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とうとう言ってしまった。
恭太を拒絶する言葉を。
ひどく傷ついた顔をさせてしまった。
あんな顔をさせたかったわけじゃないけど、離れるとなったらどうやったって結局恭太を傷つけるのだ。
そして私にも傷がついてる…。
でも、これはいいの。
半身を引き裂かれたんじゃないか、というくらい心が痛いけど、私がそれだけ恭太を好きだった、ということだから…。
自ら落ちたことに対して、小さい頃にはただ漠然とした不安だけだったのが、自分の身を盾にして脅迫したようなものだと気づいた時には、自己嫌悪におちいった。
恭太の罪の意識を利用して側にいてもらっているとわかってても、彼の側にいたかった。
でも、もうそれもおしまい。
幸いにも彼には知られていないだろう。私の醜い心根を。それだけは絶対に知られたくない。
たとえもう会えなくても、恭太に軽蔑された私でいたくない。
「ひめちゃん?大丈夫?」
多分、何度か声をかけられてたんだろう。心配そうなハル兄の顔が除きこむ。
「う、うん…。ゴメン。ハル兄帰るとこだったよね……」
気づいたらリビングのソファーでハル兄に肩を抱かれていた。
あわてて離れようと腕をつっぱったら、その手を逆にひっぱられ抱きしめられてしまう。
知らない男の香りに、恭太以外の男の人に触れられたことがないことに、改めて気付いた。
「僕のことはいいから、ひめちゃん、本当にいいの?」
リビングに繋がるキッチンにはお母さんがいるんだけど、ハル兄は全然気にしてない。
「恭太くんと離れて、いいの?僕、入る隙間はあるの?」
重ねて問われる。入る隙間?どういうこと?
返答に困ってるとキッチンからマグカップを3つ持ったお母さんが向かいのソファーに座った。
さすがにハル兄は私を離して座り直した。
「姫乃、恭ちゃんと何があったのかは聞かないけど、本当に別れていいの?」
今までのことをずっと見てきただけに、お母さんの言葉は刺さる。
「でもって、ハル君は姫乃を狙ってるの?」
臆面もなく超直球なお母さんに、私があわあわしてしまった。
「ひめちゃんが、恭太くんと別れるなら次の相手に立候補したいな」
ハル兄は真っ直ぐ私の目を見て、柔らかく微笑んで言った。
「そうねぇ、いとこ同士は結婚できるしねぇ」
お母さんがとんでもないことを言い出した。
「お母さん!私、しばらくお姉ちゃんとこ泊まる」
話を変えようとしてあわてて言った。ハル兄はきょとんとして聞いてきた。
「どうして?綾乃ちゃんの所からじゃあ大学遠いでしょう。恭太くんを避けるため?あんな状態でも?」
「「甘い!」」
お母さんとハモってしまった。
多分、明日は私が逃げられないように早朝から来るだろう。平日なら授業中は避けられるが、明日は日曜日だし捕まったら最後だ。
「恭ちゃんなら朝から来るわよ。さっきそんなメール来たし」
こともなげにお母さんは言う。もうメール来てるのか。早いよ。やることが。
「お母さんは、恭ちゃん推しなんだけどなー」
「推し、とか言わないで」
「でも、お母さんは恭ちゃんでもハル君でも実はどっちでもいいの。」
ふざけてたと思ったら急に真剣な顔で、私に向かう。
「姫乃が幸せになれる人だったら、どっちでも、誰でもいいの」
急に親心を持ち出されて、ぐっと詰まる。かつて心配かけまくっているので、そういうのに弱い。
とりあえず、簡単に支度して綾乃お姉ちゃんの所に向かった。
ハル兄が当たり前のように送ってくれたが、ずっと手を繋がれてるのが違和感で最後まで慣れなかった。それだけ、恭太と手をつないでたんだ、と思ったら胃の奥がきゅんと疼いた。




