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いじめられてた。
今思えばそうなんだけど、当時の私はあんまりいじめられてる自覚がなかった。
朝、下駄箱を見ると上履きがない。
私だけ給食のデザートがない。
配られるプリントがぐちゃぐちゃ。
……他にもいろいろやられたけど、上履きはお母さんが家にストックを何足も買い置きしといてくれたし、デザートがある日は昼休みになると恭太が半分残したのを分けてくれた。プリントはお母さんが「読めればいいわ」と言ってくれたし、その頃の私的には「ちょっとめんどくさいな」くらいにしかとらえてないつもりだった。
ちょっかい出してくる子の中でもとりわけ目立っていたのが、五年生の時に恭太と同じクラスだったリカちゃんだ。
リカちゃんは三年生で恭太と同じクラスになってから、一途に恭太のことを思っていて、しょっちゅう私につっかかってくる。
確かに、腰まで伸ばしたサラサラの黒髪に、五年生のわりに育った胸、ちょっとつり目だけど黒目がちな瞳は雑誌のモデルみたいにキレイな子で、学年の女子でも一番人気がある子だった。もちろん、男子のナンバーワンは恭太だ。
男子と女子のナンバーワン同士はくっつくべきだ、というよくわからない信念をもった友人二人との三人でちょくちょくやってくる。
「来週、恭太くんの誕生日の日、あなた一人で帰りなさいよ」
昼休み、恭太がいきもの係で校庭の片隅にあるウサギ小屋にエサやりしに行ってる間に、わざわざ私のクラスにまで来てリカちゃんは言った。
「なんで?」
言うことを聞くつもりは全くないので、聞き返してみた。リカちゃんと一緒に来た二人のうち、ショートカットの子が私を指差しながら言った。
「あなたねぇ、恭太くんだってたまには違う子と帰りたいのよ!ちょっとは気をつかってあげたらどうなの?」
「そうよ、そうよ!いつも恭太くんを独り占めして、他にも恭太くんのこと好きな子はいっぱいいるのよ?」
もう一人もまくしたてる。どうにもこの二人の名前を覚えられない。
周りのクラスメイトは関わりたくないのか、遠巻きに見てるか、見ないようにしてるかのどちらかだった。
「ねぇ。恭太くんとは幼稚園から一緒なんでしょう?そろそろ恭太くんも、あなたに飽きてるんじゃない?あなたも恭太くんじゃなくて、もっとお似合いの人が見つかるかもしれないじゃない?」
何を言ってるのかさっぱりわからない。なんでリカちゃんに、恭太の気持ちを代弁されなきゃならないのか。
「ね?だから、私に恭太くんをちょうだい」
気に入ったオモチャをねだるかのようなもの言いにカチンときた。恭太はモノじゃない。
そう言おうとした時、リカちゃんから更に追いうちが来た。
「それにさあ、あなた、気づいてる?私達が散々あなたにちょっかいかけてるのを、恭太くんはわかってるのに、わざと知らんぷりしてるのよ」
冷水を浴びせられた気分だった。
気づいてはいたけど、それを誰かに指摘されたくはなかった。なのに…
「恭太くんもさぁ、もうあなたなんてどうでもいいんじゃない?」
「そんなわけない!勝手に恭太の気持ちを決めつけないで」
自分が思ったより大きな声が出た。
いつも、のらりくらりとかわしてきた私が、珍しく反抗してきたのに腹を立てたのか、リカちゃんは更に言う。
「だってそうでしょ?もし恭太くんがあなたのことを大切に思うなら助けるでしょ。私、恭太くんと毎日話すけど、それについては何も言われないもの!」
そうなの?毎日話してるの?何も言わないの?
確かに恭太から私も何も言われない。
ちょっかい出されてることを私から言うつもりはないけど、恭太からも何も言われない。
好き、とも、一緒にいよう、とも言われない。
ただの習慣で一緒にいるの?
特別な約束は何もなく、ただお互いに寄り添ってるだけ。
それを不満になんて思ってなかったのに、彼女に言われて気付いてしまった。
私って恭太の何なんだろう?
私が黙りこんでしまったのを、自分の都合のいいように捉えたのか
「わかってくれたのなら、いいの。じゃあ、来週は一人で帰りなさいね」
と言ってさっさと行ってしまった。
五年生ともなると、誰を好きだの付き合うだの、そういう話もちらほら出てくる。
私はそういう話をする友人がいなかったのでうとかったのだが、リカちゃんに言われて初めて、恭太から約束めいた言葉を何一つもらってないことに気づいた。
「なんか顔変だけど、どうかした?」
エサやりから戻った恭太はすぐ私の変化に気付いた。
「どうもしてない」
「そう?」
「あの……来週の恭太の誕生日の日だけどさ………リカちゃんと帰りなよ…」
本当は嫌だった。他の人と二人で帰る恭太なんて見たくない。けど、この時は確定されてることがない不安から、恭太を試すようなことをしてしまった。
「……なんで?」
恭太が硬い表情で言った。
「……ひーちゃんは、それでいいの?」
「私じゃなくて、恭太は…… 恭太はどうしたい?」
「ひーちゃんがそれを望むなら……」
なんで?なんで何も言ってくれないの?
違う。私は恭太に何を言って欲しいの?
そばにいてくれてるのに、これ以上私は何を望んでるの?
*****
当時の心境を鮮明に思い出した。
なぜなら、彼女と同じセリフをたった今聞いたからだ。
「ね、だから恭太くんを私にちょうだい?」
目の前で、黒髪をなびかせて頬笑む中山さんは、あの時のリカちゃんとそっくりだと言うことに気がついた。




