交錯編:この魔法陣…どうする気だ?
「台風の進路を変えたり、無風状態から風を起こすのと比べたら、風向きを誘導する方がよっぽどマシ!だってさ」
ニヤリと笑うナギ。その様子にウンブリエルの脳裏に衝撃が走る。
先程ナギは『国中の電流』と言った。そして誘導雷は『付近の電線などを経由して、建物内に入り込む』。では建物の周りに電線の代わりになる物は?
そんな説明をされれば、嫌でも思い至る。
「ダウンバーストの風を利用して、チャフを此処に集めたのか!!」
アルミは電『波』は遮断し、電『気』は通す。
国の中心から外へ向かって吹いた風。樹々さえも押し倒す程の強風なら、アルミで出来たチャフなど簡単に巻き上げられる。
そこを風神の姫君と謳われるアイが、郊外のある場所に向かって風の流れを誘導した。
「台風かダウンバースト、どっちがいいかアイに聞いたら『台風の進路を変えるくらいなら、まだ風向きを変える方がマシ』と言われたけど『もう二度とごめんだ』って睨まれたなぁ」
と、グッタリと倒れ込むアイの様子を思い出す。
ナギはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「さて、どこまで耐え切れるかねぇ?」
ファータ空爆事件から数日後、俺は執務室にいた。先程まで日向と共に大量の書類を裁き終え、今はコーヒーを飲みながら一息つきつつ、ナギから受け取った書類に目を通す。それはシルフィードの診断書であった。
「洗脳と断言できるほどではないのが…逆にタチが悪い」
「二人の仲の修復は不可能だろうな。と言うより、ナギが望んでないように思うぞ」
「諦めている、と言うのが正しいかな。ナギとしては母国愛がない訳ではないが、アイツの優先順位は…」
そうナギの優先順位はシルフィードではない。ましてやアルカナでもない。
俺は唸りながら、もう一枚の書類に視線を落とした。
「この魔法陣…どうする気だ?」
それはファータに設置された2つの魔法陣だ。あの後、ウンブリエルーーー大地の国は撤退し、ナギがニコニコと怖いくらい上機嫌で戻ってきたのである。
『今回の空襲はファータからは被害届は出さない予定だ』
『はぁ!?』
ナギの言葉に俺だけでなく、風見と日向も声を上げる。これだけ多くの者を巻き込んでおいて、それは出来ないだろう。
しかしナギは『心配するな』と簡単に宣った。
『今回、死人が出ていないことも幸いして、話し合いで解決できそうなんだよ』
とナギは言うが、そんな簡単に行く訳ないだろう。俺の疑問を察したのか、ナギは答える。
『被害国の統治者シルフィードは正常な判断が出来ない状態の為、現在の決定権は次席の私だ。そして実際に人材派遣をしたのはアルカナだけだし、私はアルカナ幹部の一人でもある。好き勝手にやる代わりに、事態の収拾を引き受けるって言えば、鵠沼は何も言わないよ』
ちなみにファータと大地の国の繋がりを糾弾する為に証拠を集めようとした鵠沼に、ナギは胸倉を掴んでめちゃくちゃ怒っていた。
と言う、物思いに耽っていたら、日向が「そう言えば」と声をかけてきた。
「風見は?」
「ナギの護衛として、ファータに行っている」
「風見のやつ…記憶を取り戻しているよな?」
恐る恐る聞く日向に、俺は「おそらくな」とつんけんと答えた。
ナギに危害を加えると言う危険性が無くなったのはありがたい事だが、記憶を失う前と同じような行動は如何なものか。殊に長年、ナギのパートナーとして行動していたのは自分である。その立ち位置を奪うのは如何なんだ!?
と言うかナギ!!お前はどうなんだよ!!
と、叫びたくなる衝動を抑え込んでの現在である。
そんな様子の俺に、日向は哀れみの眼差しを向けつつ本題を突き付けた。
「今回の件、あまりにも無理が通り過ぎてないか?」
俺と日向以外に誰にもいないのに、無意識に潜めた声で問う。日向は言葉を続けた。
「何より、あいつはどこから大量のドライアイスを手に入れてきた?俺にはどうにも、今回の件はファータ、アルカナ、大地の3つだけじゃなく、他にも関与している気がしてならないんだよ」
そしてそれは、いずれもっと面倒ごとになって身に降りかかるのではないか。そう第六感が訴えているのだ。
日向の言葉に俺は言葉を噤んだ。




