。―いやわかったよゼフォン。君と話をするときは普通に話すようにしよう。但し君も同じ条件で頼むぞ!」
「…わかりました。では失礼ですが今後はウィリアムと呼ばせてもらいます。但し、このように2人の時だけと言う条件にしてもらえますか?流石に他者が居ては示しがつかないでしょう。それに慣れるまで時間がかかると思いますので了承いただきたい。」
ウィリアムの表情は真剣なようだ。流石のゼフォンも折れるしかなかった。
「ああ了解したよゼフォン!いずれは本当の親友と呼べるようになると良いな。これからこの国の為に一緒に頑張って行こう!」
ウィリアムが微笑み握手を交わしている手にギュッと力を入れる。
「こちらこそウィリアム」
そしてゼフォンもその手を強く握り返した。
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「さてと、父上から君の部屋を用意するように言われていたのだが、まあ単純に言えば接待だな。豪華な食事に酒そして女と言った所だ。必要なら用意するがどうする?」
「いや、その必要はありません。出来れば早く帰って自宅でゆっくり休みたいですな。」
「そうか、では父には私から上手く言っておこう。それから褒美と賞金を忘れないようにな。後は何か土産でも持たせようか?」
「ではお願いしても宜しいので?」
そう言ってゼフォンはテーブルの上のある物に目をむけた。
「ああ、遠慮する事は無いぞ。言ってみると良い。」
「ではそこにあるデザートのお菓子を出来れば26人分貰えませんか?孤児院の皆にも食べさせてあげたいもので‥」
「そんな事で良いのか?何の問題も無い事だ。少し待つと良い、誰か!」
ウィリアムがハンドベルを鳴らすと即座にメイドが現れた。
「失礼いたします殿下。お呼びでしょうか?」
「ゼフォン中佐にこのデザートを土産として30個ほど包んでやってくれるかな。」
「承知致しました。すぐにご用意いたします。では失礼します殿下」
その命を聞き準備をするためにメイドは一礼し退出した。
「ありがとうございます。ウィリアム。」
「いや、こっちこそ本当にあんなもので良いのか?」
「ええ、子供達も喜びますよ。嗜好品のお菓子は滅多に食べれるものではありませんから。」
「そうか、必要ならいつでも言ってくれると良い。君の為ならいくらでも用意するよ。用意が出来るまで時間は少しかかるだろうからそれまで話でもしないか?」
「いいですね。」
そう言って暫くの間、2人は雑談した。腹を割って話をし、お互いに打ち解けていったようだ。
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「それではウィリアムこれで失礼します。お土産ありがとうございました。」
「ああ、ゼフォン今日は楽しかったよ。また訪ねて来てくれ。」
ウィリアムは城門までゼフォンを見送りに出ていた。ゼフォンはウィリアムに一礼し城から立ち去って行った。
今日の事について最初はどうなる事かと思ったが、王子が来てくれて助かったな。
もし王子が居なければ最悪の場合、公国を敵に回すような事になっていたかもしれない。
それに王子と知己になる事が出来たのが良かった。これは今後の方針についての選択肢の幅が広がったと言う事になる。
そして問題は階級が上がった事は良かったが、注目される分動き辛くはなるかもしれない。そこにだけは気を付けないとな。
だが何よりも良かったのは褒美と賞金で孤児院の皆に楽をさせてやることが出きるのが最大の収穫だな。お土産も貰ったし皆も喜んでくれるだろうか?
取り敢えず戦後処理は落ち着いたし今後としては予定よりかなり遅れてしまったが魔法の訓練をしなくてはいけないな。
魔法に関してはアスモが直接教えてくれると言う事だし問題は無いだろう。
それにアスモの課題だった「火炎弾」も空いた時間に練習して一応出来る様になったしな。
ああ、そういえばアスモはしっかりと俺の願いを聞いてくれているのだろうか?まあ問題無く引き受けてくれたし多分…うん、大丈夫だ、そう思っておこう。
しかし1ヶ月も放置してしまったが、本当に大丈夫なんだろうな?
そしてゼフォンは帰り道に今日の出来事や今後の方針について思案し、そしアスモへの不安を少し募らせながら土産と金貨と持ってグレイヴ孤児院に向けて帰路についた―




