第3話:アーキテクト始動
コンコン。
ノックする音が聞こえ、目が覚めた。
「アルト様、お目覚めでしょうか?」
「……はい!ちょっと待ってください」
村長の声が扉の外から聞こえる。
俺は急いで着替え、扉を開ける。
「アルト様、朝食をお持ちしました。こちらで食べられますか?」
「ありがとうございます。お願いします」
村長は客室のテーブルに配膳すると、一礼し去っていった。
「それじゃあ……いただきます」
俺は一人で手を合わせ、懐かしい響きの言葉を口にする。
今日の朝食は、パンに昨日のシチューだった。
俺は満足して朝食を食べ終えると、お皿を返すためにリビングへと向かった。
「ありがとうございました、ミアさん。今日もおいしかったです!」
「どういたしまして!それより足りたかい?」
「はい。大丈夫です」
「今日は視察かい?昼も用意しとくから、ちゃんと帰ってくるんだよ」
「ありがとうございます。行ってきます」
ミアさんにお皿を渡し、仕事に向かうべく、騎士団の野営地であるテントを目指した。
◇ ◇ ◇
「おーい!アルト坊、こっちだ!」
村の外れでガレスが手を振っているのが見えた。
俺が近づくと、周りにはガレス以外誰もいなかった。
「あれ?他の騎士たちは?」
「あいつらなら、村人と一緒に魔物を狩りに行ったぞ。俺はアルト坊の護衛があるからな」
騎士団が狩りに同行してくれるなら、安心だな。
それよりも、狩りに行くんだったら、ポンプ用の革とか取ってきてほしかったな。
「アルト坊、どうかしたか?」
「いや、狩りに行くんだったら、できれば魔物の素材を持ってきて欲しかっただけなんだけど」
「魔物の素材?何に使うんだ?」
「ちょっと試したいことがあって……」
俺が少し残念そうにしているのを見てか、ガレスがニヤリと笑う。
「なあ、アルト坊。欲しいのなら自分で取りに行けばいいじゃないか」
「俺はここに視察で来てるの!」
「まあまあ、ちょっとぐらいはいいじゃねぇか。俺も付いてるし、近場なら一匹くらい相手にしてみるか?」
「はぁ……時間が余ればね。それより視察に行くからガレスも付いてきて」
俺は戦闘狂な師匠に向かってため息をつき、視察を始めることにした。
◇ ◇ ◇
畑の状況を見たり、村人に話を聞いたりしながら3時間ほど歩き回った。
村人の人口は約百人で、だいたい7割農民、2割狩人、1割その他の職業だった。
財政状況はあまり良くなく、畑の3割は魔物に食い荒らされているらしい。
お昼時になり、俺は一度昼食を取りに村長宅へ向かった。
「おかえり、アルト坊ちゃん!視察はどうだった?」
「ただいま戻りました。視察の方は順調ですよ」
「そりゃ良かった!さあ、昼食もたくさん用意したからお食べ!」
「ありがとうございます!」
午前中は各地での聞き込みで疲れたから、ちゃんと食べて午後に備えないと。
俺は昼食を頂くために、村長宅に入った。
「そう言えば、リクルド村長が昼前から姿が見ませんが、どこか行かれてるのですか?」
「ああ、リクルドなら今日はベルフォートに備蓄の受け取りと農作物を売りに行ってるんだよ」
「そうですか……大変ですね」
ベルフォートは、ヴァイス領で一番大きい街で、普段俺たち家族が暮らしている土地でもある。
月に一度の備蓄開放のために、村長さんは俺に朝食を持ってきてくれた後すぐに出掛けたそうだ。
村長さんも頑張ってるんだ。俺もできることをしないと。
俺は、昼食を急いで平らげ、ある場所に向かった。
向かった先は村の外周だ。
ミルズ村にも一応防壁はある。が、ぐるっと村全体を囲っている高さ3メートルほどの木の防壁は、半分近く魔物の被害で素通りできるようになってしまっている。
まずはこれをどうにかしないと。
「アルト坊、何するんだ?」
「ちょっと見てて」
ガレスには俺の護衛として念のため付いてきてもらっている。
能力を使う上で無防備なところを襲われないようにするためだ。
