第2話:ミルズ村へ
翌朝。朝日が昇る頃。
俺は朝食を済ませて、用意を終えて外に出ると、そこには立派な馬車と護衛の騎士たち、それに俺を心配して待ってくれていた家族がいた。
「アルト……気を付けてね」
「心配してくれてありがとう母さん。大丈夫だよ、すぐに済ませて戻ってくるから。それとリリアもそんな泣きそうな顔しないで」
「お兄様……絶対に無理はしないでくださいね」
「わかってるよ。リリア」
俺はリリアの頭をなでてニコリと笑う。
「アルト。ミルズ村のことを頼んだ。決して無理はするなよ」
「任せて、父さん」
俺は父さんとグータッチをかわし、馬車に乗り込む。
「アルトのことをよろしく頼む」
「お任せください、領主様。アルト坊のことは必ず守りますんで」
茶髪で筋骨隆々の体を鎧で包んだ男――ヴァイス家騎士団長ガレス。
ガレスは俺の剣術の師匠だ。
普段は優しいおっちゃんだが、訓練の時は……あまり思い出したくはない。
「それじゃあ、行ってきます」
俺は家族に手を振り、馬車は走り出した。
◇ ◇ ◇
馬車に揺られること半日。日が沈む前にはミルズ村に到着した。
俺は、馬車に乗っていた時に見た街並みなどの光景を思い出していた。
魔物に襲われて荒れ果てた街並み、やせこけた村人など。
はっきり言って、生活環境が整っているとは、とても言えないありさまだった。
「どうかしたか?アルト坊」
「ガレス……いや、ここに向かっている最中に見た光景がな……」
「そうだな……領主様はうまくやっているが、魔物の活性化のせいで領主様も手が回っていないっていうのが現状なんだ」
「そうか……」
やっぱり魔物問題が急務か。
俺が考え込んでいると、初老の男性が俺たちに話しかけてきた。
「ようこそおいで下さいました。私はこの村で村長を務めているリクルドと申します」
「これはご丁寧どうも。レオン・フォン・ヴァイスの嫡男、アルト・フォン・ヴァイスと申します。この度は父の代理として、この村の視察に来ました。よろしくお願いします」
俺が丁寧な挨拶を終えると、すぐにミルズ村の中では大きな建物に案内される。
「ここが私の家ですので、アルト様は、ここにお泊りください」
「俺たちは野営で大丈夫だ。アルト坊はしっかりここで休んでくれ。何かあったら村の前にあるテントに来てくれ。行くぞお前ら!」
「「「はっ!」」」
ガレスの号令に騎士たちは力強く応えると、騎士団は村の外の方へ向かって行った。
このミルズ村は農村。故に滅多に行商人や旅人が訪れることはない。
昔は、開拓基地の前線として宿屋もあったらしいが、今はもっと北に大きい前線基地ができて以来、客足が遠のき、無くなったらしい。
ミルズ村には、ガレスを含めて十人来てもらっている。
あらかじめ、村の外に野営地を置く計画だったらしい。
護衛してもらって申し訳ないが、ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
「ここのお部屋をお使いください。もうしばらくで夕食の用意ができますので、もう少々お待ちください」
俺は村長宅の客室に通され、ベッドへ寝転がる。
魔物問題に衛生問題、それに不作問題か……。
やることが山積みだな。
寝転がりながら考え事をしていると、
「夕食の用意ができました」
村長が呼びに来てくれた。
案内のもとリビングに行くと、黒パンに野菜たっぷりのシチュー、川魚の塩焼きなど、俺をもてなすためにしっかりとした料理が作られていた。
「こんなにたくさん……ありがとうございます」
「これぐらいなら大丈夫なので、そんなに気にしないでください」
村長が笑顔でそう言う。
料理は豪華だったが、どこか無理をして用意したような違和感を覚えた。
食卓にはすでに座っている人がいた。
「初めまして、アルト様。私はそこの村長の妻のミアだ!よろしく!」
「こら、ミア!」
「大丈夫ですよ。初めまして。アルト・フォン・ヴァイスと申します。この度は――」
「そんな堅苦しい話はあと!ほら冷める前に食べな!」
ミアさんが急かすように俺の話を遮り、俺たちを席に座らせる。
「「「創造神アステリアの恵みに感謝を」」」
俺は気に入っていたシチューを一口食べる。
おいしい!
コクのあるスープに野菜の旨味が合わさって、俺の想像を遥かに超えた美味しさだった。
だからか、あっという間にシチューを平らげてしまった。
「どうやら気に入ってもらえたようだね」
「はい!とても美味しいです!」
「そりゃ良かった!もっとお食べ」
ミアさんが上機嫌に笑い、俺に追加でシチューをよそってくれる。
そんなこんなで、俺は出された料理を完食した。
「おいしいご馳走、ありがとうございました」
「なに、子供が気にすることじゃないよ。それじゃ私は皿を片付けてくるから、何か聞きたいことがあったらリクルドに聞きな」
「はい、ありがとうございます」
ミアさんはそう言うと、皿をもってキッチンの方に向かって行った。
俺は村長の方に向き直る。
「リクルド村長。はっきり言って今日の夕食、かなり無理をされましたよね?」
「それは……」
「あくまで、私の仕事はこのミルズ村の視察。なので正直に教えてくれると助かります」
「……分かりました。そうですね……確かに少し節約しないと、厳しいかもしれません。ただ、領主様が税金を当面収穫物の一割以下で済ませてくれているので、飢えると言ったほどではないかと」
「なるほど……ありがとうございます」
村長の話を聞き、俺が考え込んでいると、洗い物が終わったミアさんが戻ってきた。
「厳しいって言っても、リクルドが言ってた通り、飢えるほどじゃないよ。この村が厳しい現状にあるのは、なんていっても――魔物による被害が大きいんだよ。魔物によって田畑が食い荒らされたり、魔物に襲われたりとかさ」
「やっぱり現状では厳しいですか?」
「弱い魔物は村の男衆が、定期的に狩りで間引いてくれてるけど、最近の魔物の活性化で徐々に限界が来てる。それでもなんとかして暮らしてるってのがこの村の現状だね」
俺のために端的にわかりやすく伝えてくれるミアさん。
でも、ミアさんほどの人でも不安を感じていそうだった。
「貴重な意見、ありがとうございます」
「なに、これくらいならお安い御用さ。それよりあんた、怪我したばっかりだって聞いたよ。今日はもう休みな!」
「……そうですね。お言葉に甘えて、今日は休ませてもらいます。ありがとうございました」
俺は深々と頭を下げて、客室に戻った。
◇ ◇ ◇
アルトが客室に戻った後――
「ふぅ……まったく、君がアルト様に無礼な態度をとるから僕までヒヤヒヤしたじゃないか」
「私だって、最初は気も付けようとしたさ。でも私が堅苦しいのが苦手なのは、あんただってわかってるだろ?」
「それはそうだが……」
「それよりも……アルト坊ちゃんだったか。八歳とは思えなかったけどね」
「レオン様の息子とはいえ、八歳であそこまで賢いとは予想外だったね」
「ああいう子を神童っていうんだろうね。あの子なら、きっとこの領地を良くしてくれる気がするね」
「ああ、それは同感だよ」
村長は静かにうなずき、窓の外へ目を向ける。
月明かりに照らされた畑は、魔物被害の爪痕が色濃く残っていた。
「……アルト様なら、何かを変えてくれるかもしれない。」
その言葉には、長年苦しみ続けた村人としての、小さな希望が込められていた。
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