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予想の範囲内のことを言われた。
「そもそもなんなの?付き合ってもいないのにあんなにベッタリくっついて…。もう、彼を解放してあげて?」
これまた予想範囲。
なぜみんな、彼のため、みたいな正義っぽいことを振りかざしてくるのか。
「こないだのコンパで、私、恭太くんとだいぶ仲良くなったのよ?あなたのことも言ってたわ。ずっと一緒にいすぎて最近ちょっとウザくなってきた……って」
「……え?……」
勝ち誇ったような顔の中山さんをまじまじ見る。隣の江奈を見ると半目になってる。なんでこの人はこんなに堂々と嘘が言えるのか。
「あなたにも別にお相手がいるみたいじゃない。ホラ、前に学食で声かけてきた彼。」
ああ、畑中さんのことか…。
「あのあと彼から色々聞いてね。彼、そうとうあなたのこと好きみたいよ?」
何を話たんだか、だんだん中山さんが怖くなってきた。
「最初から……恭太狙いでコンパに誘った…の?」
「あら、言ったじゃない。客寄せパンダだって。まあ、パンダなのは恭太くんであなたはオマケだったけどね。コンパの時だって、恭太くん目当てで参加した子は多かったのよ?あなたに話しかけてくる人なんていた?」
婉然と微笑みながら淀みなく人をこき下ろしてくるこの人は、私の前では飾るのを止めたらしい。
「あなた……恭太くんの隣にいることで、ずっと周りからいじめられてきたんでしょう。なぜだか教えてあげましょうか?」
一瞬、体が固くなってしまった。動揺してることなんてこの人に知られたくない。
「釣り合いが取れてないからよ。あなたじゃ、彼の、隣にいるには、力不足。」
こんな人にそんなことを言われたくない。テーブルの下で握っていた手が怒りで震える。
「なにそれ。あんたなら釣り合う、とでも言うわけ?」
がまんしきれなかったのか、江奈が言った。
「ふふ、それはどうかしら?私が恭太くんと付き合ったときの周りの反応でわかるんじゃない?」
自分なら祝福されると思っているのだろうか?
「ね、だから恭太くんを私にちょうだい?」
瞬間、思い出す。同じセリフを言った彼女のことを。スッと胃の奥に冷たいモノが流れた気がした。
「それに、あなたあんなことしてまで恭太くんの隣にいるの、すごい神経よね?」
ひゅ、っと息を吸い込んだ。この人は何を言っているの?何を知っているの?
ぶるぶる震えだした私を江奈が支えてくれてる。冷や汗が背中を流れてるのは意識できるのに、自分の頭の中は暴風雨が吹き荒れてるようにぐちゃぐちゃでまとまらない。
中山さんは、伝票を持って立ちあがった。
「あなたに言ってもらちが明かないようね。恭太くんに電話してみるわ」
また嘘。恭太はよっぽど親しい人にしかケータイの番号を教えない。アドレスには自分の家族と私の家族の分くらいしか入ってないのだ。江奈だって知らない。
彼女が去ってから、どのくらい経ったのかわからない。隣で江奈は何も言わず、ずっと私の背中をさすってくれてた。
「大丈夫?」
そろそろ店員さんの目線が痛くなってきた頃、二人で寄り添うように店から出た。
商店街は休日の賑わいで沢山の人が行き交っている。夏の始まりの光は、今の私には眩しすぎて辛い。外の世界と、冷えきった今の自分の中身とのギャップにくらくらする。
「ひめ、もう帰りな。上村に連絡して迎えに来てもらいな?」
江奈がそう言ってくれたけど、今は恭太に会いたくない。とりあえずヨロヨロと駅に向かって歩き出した。その時、後ろから腕をつかむ人物に声をかけられた。
「ひめちゃん、真っ青。どうしたの?」
振り向いたらハル兄がいた。なんでここに?と思ったら急に体が浮いた。
「えーと、橘さん?だっけ?ありがとう。ひめちゃんは僕が送っていくから安心して。」
目を白黒させている江奈が見上げてくる。あれ?私、これっていわゆるお姫様抱っこされてる……
「うわっ!ハル兄!下ろして!大丈夫だから!!」
「ダメ。フラフラしてた。タクシー捕まえるから、あ、駅の乗り場のが近いか」
って、そこまでこの状態!?通りすがりの人がチラチラ見てくる!恥ずかしい!!そして高い!怖い!
そもそもハル兄は結構身長あって恭太よりもデカイのだ。
「え、江奈、この人はいとこなの!大丈夫だから!」
完全に不審者を見る目付きだった江奈にとりあえずの説明をする。
「そ、そうなの?本当に大丈夫なのね?えーと、ハル兄さん?ひめのことお願いしても?」
「もちろん。ちゃんと家まで送っていくよ。なんなら一緒に来る?」
ちょっと考えた江奈は、一緒にタクシーに乗ってくれた。突然現れた人物に完全に安心しきれなかったのだろう。でも車内で淀みなくウチの住所を告げたハル兄を見て、信用してくれたらしい。
「寄りかかっていいからちょっと寝な」
江奈はそう言って肩を借してくれた。
夢見は悪そうだか、精神的に疲れた私は江奈の肩でそっと目を閉じた。




