小話2 傍観者からの約束
おじさんとの約束が、挨拶だけではない、と姫乃に気づかれた。
「他になにを約束したの?」
と、無邪気に聞いてくる姫乃に、言うべきか、言わざるべきか悩む。
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「恭太君、五年生ならもう分かってると思うけど…。」
そう、姫乃のお父さんに切り出された。
二人して落ちて、意識が戻って、学校の先生が来たり、警察の人が来たり、なんだかんだとバタバタしてたのが一段落して、そろそろ退院……という時に、姫乃のお父さんが1人でお見舞いに来た。
それまでもおばさんや姫乃と一緒に来たりしてたけど、1人で来たのは初めてだったから違和感はあった。
「君は姫乃とずっと一緒にいてくれるつもりかい?」
柔和な姫乃のお父さんは、普段出張が多いのであまり家にいない。そんな忙しいおじさんがわざわざ時間をさいて来た……ということを分かっていた。
「はい。ずっと一緒にいたいと思ってます」
ハッキリ答えた。
俺の中ではもうそれは覆らない決定事項だったから、何の躊躇もなかった。
その、迷いのなさが効を成したのか、おじさんはにこやかに笑ったままこう言った。
「じゃあ、おじさんと約束してくれるかい?結婚するまで姫乃に手を出したらダメだよ。もし、破ったら姫乃はあげられない」
今にして思うと小学生相手に言うか?とも思うが、逆に変に俺を遠ざけようとしたり、説教したりしないおじさんをこの時から一目置いた。
*****
しかし、その約束を破ったらどうなるか、想像に難くない。
そうなったら、俺にとっては最悪だ。地獄に突き落とされる、と言っても過言ではない。俺にとって姫乃と会えないのはそーゆーことだ。
だから、たとえいっくら姫乃がかわいくても無防備でも色っぽくても、俺は理性を総動員してなんとか自分を抑える。
とはいえ、最近はちょっとずつフライングしてる……。
初めは高校生の時…。
それまで他愛ない会話をしていた時、ふいに二人とも黙ってしまった瞬間に、魔が差した。
言い訳がましく言わせてもらうと、この時は姫乃も悪い。
黙ったままじっと見ていたら、姫乃がふいに目線を下げて顔が近寄ってきたのだ。そりゃキスするだろ。お互い初めてだったし、あの時は嬉しすぎて手が震えた。
次はいただけなかった…。俺が悪い。
嫉妬にまかせて強引に奪ってしまった。でも、あれも姫乃も悪い……悪いと思う。
三度目は暴走した。あまりに姫乃がかわいくて、もう自分を押さえきれなかった。人前とかたいして気にしてなかったけど、あの後姫乃にめちゃくちゃ怒られた。
で、今。うちに遊びに来た姫乃は、無邪気に無防備に俺の隣に座っているが、そこんところを分かっているのだろうか?
「姫乃、キスしていい?」
「えっ、ダメ」
ストレートに聞いたら、速攻ブロックされた…。
「婚約してるのに、なんでー!」
拗ねて投げやりに訪ねると
「お父さんに言われてるから」
「な、何を……?」
「結婚するまで油断したらダメだよ、って」
ぐっ……。
おじさんは油断ならない…。




