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ずっとこのままで  作者: キョウ


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『江奈、ちょっと頼まれてくれない?』

 ひめからメールが入った。

 午前中の講義の空き時間。今日もひめ本人には会ってないけど、大学には来てるのだろうか?

 こないだの土曜日からこっち、ひめに会ってない。でも上村は毎日授業に出てる…。

 それはつまり、ひめは本気で上村から離れたのだ。

 あの中山と話した時、尋常じゃない怯え方をしていたけど、多分、あれが原因ではないような気がする。

 スマホが震動したので画面を見て、私は指示された場所に向かう。


 *****


 あれは高校二年生の時。

 部活終わりに教室に忘れ物を取りに行った。教室のドアは全開で誰かの話し声が聞こえる。

『うわ。タイミングわる~』

 心の中で悪態をつく。だって明らかに男女の声でカップルがイチャイチャしてるように聞こえたから。

 そっと覗いてみたら、夕日で赤く染まる教室にはひめと上村がいた。窓際のひめの席で向かいあって何やらスマホを見て話している。

 二人がいつも一緒にいるのは既に校内でも有名だったので、特にそこには違和感を感じなかったけど、思わず目を瞠ってしまった。

 長い前髪で顔がよく見えない上村が、実はかなりな美形だと気付いていた。いつも美しい顔を無機質に張り付け、よくできたマネキンか人形のような無表情の上村が、今はこれでもか、というくらい甘い微笑みでひめを見ている。初めて見るその表情に、私のほうが赤面してしまった。

 これまでも他の友人カップルの微笑ましい会話なんて何回も見てる。嬉しそうに彼女を見る男子をひやかしたこともある。けれど、上村のとろけそうな極甘な微笑みは、同世代の男子では出せないような壮絶な色気を含んでいて目が離せなくなってしまった。

 それに対するひめも、いつもより柔らかくふわりと微笑んでいてすごくナチュラルだ。上村がああだからひめは嫉妬の対象で、いつも固く縮こまってたんだ、と気付いた。


 ふと、会話が止まる。

 上村の手がひめの頬に伸び、そっと顔を近づけて唇を合わせた。すぐに離れたけど、二人は見つめあったまま無言で微笑みあってる…。


 友人のキスを見てしまった…というより、何か極上の美しい絵画を鑑賞してるような感覚だった。


 そのまま静かにUターンした私は、忘れ物のことなどすっかり忘れて赤面したまま帰宅した。

 今まで見たこともなかった二人の二人だけの雰囲気にあてられて、ドキドキしたまま眠れなかった。

 あの二人だけの空間を誰にも邪魔してほしくない、と思った。

 そもそもあんな濃密な関係に誰が割って入れるというのだろう。あれを知ってるのは見てしまった私だけなのか。

 私だけは二人の味方でいよう。

 そう決心して次の日学校に行った。私だけ気まずいが、必死に普通を装ってたのに、上村にすれ違いざま言われた一言で固まってしまった。

「昨日、見てただろ」

 振り替えると、ニヤリと笑った上村がいた。

 上村の腹の中が真っ黒だと気付いた瞬間だった。


 *****


 言われた場所は大学内にあるコンビニだった。ガラス張りのファザードからは店内の様子がよく見える。

 なんだかさわさわした集団の真ん中に、上村がいた。

 ここからでも、その不機嫌そうな顔がわかる。

 周りに群がっている女子達はそんな上村に気づいてないのか、かまわず話しかけている。

 ずんずんと店内に入り、上村の正面まで行った。

「何?」

 私にたいしては不機嫌ではなく、怪訝そうな顔になった。

 しょうがないので、上村の着てるカーディガンの裾を掴んだ。そのまま引っ張って店内を出る。後ろから女子達が何か言ってるが、そんなもんはシカトだ。

 コンビニからだいぶ離れて人気もなくなったあたりで手を離した。

 わけがわからない、という顔をした上村に向かい合う。

「本当は言わないでって言われたけど、ひめからメールが来たの」

 そう言って自分のスマホ画面を見せる。

 メールには、上村が実は他人が苦手であんまり近づかれると時には吐くこともあること、今コンビニでピンチだから助けてやって欲しい、そして上村にはこのメールは秘密にして、と書いてある。

 ひめはコンビニの様子をどこからか見てたのだろう。

 目を通した上村は、手を口元に当てて真っ赤になっていた。なんだ、かわいい反応もするじゃん。

「橘さん……。ありがとう…。」

 目線を反らせた真っ赤な上村(イケメン)に言われると、なんだかいたたまれない…。

「イエ……ドウイタシマシテ…。」

 変な空気になったが、どうにも一言言ってやらないと気がすまない。

「ひめのこと。どうするの?」

 もう態勢を立て直した上村は普通の顔して呟いた。

「そろそろ限界で…」

「は?」

「ひめが足りなすぎる…」

 なんだよ、のろけかよ、と半目になった。

「もちろん、このままにはしない。橘さんはひめの側にいて」

 言われなくても最近不安定なひめを、ほっとくつもりはない。とはいえ、私もひめに会えてない現状を上村に伝えておく。

 うなずいた上村は、おもむろに手を出した。

「スマホ貸して」

 ?と思って素直に貸すと、勝手に電話をかけ始めた。多分、自分のスマホからではひめが出ないのだろう。

 数コールの後、すぐ繋がった。前ふりも何もなく

「ひめ、ありがとう」

 例の甘い表情で、声まで甘く響いた。けど、すぐ切られたらしい。

 深いため息をついて、スマホを返してくれた。なんだか捨てられた大型犬みたいで、だんだん不憫になってきた。

 お互いに次の授業が始まるので、そこで別れた。


 ひめから文句のメールも来ない。バラしたので怒ったかな?

 とはいえ、私としてはあの二人の空間を無くして欲しくない。ひめの味方でいたいけど、上村にも協力したいのだ。果たして私が役に立っているかはわからないけれど。


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