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ずっとこのままで  作者: キョウ


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「で?結局、全てはアンタの思い通り?」

「んー……、ほぼほぼね」

 綾乃お姉ちゃんと恭太が、ボソボソ会話してるのが聞こえる。

 あれ?確か今日はお父さんが帰ってくるから、恭太とお姉ちゃんも呼んで、みんなで夜ご飯うちで食べる……って…。

 半分寝ぼけた頭でそこまで思い出した。


 *****


 中山さんが自首して警察が来たりしてから、1週間ほど経って、大学はほぼ平常通りになった。

 あの事件がどのようになったのか、知らない。知りたくない。

 大学内ではかなり噂になっているのを、あえて聞かないように過ごしている。

 江奈もそれを理解してくれて、その話題には触れない。多分、恭太は多少把握しているんだろう。

 私はもうあの姉妹に振り回されるのはお腹一杯で、罪悪感も嫌悪感も哀れみも同情も、一切の感情をあの二人に向けたくなかった。

 フタをした、と言ったらそれまでだが、小学生の時の事件もろとも、もう終わりにしたかった。


 恭太のそばにいる、と決めたらかなり心が軽くなった。

 ずっと抱いていた罪悪感すら恭太は受け止めてくれた。そんな彼が今は改めて愛しい。

 とはいえ、相変わらずやってることは変わらない。

 朝、迎えに来てくれて、一緒にいられるだけいて、帰りは送ってくれる…。

 スキンシップ過剰なのはだいぶ慣れたけど、時々見せる熱のこもった肉食獣のような眼差しには、射すくめられる。それを嫌がってない自分を自覚してもいる。


 *****


「どこまでが恭太の手のひらの上だったのよ?まさか、今回の事件までは想定外なんでしょ?」

 お姉ちゃんが面白がってる。

 そうだ、今日は土曜日で出張から帰ってくるお父さんの帰りを待ってる間に、リビングの隣の和室でうたたねしちゃったんだっけ…。

 襖ごしにリビングのソファーにいると思われる綾乃お姉ちゃんと恭太の声が聞こえる。

 いつの間に恭太は来たんだろう?


「想定外は姫乃が落ちたことと、理穂が理圭と双子だったことかなぁ…。」

 ん?想定外?

「あら、暖人は想定内?」

「うん、むかーしに聞いたことあったんだよね。いとこのお兄ちゃんの話。すごく優しいって」

「それだけで可能性に入れてたわけ?」

「姫乃が他の人の話することなんてほとんどなかったのに、暖人だけは違ったから」

「こわっ!やっぱりアンタこわっ!!」

 畳に当たる腕が痛くて寝返りをうった。だいぶ頭がハッキリしてきた。何の話をしてるの?

「そもそも、姫乃の気を向かせるためにあえて何も言わない……とか10歳でやるテクじゃないでしょ」

「そうかな?」

 しれっと言う恭太の声に、愕然とする。

「そうよ!そのせいで姫乃落ちたし」

「だから、それは想定外だったの」

 申し訳なさそうに言ってるけど、その前の話が聞捨てならない。

「ちょっと、恭太どういう……」

 スパン、と襖を開けてリビングに向かって飛び出したものの、恭太を見て唖然として言葉も動きも止まってしまった…。


 ソファーに座って「あ、起きた」とか言いながらこちらを見てる恭太は、ガッチリフォーマルなスーツだった。

「え……?なんで……?なんでスーツなんか着てるの?」

 濃紺の細身のスーツに、真っ白なワイシャツ、スカイブルーのストライプのネクタイで、大学生のくせにリクルート感もなく、スマートに着こなしてる。

 あれ?今日はうちでご飯…って言ってたよね?外食…高級レストランに行くのではなかったはずだよね?

