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中山さんのお父さんの言葉を思い出す。
恭太だって、このキレイな容姿に産まれてなかったら、また違った人生だっただろう。
恭太自信は、どちらかというと1人で落ち着いて本を読んだり、映画を見たりするような人だ。
でもこれは、なりたくてなったわけではないと思う。
もしかしたら、本当は男の子に人気の野球やサッカー等のスポーツをしたかったかもしれない。はたまた楽器を演奏したり、絵を描いたり、ナンパしたり合コンしたり、サークルに入ったり、グループでキャンプしたり…。普通の人が普通に出来るそれらを恭太は選んで来なかった。
自分がいるだけで、トラブルが起こるから。
今までそうやって、いろんなものをあきらめてきたのだろう。
それは彼が他人の気持ちを計れる優しさを持っているから。自分のせいで傷つく人がむやみに増えるのを避けてきたのは、そういうことだと思ってる。
なのに私だけは、私だけはトラブルに巻き込んだとしても欲しい、と言ってくれた。
昼間の恭太じゃないけど、こんなに自分を欲してくれてる人はそういないのではないか?
「恭太、私が離れようとしてたのは恭太と一緒にいたくないからじゃない。」
玄関を差す震える指を掴んだ。
下を向いたままの恭太に言う。
「ずっと、後ろめたかった。中山さんが言ってたように、恭太が欲しくて自分で落ちたことを恭太に知られたくなかった。そんな卑怯な私が恭太の側にいられないって思って……、恭太といたら私、また嫉妬でおかしくなる、そうなる自分が怖くて離れようとしたの…。」
下を向いてた恭太がゆっくり顔を上げた。今までにないくらい情けない顔してる。
目線を合わせて、勇気を出して言った。
「き、嫌われたく…なかったの……。恭太が、好きだから……。」
いつもいつも、恭太は好意をストレートに表してくれてた。もちろん、私はずっと恭太が好きだったけど、ハッキリ直接言葉で伝えたのはこれが初めてかもしれない。
掴んだ指先をぎゅっと握りしめて、思いきって指先にキスをした。
恭太の瞳がせつなげに細くなった。
「姫乃……」
キスした指が頬に伸びる。
その大きな手に自分からすり寄る。あったかい。
「どんな姫乃でも嫌ったりなんかしない。昼間も言ったけど、そんなの俺が大好きって言われてるようにしか聞こえない」
さっきまでの情けない顔はどこへやら、ニヤリと不適に笑って近づいてきた。
ゆっくり唇を合わせた。
とてつもなく幸せで愛しい。
「ん、……、姫乃……、…ひめ……好きだ……、んっ、好きだよ……」
何回もついばむようにキスしてくる恭太に名前を呼ばれ、更に好意を口にされて、全身真っ赤になってるんじゃないか、っていうくらい暑い。彼を受け入れる意志を表すのに、両手で彼の首にしがみつくのが精一杯。
ああ、とうとう恭太の沼に落ちてしまった。自ら飛び込んだけど、もう逃げたりしない。覚悟を決めた。
私より、もっとキレイでビジュアル的に恭太とお似合いな人は世の中にいるだろう。だけど、恭太の中身も外見も、彼を取り巻く環境も知った上で彼と一緒にいられるのは私だけ。
そう、自信を持って今なら言える。
「恭太、私こそ、もう恭太から離れてあげないからね。う、浮気とか心配してないけど、他の子に思わせ振りな態度とったら、ぶっとばすからね!」
「ぶっとば……!う、うん。浮気は心配しなくていいよ。他の子に思わせ振りな態度取るつもりもないけど?」
「恭太の場合、目線が合って微笑みかけるだけで思わせ振りなんだよっ!?」
「うわー!じゃあ、それもダメってこと?」
「するつもりだったの!?」
「しない!しないしない!!」
抱きしめあいながら軽口を言い合ってたけど、ふと見た恭太の瞳に熱が込められてるのに気付いて、ドキっとしてしまった。
「姫乃」
苛烈な色気を放ちながら、甘く頬笑む恭太が、再びキスしてきた。
熱のこもった深いキスに翻弄される。
「……う、…んん……、きょ…た……、……まっ……!」
待って、が言えない。言わせてもらえない。
と、思ったら、唐突に止まった。そのまま肩に頭を乗せた恭太が呟く。
「……っ…、あぶねー……」
「な、なにが?」
なぜか焦っている恭太の背中をトントンと叩いてなだめてあげた。
「あー……、姫乃には言ってなかったけど、俺、姫乃のおじさんと約束してるんだよな……」
顔を上げて、気まずそうに目線を反らしている。
「なにを?」
「………………。」
「だから、なにを約束してるの?」
「……。もう、送るから帰った方がいい」
すっくと立ちあがり、トレイを持ってキッチンに行ってしまった。
「なんなのよー!」
ぶつぶつ文句を言いつつ、帰り支度を始めた私は恭太が「そのうち破ってしまうかもな……」と呟いてるのは聞こえてなかった。