アーキテクトを起動させ、木壁を選択する。
そして、俺は投入口と村に生えている木を両手でつなぎ、念じる。
すると、木全体が淡い光に包まれ、一瞬で姿を消した。
「なんじゃこりゃっ!?」
後ろでガレスの驚く声が聞こえる。
無理もない。突然目の前にあった木が消えたのだから。
《アーキテクト》の材料投入口はそのままでも入れられるが、手に触れている状態だったら念じれば丸ごと投入できる。
「クラフト」
俺がそう唱えると、目の前に木壁が出現した。
完成した木壁は持ち上げる必要はない。
置きたい場所を思い浮かべるだけで、防壁の欠けた場所へぴたりとはまった。
ちなみにこの木壁のランクはDだ。まずまずといったところ。
「アルト坊……そりゃあ、スキルか?」
「まあ、そうだよ」
スキルとはたまに発現する特殊能力のことで、魔法とは別の分類に当たる。
俺のアーキテクトもスキルに該当する。
俺はガレスにある程度スキルの情報を共有した。
話すかどうかは最初こそ迷いはしたが、信頼できる人には知っておいてもらったほうがいいと思った。
だから、帰ったら家族にも話すつもりだ。
「なるほどな……それで、スキルはいつ発現してたんだ?」
「ちょうど一週間前くらいからだよ。急に使えるようになってたんだ」
「アルト坊が怪我を負った時か……そのタイミングでもしかしたらスキルが発現したのかもな」
ガレスが納得したようにうなずく。
「それじゃあ、夕方までには終わらせるよ」
「おう!護衛は任せな」
そして俺は、作業に取り掛かった。
そして四時間後。
「完成!」
「ご苦労さん。アルト坊」
ガレスが達成感で倒れ込んだ俺にねぎらいの水筒を渡してくれる。
勢いよく水筒を開き、中の水を飲んだ。
「……ぷはっ」
疲れた体に冷たい水が染み渡る。
時季的にはまだ春だが、外での作業を続けるとさすがに汗が気になってくる。
でも、その甲斐あって半分近くあった壁の損壊も木壁で上書きすることで、何とか応急処置は完了した。
これで魔物が素通りして侵入することもないだろう。
「おお、アルト様!これは……」
「あ、リクルド村長。戻ってきたんですね。とりあえず、村の防壁については応急処置をしたので安心して下さい」
ベルフォートから帰ってきた村長が驚いた顔で俺を見つめる。
「アルト様直々にですか……?魔物に襲われなかったのですか?」
「大丈夫です。ガレスが守ってくれましたから」
「そうですか……ガレス様ほどの方がいれば安心ですね」
村長でも知っているぐらい名が広まっている。やっぱりガレスってすごいんだな。
確かに何回か小型の魔物が襲ってきたが、ガレスが問題なく撃退してくれた。
「これで魔物が素通りして入ってくることはないと思います」
「ありがとうございます……なんとお礼を申し上げたらよいか……。最近は人手不足で、防壁の修理にもあまり手が回ってなかったので」
「気にしないでください。私がやりたかったことですから」
俺がそう言うと、村長は少し困った顔で笑った。
「アルト様は、本当にレオン様によく似ておられますな」
「父さんに?」
「ええ。困っている者を見過ごせないところが、そっくりです」
そう言われて嬉しいが、少し照れくさい。
その後、俺たちは村を一回りして防壁の最終確認を終えると、夕暮れの鐘が鳴る頃には村長宅へ戻っていた。
村長夫妻が用意してくれた桶いっぱいの湯で汗を流し、冷たい井戸水で濡らした布で体を拭く。春とはいえ、一日中外で作業をしていたせいで服は汗ばんでいたが、おかげですっきりした。
「そういえば、何か能力について出てたような……」
自室に戻ってきた俺は、思い出してスキル画面を確認する。
すると――
『習熟度のレベルが上がりました』
そんなメッセージが表示されていた。
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次回更新は、10月30日(金)17時です!