 初めて見るスーツ姿がかっこよくて、思わず見惚れて、一瞬止まってしまった。


 そこに、玄関から声が聞こえた。

「ただいまー」

 久しぶりに聞くお父さんの声。車で駅まで迎えに行ってたお母さんと、部活だった文乃を途中でひろって一緒に帰ってきた。

 リビングに入ってくるなり、お父さんは恭太を見て

「お、とうとう来たのか」

 と、言ってニッコリ笑った。

「おじさん、ご無沙汰していました。お帰りなさい」

 スッと立ちあがり綺麗にお辞儀をした恭太を見て、なにやらこっちがドキドキしてきた。

 お母さんもリビングに入るなり、ニコニコしながら恭太を見ている。

「え?なに?どういうこと?」

 まるで話が見えない私に、お父さんが

「まあ、先に聞いてしまうか。恭太君も姫乃もこっちに来て座りなさい」

 と言って、帰ってきたばかりだというのに、着替えもしないでお父さん定位置のソファーに座った。お母さんはキッチンに向かい、お茶を入れようとしてる。

 お姉ちゃんはニヤニヤしながら、相変わらずソファーに座ったままだし、文乃は着替えに2階に行った。


 うちのリビングにスーツが二人…。

 なんか変な感じ。お父さんはともかくなんで恭太までスーツ?と思ってチラチラ盗み見してたら、恭太とバッチリ目が合った。

 いつもの甘い微笑を繰り出される。

 お、お父さんの前でも全然かまわないのね!などと思っていたら、その甘い微笑をお父さんに向けて言った。


「おじさん、前からの約束通り、姫乃さんをもらいに来ました」


 突然の宣言に、固まる……。

「うん。いいよー」

「……………………まっ、待って!お父さん軽い!!恭太!まず私に何かあるでしょー!!」

 焦りすぎてツッコミが追い付かない。

「えー、だってずっと一緒にいてくれるって言ったじゃん。そーゆーことでしょ?」

 お父さんに対する礼儀正しさから一転、拗ねたように私を見る。

「そっ、そう言ったけどっ、まだ私達学生だし!ってゆーか、プロ、プロポーズされてないっ……!!」

 だんだん、自分でも何に焦っているのか、何を言ってるのかわからなくなってきた。

 そんな私に向かって恭太は手を伸ばした。つい、その手を取る。

「うん。もちろんプロポーズは後でちゃんとするよ。今日はとりあえず貰う宣言。えー、婚約?結婚する約束をしにきたの」

 半泣きの状態で恭太を見る。そこにはめちゃくちゃ嬉しそうに笑うキレイな顔があった。

「姫乃、恭太君とは約束してたんだよ。ずっと一緒にいるのはいいけど、ちゃんとお付き合いをするようになったら挨拶に来なさい、って」

「挨拶って……挨拶ってそういう意味……なの?」

 それを聞いたお父さんは盛大に笑って

「あっはっは!お父さんもまさかスーツで来て嫁に貰う、とまで言われるとは思ってなかったよ」

「すいません。一刻も早く確証が欲しかったもので」

 全然悪びれず言ってのけた恭太は、いっそ清々しいくらいだった。

「と、いうわけで姫乃。婚約指輪やプロポーズは卒業してからになっちゃうけど、俺と婚約してくれる?」

 カラっと当たり前のような態度だから、これが一生を左右する重大な選択だということを忘れる。でも、私の選択肢は1つしかない。

 もう、勝手に出てくる涙で恭太の顔が見えない。

「する~!でも、先に言っておいて欲しかった~!う~っ」

 本格的に泣き出した私を、恭太はぎゅうと抱き締めてくれた。


 その日の夜ご飯は、お母さんが奮発して用意したA5ランクの和牛で焼き肉だったのに、泣きすぎてあまり食べられなかった。でも、恭太も交えて家族全員で賑やかに和やかに時間を過ごせた。


「で?説明してもらっていいかしら?」

 食後、恭太を自分の部屋に引っ張りこんで、聞いた。

「えー……、ネタばらしは結婚してから、って思ってたんだけど……」

 スーツのジャケットは脱いで、ワイシャツとネクタイ、スラックスで床にあぐらをかいた恭太は、ベッドに腰かけて睨み付けてる私を見上げた。

「わざとっ……、わざとだったの!?あの……何も言われなかった期間はっ……」

「そう」

 あっさり認めた。

「な、なんでっ!?私、あの時苦しかった!ただ側にいるだけで、私恭太の何なんだろうって、ずっと考えてた……」

「だからだよ」

 恭太は笑ってる。いつもの甘い微笑だ。見上げながら私の両手を取る。

「だから、言っただろ。俺は酷い奴だから、姫乃を手に入れるためならどんな手段でも使う。その代わり、俺はどんな姫乃でも愛してるよ」

 甘い微笑の中に紛れ込む黒い影を、ゾクゾクしながら見つめる。

「うう……。酷い…。酷いけど……そんなに……そんなに私が欲しかった…の?」

「くっ……。だいぶ分かってきたね、姫乃」

 自分で言うのは恥ずかしかったのに、笑われた。

 床から立ちあがり、私が座ってるベッドの横に座った恭太は、私に手を伸ばす。


 もう、分かった。さすがにいいかげん理解した。

 私が何やっても、どんなんでも恭太から逃れられないってことが。そして恭太から離れたくない自分もいるってことが。

 だから、この激甘な視線を素直に受け止めよう。恥ずかしいことは恥ずかしいけどね!

 恭太が伸ばした手を自分から掴む。彼の胸板に頭をつけた。

「恭太……、ありがとう」

「ん?こちらこそ。姫乃、ごめんね?」

「……え?」

予想外に謝られた。見上げたその顔は甘くも黒くもなく、本当に申し訳なさそうだった。

「こんな……めんどくさい俺につかまっちゃって……。でも、離してあげられない。」

「……うん、めんどくさいのも、離れないのも、知ってる」

二人して一瞬止まって、クスクス笑い合う。

きっと、私達はずっとこのままなんだろう。

それでいいんだ、とやっと素直に思えた。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

ちょっとずつではありましたが、伸びてゆくアクセス数とブックマーク登録の数字、友人の感想に励まされ、書ききることが出来ました。


初めて、ちゃんとした小説、という形でお話を完成させました。元々、漫画家志望でしたので、ストーリーを組み立てるのは多少経験がありましたが、一本書いて思ったのは圧倒的に語彙が足らない、ということ。

書きたい気持ちや描写に適した言葉が自分の中にない、というのはなかなかにジレンマでした。これからの課題です。


本編は終了ですが、入り切らなかったエピソード等まだちょっとだけお付き合い頂けたら幸いです。


後、ちょこちょこ挿し絵を入れていこうと思っていますが、作中で恭太をキレイキレイと自分でめちゃハードルを上げてしまったので、みなさんの脳内恭太を崩されたくない方は、挿し絵表示をオフにすることをオススメ致します。


誤字脱字、ご意見ご感想レビュー等、頂ければ幸いです。

ありがとうございました。



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