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「たまには私とも遊んでよ。」
という江奈のお誘いを恭太に了解してもらって、土曜日のランチは江奈と久しぶりに、大学近くの商店街にあるベトナム料理屋さんに行った。
恭太は基本的には食べ物の好き嫌いはないが、パクチーが嫌いで香りを嗅ぐのも嫌、というので恭太と一緒だと入れないベトナム料理を選んだのだ。
「うう、久しぶりのフォー、おいしいぃ~」
あっさりした牛肉のフォーをハフハフしながら、至福を噛み締めてると、
「結局さあ、あの噂はどうなったの?」
と、サニーレタスにバインセオを巻きながら江奈が聞いてきた。
「フゴッ……!?」
危なくパクチーが鼻から出るところだった。
一夜にして広まった、恭太と中山さんが付き合ってる、という噂のことだとすぐにわかった。
「あー…あれね。結局、そのまんま…っていうかー……」
「そのまんま!?」
コンパで私と恭太が付き合ってない、と明言したことにより、私達がいない間に周りからのせられた?中山さんが恭太にアプローチすることになり、それがなぜか曲解されて広まり最終的に「付き合ってる」ということが広まったらしい。
で、それを知った恭太が
「バカらしい」
と、そのまま噂を放置してる…。
……と、江奈に説明したら、
「あー、なんか私が聞いたところによると、彼女、実はすごいイケメン食いなんだって」
と、生春巻をかじっりながら言った。
「い、イケメン食い……!」
「そう。サークル内でも顔のいい子はほぼアプローチされてて、更にあの容姿でしょ。結構食い散らかしてるらしいよ。」
「食い散らかし!!」
確かに、健康的なスラリとした体つきで、女子力高くないと維持できなそうなサラサラの長い髪、一見すると快活な性格は本人からアプローチしなくてもそこそこモテるだろうなあ、と想像に難くない。
「でも、なんで付き合ってないなんてハッキリ言っちゃったの?」
江奈は締めのベトナムコーヒーを飲んでいる。
コンデンスミルクが入ってて、ものすごく甘い。私は歯が痛くなりそうで、合間に蓮茶を飲んでいたのを、吹きそうになった。
「うっ…、だって……付き合ってる?って聞かれたら、付き合ってはいないんだもん…。」
「あんだけイチャコラしといて、何やってんだ上村は!」
「あっ、でも、好きとかは言われてる……」
恭太をかばうつもりでつい言ってしまった。
「ん?どゆこと?上村からは告白されてる。でも付き合ってない。」
「そ、そう。」
江奈はあきれた顔で私を見た。
「ひめが返事してないってこと?というか、そもそもひめは上村のこと好きなんだよねぇ?」
江奈の質問にちょっと面食らった。
今まで、付き合ってるか付き合ってないかを聞いてくる人は沢山いたけど、好きか嫌いかを聞いてくる人はいなかったから。
当たり前のように一緒にいる私達に、そんな根本的なことを聞いてくる人はいなかった。
「う、うん…。好き……だよ?」
なので改めて言うとすごい恥ずかしい。
恭太にも直接言ったことないかも…。
そこまで思って気付いた。
恭太は私にちゃんと気持ちをぶつけてきてくれたのに、私はそれを返してない。
いやいやいや、離れたいと思ってるんだから、私の気持ちなんか言ったらダメだ。
2つの気持ちが同時に浮かんで、一瞬固まってたら、江奈が鋭い指摘をしてきた。
「じゃあなんで避けようとしてんの?」
私が離れようとしてることに気づかれていたとは。
「え、と。いろいろ事情があって……」
江奈は、とたんに沈む私を心配してそれ以上の事情は聞かないでくれた。
「でもさ、ひめが離れたら上村がどうなるかわからないよ?アイツ、意外とモロいでしょう?」
これまた鋭い指摘が入る。江奈はどれだけ人間観察眼が鋭いのか。
「事情がなんだかわからないけど、そんな長い期間積み重ねてきた関係を壊すのはよっぽどのことなの?ひめ自身も相当なダメージを食らうでしょ?」
「う……うん。そう……だね……」
江奈が心配してくれてるのはわかる。
でも、恭太が好きだからこそ私が彼の隣にいてはいけない、と思ってしまう…。
「とりあえず、何かあるなら上村とちゃんと話しなよ?いざとなったら私から上村にガツンと言ってやるから!」
考えこんでしまった私を江奈は励ますように明るく言ってくれた。
お会計を済ませ、店のドアに向かって歩き出し、ふと顔を上げたらこちらを見て立ち止まってる人物と目が合った。
「げっ……」
江奈、反応が素直すぎ。
そこには中山さんがいた。たいてい1つに結わえている黒髪を今日は後ろにサラリと流し、珍しくエレガントなクリーム色のワンピースを着ている。隣には茶色の明るめの短髪でいかにもスポーツマンらしい爽やかな男の子。
モロにデート中、という感じなのに中山さんはその爽やか男子に向かって、信じられないことを言い出した。
「結城、ごめんね。私、この人と大事な話があるから今日はここまでで帰ってくれない?」
爽やか男子(=結城さん)は気分を害した様子もなく、すぐに了解して去っていった。
っていうか、私、まだ話し合いする、なんて聞いてないし了承もしてない。
会計も済ませたというのに、私達はまた店内に引き戻されてしまった。
仕方がないので、先ほど食べなかったデザートにバインフランというベトナムのプリンを注文する。中山さんはお昼を食べに来たから、とさっき私が食べたのと同じ牛肉のフォーを注文していた。
「えと…あの…さっきの彼は大丈夫?」
こっちが心配してしまうではないか。
「ああ、彼はサークルの打ち合わせで会ってただけだから、別の日でも大丈夫」
「ああ、そう……デスカ……」
明らかに腕を組んでたのに、サラリとスルーした。
「あなたこそ、恭太くんは?」
江奈をチラリと見て言った。
「今日は……ちょっと……」
江奈はさっきから一言も話さず、かといって帰るそぶりも見せず、黙々とスマホをいじっている。口を出す気はないけど、心配で付いててくれてるのがわかる。食事が運ばれてきて、しばしお互いに黙々と食事する、という微妙な空気が流れた。
「回りくどいとめんどくさいから、単刀直入に言うわ」
食事を終えて一息ついてから、中山さんはキッパリ言った。まあ、だいたい言いそうなことは予想できるんだけど。
「あなた、恭太くんと付き合ってないなら離れて」




