交錯編:単なる二酸化炭素の塊だろう
雲を集めて、積乱雲を作る。理屈は分かるが、ここまで大々的に自然に干渉する程の魔力をアイは持っていなかったはず。
ウンブリエルの問いに、ナギは肩をすくめた。
「雲を散らす事はできても、雨雲のような高密度な雲を作り出す程の雲を集めるのは、不可能と同じレベルで困難だとアイにも言われたよ」
「ではどうやって?」
「積乱雲は太陽からの光によって地表面が暖められ、対流が生じてる事で発生する。この対流により、地面近くの水蒸気が上空へと運ばれ、上空で冷やされた水蒸気が凝結して雨となるんだーーー雨の降らすのに、わざわざ雲を掻き集める必要なんてないんだよ」
理屈がそうであれ、実際に行うと相当大変だけどなぁと最後に付け加えた。
「ちなみに現在のこの豪雨に関しては、魔法じゃない」
「はぁ?」
ウンブリエルは素っ頓狂な声を上げた。ナギの話が本当なら、即席の積乱雲だ。自然発生した積乱雲でさえ雨粒が生成されるのに時間がかかるのに、実際は雷雨まで起きているのだから、魔法による幇助があったはずである。
ウンブリエルの疑問にナギはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「なんでも魔力に頼るのは、魔法使いの悪い癖だよな。雨を降らせたければ、ドライアイスを撒けばいいのに!」
どうだ!と宣言するナギ。ただ、その意図が分からず、何故そんなに得意げなのかウンブリエルは理解できなかった。
その様子が見て取れたのか、ナギは落胆する。
「おいおい…。ドライアイスがどれだけ影響力を持つのか分かっていないのか?」
「単なる二酸化炭素の塊だろう」
その回答にナギは項垂れた。
ドライアイスは、雲粒の温度を下げることで種となる氷粒を作り、雨粒の成長を促すのである。では、なぜ雨を降らす事が必要なのか?ウンブリエルは疑問を呈する。
「確かに魔法の発動に天候など外的要素も考慮しなくてはならないが、たかが雨で計画を中止するはずがないだろう」
「そう、雨だけならな」
そう言われたウンブリエルは鼻で笑った。
「落雷が目的だと?残念ながら避雷針やSPDは用意しているし、他にも対策済みだ」
「対策と言っても、直撃雷だけだろう?逆流雷と誘導雷にはどこまで耐えられるかな」
「はぁ?」
聞いたことがない単語に、ウンブリエルは間の抜けた声を出す。逆流雷?誘導雷?
「落雷によって付近の電位上昇が起こり、接地から建物に電流が逆流してくる現象が逆流雷。水が上から下に流れるのと同じ、電流も電位の高い所から低い所へと移動するからな。
あと、誘導雷とは誘導電流の事だよ。誘導電流は磁界の変化で起こる電流の事。
たとえ落雷が直撃しなかったとしても、周囲に落ちれば磁界が歪んで電流が発生する。
付近の電線などを経由して、建物内に入り込む現象が誘導雷だ」
「だが、そんなのはSPDで…」
「SPDって、一度雷サージの影響を受けると保護機能を失うって知ってた?しかも、国中の落雷を一手で引き受けるようになってるけど平気?」
「はぁ!?どう言う意味だ!!」
「積乱雲は空気を温めて作ったんだ。つまりそれは風神の姫君による魔法ではない」
なのにアイを呼んだ理由は?アイの役割はなんだ?




