22
ある日、ひめちゃんからストーカー相談をされた。
いよいよ恭太くんが常軌を逸したかとよぎったが、違った。
同じ学科の生徒に付きまとわれている、と言うのだ。
あれだけ恭太くんと一緒にいるのにそこをストーカーされてるって?と疑問に思ったが、よくよく聞くとかなり巧妙に付きまとっているようだった。
基本的に恭太くんといるときには現れない。
ひめちゃんが専攻してる薬科は教室が別棟で、ほぼ薬科の生徒しか入らない。恭太くんもよっぽどじゃないと棟の中まではついてこないらしい。
そこを狙って棟の中だけで付きまとってくるらしい。
「なんで恭太くんに相談しないの?」
大学の保険管理センターにすら相談してるのに、なぜ一番頼りになりそうな彼に言わないのか…と聞いたら
「恭太になんて言ったら最後、相手を物理的に叩きのめし、社会的にも抹殺して再起不能になるまで徹底的に潰しかねない……」
遠い目をして答えられた。うん、いまので恭太くんの内面が垣間見えたよ。
恭太くんに言わず、僕に相談されたことは単純に嬉しかった。
まあ、ただ単に、恭太くんが入らない薬科の棟に僕が所属する研究室があるので不自然でなくストーカー君を牽制できる、という理由だけかもしれないが。
とはいえ、ただ付きまとわれてるだけでは大学側も警察も動けない。そう、畑中は本当にただひめちゃんの後をついてくるだけ、なのである。たまに声をかけられることもあるようだが、基本的には見える場所にいる……くらいで、実害がないぶんやっかいだ。
結局、恭太くんといない時には僕がついてる……くらいしか対策が取れない状況だった。
なので、街で真っ青なひめちゃんを見た時にはいよいよ実害があったのかと思った。
まあ、違ったわけだが、つい出来心で恭太くんの前で含みのある言い方をしてしまった。
後でひめちゃんに怒られたが、あれだけであんなに揺らぐとは思わなかった。
二人の仲は、もっとガッチリした堅牢なものだと思っていたので、ちょっと期待してしまう。
つい、香代乃さんの前でも宣言してしまった。
今、つないでるこの手をずっと離さないでいられるのだろうか?
綾乃ちゃんのアパートは、ここから5つ先の駅下車徒歩10分。ホームで電車を待ってる間も、離されないのをいいことにずっとひめちゃんと手をつないでいた。
おずおずとその手をひっぱられた。
「あの……ハル兄…。さっき言ったこと、本当?」
ちょっと頬を赤くしながら見上げてくる。
もう片方の手も取って、真正面に向かう。
「ひめちゃん、僕と付き合わない?もちろん、恭太くんのことをすぐに忘れられないのはわかってるよ。僕となら落ち着いた付き合いが出来ると思う。ゆっくりでいいから僕のこと考えてくれないかな?」
恭太くんといることで、ひめちゃんは今まで普通ならしない苦労を沢山してきただろう。僕となら本当に穏やかに付き合える……と思っているのは確かだ。
大人げないとは思いつつも、自分に有利になるなら弱い部分を突くのは戦略だろう。
ひめちゃんは真っ赤になりながら
「う、うん…。」
とだけうつむいて言った。
綾乃ちゃんの住む築30年の木造アパートについた。
ひめちゃんのこともあって、このアパートで防犯は大丈夫なんだろうか?と思ってしまった。
「なーんで、暖人と一緒なの?」
開口一番、つないでる手を見て綾乃ちゃんは言った。綾乃ちゃんのが僕より1つ年下だが、彼女の男前な性格からか、昔から僕にはため口だ。
「姫乃、とりあえず入って。暖人はご苦労様」
何やら態度が冷たい。ここにも恭太くん推しがいたらしい。
「じゃあ、ひめちゃん、またね。」
落ち着いてきてはいるけど、まだ不安そうなひめちゃんに言った。
きっと、このあと綾乃ちゃんから全てを聞き出されることだろう。
それにしても、過去に恭太くんとあったことはあらかた聞いたけど、何があってひめちゃんはあんなに頑なに恭太くんから離れようとしているのか?
僕にとっては好都合、だけど……ね。




